第九話 車が増えて
ちょっとサザンよりコンパクトな4WDの登場です
「ねえ、今日はここのレストランって言うかさ、ビストロ入ってみようよ。こんなところにおいしそうなお店あっていいじゃん」
バトルの下見に来て帰ろうとした時に、いい感じにさびれたというか熟成したお店を見つけた雅子が上目遣いで誘ってきた。
そんな雅子の表情に抗うこともできずに車を駐車場にとめ、ちりんちりんとドアベルを鳴らして入っていくと、中からお店の人が出てきて
「ご予約ですか?」
「いいえ、良さそうなので入ったんですが」
「2名様ですか?」
「はい」
「それではご案内します」
僕らが通された席は窓際で夜景がきれいな場所だった。
料理を注文してしばらく夜景を夜景を楽しんでいた。
雅子も同じようで下見とはいえ初めて走る場所なので色々気を使ったのだろう、雅子はちょっと疲れた雰囲気だった。
「お兄ちゃん、こうやって食べるのも楽しみね。お店やってる時間に」
「そっか、そうだね。雅子は食べるのも好きだもんね」
「いいでしょ。そうだ、ここって箱○だもんね。バトル終わったら温泉付きのホテル泊まってのんびりしよ。あ、今日は解析あるからそのまま帰るけど終わったら観光してのんびりしてがいいじゃん」
にっこりした顔で料理を頬ばりながら言う雅子だった。
その日は僕が新たに入手した車でバトルコースの下見していたのだった。
帰りついて風呂にいくと、自動で沸かしておいたのできちんとお湯が張ってあってすぐに入れて助かっていた。
その日は往復400キロの移動の疲れもあったのだろう、ベッドに入るとそのまま朝までぐっすり寝てしまった。
時はその週明けの月曜に戻る。
仕事から帰ってきた雅子は会社の制服を脱ぐと、風呂に行ってリラックス用のスウェットに着替えてリビングにきた。
5月の末になって、新緑が綺麗になって来たころのことだ。
僕らは一緒にご飯を食べていた、すると妹の雅子が言う。
「次のバトル遠征だって、場所は椿ライ○って言ってた」
「ああ、僕も昼間に隆弘からLINEで聞いたよ。行楽シーズンも始まるいいときなんだけど、今年はなんか雨が多いからね」
「あはは、そうね。でさあ、お兄ちゃん、昨日の練習にまた面白そうなの持ってきてたんだけど。R○4のセダンの4WDって激レアじゃん」
「うん、雅子はよく4WDってわかったね。サンゴちゃんのって思ったんだけど、4WDもいいかもって思ってさ。実はどんがらはセダンだけど中身は完全にGTRだからね。ブレーキはワンサイズ大きいZ3○のに変えたからサンゴちゃんと同じだね」
「お兄ちゃん、それになんかエンジンが高いって思ったんだけど、何かやってない?この前乗せてもらったけど隆弘さんのサニーちゃんより高回転軽いって感じるけど」
「うん、よくわかったね。タービンはツインで2サイズアップしたから、高回転は強くなったし、ヘッドも吸気側ポートを削って整えたのと大変だったけどカムをJU○の288度カムにした。シリンダーはダミーヘッドとクランクボーリングして設計値に近づけたよ。0.5ミリボアアップ仕様にしてある。もっと言うとアッパー20mmデッキかましてブロック高上げて、一旦90迄ボア削って2.0のスリーブ入れたからコンロッドの揺動角が減って高回転伸びる。下側もラダーフレームビームを作って入れた。」
「道理で、まさか580psくらい出てるの?」
「あはは、そうだよ、ちょっと高回転狙ってボア86.5mm、ストローク79mmで2.8の排気量有るからそれを使って600psだったかな?それくらいで辞めて扱いやすさもだした。ミッションは純正だけど6速だからまあいいかな?」
「ふーん、もうお兄ちゃんはいつの間にこんな車見つけてそんなマシンに仕上げてるし、何に使うの?」
「これは雨の日のバトルようにって思ったんだよ。サザンみてて4WDならウェットでもいいかなと思ってさ。それにエンジンは最強の26改にしちゃった。純正のままだとコンロッド長短いから長いのに交換したんだ」
