四人の友達が集まる理由なんてなんだっていい
「全員集合ってやつだな」
部屋のなかを歩きながらカオスが答えた。
「さて、さて、まずはカオスもチーコも座ってよ、飲む飲む。皆んなで乾杯じゃ」
部屋の中へ入ってきたカオスとチーコに向けてシンゲンちゃんは手にした日本酒のビンを左右に振って見せた。
「シンゲンのおっさんはもう出来上がってんなぁすでに顔赤くねえか?まあな、まずは乾杯といきたいところだが俺は例のあれを見ておきたい。乾杯はそれからでもいいか?」
「そうよちょぴた、落ち着かないから私たちにもまず見せてちょうだい。タカもシンゲンちゃんも既に見たのよねちょぴたの死体」
「YES」
タカが部屋の明かりの下で眼鏡を光らせた。カオスとチーコもあれを見たいと言う。
そう、僕の死体を見るということが今日この僕の部屋に仲間四人が集まる意味であり目的であった。
「う、うん。こ、こっちだよ」
僕は隣部屋に通じる襖をゆっくりと開けた。再度解き放たれた襖の奥の畳に置かれた光景はすぐにカオスとチーコを包み込んでいった。
「わぉーこれか、またこれ派手に刺されてんな」
カオスは歓声のようなものをあげた。
「そっかそっかそういうことね。後ろからグサリってわけね」
チーコは冷静な面持ちで僕の死体を見続けていた。
「と、どうだろう、な、な、何かあるかな。どう?」
僕は恐る恐る聞いてみた。
「これは何かあるあるかもだよなぁ。チーコもわかるだろ?」
「そうね。ぱっと見の段階でもちょっと注目する点はあるかも」
カオスとチーコはしばらく注目していたがやがて無言のまま襖を閉めていった。僕は聞きたいことが山ほどあった。彼らはあれを見て何を思いそして何を発見したのだろう ?
部屋に集まった五人はそれぞれにテーブルを囲むように座っていった。そしてシンゲンちゃんが慎重に四つのグラスに日本酒を並々と注ぐ間、何かの儀式みたいに静寂がこの部屋を支配する。
テーブルに置かれた日本酒で満たされたグラスはそれぞれの手に渡っていく。
「さぁ、まずは乾杯でもしましょうか?
」
タカがグラスを胸の位置まで持っていった。
「ところでタカさん。ちなみになんに乾杯するんだ?」
カオスが口を挟んだ。
タカは手に持つグラスをそのまま眼鏡の縁に触れさせた。まるで眼鏡がお酒を欲しているかのように。
「カオス。私にさん付けはやめてください。タカって呼び捨てにしていただけませんか?雲泥の差が生じてしまうんですよ。タカさんだと…とんねるずです。タカだと…」
「あぶない刑事ね」
チーコが言うとタカはこれでもかと大きく頷いた。そのとき眼鏡とグラスがかちんと音を奏でて頭の左へと流れるバーコードが少しずれた。
「すみません。私の話によって脱線してしまいました。とにかく乾杯をしましょう。音頭はシンゲンちゃんお願いします」
「よーしじゃあ行くよー、はい出陣じゃぁ」
「出陣じゃあ」
五つのグラスが証の触れ合いをした。それは仲間の証だ。僕は少しだけ日本酒を口に含んだ。甘くて苦い味がした。
「さて皆さん早速ですが、本題に入りましょうか。隣部屋にあるあれを見て皆さんどう思いましたか?」
タカはシンゲンちゃんからカオス、そしてチーコへと視線を移していき最後に僕の方を見た。
「その前にタカ。まずはよ。俺はまっぴに聞きたいことがあるんだ」
カオスが口を付けたグラスを置いてテーブルの上で両手を合わせた。揃えられた長い人差しはまっすぐ伸ばされ僕に向けられていた。
あぁなんてかっこいい仕草なんだ。これはカオスがやるから様になる。僕が誰かに同じことをやったら指で人をさすな!と叱られることだろう。
もし、もしだよ、その人差し指の先から鉛玉が出るならば…、そうならば僕は今ここで胸を撃たれてもいいと思った。かっこよさとは1種の麻薬だ。ありありと見せつけられたときに男女問わずマタタビと猫の関係になるのだ。
あぁ…僕はいま、独り言を言いたくてたまらない。
言わせていただけるならば、もし満足に言わせていただけるならば。
―さあカオス。撃てよ。それでお前が楽になるなら俺の本望てやつだ。さぁ撃て!
僕は体内に熱く込み上げてくる何かを察知していた。きっとカオスは僕の弟分で、なにかで二人は揉めてしまったんだ。ほんとは僕はなにも悪いことしてない裏街道まっしぐらのアニキだが、なにか知らないけどカオスを守るためになんかそうなっちゃってるしカオスもなんか怒ってるかんじ。
つまりは過程はどうでもよくて、こっからが良い!
僕はネクタイを解きワイシャツのボタンを二つ外して見事な龍の墨が彫られた胸から肩をさらけ出す。
いいかカオス!撃つならココだ、俺の心の臓まっすぐ打ち抜け。外すんじゃねえぞ今すぐやれ!俺の弟カオス!―
現実のカオスは抑揚のない声で言った。
「お前のあだ名は一体どれが正解なんだよ」
僕はただただ唖然とした。