第八話 バトルの季節になって
冬が過ぎてバトルの季節
雅子は何処に?
「お兄ちゃん、聞いた? 隆弘さんまた相手見つけたって。よく見つけるよね」
雅子は会社の制服を脱ぐと、リラックス用のスウェットに着替えてリビングに降りてきてテーブルに着く。
時が流れ4月になって年度が変わり、僕らは社会人4年目に突入したところだ。
僕が準備していたご飯を二人で食べていると、妹の雅子が言ってきた。
「今年初めてのバトルだって。場所は○方ヶ原って言ってた」
「ああ、隆弘から聞いたよ。冬の間は峠が凍ったりしてやばいからね。今年は暖冬って言っても、やっと雪が無くなったらしいから」
「あはは、そうね。やっとバトルの季節ね。冬の間はななちゃんとかロックンで練習したもんね。重いからいったん滑り出したら大変な4WDで練習面白かったけど、先読みしないとやばいからいい勉強だったわ」
「うん、雅子はよく通っていたよ。よく練習したもんね」
「そうだ、ロックンで気になったんだけど、エンジンってディーゼルだよね。レッドゾーンの4600まできれいに回るんだけど、お兄ちゃん何かしたでしょ」
「うん、タービンは2サイズアップしたから高回転は強くなったし、ヘッドも吸気側ポートを削って整えたのと、大変だったけどカムを初期のNAカムにした。シリンダーはダミーヘッドでクランクボーリングして設計値に近づけたよ。1ミリボアアップ仕様にしてある。もっと言うと直噴のオーバーサイズピストン使って、ヘッドもアルゴン溶接で改造して燃料は直噴化してある。4トントラックのコモンレールを入れてる」
「道理で。まさか350psくらい出てるの?」
「あはは、そうだよ。4.2の排気量あるから、それを使って380psだったかな? インマニはガソリン用使ってアダプターで形状合わせしてあるよ。ミッションはトラック用の6速だからギヤ比がワイドなんで峠には向かないけど、元々の用途が峠のバトルじゃないからね。FDは3.9」
「ふーん、もうお兄ちゃんはいつの間にロックンをそんなマシンに仕上げてるし、何に使うの? 速すぎでしょ」
「あのなー、それは高速道路でも後ろにトレーラー付けてお客さんの車積んでも楽に走れるようにって作ったからさ。トルク無いと大変なんだよ」
「これだもんなー。いくら4WDって言っても登りで速すぎって思ってたわよ。それに2WDだとドライでも3速でパワースライドかかるんだもん。どんだけーって感じで」
「脚はほとんど弄ってないからね。まあ、ちょっとバネレート上げてショック固めて、そうそうフロントフレームのアームの付け根はねじりタイプなんだけど、上下に振りやすくするようにブラケット付けてあるから脚はよく動くようになったよ。後ろはアッパーアームとパナールやめてAアームにして、ロアは延長したから元々よく動くんだけど、さらに動くようにしてる」
「そうなのね。ボディは?」
「うん、ボディっていうか、その車フレーム付いてるからフレームをがっちり強化したんだ。ラダー構造なんでねじれやすいところ見て、そこに補強板当ててあるし、横梁追加した。ちょっと強化しすぎたけどいいかな? フレームのねじれを使うオフロード性能を少し落として、ターマック性能を上げておいたんだよ。ほとんど僕の通勤と冬にお客さん救援に行くときとかも楽したいから作ったんだよね」
「お兄ちゃんさすがね。ななちゃんは弄ってるの?」
「うん、タービンサイズアップとDPIを追加してる。そうそう、2台ともLPG混焼も付けてるから車内にLPGタンク付けてるよ。ななちゃんは元から電子制御噴射ポンプなんで、あんまり弄ってないっていうか、もともと弄る余地ないんだよね。ロックンのエンジンはもともと産業機械や船舶用としても使えるように設計されてるけど、ななちゃんのは乗用車用でヘッドが弱くってあんまりパワーアップできなくって、せいぜい200psだよ」
「そうなんだ」
「ガソリンと違って燃料をいかにうまく燃やすかなんだよ。他には冷却系が大変なんだよね。ロックンはラジエターは何とか4トン用を入れたし、インタークーラーも置き場がなくって結構大変だった。ななちゃんは4.2ターボのを入れている。2台ともオイルクーラーも入れてるよ」
「もう、それでお兄ちゃん去年はサンゴちゃんで通ってたのね。結構早く帰ってる時もあったよね」
「まあね、会社の時間空いたときにエンジンばらして加工に出したりしたからね。予備のエンジンも準備したし」
「ま、いいか。お兄ちゃん、明日は〇方ヶ原下見行こうね」
そう言うと、僕らはご飯を食べてお風呂に入って次の日の勤務の準備をしていた。
次の日、帰宅すると雅子は会社の制服から峠に行く時のジーンズとデニムシャツの上に皮のジャケット。
僕は車の下にもぐるかもしれないので、峠用のつなぎに着替えていた。
