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four friends 改  作者: 冬鳥
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神様って死んだらすぐ登場する生業。なんだかね。

数日前に五人が集まり話しているときだった。場所はなんだか皆が心落ち着く相変わらず月夜の失われた真っ暗な墓地の片隅だった。そこでカオスが″例のあいつ″の話をはじめた。それは命を無くしたときに必ず現れる例のあいつのことだった。僕ももちろん会っていた。死んだ瞬間に目の前に現れたのだ。


カオスは舌打ちまじりに言う。「あいつは、きっと神とか仏とかそういう類だろ?この生きとし生けるものの世界にあいつは何故まったく出てこなかったんだよ、いざ死んじまったらすぐにしゃしゃり出てきやがるくせに」


興奮した感情を鎮めるためなのか、はたまた滾らせるためなのか、カオスはポケットから銀色のギターピックを取り出して勢いよく頭上に掲げた。


「あいつが出てこないから、いろんなもの信じ込む奴らがちょっと思想やら思考が微妙に違うだけで邪宗だのなんだと争って戦って命を次々に落としていくじゃないか。死んだ途端に神が出てくるなんてふざけてる」



黒い衣装を纏い黒いシルクハットを乗せた人間のような姿形だが顔はあるべき場所にはなかった。そこにはまるで宇宙のように果てしなく真っ暗な永遠が広がっていた。


例のあいつは脳内に語りかけてくる。浮遊霊の間は月が見えないはずだと。そして月が現れたらあの世に行くサイン、あの世は楽だよ。と、それだけ言い残して消えていくのだ。


カオスは「例のあいつは映画の上映前に追いかけっこしてるカメラ男とパトランプ男みたいだよな。あいつらに何か似てる」



シンゲンちゃんは「パッとみ織田信長か?と思った」


タカは「あれは神でしょ」


といいチーコは


「黒のシルクハットと背広がやけに似合ってたわね」


と述べた。



神がもしいるとしたら、なぜ人々に争いを辞めさせようとしないのだろうか?

カオスの疑問はごもっともだと僕は思った。

一度くらいは生界に出てきて、わたしこんな感じよ、と姿見せれば、神や仏のことでいがみ合いは無くなるのではないだろうか。


神はいったいなにを人類に求めてどう導きたいのだろう。

神がどう説き伏せても人間の野蛮は拭いきれないのかもしれない、人は惨虐だと神は諦めているのもしれない。


人は死ぬために生きるているのか

それとも死ぬのが嫌で生きているのか。

なにもかもが曖昧で答えは見つからないのかもしれない。



――――――― ―――――――


朝、目覚めてカーテンを開けるとそれは眩しいほどの朝陽が部屋の中へと入り込んでくる。

人は目をこすりながら誰かに言う。

「おはよう」と。


同じくおはようと言う言葉が返ってくる。朝食のパンを食べてコーヒーを口にする。そして会話に満ち溢れた日々。


ある日テーブルの上に置かれた凛とした分厚い本を見つける。人はそのページをめくってみる。描かれているのは鮮やかに彩られる風景をバックに自分と愛する相手が手をつないでいる絵だった。


絵本をめくっていく。同じように自分の幸せそうな場面の絵が続いていく。だが次第に飽きてくる。思い始めていた。どのページの絵も何の変哲もない心であり、そえられる言葉もなんて単調な日常なんだと。当たり前のように愛がそこにあって当たり前の安息がそこにある。やがてめくることすら億劫になって部屋を見渡して他の絵本があるのか探しだす始末だ。

そしてついに何の価値も見出せなくなる。目の前に置かれた分厚い絵本だけが残る。

愛の存在が当たり前になり、そして当たり前の毎日が続いていく。当たり前の会話で当たり前のぬくもりですべてが当たり前、当たり前…etc…


ページをめくる。彩られる風景も自分自身も惰性のままにただ巡っていく。そして何ページ目まで来ただろうか。突然描かれる内容が変わるのだ。風景の水は枯れ果て、草木の緑は養分を見失い、絵が崩れようとする。そしてそこからページがめくれなくなると唐突に絵本は消滅してしまう。

もうどれだけ次のページに思いを馳せようと今までの当たり前だった気持ちをどれだけ後悔しようと時間は消して戻らない。絵本は消えた人の愛のかけらを探し出す役割を終える。

もうそこには何もないのだから。



いつしか人は必ず死ぬ。



そしていま。


僕は助けたいこの四人を。例のあの人のように脳に直接語りかけてくる月夜が落とす優しくも寂しい音色。僕の耳元まで確かに届くその音を拾い上げて瞳を閉じて旋律に全神経を傾ける。


秋の夜の上空を旋回する風の音に月の奏でる音が何層にも重なり入り混じっていく。間違いなく言えることはこの世で生きていたときには聞けない音。死して成し遂げ得る音界なのだろう。

とても不思議な音だ。きっとどんな鳥が囀る音よりも透き通りどんな楽器が奏でる音よりも繊細なのだろう。僕の耳元で聞こえるこの音はすぐにでも掻き消されてしまいそうにもろく弱く繊細であるが、懸命に何かを訴えるようにおぼろげのままに奏で続けていた。

僕は体と魂が分離したあの時から何かを深く理解していたのかもしれない。と思った。



皆がヒロシに注目していた。ヒロシが次に何を言うのか四人は固唾を飲んでその時を待った。



僕はテーブルを囲んだ親友四人のそれぞれの顔を見渡してからゆっくり立ち上がった。

一巡する親友の存在への認識、そして僕の顔はいつものように綻んでいく。四人の友人はかけがえのない存在だ。だが、今の僕には感傷に浸っている時すら惜しく感じていた。親友が抱く悲しみを解放させるために、窓際へと足を運ばねばならない。僕はゆっくりと歩いて行く。窓にもたれかかるシンゲンちゃんの後ろまで来ると僕は彼の背中を軽く押した。


「なんじゃ?」


「す、すみません。シ、シンゲンちゃん。カーテンを開けていいですか」


「かまわんよ」


シンゲンちゃんは尻を浮かして胡座をいちからやり直すように座り直した。


「カ、カ、カーテン開けます!」



僕はカーテンを開けた。


輝く月が完全に現れる。まん丸の大きな月が夜空を照らしていた。


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