犯罪は駄目絶対。
ポスターが主要駅に貼り出されると、想像以上の反響が起きた。
シグルの無垢な笑顔と、「着けている、のに、開放感。」というキャッチコピー。
一目見ただけで、人々の目と心を奪った。
──だが、それは事件にもつながった。
主要駅のポスターが、次々と盗まれる事態が発生したのだ。
駅構内の防犯カメラにも、ポスターを丸めて持ち去る犯人の姿が映っていた。
さらに悪いことに、それらがオークションサイトに出品される騒ぎにまで発展した。
しかし、事務所も、マルカ工房グループも手をこまねいてはいなかった。
あらかじめ契約で、**シグルの裸体ポスターは「駅広告専用」**であり、
企業協力先も含め、他での使用や販売を一切禁止する措置をとっていたのだ。
つまり、オークションに出品した瞬間──
それは盗難被害届に直結することになる。
警察も動き、転売屋たちは次々と摘発され、早々に手を引くこととなった。
逆にこの一連の騒動は、
「幻のポスター」
「駅でしか見られないシグル」
という噂を生み出し、シグルとマルカ・フリーのブランド価値を一気に高めた。
宣伝効果は計り知れなかった。
ユマは思う。
(──潰す覚悟でやれ、と言われたけど、
これは、世界を獲るかもしれない。
駅に掲示されたシグルのポスターは、想像以上の人気を集めた。
しかしそれに比例するように、盗難被害も相次いだ。
マルカ工房は事前に対策を講じていた。
駅に貼られたすべてのポスターには個別のシリアルナンバーが記載されており、管理は厳重を極めていた。
数の違い一つでも、即座に追跡できる体制が整っていたのだ。
転売やオークションを通じて現金化を目論む行為には、マルカ工房は容赦なく対応した。
バイトを雇って組織的に盗み出すような悪質な手口には、司法部が過激なほど徹底的に潰しにかかった。
一方で──
純粋な盗難、特に未成年によるものには、マルカ工房は比較的寛容な姿勢を見せた。
公式には発表されなかったが、
「年頃の少年が、魅力的な異性のポスターを、衝動的に盗む。
それ自体は、健全な成長の一部かもしれない」
そんな噂が、社内外に流れた。
もちろん、犯罪行為を助長するわけにはいかない。
あくまで噂の域を出ることはなかった。
ただ、転売目的と判断された場合──
例え未成年でも情け容赦はなかった。
実際、大量にポスターを盗んだ少年が、きっちり起訴されたケースもあり、
その真相は依然として不明のままだった。
マルカ工房のこの対応は、世間で賛否両論を呼んだ。
しかし、最終的には、
「元々、盗難する方が悪い」
というマルカ工房司法部の公式見解が報じられると、
騒動は次第に沈静化していった。
シグルのポスターは、ただの広告ではない。
今や、ひとつの社会現象になりつつあった。




