シグルは生肉が苦手
最高に愛おしいカオスですね。
イフリートとシルフは、まさに真っ青になっていた。
──そう、二人とも“やらかした”のだ。
イフリートはかつて、うっかりシグルを「焼き鳥」と呼んで食べようとしたことがあり、
シルフは「気配がないから置き去りにした」ことがあった。
今、龍界の王と判明したその当人──シグル様が、目の前にいる。
二人は覚悟を決めて、ぺたりとシグルの前に横たわった。
「シグル様……いえ、龍王とお呼びすべきでしょうか。
どうか、我々を食べてください。
それで、精霊界に渦巻く怒りを、鎮めていただければ……!」
シグル:「いや、だから……セバスチャンの時にも言ったけど、俺、生肉食べないから。」
イフリートの顔がぱあっと輝いた。
「ならば──私は火の精霊!
ウェルダンからレアまで、お好みで焼き加減は自由自在!
しかもこの体、生娘ですので、口当たりもよろしいかと!」
ミリウス:「……やめんか。」
シグルが、明らかに「助けて」の視線をこちらに投げてくる。
(……そんな顔になるなら、“龍界の王”とか名乗るなよ……)
ミリウスは深いため息をつき、二人の頭にゴツンと拳骨を入れた。
「シグルを混乱させるようなこと、するな。
目の前に本人がいて、ちゃんと話ができるなら──まずは対話だ。暴走するな。」
静まり返った空気の中、なぜかトーマスが目頭を押さえながら呟く。
「……ミリウスも……成長したな……」
(どこ目線なんだよ)
罰の悪そうに顔を伏せたイフリートとシルフが、改めて頭を下げる。
「……ごめんなさい、シグル様。」
「悪気はなかったんです……たぶん……少しだけ……」
シグルは、少しだけ間を置いてから、頷いた。
「……わかった。
この件、二度と蒸し返さないことを条件に……許すよ。」
精霊娘たち:「ハイ!!」
こうして、精霊と龍との一触即発案件は、焼き加減の話題と共に、幕を下ろした。