「これだもんなー、いくら26+4WDのターボって言っても登りで速すぎッて思ってたわよ。サザン君よりもガンガン回るしあっという間に150キロ出てるし、ターボが効いて無いところでも乗りやすいし、軽いせいか?あたしのサザンちゃんより乗りやすいって言うか?」
「まあね。脚は、GT○のつるしキット入れてほとんど弄ってないからね。まあ、ちょっとバネレート上がっててショック20%固めてある、そうそうサンゴちゃんたちと同じく、後ろ周りとフロントサブフレームのアームの付け根が剛性の肝だからがっちり補強した。ボディも全部の開口部をスポット増しっていうかこれもレーザー溶接機でシームレスにしてみた。ドアとかガラス周りのところは完全に連続溶接だし、サイドシルも全部シームレス。後は室内のいらない穴は塞いだし、補強版もいれてそこも全面溶接してみたよ」
「そうなのね。レーザーなのね。道理でお兄ちゃんしばらくガレージに入るなって言ってたもんね」
「うん専用の遮光眼鏡いるんだよ。今は一つしかないから入るなって言ったんだ。反射光見ても目が焼けるし。スマホのカメラは一発で受光部が壊れちゃう。シームレスの威力はすごいよ、乗ったら一発でわかる位、剛性感半端じゃない。でも純正だと力逃がして耐久性あげているところもあるから、半年に一回はボディの亀裂のチェックいるかもね。それでもロールゲージいらないくらいの剛性になったから軽くていいかも。やっぱり重いとね」
「お兄ちゃんさすがね、そういえばサンゴちゃんも何かやってたけど」
「うん、エンジンにラダーフレームビーム入れた。NAとはいえ負荷かかるからね。それにブロックに負担かけたくないからその分のお手当かな?大体30ブロックの限界出力って400psみたいなんだけど450位にしたら面白そうって思ってね。もちろんNAのままだから、9000位でピークパワーでレブは10000に。そうすると腰下がやばいかなって思ってね。26のレブのマックスはスペシャルクランク組んで11000らしい。三四郎は常用10000、勝負なら11000だよ。ちょっと攻めすぎかな?」
「そうなんだ、お兄ちゃんったらいじることになると止まんないんだから」
「まあまあ、次回のところはとにかく低速コーナーが多いところだからギヤ比の選択が肝だね。イチゴちゃんのFDを思い切って4.363まで落とそうかとも思ってる。」
「もう、それでお兄ちゃん最近三四郎くんで走ってたんだね。今のFDは?」
「うん、4.111で33までの純正に合わせた。ミッションは34使ってるから街乗りは2速発進でも行けちゃう。サンゴちゃんのエンジンもチェックしようかと思ってるんだ」
「ふーん、お兄ちゃんっていじることにかけちゃもう好きだよねえ。ま、いいか、お兄ちゃん、金曜の夜に下見行こうね。そうだ、隆弘さんの32って車体と脚だけ?」
「いいや、エンジンもやってるよ。NEOの25ターボヘッドだし、排気量は2.6だよ。見かけは20に見えるけどね。車体は全部ばらして開口部とサイドシルはシームレス溶接。どうしても車高落とせないからスポイラーでごまかしてる」
「そうね、お兄ちゃんのセッティングならだれ乗っても速いじゃん」
そんな会話して、僕らはご飯を食べてそれぞれの部屋でくつろいで寝ていた。
次の金曜のよる、早めに帰宅すると雅子も早めに帰ってきて会社の制服から峠に行く時のジーンズとデニムの上に皮のジャケットに着替えていた。
僕は車の下にもぐるかもしれないので、峠専用のつなぎに着替えていた。
工具を積んだサポートカーのコンド○積載に三四郎くんを積んで出発した
今日の相棒は新入りの三四郎くんだ。
エンジンは元の25NAから26のターボに駆動系もすべて移植してある。
ピストンは特注の86.5mm鍛造と79mmの2.8仕様削りだしクランクそして20mmのアッパーデッキと2mmのスリーブを入れてそこから0.5mmボアアップしてある。
排気量は2,8L仕様でヘッドは26オリジナルだが作用角最大のカムを組んでいて普段は10000迄回わせる。
オイルポンプ焼き付き対策で、サンゴちゃんと同じくドライサンプにしているのはこの系列のエンジン共通の手だ。
