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査問委員会

「此処は、色気で落とす作戦でいこう」

俺は声高にそう宣言した。


「汚れ部隊、ゴー」


女性陣の目付きが変わった。

凍てつくような静けさが、場に満ちていく。


……何故だ。成功の気配がしない。


いや、それ以前に。


(誰と誰と誰が“汚れ部隊員”なんですかね……?)


鹿のセバスチャンに人型の接待が効くとは思えなかった。

でも俺は言ってしまった。

自分が助かるために、他者を差し出すという、下衆の極みを。


ルカが肩をすくめて言う。


「下衆過ぎて逆に清々しいわ。……チュキ」


その“チュキ”は誰が言ったか分かっている。


イフリートが静かに、しかし明確に殺意をこめて睨んでくる。


「……どうせ旦那を甘やかすから、こういう事件に発展するんだわ」


セバスチャンは完全に呆れていた。


もう説教もせず、怒りもせず、

ただ、疲れたような目で俺を見つめていた。


そして静かに、淡々と――最終判断を下す。


> 「……シグル様の顔を立てて、今回の件、不問とする」




「だが、勘違いしないように」


「被告人は、私が罰するより――

 もっと重い刑罰を、その身に負うことになるだろうからな。」


「……死ぬなよ。生きて、冥界の門をくぐれ」


> 「私からは、以上だ」




セバスチャンはそれだけ言い残して、背を向けた。


その背は、怒りよりも“哀れみ”の色を帯びていた


それから一時間後。


俺は椅子に座らされていた。

周囲を囲むのは女性陣――査問委員会、開廷である。


場の中心にいるのは、マルカ、イフリート、シーフ、ルカ、ノーム、そしてエルミィ。


彼女たちは淡々と椅子に座り、

整然と資料(という名の俺の過去発言メモ)を読み込んでいた。


マルカが静かに口を開く。


「では、議題を確認します。

 本日の査問内容――“汚れ部隊ゴー”発言、および

 それに付随する女性メンバーの侮辱的分類について、責任の所在を追及します」


俺は思わず立ち上がった。


「ちょっと待ってくれ、あれは状況的なジョークというか――」


「静粛に」


マルカの一言で、俺の膝が勝手に折れた。誰だ今呪文唱えたの。


イフリートが火花を散らしながら言う。


「汚れって、どういう意味で使ったの?」


シーフが冷たい目を向けてくる。


「誰が、どこまで“落とせる”と見積もったの?」


ルカがニッコリ笑いながら言う。


「じゃあ、私“意外と脱ぐとすごい”って、具体的にどのへんが?」


ノームは無言で、俺に毛布を渡した。


「これ、床に寝かされる覚悟の印です。あたためておきました」


そして、エルミィが立ち上がる。


「……発言の全責任を問うまでもなく、あの瞬間――」


「……“チュキ”って言われて喜んだ顔してたの、私は見逃してないからな」

査問委員会、開廷。


俺は女性陣に囲まれて、真ん中の席に正座していた。

ここに逃げ道はない。


マルカが静かに問いかける。


「では、まずお聞きします。

 “色気で鹿を落とす”とは、どういう理屈ですか?」


俺「……えっと……その……メス的魅力で……」


イフリート「ふーん、じゃあ確認だけど、セバスチャンって鹿だよ?」


シーフ「つまり、草食の四足歩行の哺乳類よね?」


ルカ「で、あなたはそこに“色気”が効くと判断した。

 具体的に、どのフェロモンを、どういう手段で?」


俺「いや、それはその場のノリというか、作戦的な……」


マルカ「じゃあ、実地検証しましょう」


ノームが、真顔でメモを取っていた。


「雌牛を一頭用意します。

 この雌牛を“性的に興奮させる”ことで、あなたの理論が正しいか確かめます」


エルミィがとどめを刺す。


「自分ででルカが言った。


「じゃあ、試してみましょう。実地検証よ」


マルカが手を叩いた。

森の奥から、立派な雌牛が一頭、ゆっくりと連れてこられた。


真っ白な体毛に、まつ毛が長い。

どう見ても、牝の中の牝である。


ミリウスは、ゆっくりと前に出た。


俺「……やればいいんだな?」


マルカ「やってみろよ。お前の色気で。鹿落とすつもりだったんだろ?」


イフリート「できるわけないじゃん」


シーフ「いや逆に見たいわ、それができたら尊敬する」


ルカ「じゃあどうぞ」


俺は雌牛の前に立った。


一呼吸。


そして――囁いた。


「……ごめんな。怖くないよ。

 お前がどれだけ優しくて、繊細で、

 静かに草を食んでるのか、ちゃんと見てるから――

 俺は、そんなお前が、好きだよ」


雌牛は、ぶるっと身を震わせた。


次の瞬間――


「モォォオォオオ……!!!」


完全に、興奮した。


目が潤み、鼻が膨らみ、尾が小さく揺れていた。


女性陣、言葉を失う。


ノームは口元を押さえ、

シーフは肩を揺らして震え、

マルカは眉ひとつ動かさないまま、微かに青ざめていた。


エルミィがぽつりと呟いた。


「……惚れ直した」



---


シグルが無邪気に聞く。


「……あの雌牛、パン好きなの?」


ノームが答える。


「違う、たぶんあれ……“恋”だよ」


セバスチャンは少しだけ、微笑んだような気がした。



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