工具を積んだサポートカーのロックンのエンジンを始動していた。
今日の相棒はバトル車のイチゴちゃんだ。
去年エンジンを換装してイチゴちゃんも進化した。
ベースはKA24で、特注の86mmフルカウンタークランクと89.5mmのピストンを使っている。
排気量は2,16L仕様で、ヘッドにはオリジナルだがアメリカで見つけたカムを組んでいて9500rpmをレブリミットにしている。
いざとなったら10000rpmまで回せる仕様だ。
オイルポンプ焼き付き対策でドライサンプにしているのもこのエンジンの特徴だ。
最高出力は300kwで抑えて、中速から高速まで使いやすい特性にした。
加えてミッションは専用の6速クロスを組んでファイナルを3.9まで落としてある。
そうすることで各ギヤのつながりが良くなっていて、走りやすいと雅子がいう。
もう一つはブレーキだ。
○33GTRのブレーキを移植したので、イチゴちゃんの車重とパワーならホームコースでは頂上から下までガンガン踏んでも全く効きに変化が出ない。
それにボディもいったんどんがらまでばらして、弱いと言われているセンターフロアとリアフロアのつなぎをしっかりさせたのだ。
そのおかげで、某ショップ試作のリジカラメンバーを組んでもボディが受け止められるので、その良さがよくわかるのだ。
冷却に関しては空冷式オイルクーラーも組んでいて、純正のインタークーラーの場所に組んであるので、オイルクーラーがあるとはパッと見では全く分からない。
しかし室内を覗くと只者でないことがよくわかる。
冷却関係の各メーターがダッシュボードに並んでいる。
雅子はイチゴちゃんに乗って、僕はロックンに乗ってアジトとしている祖父母が住んでいた家を出る。
約2年半前、祖父母は病院に通うのに不便ということで、市内にある僕らの実家に入った。
それと入れ替わりで雅子と僕が祖父母の家に住んでいる。
バトルする峠について、ロックンを駐車場にとめて、イチゴちゃんのナビシートに乗る。
既に隆弘たちも来ていたのでロックンを見るようお願いする。
「お兄ちゃん、改めて乗るとこのエンジンもすごいよね。4500rpm回っていれば“何これ?”って言うくらいのレスポンスよね」
「うん、そうだね。今はエンジンはいいけど、タイヤが普段使い用の省燃費タイヤだからさ、気を付けないと」
「そうなんだ。今日は下見だもんね。凍ってないか見ないとね」
「うん、そう。最初は今日は雅子の50%くらいで走ってみようか? データは後でロックンで取るよ」
「うん、そうね」
「あ、そうだ。あとで僕もハンドル握るよ、いいかな? セッティング見たいから」
「うん。お兄ちゃんセッティング名手だからね」
そう言って雅子が走り始めた。
走らせてみると、ここも動画を見て思ったより道が狭い。
イチゴちゃんでも並んで抜くことは不可能に近い。
後追い方式でちぎるしかなさそうだ。
「雅子、今日は念のため凍結に気を付けないとやばいぞ。ロックンの外気温系が2度だった。水の流れた跡とか見えたら減速だよ」
「うん、わかった。普段のつもりで行くと刺さるってことね」
「そうだよ。まあ、ロックンで冬の練習してたと思って乗ってくれ」
「はーい、50%くらいかしら」
「そうだね、久しぶりだからイチゴちゃんの挙動を思い出さないとね」
「はーい。うわ、なにこれ? この省燃費タイヤってこんなに食いつかないの? 気を付けないとやばいね」
「寒いと全然食わないって」
「りょ」
雅子は50%と言って峠を走っていく。
そうは言っているが、その走りはウルトラスムーズだ。
隣に乗っていると、峠ということを忘れてついつい寝てしまうくらいなのだ。
初めて走るコースとはいえ、動画で予習しただけなのにあっという間にコースに慣れるセンスは見事というほかない。
それはホームコースでの練習も怠らないのもあるだろうし、自分で課題を見つけてはそこを進化させる練習をする。
この前、イチゴちゃんのエンジン換装してすぐにバトった時も、あっという間に完璧に乗りこなして勝ってしまうくらいの腕だ。
しかも、頭に前より30キロも重いエンジンを積んでSR時代よりもフロントヘビーになっていても、きれいに曲げていってタイヤも労わって走れる。
妹の 佐野 雅子 は、普段はターボチューンされたエッちゃん《DBAーL235S》からサザン君に乗り換えて会社に行っている入社4年目、4月生まれの22歳。
高卒で入ったスーパーの本社で経理をしている。
妹は地元の商業高校を断トツ1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシックなら任せての技能を持っていたので、地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入った。
