好奇心は猫をも殺す
ミリウスはふと、抑えきれない好奇心に駆られた。
「……なあ、シグル。ちょっと変なこと、聞いてもいいか?」
「何々?」とシグルは無邪気に振り返る。
「お前ってさ……鳥でもあり、龍でもあるよな? その……どうやって子どもを産むんだ?」
その瞬間、シグルの顔がパッと赤く染まった。
「ちょっ……ミリウス!? 何それ!? 女性に分娩方法なんて普通聞かないでしょ!?」
ミリウスはキョトンとしていた。
「え? でも気になったんだよ。“好奇心は猫を殺す”って言うけどさ──俺、猫じゃないし。」
トーマスが横からツッコミを入れる。
「いや、そういう問題じゃない。デリカシーの欠片もないぞ。」
「……デリカシー? ああ、“デリバリー”の仲間かと思ってた。」
「宅配じゃねぇよ。」
「そっか……じゃあ“対面不可”って書いてなかったから、聞いてもいいかと思って。」
「お前の脳、配達記録も未着だな。」
その会話を背に、シグルは顔を真っ赤にしながら周囲を見回す。味方を探したが──
敵しかいなかった。
そりゃそうだ。自分の“夫候補”がどうやって愛する相手と子を成すのかは、精霊娘4人にとって最重要機密事項だった。
「……出来るなら、卵なんて産みたくない……」
シグルは火竜のように顔を紅潮させ、呟いた。
周囲の精霊娘たちも、妙な期待と警戒の入り混じった目で彼女を見つめている。
その時、何も言わずとも顔に出ていた集団を見て、シグルがビシッと指をさす。
「そこのグループ! 口に出してないだけで、顔に思考ダダ漏れだからな!?
今日の私に対する屈辱……忘れないからな……!」
「孫ができたら、恥ずかしいこともないことも全部刷り込んでやるからな!!」
そこへ、空気を読まないノームがさらりと口を開いた。
「で、義母様──自然分娩は可能ですか?」
時が止まった。
「ノーム、お前……今、全読者の代弁者か……?」
その瞬間、シグルは一瞬俯き、そして、にやりと意地悪な笑みを浮かべた。
「──その時を楽しみにしておくのだな。」
精霊娘たちはごくりと唾を飲む。
シグルは堂々と宣言した。
「自然分娩、可能です。」
その言葉に、精霊娘4人はほっと大きく安堵の息をついた。
「よかった……本当に卵じゃなかった……」
「孵卵器、買うとこだった……」
ミリウスは空を見上げた。
(……なんでこんな旅になったんだ……俺、神族とのハーフで“真面目な主人公”だったはずじゃ……?)
そして、シグルはにっこり笑って、何事もなかったように一言。
「……でも、双子になるかもね?」
また、全員の顔が引きつった。




