矢張り起こし方が囚人のそれ
マルカは胸元から銀の小瓶を取り出し、パチンと蓋を開けると、倒れているシグルの鼻先へ突きつけた。
「……起きなさい、王女さま」
ツンと鼻を刺す刺激臭が立ちこめる。
「げほっ! ごほっ……なにこれ……くさっ!」
シグルはむせながら目を覚まし、涙目で起き上がる。
その様子を見届けると、マルカは無言で掌を突き出し、冷たく一言。
「――尾羽」
シグルの顔が凍りついた。次の瞬間、精霊娘たちの背に飛び込んで隠れ、小刻みに震える。
「ま、待って待って待って……その手つき、完全に“むしる”つもりでしょ!?」
精霊娘たちはあわてて抗議した。
「そんなのあんまりです!」
「お義母様がかわいそう!」
「尾羽ってどこまで必要なんですか!?」
マルカは表情一つ変えずに言い放つ。
「――君たちの子供のためよ」
その言葉に、娘たちはぴたりと黙る。数秒の沈黙のあと、全員が目をそらしつつも、黙ってシグルの背中を押し始めた。
「ごめんね、お義母様……」
「でも、未来の王子の健康が第一なの……」
「母体の検体は必要なのよ、うん……」
「今だけ我慢して……!すぐ終わるから……!」
「ちょっ、やめっ……やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
シグルはずるずると押し出されながら、涙声で叫んだ。
「絶対に忘れないからな! お前ら全員、名指しで恨むからな!」
「息子たちには“飲む・打つ・買う”のフルコンボ英才教育施してやる! 毎晩お姉ちゃんに囲まれて育ててやるからなー!!」
娘たちは目を逸らしながら、小さく呟いた。
「……それ、ちょっと見てみたいかも」
マルカは溜息をつきつつ、静かにメスを滅菌していた。
---