最高出力は、今のところ600psで抑えて、中速から高速までの使いやすい特性にした。
加えてミッションは純正のままだがエンジンのレブリミットが上がったのでファイナルを4.111まで落としてある。
そうすることで、各ギヤのつながりが良くなっていて、走りやすいようにした。それは乗せて感想を雅子に聞くと十分楽しいという
もう一つはブレーキだ。
○34の大口径ブレーキを移植したので、よほどのことがない限りフェードしない。
車体はいったんどんがらになるまでばらして、イチゴちゃん、サンゴちゃん共通で弱いと言われている、センターフロアとリアフロアのつなぎに補強版を入れてしっかりさせたのだ。
そのおかげで、某ショップ試作のリジカラメンバーを組んでもボディが受け止められるのでその良さがよくわかるのだ。
冷却に関しては、インタークーラーは前置きにして、ラジエターはGT○用、加えて空冷式オイルクーラーも組んでいて純正のインタークーラーの場所に組んであるので、イチゴちゃんたちと同じくオイルクーラーがあるとまではパッと見では全く分からない。
しかし、室内を覗くとサンゴちゃんたち同様に只ものでないことがよくわかる。
冷却関係の各メーターがダッシュボードに並んでいる。
しかも、リアシートを取っ払ってあり、軽量化している
両方の席にしっかり軽量化したバケットシートがあり、コンフォート装備のナビやオーディオは取っ払っている。
唯一エアコンだけは残してあるのだ。
僕らは積載に乗ってアジトとしている祖父母が住んでいた家を出る。
約3年半前、祖父母は病院に通うのに不便ということで、市内にある僕らの実家に入った。
それと入れ替わりで雅子と僕が祖父母の家に住んでいる。
3時間ほど走って現地について既に来ていた隆弘たちと合流する。
「おう、悟瑠、今日は34か?」
「うん、まあ、シェイクダウンだね。今日はいいけど天候によっちゃこれでいくかも。コース的には低速のテクニカルだから立ち上がり重視だと4WDだろ」
「まあな、どっちにしてもクライムは4WDだからいいが、このコースならいう通りだよな。雅子ちゃん頼むぜ」
「うん、改めて乗るとこのエンジンもすごいよね。5000回っていれば何これって言う位のレスポンスなのよね。ターボって思えないんだもん。この子は三四郎くんね」
「うん、そうだね。今日はエンジンはいいけど、タイヤが普段使い用省燃費タイヤだからさ、気を付けていこう、雨の日のタイヤ何するか考えないとね。」
「そうなんだ、今日は下見だもんね。気を付けるところって?」
「うん、今日は晴れてるから良いけど、雅子の60%くらいで走ってみようか?データも同時にとって後でスタビの設定考えよう」
「うん、そうね。データ取ってベースと仕様変更したシミュレーションね」
「相変わらず、仲いいな。まあ頼んだぜ。悟瑠はデータ取らしてもめっちゃうまいから」
「あ、そうだ。ここは僕が先にハンドル握るよ、いいかな?」
「うん、お兄ちゃんセッティング名手だからね。何かあるのね」
「おう、ちょっとな。下りの絞り込みコーナーの具合見たいんだよ」
「じゃあ、あたしがナビね」
「おう、僕の言うこと覚えておいてくれ」
そう言って僕が下り方面に走り始めた。
走らせてみると、ここも思ったより道が狭い。
コンパクトなイチゴちゃんでも並んで抜くことは不可能にちかいだろう。
前回同様後追い方式でちぎるしかなさそうだ。
「雅子、今日は60%くらいで確認するよ。コーナーの具合を言うからメモでもなんでもいいけど頼むよ」
「うん、わかった。なんかいっつもあたしが先だったからちょっと違って新鮮ね」
「そうだよね、まあ、僕の視点でみててコースを覚えててくれ。そうしないとバトルの時大変だぞ」
「はーい、ひさしぶりね。お兄ちゃんのナビシートって」
「そうだね、三四郎くんのデビューだね」
「はーい、うわ、なにこれ?え?すっげー静かじゃん。え?もう8000?サンゴちゃんのエンジンも静かだけどこれもすごい」
ぼくは60%以下の走りで下っていく、途中の荒れたところとか絞り込まれたコーナーの具合をみる
