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シグルの旅立ち
シグル様、このたびは我がカジノへお越しいただき、誠にありがとうございます。
何かご不自由なことがございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付けくださいませ。
シグルは静かに答えた。
「そろそろ旅に出ようと思います。旅行資金も、もう十分に貯まりましたので。」
ドン・カステラーノは思う。
――幸運の鳥を無理に留め置くのは誤りだ。幸運は巡らせるもの。
だからこそ、シグルの旅立ちを心から祝福すべきだと。
「シグル様、何かご入用のものはございますか? 我々にできることであれば、何なりと。」
シグルは、そっと首を横に振る。
「食事と、寝る場所と、働ける場所。
それらを提供していただいたことに、心から感謝します。──それだけで、十分です。」
ドン・カステラーノは、シグルの礼の言葉に胸を打たれ、身を震わせながら、深く頭を下げた。
「またいつの日か、どうかお越しくださいませ。
我々は、シグル様を、いつでもお待ちしております。」




