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four friends 改  作者: 冬鳥
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運命的な出会いには作為的な香りプンプン

「これがヒロ君の彼女か?」


「あ、は、はい…はいそうです」



カオスの無感情なおかつ無菌なる聞き方は僕を創造や想像を瞬時に掻き消しこの場所に戻ってこさせた。

 


僕は思うのだ。



カオスの発する声はまるでオオカミのようだと。


北の大地の絶対的存在であるオオカミ。



カオスという名前はバンド名だ。


カオス。


彼がリーダーである五人組ロックバンドのカオスは混沌や無秩序さという意味よりも、有限なる存在全てを超越する無限を象徴している名といったほうが良いのだろう。


君はカオスのボーカル&リードギターで絶対的中心人物。


そして君の発する歌声にはふるえる慟哭が時に入り混じるんだ。歌い手の感情と才能を拾い上げた多くの聴き人たちは、込み上げるものを涙に託しやがてとめどなく流し始める。

まさに魂が根底から揺さぶられるのだ。


カオスは僕らが辛くとも生き続ける本当の意味を曲に歌詞をのせて伝えようとする。個々の魂に訴えるのは儚い夢への執着と愛へ抱く慈愛、そして過去への後悔と未来への希望だ。


聞く人は最高の涙を流す。



カオス。


君の歌声はあらゆる人々を救い励まして導いていくんだ。

それはまるでシベリアの大草原を駆け抜ける大狼のように


ひたすらに自由を訴える!


地球はとてつもなく美しく広いということ!


とにかく生きろ!お前はお前だ!他人と比べてどうするというんだ。


とにかく心は笑え!幸福は必ず笑顔に付き従う!




今を生きる素晴らしさと出会いの奇跡をカオスはメロディーに乗せていくのだ。


カオス。


君は日本一いや世界一の歌い人だ。



「だからこれが彼女なのか?ヒロ君どうなんだよ」


今カオスが僕につぶやく声は冷たさと温かみが同化していた。


「ぼ、ぼ、僕の彼女です」


写真はキリンの澄ました顔も入っているのでアングルは遠目からであるが、彼女の外見がどんな風なのかはしっかりとわかる。


カオスは


「うーむやはりこれが彼女か」



と唸るにつぶやいた後に隣にいるタカに渡した。タカの後ろに回り込んだシンゲンちゃんとチーコも同じく凝視する。


「やっぱりな」



カオスは顰めっ面のまま写真から顔を逸した。


「世間一般的にいって綺麗な女と言える。俺の周りにはたくさんファンとして…まぁそれはいい、ずばり親友として言うが正直なところヒロ君にはありえないかもしれないなとは思う」


「え…あ、ありえないって…」



僕は動揺を隠せないままにカオスから目を背け写真を見入ったままのタカの表情を窺った。タカは老眼なんだろうね。サングラスを外してまた黒縁眼鏡をかけるかと思いきや新たな銀縁眼鏡が胸ポケットから出現していた。その眼鏡越しのタカの瞳はぽよよんと大きくなった。考えてみるとタカの胸ポケットには少なくとも三つの眼鏡が収納されていることになる。



「私は決して断定はしませんが、ヒロ君とこの女性が付き合うっていうのは確率的には少ないかもしれません。カオスが言いたいことそして私が思うことおそらくチーコやシンゲンちゃんも考えている事は全く同じであるのかもしれません。その答えを私がズバリ言います。―当事者―が彼女って事はあり得ますかねヒロ君。いえ、あり得ますね、っていうかそうでしょ」


タカのセリフにシンゲンちゃんとチーコもコクリと頷きあった。


「風鈴小僧!、違うか、カハっ」


今だけはやけに耳障りに感じるシンゲンちゃんの大きな声。しかもなんですか風鈴小僧って。それにタカは最初のクダリは偽りです、最後はっきり断定してます。


シンゲンちゃんはカハッカハッと凄腕職人級の黄色い歯を「にっ」と見せて笑ってから


「ヒロ君やどうしてこんなべっぴんな姫と付き合っちゃったのよ。こりゃまるで諏訪姫じゃん。あ、信玄公がマジ惚れしちゃった側室のことね、武田四郎勝頼公のお母さんじゃな」


と言ってから手にする軍配をクルクルと回転させた。



「あ、あの…か、彼女とはそれは運命的な出会いがあ、あ、ありまして」


タカの後ろにいたチーコがゆっくりと立ち上がって自分のグラスが置かれた場所に戻ると頬杖をついて僕を見つめてきた。



「そっかそっか、わかったわヒロ君。私から一つだけ質問してもいいかしら。そのとっても素敵な彼女さんとはどんな出会いだったのかしら。運命的な出会いっていま言ったよね。それは恋愛メロメロドラマにあるようなあまりに魅力的で全身がとろけちゃうようなやつ?私に教えてちょうだい」


優しくまったりとした口調で詰問されると怖気付く僕のことをよく知っているチーコ。


「あ、あの…ア、ア、アパートの前で彼女いや名前はナナコさんといいます。ナ、ナナコさんの車が故障してしまって、そ、そしてボクがたまたま」


素敵な出会いだった。

運命的な出会いだった。

もしナナコさんの車が故障しなかったら。もし故障したとしても、僕のアパートの前じゃなかったら。

まさに奇跡の出会い。

僕とナナコさん。

  



「沢田ヒロシさん」


ナナコさんの甘い声に僕も全力で甘い声で名前を呼ぶ。

ナナコさん

ナナコさん、ナナコさーん。


「ヒロ君てさぁ、金いくら持ってんだ」


「え?」



カオスの次なるクエスチョンは、またもびっくりさせる言葉だった。


「ちょ、貯金ですか?おそらく二千万近くは…ぎ、ぎ、銀行の方のオススメで定期とかいろいろ分けてあるから、せ、正確にはちょっとわかんないですけど」



「な、な、なんと!に、二千万!」


四人は一斉に大声を出した。


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