出来る女
ミリウスは自室に戻ると、静かに扉の鍵をかけた。
今日は妙に疲れる一日だった――そう思いながら、ふと気づく。昼から何も食べていない。
何か食べようか。使用人に頼めば、何か用意してくれるかもしれない。
しかし――やめておこう。
この屋敷の使用人は、レッドウッド家の人間だ。何を出されるか分かったものではない。
目線を落とした先、自分の鞄が視界に入った。
イルカさんのことだ。何か入れておいてくれたかもしれない。
あの人は、そういう気配りができる、"できる女"なのだ。
淡い期待とともに鞄を開けると、案の定、中にはパンと牛乳が入っていた。
ありがたい――素直にそう思った。
そして、鞄の底にもうひとつ、見慣れぬ封筒が挟まっていた。
マルカ工房の紋が入った、しっかりと封がされた封筒。
机の上のペーパーナイフで封を切ると、中から手紙が一通と、小さな包みが落ちてきた。
手紙には、ただ一言だけ。
> 「危険が迫ったら使って」
そう書かれていた。
封筒に同封されていた小さな包みを手に取る。
中には――避妊具が一つ。
それには、マルカ工房の意匠と共に、
「ご利用は計画的に」 の文字が印字されていた。




