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シグルはシグル

ミリウスは、混乱の渦中でぽつりと呟いた。


「……で、結局、龍界ってどれだけ偉いんだ?」


その問いに、冥界の王子が静かに答える。


「……我が父、先代の冥界王──つまり私の父ですが、

冥土に旅立つ際に、こう言い残しました。

『龍にだけは逆らうな、それが冥土の土産だ』……と。」


「……冥界の王でも冥土に旅立つんだなー……」

と、ミリウスは場違いな関心を覚える。


(でも、その言葉だけじゃ情報としてはちょっと……薄いよな。)


考え込んだ末、直接尋ねることにした。


「──おーい、シグル。一寸此方に来い。」


シグルは呼ばれて陽気にタッタッタッと走ってくる。


王子は、そんなふうに気軽にシグルを呼び捨てにするミリウスに目を細めて感心していた。


(……彼は恐れぬのか。王たる者を前にしても、その態度を変えないとは……。)


しかしミリウスは王子を見返して、心の中でこう思っていた。


(いや、お前の方がよ。お前こそシグルと結婚すんだろ……?

どう考えても尻に敷かれる未来確定だぞ?)


その瞬間、王子のハンサムな顔に、かすかに陰が差した。遠くを見つめるような眼差し──。


そして、シグルが到着。笑顔は変わらず、尾羽をピコピコ揺らしている。


ミリウスは、あらためて訊ねた。


「……なあ、シグル。お前って──どれだけ偉いんだ?」


一同が固唾を呑んで見守る中、

シグルは首を傾げて、きょとんとした顔で言った。


「え? ……分かんない。」


「やっぱりか。」


一同:「振り出しに戻った──!」


ミリウスは、心の中で叫ぶ。


(結局、ただの“デブな神鳥”が、“デブな龍界の王”になっただけだった……!)






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