変態紳士
皆様に愛される大貴族。ブラックウッド家をよろしく。
私はイリーネとともに食堂へ向かい、席に着いた。
エドモンド
「昨晩、寝室から出ていったが、やはりミリウスの部屋に行ったか」
イリーネ
「ミリウスと久々に親交を深めようと思って」
エドモンド
「……あまりミリウスを困らせるな」
エドモンドはエミリィの方を向いて。
「エミリィ、お前は母親に向けて良い目つきをしていない」
エミリィ
「ママ、ミリウスの初めてを奪った」
「ママ、私の味方じゃなかったの」
「信用させといて、裏切る……ずるい」
「大人、汚い」
「今日から敵認定」
エドモンド
はこめかみを押さえつつ、私の方を見て。
「ミリウス、何度も言うが妹の件は事故だった」
「バカな妹が自ら命を絶った、それだけだ」
「ブラックウッド家の人間は、私を含め、レッドウッド家に対して何の蟠りもない」
私は何と答えたら良いか決めかねていた。
エドモンド
「だからミリウス、警戒せずとも遊びに来なさい」
「ミリウスに会うと、イリーネやエルミィが喜ぶからな」
エルミィはエドモンドを怪訝な目で見て。
「パパもミリウス狙ってるの? ……殺っちゃうよ?」
エドモンドはエルミィの言葉を無視して続けた。
「ミリウス、こんなバカ娘でも……どうかな」
エルミィ
「パパ、チュキ」
「でも、エリウスはもっと大チュキ」
エドモンドは嬉しそうに笑った。
イリーネ
「パパは私を応援してくれないのかしら?」
エドモンド
「イリーネ、今それをここで言うとエミリィを止められないぞ」
「エルミィ、今テーブルの下で袖に隠したフォークを戻しなさい」
私は朝から何を見せられているのだろうか、と思いつつ。
「エドモンド様、お言葉は大変うれしいのですが、身分が違いますゆえ――
謹んで辞退します」
エルミィはこの世の終わりのような顔をした。
「お兄ちゃん、現世で一緒になれないなら……せめて来世で」
エドモンド
「エルミィ、戻したフォークをまた袖に隠さない」
「貴族たるもの、テーブルマナーはしっかりしないと」
「常日頃より厳しく躾けているのに……」
私は「今そこじゃない」と思いつつ。
「エルミィ様、この国の法律では兄妹は結婚できないですよ」
エルミィ
「法律なんて、クソくらえ」
エドモンド
「エルミィ、テーブルでそんな汚い言葉を使ってはダメだろう」
そしてエドモンドは、意外そうな顔をして。
「私にかかれば、法律の一つや二つ、変えることなど造作もない」
エルミィはハモンドに笑顔を向けて。
「パパ、チュキ」
そして私に向けて、満面の笑顔を向けて。
「お兄ちゃんは、もっと大チュキ」
イリーネ
「パパ、お願いが――」
ハモンドはイリーネがすべてを言い終わらないうちに、すかさず。
「親子は極刑」
物語を生み出すくるしみが。