雅子と同じように、とにかくスムーズかつ舵角を減らしたドライブを心掛ける。
隣に乗っていると、峠ということを忘れてついつい寝てしまうくらいを目標にしていく。
初めて走るコースとはいえ動画で予習しただけなので慎重に行く。雅子ならあっという間にコースに慣れるのでそのセンスは見事というほかない。
それは、ホームコースでの練習も怠らないのもあるだろう、自分で課題を見つけてはそこを進化させる練習をする。
この前、イチゴちゃんのでエンジン換装してすぐにバトった時もあっという間に完璧に乗りこなして勝ってしまうくらいの腕だ。
しかも、頭に前よりも30キロも重いエンジンを積んでフロントヘビーになっていてもきれいに曲げていってタイヤも労わって走れる。
そんな妹:佐野 雅子、普段はY○34WDの改造車で麓のスーパー本社に通っている。
所属は経理部で就職して4年目の22歳。
高卒ではいったスーパーの本社で経理をしている。
妹は地元の商業高校を断トツ1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシックなら任せての技能をもっていたので、地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら3年目の今は大卒と同じくらいの給料をもらっている。
あろうことか?雅子は自力で各店舗から集まる情報処理集計システムを組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも妹が作ったソフトのほうが勤めている会社に事情に合っているのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とシステムのメンテナンス費用が浮いた。
万一、おかしなことが起きても、雅子がすぐに治せる。
それも褒美もあって、雅子は高卒では異例の速さで主任に昇格してしまったのだった。
それに集計の自動化を進めた結果、仕入れと売上関連の報告がほとんどが一目でわかるようになって社長も大喜び。
その成果が認められ、高卒の3年目途中で主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになったという。
7月からは今年入ってきた大卒を部下にもって指導しているのだから驚く。
その雅子が行くと言っているのは峠だ。
雅子は高校3年で免許を取ると同時に峠を走り始めて既に4年がたっている、あっという間に上手くなってその地域でトップクラスの速さになっていた。
得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入って全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中では雅子しかいない。
ダウンヒルなら、雅子が一番だ。
僕:佐野悟瑠は雅子より4学年上の3月生まれの25歳。
大学を卒業してすぐに家業の中古車屋に就職して4年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は実家の中古屋の整備工場で働いていて、中古車の納車前整備やトラブルが起きた車の修理をしていて、時には中古車査定もする。
大学のころから家業の手伝い=アルバイトしていてMIG溶接機やレーザー溶接機、フレーム修正機もバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
加えて、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取っているので4月から整備工場の工場長をしている。
去年、けん引免許もとって、買い付けの時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
商売柄、中古車で市場では人気がないが、程度のいいFR車を見つけては整備して雅子の走り仲間へ売っている。
時にはミッションの換装もやっている。
