パーティーの夜
オヤッサンの口ぶりだと、俺がカレンのことを“好き”だと決めつけているように聞こえる。
俺は口を挟む。
「……オヤッサン、俺がカレンを好きだと、そう思ってるんですか?」
オヤッサンは軽く眉を上げて、肩をすくめた。
「違うのか? 好きじゃないのか? 好きじゃないのに、他の娘を振るときに“忘れられない人がいる”なんて、どこの詩人様だよ?」
その言葉に、俺は返す言葉もなかった。
俺なりに気を遣ったつもりだった――だが。
「うちの娘たちはな、気を遣ってもらわなきゃ立ってられないほど軟じゃねぇよ」
その瞬間だった。
ユマが俺の目を見て、何かを察したのだろう。
勢いよくカレンを引き寄せ、唐突に宣言した。
「トーマスにはやらん」
そのあまりの迫力に、カレンが飲んでいたコーヒーをむせそうになった。
――幸い、火傷にはならなかった。
オヤッサンは頭を抱えるように、ぼやいた。
「……カレンはなんでこう、唐変木にしか愛されないのかねぇ」
ユマはユマで、カレンを火傷させそうになったことに落ち込んでるし。
そんな中、カレンは口元をぬぐいながら、笑った。
「私はね、こんな唐変木が心から好きなんだよ。一部を除いて、だけどね」
そして、父に向かってこう言った。
「私は、お父さんの娘です。
だから――お父さんの娘が信じた人を、私お父さんも信じて」
オヤッサンは、ふっと目を細めて、俺の顔を見る。
「……惚気られるのも、目の前でやられると、こっちが恥ずかしくなるな」
俺は苦笑しながら応える。
「オヤッサンも、十分幸せそうに見えますよ」
……そして、俺は胸の奥で、そっと呟いた。
グッバイ、俺の初恋。




