過去に戻る
僕は愛する人を守ることもできずに殺された。そんな僕は…、そんな僕が…?
きっと生まれたときから宿命付けされたような弱さ、醜さ。嘲笑。周りの人達は思っていた、あはは君は所詮は君なんだよ。中学生のときに同級生にいわれたシーンが目の前にバンと現れる。
「ヒロシを見てるとなんかさ前向きになれるんだよね、こんな奴でも生きてんじゃん。て」
そんな僕が…過去に戻るって?な、な、なんだよそれ。もう一度僕に戦うチャンスをあのカッコつけの神様が与えてくれたとでもいうのか。なんだよそれは、ここにいる死んでから出会った最高の友人達は。タカにカオスにシンゲンちゃんにチーコは。
みんな、みんな…もっともっと生きたかったはず。タカは危ない刑事を追い続け、カオスは歌で世界を変えることができ、シンゲンちゃんは軍牌を肴にたくさんお酒を嗜み浮かれ続けて、チーコは愛する人ともっと手を繋いでいたかったはず。それなのになんで僕だけ。
だってそうでしょ、いま現在においても、たった一つしかない命をかけて必死に生きて戦う全ての生命に対してとても失礼極まりない話しだよ。皆が戦っているというのに。一つの命しかないからこそ日々真剣に日々慎重に。
僕は誰かに背後から刃物で刺されて死んだ。そうだ、こんな僕だから怖くて敵に背中を向けて逃げ出したはずだ。愛する女性を守ることすら拒否して僕は一人逃げ出したんだ。
そんなのもう見たくない!
もう、弱い自分にはうんざりなんだ!
天寿を真っ当するわけなく死んで当たり前の人間なんだ。
ここにいる親友達にも見せたくないんだ。
なのに、神様のイタズラゴコロは始まってしまっている。
いま目の前にいるもう一人の僕は明らかに殺されるまえの僕だ。
二つのアイドルフィギュアを手にしてニタニタと帰宅報告をしている僕は悔しいほどに平和ボケをしており
また明日があることを当たり前だと思い込んでいる。あぁ、なんてバカなんだ、あまりにアホすぎて目の前にいる僕のほっぺを思い切り叩いてやりたい。
でもきっと無理なんでしょ?神様とやら。向こうは見えてないんだ平手は空を切るだけなんでしょ。
玄関の鍵を閉め忘れてしまった朝。
その日帰宅してからの出来事。
僕はいま目の前に広がる光景をして数字の1から確実に思い出していくように感じられた。殺される日のことを。
そしていますぐに
腐りかけのようなチャイムが鳴ることを。僕は理解していた。
ピンポーン