シグルは脱いでもすごいんです。
お爺さんは「後は任せた」と言い残し、事務所をあとにした。
ユマはシグルに声をかける。
「取りあえず衣装合わせをしよう。何着か着てもらえるか?」
シグルは、埃っぽい街から着いたばかりだと言い、
「シャワーを浴びさせてほしい」と頼んだ。
ユマは承諾し、秘書にドラマ用の衣装──ブレザーにリボンが可愛らしい学園ものの学生服──を用意させた。
別室で準備を進めるユマの耳に、何やら騒がしい気配が届く。
そして次の瞬間、ドアが勢いよく開いた。
現れたのは──なぜか、何も身につけていないシグルだった。
ユマは理性で「見るな」と命じたが、本能がそれを拒絶した。
しっかり、真正面から見てしまう。
そして確信する。
(──お爺さんの目は、間違いなかった。この子は逸材だ。)
必死に平静を保ちながら、ユマは問いかけた。
「……な、なんで何も着てないんだ?」
シグルは不思議そうに首を傾げる。
「せっかくシャワーを浴びたのに、また埃っぽい服を着るのはイヤだし……それに、衣装合わせって話だったから、何も着ないほうがいいのかと思ったの。」
あまりに自然体なその答えに、ユマは唖然とした。
普通なら裸でうろつくことに恥じらいを覚える年頃だ。それなのに、この無邪気さ、物怖じのなさ。
(──惚れた。)
ユマは内心で舌を巻きながら、やっと言葉を繋いだ。
「……うん。わかった。
でも、今は服を着てくれ。
時が来れば──そのときは、脱いでもらうことがあるかもしれないけどな。」
シグルはにこりと笑い、素直に頷いた。
その笑顔は、無垢で、それでいて恐ろしいほどの輝きを放っていた。
その後、芸能人事務所所属の女優としての契約説明が行われた。
シグルは迷うことなく契約書にサインをした。
専属の弁護士が契約内容を細かく確認し、不備がないことを確認したうえで、その契約書は弁護士の手で保管されることになった。
契約内容は破格だった。
シグルには衣食住の確保、ダンス・歌・演技のレッスンに加え、グループ企業製品の専属モデル採用の権利が与えられる。
若手女優が喉から手が出るほど欲しがる内容だ。
シグルが所属することになったのは──マルカ芸能事務所。
所属タレントは男女合わせて三十人ほど。
少数精鋭をモットーに、今最も勢いのある事務所だった。