改造車検も取って、合法的に乗れる仕様にして販売している。
今、僕と雅子は僕の同級生がリーダーを務める走り屋チームにいる。
僕はそのチームの整備係になっている。
「お兄ちゃん、横に乗ってて気が付いたんだけど、三四郎くんってサザンちゃんのエンジンよりパワー出てるでしょ。それに上の伸びが半端じゃないよね」
「うん、そうだよ、排気量は2.8だけどレブリミット分で約30%高いし、それにブースト違うからねいい感性してるよ。よこのっててわかるんだもんな」
「そうなのね、ねえ。そうだこのエンジントルクどのくらい出ててるの?なんかさ、この前借りた時さ街乗りだと3000回っていればでも十分速いんだけど、600psって言うけど、5000超えると暴力じゃんしかもめっちゃ上伸びるし」
「うん、そうだね。60かな?高回転はレブが10000だからね。サザン君はブロックがちょっと弱いと言われてるからね。いくらラダーフレームビーム入ってるって言っても400psでやめてるから」
そういって、長めのストレートをセカンドで引っ張る。
レブが8000を超え9000も超える。
しかし、がっちり対策したのもあって、ストレート6独特の気持ちがいい音が響く
「わ、なにこれ?本気で回すとやばいかも、ってここってうわー、すごい絞り。下手するとコースアウトじゃん」
「雅子、ここはね、ストレートエンドのブレーキングがポイントだよ。とにかくここでロスなく減速しないと外に孕んで刺されちゃう」
「そうなのね。覚えた。後であたしも乗ってみるからね」
「うん、当日どっちにしようか悩むなあ。晴れならイチゴちゃんか、雨なら三四郎くんだな」
「うーんそうなのね。え?もう麓?」
ちょっと麓のゴールと勘違いしそうな場所だ。
「いや、ちょっと違う。少し上って最後の方できつめの下りになるよ」
「さすがね、コースしっかり覚えてるのね。ってことはクライムは32で走るのかしら?隆文のレガシ君?」
「そこなんだよね、どっちも排気量一緒って言うか100cc32が大きいんだよ、出力も32なんだよな。高出力に耐えるブロックは伊達じゃないよ」
「そうね、下りならこのイチゴちゃんくらいのパワーあればいいけど、登りはパワー勝負よね」
「うん、作戦考えないとダメかもね、隆弘と話するよ。直線はいいけど32はタイトが苦手なんだよな」
「そうね、わかったわ、ここはとにかく下りは、パワー差は小さいんだよね。脚の設定次第ってことか」
「まあ、その通り。うん、ここは絞り込みコーナーの処理で決まるとみた。」
「うん、そうね、後で隆弘さんと作戦考えようね」
そういうと、雅子と僕は上の駐車場に戻った。
そこでは、隆弘たちが話していた。
「雅子、どうよ、ここは途中でゴールと同じ雰囲気のところがあってでゴールが分かりにくいだろ。それにしても悟瑠の運転で寝ないやつは珍しいね」
「うん、そうなの、あたしはナビシートだから勉強することばっかりだから寝ないけど。峠じゃなく移動なら爆睡なんだけどね」
「あははは、悟瑠の運転はめっちゃくっちゃスムーズだからね。ところで、どうする?上手くいくいい案あるか?」
「そこだよね、登りは低速からの立ち上がり勝負だからセカンド下げるか、ローを上げるか悩むところだよ」
「おー、やっぱりだよな、レガシ○はどうしよ。何とかしないと。ギヤの設定自由度が少なくって」
「ああ、ちょっと、考える。わりい、データ取ったから分析して来るよ、結果見て隆文の車どうするか決めよう。明日うちに来てくれ」
「頼んだぜ」
「まあ、お楽しみってことで、ワリイけど積載見ててくれ」
「任せたよ、いつの間にこんなの見つけるんだか?」
「そこは商売柄だね」
その後は雅子が三四郎くんでコースを運転してデータとって調べた。
ヘアピンの後に高速コーナーあり、いきなりタイトコーナーあり、それがキーになるのと下りの高速部分の路面のあれがひどくセッティングが難しそうだ
いつもの機器でデータも取って、積載に乗せて家に帰途につく。
帰りは雅子の要望通り、23時まで営業しているビストロに入って夕飯を食べていた。
