上司に恵まれない男
「マネージャーの名前が書いてあるぞ……ユマだ」
「マルカの腹心じゃねえか!!」
場が一瞬凍る。
マルカは無言でマークワンに目配せした。
「ユマに繋いで。今すぐ」
マークワンは通信を繋ぐ。数秒後、ユマの顔がモニターに映る。
……死にそうな顔をしていた。
『……そんなことで今さら電話しないでください。
ボスのサインがある書類、全部マークワンが電子保存してます。
“これは重要だから、一番安全なところにしまっておく”って――』
全員、マルカを見る。
マルカ、目を逸らす。
マークワンは再び無表情で動く。
「“最も安全な場所”を開示します」
どこからともなく書類の束が機械音とともに出てくる。
百科事典も顔負けの厚み。
マークワン、平然と。
「すべてに、マルカ様の直筆サインがございます」
「お前じゃねえかあああああああ!!」
マルカは紅茶を飲み干し、ゆっくり立ち上がった。
「……ユマが勝手にやったのよ」
「嘘つけぇぇぇぇ!!」
モニター越しにユマが疲れ切った顔で言った。
「……それやったら、俺は特別背任になりかねないからね、ボス。
この契約、ボスの直筆サイン、三箇所入ってるの……わかってるよね?」
マルカはちょっとだけ目を泳がせる。
ユマは一息ついて、眼鏡を押し上げた。
「……俺は忙しいんで、変なことで連絡してこないでください。じゃ、切りますね」
ブツッ。
回線が切れた。
「……」
皆の視線がマルカに集中する。
マルカは小さく咳払いして、紅茶をすする。
「……ユマ、最近ストレス溜まってるのね。ケアが必要だわ」
「お前のせいだろうが!!」




