越後屋 そちも悪よのう。
シグルは思った。
今度は王都に行って、美味しいものをたくさん食べよう。
そんな彼女に、セバスチャンは何やら重たい革袋を持たせた。
「若から、シグル様への付け届けです。王都までの路銀に使ってほしいとのこと」
シグルは興味津々で革袋を開ける。
そこには――
黄金色の金貨がぎっしり詰まっていた。
思わず、シグルは声を上げた。
「越後屋、そちも悪よのう……」
セバスチャンも乗っかる。
「お代官様に比べれば、あっしはまだまだヒヨッコで」
二人で、どっと高笑いした。
シグルは有り難く頂戴して、金貨を懐に収めた後、ふと気になって尋ねた。
「……あの、このお金、どこから?」
セバスチャンはあっさり答える。
「死者の浄財でございます。使い道もなく貯まる一方なので、これかと思われる旅人に持たせるのです」
別に疚しい金ではないらしい。
シグルは胸を撫でおろし――
ニッと、最高の笑顔を見せた。
セバスチャンは、シグルに言った。
「王都に向かう途中、避けて通れない自由都市ウラジノに気をつけてください。
ドン・カステラーノが支配する、人間の欲望を凝縮した街です。
この冥界と対を成す――光ある所には必ず影があるのです」
シグルは真面目な顔で聞いていたが、
最後には結局、
「ご飯が美味しい所ならいいなぁ」
と胸を弾ませた。