今日の試走したあとのデータはすでにクラウドで上げて家で動画や取ったデータの分析をリモートで回していた。
雅子はエクセルデータ落としたらマクロで走行軌跡から速度、ギヤ位置、エンジン回転までわかる分析ソフトを作っていたので、分析中はのんびりと夕飯を食べていた
下見した次の週、僕と雅子はイチゴちゃんと三四郎君で早目に集合場所の駐車場についた。
さきに来ていた隆文に車を見ててもらい一往復して休んでいると、やや遅れて隆弘がうちの積載兼サポートカーを運転してきた。
「雅子、調子はどうよ?」
隆文が声をかける。
「今日は晴れてるからイチゴちゃんでいくけど、路面荒れてるから難しいよね。データ上はそこは捨てて高速コーナ―重視の方がいいのよね。お兄ちゃんはどっちつかずになるのがやばいって」
「なるほどね。雅子、わかったよ。今日も頼んだぜ、ダウンヒルじゃ雅子がチームのトップだからね」
「ま、何とかね、隆文、クライムはヨロね。だめでも三四郎くんがいるし、サニーちゃんもね」
「そうだね。兄貴に走ってもらうのもいいかもな」
そういうと、雅子と僕はイチゴちゃんで足回りのセッティングの最終確認する。
分析ソフトの結果を入れてきたといっても現地での微調整がいる。
「うーん、イチゴちゃん、ちょっと高速お尻振り振りね。荒れてるところはいいけどね。」
「そうか、前の減衰一段上げよう。タイヤは?空気圧あげるか?」
「うん、ちょっと戻ってもう一回ね」
「雅子、高速コーナーの処理で決まるから、駄目なら、前のスタビをあげるしかないね。荒れてるところはちょっとアンダー強くなるけど」
「うん、でもまず、前の減衰あげてみてね。タイヤもう少し削る?」
「ああ、登りでちょっとパワー上げて削ろう。後ろがちょっと慣れてないかも」
減衰を一段あげもう一回走ってくる。
「うーん、まだ高速で踏めないよ。後ろがちょっと行っちゃう」
「OK、スタビあげる。今は28だよね。29にしよう」
フロントのスタビを29に交換して走る、走った結果こっちのほうがいいと雅子はいう、高速の挙動が安定して踏めるとして、フロントのスタビをワンランクあげていくことにした。
僕は念のための三四郎君のセッティングだ。
車高を少し上げて縮みのストロークを稼ぐ設定にしたのが幸いして、どうしてもサスのストロークが取れないイチゴちゃんよりも高速の荒れたところでも乱れがすくない。
前後のサスのストロークの違いで長い方がセッティングやりやすいのだ。
こちらのセッティングが終わってここのルールを確認して開始だった。
やはりここは狭いので後追い方式だ。
他と同様に、10秒ちぎれば勝ちだ。
今回も先にダウンヒルメインで雅子と僕はスタートラインに車を停めていた。
相手はここもNC○ードスターだった。
ロールゲージを組んでいるところとぶおーんとあおると”ぱあん”とミスファイヤリングシステムが作動する音がする、ターボ付きで結構いじってそうだ。
雅子がいつものようにイチゴちゃんのタイヤをざっと自分の目で見確認して乗ろうとしたときに、
「え?こんな美人が相手?勝ったら告っちゃお。おめえ勝てよ」
そう相手チームリーダーらしき奴がいうのが聞こえる。
ぷぷっと雅子が吹き出した。
乗り込んでドアを閉め、ベルトを締めると
「じゃあ、あたしが勝ったらセーラー服とツインテールになってもらお、小柄で似合うかもね。どっちにしても勝っちゃうもんね」
もう完全に雅子はバトルモードに切り替わって、眼の中の炎が見える。
雅子が完全に切り替わっている。
いつものように僕をナビシートにのせてスタートだ。
レーシングして、スタートの合図を待つ。
スターターの両手が下がってスタートだ。
絶妙のホイールスピンとともに立ち上がっていく後追いのイチゴちゃん。
向こうはどうやら、スタートしくじったのか?ホイールスピンして白煙を上げるだけで前に進まず危うく追突するところだった
「んもう、何やってのよ。おっそー、へったー」
