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マーサ
中級フロアの午後番マネージャー、マーサは苛立っていた。
理由は単純だった。
前直(午前番)のフロアマネージャーが、交代時間に遅れてきたからだ。
「ごめんなさい、マーサさん。今、ちょっと厄介なお客様の対応を検討していて……」
――何を今さら。
マーサは冷たく思った。
カジノの規則に従って処理すれば済むことだろう。
だが、遅れてきた前直の彼女も、そんなマーサの性格はよく理解していた。
「……一応、自分の目で見て判断してほしいの」
そう言うと、彼女は現場にマーサを案内した。
マーサは無言でついていく。
彼女の目利きを疑っているわけではなかったが――
「厄介なお客様」というのが、どれほどのものか、自分で確かめておきたかった。
そして。
実際に現場に足を踏み入れたマーサは、思わず声を漏らした。
「……迷い鳥が、戯れてるわ」
そこにいたのは――
天真爛漫な少女。
カジノの空気をまったく気にすることもなく、無邪気に笑いながらゲームに興じる、小さな“奇跡”。




