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恋する女神

トーマスは、なぜか別室で――ルカに詰められていた。


ルカは静かに微笑む。


「トーマス様は……私の気持ちを、もうご存知ですよね?」


トーマスは、逃げずに真正面から答えた。


「……俺は、“イリーネ教”の信徒だ。

 一生、イリーネ様に仕えると誓った。恋愛なんて、ましてや――他の女神様なんぞ、考えたこともない」


ルカはその答えに、あっさりと笑みを浮かべた。


「想定内、です」


「――トーマス様、逃がしませんよ?」


トーマスが言葉に詰まると、ルカは少しだけ表情を緩めた。


「私は自分で言うのもなんですが……何の信仰も、信者もいない女神です」


「“始祖神の命令”を伝えるための、ただのメッセンジャーです。

 だから、零細運送会社の社員――それくらいに思ってくだされば」


「……それでも、俺は“思えない”です」


「そうですか――それも、想定済みです」


「分かってます。トーマス様ほどのお硬い方が、ぽっと出の女神に“改宗”するなんてあり得ないって」


「だったら――」


少しだけ間を置いて、ルカは言った。


「私が、“女神の地位”を手放せば、すべて丸く収まりますよね?」


トーマスの目が、ほんの一瞬揺れた。

それは、ルカの想定を外れた驚きだった。


「……トーマス様には、何の縛りも、矛盾もございません」


「出会う順番が違っただけです。

 私は、トーマス様を縛るつもりもありません。だから、ご自由に」


「ただ――私は、トーマス様のところに押しかける女性です」


トーマスは息を呑む。


「……それは、世間では“ストーカー”って言うんですけど」


ルカは目を細めて、笑った。


「知ってますけど?」


実はですね、トーマス様――

 始祖神、知っての通りちょっと……狂ってしまわれたんですよ」


「え?」


「ですので、私の“女神業務”もほぼ停止状態です。

 信仰も祭儀も、いまのところ放置中です」


「……つまり?」


「閉店中、です。女神、いったん閉じてます」


ルカはきっぱりと言い切った。


「――なので、私は今、空いてるんです」


「トーマス様に出会えたのも、全部タイミング。

 だから今なら……“全力で口説ける”」


「私、今、“女神の閉店セール”中なんです。

 売り尽くし、最終特価、返品不可。

 ――気づいたら、もう手遅れです」


トーマスは目を伏せた。


「……俺はイリーネ様に一生を捧げると――」


「分かってますよ。でも、それって“神としての忠誠”でしょう?」


「……じゃあ私は、女として勝負します」


トーマスが何かを言おうとしたそのとき、ルカはふっと微笑んだ。


「女神の看板を降ろしたら――

 あとは、ただの恋する女ですから」













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