「雅子、この前と同じだ、相手のポテンシャル見るぞ、後ろからプレッシャーかけつつ8500以下で走れ、最後の登りはたぶんタイヤ熱ダレしてプッシュアンダー出るから、向き変るまで気をつけろ。ターボラグは向こうは少ないからどうしてもやばいなら9000だ。」
「OK、最後の方ね、お兄ちゃん対向車ヨロね」
1コーナーを2速でクリア、ストレートでタコメーターの針が8500に近づく。
すぐさま3速にシフトアップして相手を追いかける、2コーナーは右だ、ターンイン前で2速におとし、しっかりインを攻めてプレッシャーをかけつつ下る。
次はヘアピンでストレートが短く、2速8500まで上がる前にブレーキング、今度は左コーナーだ。
ここもしっかりインを締めてこの前のバトルを応用してフロントの荷重が抜けないようにサスが伸びる前に舵を入れる。
タイトではイチゴちゃんのほうが得意なのでフロントタイヤを極力労わって走る、タイトを抜けると一回目の高速ステージだ、そこを4速迄シフトアップ、8500以下で走る。
「雅子、次の左ヘアピン抜けたらめいっぱいの9500までいくぞ、前はタイトに合わせてて高速で後ろが流れて踏めてない、せっかくのミスファイヤリングが生きてない。8500のイチゴちゃんで簡単に詰まる。次の高速一つめでアウトに並べば抜ける。立ち上がり加速はイチゴちゃんの勝ちだ。そこで離せばベストタイムラインが使える。3つ目のタイトからは目いっぱい行くぞ」
「OK、アウトから行くのねそれとレブ目いっぱいね」
次のヘアピン立ち上がりで、2速で10000のゼブラゾーンまでめいっぱい引っ張る、あっさりアウトに並ぶ。
相手はブロックしようとしたが、間に合わずその前に立ち上がり重視のラインを取った雅子に並ばれた。
「雅子、次の右コーナーは並んだまま入るぞ、お互い自由度ないからかぶせ気味にして自由を奪え」
「え?OK」
「相手はこのラインで走ってない。自由度奪われて失速する。その次は左だからそのまま行けばこっちが有利だ抜ける」
僕は雅子に指示を出した。
その通り、3速で雅子が踏み込む、一気にリミットの9500を目指すイチゴちゃんのタコメーター。
パワー差でイチゴちゃんが高速で前にでる、相手は必死に追いすがろうとしてきた。
高速を3速でフル加速していると9300位でタイトコーナーがせまる。雅子は3速から2速にシフトダウン、タコが6000付近を指す。
「いいぞ、雅子、対向車なし、目一杯いける。」
「はいよ」
雅子は大外から次のコーナーを立ち上り重視のラインで走る。
一車身前にでて9500迄回す、ぐんぐん加速するイチゴちゃん
あっという間にNC○ードスターは後ろに離れていく。
ここからは次の低速セクションに入るまで高速コースになる。
窓を開けて聞いていると、相手はやはり踏めていない、タイトで勝負して逃げ切ろうと思ったらしい
イチゴちゃんは4速迄シフトアップしてぐんぐん離す。
長めのストレートを3速9500までまわして4速に入れるとタイトコーナーが迫る
「フルにブレーキ踏め、後ろいないからベストラインで行ける」
4速から2速に落とし、そのまま連続する低速セクションを走る。
「雅子、あと5つでゴールだ。タイヤをめいっぱい使え、抜かれることは無い、前にいればこっちの勝ちだ」
「OK」
タイトセクションに入って相手も必死に追いすがろうとする、しかし立ち上がりのパワー差にはいかんともしがないのと、ちょっとしたストレートでは安定しているイチゴちゃんには追い付けず、少しずつ離れていく。
残り一つ手前の左ヘアピンを曲がった先はかなり広い高速コーナ―
4速までシフトアップして2車線目いっぱいつかって後ろを離す、最後のヘアピン前のS字。
後ろのライトが遠くに離れている。
荒れているセクションでは向こうも捨てているらしく、差がつまらない。
「S字は気を付けろ、オーバースピードだとスピンする。」
「OK、ここねー」
雅子はS字きれいなドリフトで全開のまま抜ける。
「あとは最後の左コーナー、早めに減速しろ、跳ねると減速しきれない油断すると刺さる」
「はいよ」
3速全開から2速に落として左コーナーを抜ける雅子。
ぶっちぎりでゴールインだった。
