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幸運値 カンスト

バスが停まった。

ドアが開き、観光客たちが次々に降りていく。

シグルもその流れに混じった。


目の前には、まるで摩天楼のような――いや、摩天楼よりも奇妙な光景。

金銀、白黒、赤、緑……ありとあらゆる色と形のチップのビル群が立ち並び、

陽光を遮っていた。


「すごい……」


思わず口を開けたまま歩き出す。


セキュリティゲートでは、若い係員が微笑みながら手荷物チェックを求めた。

身分証を持たないシグルだったが、セバスチャンから託された革袋を差し出す。


袋の口を開くと、黄金の光が漏れる。

係員の表情が変わった。


「どうぞ、どうぞ!」


態度が一変し、丁寧にカジノ内部へ案内された。


すぐに換金所へ通される。


中年の換金員が、袋の中身を見て目を丸くする。


「こいつはまた……立派な浄財だな」


金貨は手際よくチップに換えられた。

その際、換金員はシグルに助言した。


「お嬢さん、ここは飲食無料だが、給仕にはチップを払うのが礼儀だ。

でも、持ってるチップの額がでかすぎる。

最低額チップも何枚か持っておいた方がいいぞ。どうする?」


シグルは頷き、最低額チップも数十枚、分けてもらった。


「まずはコツコツだね」


そう思い、シグルはスロットコーナーへ向かった。


最低額スロットに座り、

最も安いベットでコインを投入――


ガチャン、カランカラン。


回るリール。


チカチカ光るスロットマシン。


そして――


「ジャララララララララッ!!」


一撃、ジャックポット。

スロットが大音量でベルを鳴らし、チップが溢れ出す。

周囲から歓声が上がった。


家族連れの旅行客が口々に祝福してくる。


「すごいね、お嬢ちゃん!」

「おめでとう!」


フロアマネージャーがすっ飛んできた。


「シグル様、失礼いたします。

当カジノでは……大変お得意様には、ぜひ上階の中級フロアをご案内させていただいております」


深々とお辞儀をして、シグルをエスコートする。


(……すごい偶然?)


シグルは首を傾げながらも、中級フロアへと向かった。


エレベーターが開き、空気が変わる。


そこは、紳士淑女たちがグラスを傾けながら、静かにカードを繰る世界だった。


シグルは、

そんな場の空気も気にせず、

ブラックジャックのテーブル席に――

ちょこんと座った。



ーブラックジャックのテーブルについたシグル。


彼女は、

テーブルに座るだけでも緊張している他の客たちとは違った。

じっと手元のチップを見つめながら、楽しそうに微笑んでいた。


ディーラーがカードを配る。


最初の2枚。

シグルの手札は、合計19。


普通なら、ここで「ステイ(これ以上引かない)」が鉄則だ。


だが――


「カード、もう1枚!」


元気よく、手を振り上げるシグル。


テーブルの空気が、一瞬凍った。


――引くのか!?

――19から!?


ざわめく客たちをよそに、ディーラーはカードを渡す。


ぺらり。


シグルが受け取ったのは、【2】。

合計21、ブラックジャック完成。


客席から微妙な拍手が起こった。


次のゲーム。

シグルはまた19。

またしても「カード、もう1枚!」と手を上げる。


今度は引いたカードで自爆――バースト(合計22以上)してしまった。


「ああ……」


周囲の客たちが顔をしかめた――が。


直後、ディーラーもカードを引きすぎてバースト。


つまり、シグル以外の全員が勝ったのだ。


「……え?」


最初はぽかんとしていた客たちだったが、

ディーラーのバーストが何度も続くうちに、徐々に空気が変わっていく。


「……この子、天使か?」


「いや、守護神だろ!」


次のゲームも、その次も。

シグルは19や20から無邪気にカードを引いては自爆するが、

そのたびに、なぜかディーラーも爆発四散する。


客たちは次第に歓声を上げ、

シグルとハイタッチを交わすようになった。


パシーン!


パシーン!


静かだった中級フロアが、

シグルを中心に騒然となっていた。


当然、カジノ側も黙ってはいない。


ディーラーが急遽交代。


しかし、新しいディーラーでも――

同じ現象が起きた。


シグルが引くたびに、ディーラーがバーストする。


(……これ、何かおかしい)


フロアマネージャーが血相を変えた。


紳士淑女たちは、表向きは冷静を装っていたが、

その目はギラギラと輝いていた。


「……ありえない」


「イカサマか?」


ささやきが飛び交う。


カジノに魔術師を呼ぶべきでは?

などと本気で議論を始める者まで出る始末だった。





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