約13秒遅れてNC○ードスターがゴールイン
その場で、雅子の勝利が決まった。
「雅子、抜いてきたんか?やるねえ。お疲れさん。悟瑠、わりい、レガシ○がまた白煙出して走れない。悟瑠走れるか?」
「サニーちゃんはどうした?」
「ああ、相手が4WDのラ○エボなんで2WDじゃあ無理だ」
「そうか、まじか?レガシ○ブロック交換したんだが。」
「ああ、さっきから暖機してばらつくからおかしいと思ってたんだよ。あおったら白煙もくもくだ。クリアランスか?それともブロックが不良品かわかんないけど。わりいが頼む」
「OK」
ヒルクライムメインはまた僕が走ることになった。
シェイクダウンしたばかりの三四郎君を使う。
「お兄ちゃん、勝てるわよ。あたしがついてるから」
「おう」
「作戦はね
そういうと、雅子は作戦を囁くふりしてほっぺにキスする。
「勝利の女神のキスよ。勝ったから」
今度は僕らが先行だった。
二回目のバトル。
二度目でもハンドル握る手に震えが来た。
前回は夢中で何も覚えてない、今回はすこしでも余裕をもって走りたい。
学生の頃のジムカーナ大会、ラリーを思い出す。
手が上がってスタートだ。
相手はエボだがパワーでは三四郎が勝る、しかしタイトなコーナはジムカーナマシンには分がある。
スタートも4WDのせいでなかなか離れない。
やはり今回もバトルでは雅子に指示を出すのだが、そんな余裕は全くない。
コンセントレーションを絶やさない様にして前だけを見て走る。
この前一緒で夢中で走って途中は全く覚えていない。
ゴールした、僕から遅れること12秒、相手がゴール
こちらも勝利だった。
集合した全員でハイタッチして勝利を喜んでいた。
「悟瑠、雅子、二人とも勝っちゃうとは恐れ入ったよ。悟瑠はこのところ走っていないのによく走れたよ」
「隆弘さん、お兄ちゃんだって、走っているのよ。最初のセッティングするのお兄ちゃんよ。微調整は簡単でも最初のは難しいわよ。」
「悟瑠さん、ありがとう。やばいかと思ってた」
「ま、いいってことよ。帰ったらブロック見て見よう、明日お店に来てくれ、入院ってことでバラすから」
僕らはそのままペンションにお泊りしていた。
次の朝目覚めるとお風呂にはいってそれぞれの仕事にいく。
昼すぎ頃、隆文がレガシ〇でお店にきた。
相変わらず、白煙を吐いている。
「悟瑠さん、お願いします」
「おう、代車はワリイがロックンで」
「え?良いんですか?」
「おう、パワーに脚が負けてるから雨に気を付けろ。重いから滑ったら止まんないからね」
「はい」
「400psは出てるからね」
「えええええ?」
「ブースト2.5だからさ」
「はい、気を付けます」
隆文の車をばらす、予想通り左側のブロックのシリンダー間に亀裂が入っていた。
多分不良品だったのだろう、無理をかけているとはいえ3カ月で亀裂が入るとは考えられない。
新品を買ったのにと思っていた。
部品を発注して、家に帰る。
家に帰ると雅子がニコニコしながら待っていた。
「お兄ちゃん、パパとママにそろそろおうちの仕事について良いって聞いたんだ。そしたらいいよだって」
「え?スーパーは?」
「うん、辞めちゃうの。って言うかお爺ちゃんがもう引退するってそれなんでその代わりかしらね。お爺ちゃんって手先が器用で製材所やっていた時から板金道具作ってたじゃん」
「そうか、それならいいかもね。通勤も楽になりそうじゃん」
「うん、一月後かな?会社にはもう辞めるって言ってある。慰留されたけど引き継いで辞めちゃうから。ママだけじゃあ事務が回んないよ。このところお爺ちゃん事務もやってたんだもん」
「うん、わかったよ。家族経営だな」
「お兄ちゃんは副社長さんだよね。整備部門のボスで」
「そうだけどね。お爺ちゃん引退か」
「仕方ないじゃん。もう80歳だよ」
雅子はこうと決めたら振り返らない、その性格で今度は家の仕事に就くという。
実家の経理は安泰かもしれない。
この二人実はドライバーとしても優秀です
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。