高卒ながら3年目の今は大卒と同じくらいの給料をもらっている。
あろうことか雅子は、自力で各店舗から集まる情報処理・集計システムを組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも妹が作ったソフトのほうが勤めている会社の事情に合っているのと、パソコンなら大体標準で入っている○クセルを使うので、導入費とシステムのメンテナンス費用が浮いた。
万一おかしなことが起きても、雅子がすぐに直せる。
その褒美もあって、雅子は高卒では異例の速さで主任に昇格してしまったのだった。
さらに集計の自動化を進めた結果、仕入れと売上関連の報告がほとんど一目でわかるようになって社長も大喜び。
その成果が認められ、高卒3年目の途中で主任に昇格し、部下を持ってその指導もするようになったという。
7月からは今年入ってきた大卒を部下に持って指導しているのだから驚く。
その雅子が行くと言っているのは峠だ。
雅子は高校3年で免許を取ると同時に峠を走り始めて既に3年がたっている。
あっという間に上手くなって、その地域でトップクラスの速さになっていた。
得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入って全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中では雅子しかいない。
ダウンヒルなら雅子が一番だ。
僕、 佐野 悟瑠 は雅子より4学年上の3月生まれの25歳。
大学を卒業してすぐに家業の中古車屋に就職して3年目。大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は実家の中古屋の整備工場で働いていて、中古車の納車前整備やトラブルが起きた車の修理をしていて、時には中古車査定もする。
大学のころから家業の手伝い=アルバイトしていて、MIG溶接機やレーザー溶接機、フレーム修正機もバッチリ使えるようになったし、板金もだいぶできるようになった。
加えて○ントリペアも勉強して資格も取った。
僕は中古車で人気がないが程度のいいFRを見つけては整備して雅子の走り仲間へ売っている。
必要ならエンジンとミッションの載せ替えもやるのだ。
改造車検も取って合法的に乗れる仕様にして販売している。
今、僕と雅子は僕の同級生がリーダーを務める走り屋チームにいる。
僕はそのチームの整備係になっている。
「お兄ちゃん、これ乗ってて気が付いたんだけど、イチゴちゃんって前のエンジンよりパワー上げたでしょ? どのくらい上げたの? イメージ20から30%くらい上げた?」
「うん、そうだよ。排気量分とレブリミット分で約25%。いい感性してるよ、ほぼ合うんだからね」
「そうなのね。ねえ、そうだ、このエンジンどのくらい出てるの? なんかさ、街乗りだと3000rpm回っていれば十分速いんだけど」
「うん、そうだね。いくつだっけなー? 400ps仕様かな? 前のエンジンが350psだからね」
雅子は少しエンジンの回転を上げた。
ブースト計が1.0を示した。
あっという間に7000rpmを超える。
「わ、久しぶりに本気で回すとやばいかも。って、ここって上りもあるの? さっきから登ってるんだけど」
「雅子、ここはね、サミットはこっちから行ったほうが近いけど、サミット越えたら結構標高下がるんだよ。それなんで、車どれにしようか迷ってる」
「どれにするって?」
「うん、イチゴちゃんか、ブーストアップして460psにするか、サンゴちゃんか。あ、大R気をつけろ」
「うーん、そうなのね。え? 大R? おりゃー!」
そう言うと大Rコーナーをカウンター当てたままのきれいなドリフトで抜けていく。
タイヤが省燃費タイヤなので車速が低く、滑り出しも穏やかなので悠々とコントロールしている。
見ていたギャラリーから歓声が上がっていた。
「さすがね。登りメインはイチゴちゃんつらいかもね。そうなるとサンゴちゃん? それともサザン君?」
「そこなんだよね。かといって隆文のレガシ〇じゃ連続下り区間はきついし」
「そうね、下りならこのくらいのパワーがいいんだけど、上りよね」
「うん、作戦考えないとダメかもね。隆弘と相談だな」
「そうね、わかったわ。ここって高速と低速が入り乱れているし、路面も荒れ方ひどいじゃん」
「そう、セッティングをどうするかだよね。一回ハンドル握って決めるよ」
「うん。お兄ちゃん、作戦考えようね。セッティングよろしく」
そう言うと、雅子と僕は運転を交代して隆弘の待つ駐車場に戻った。
そこでは隆弘たちが話していた。
「雅子、どうよ。ここは上りも下りもあるから難しいだろ。それに高速と低速入り混じって」
「うん、そうなの。高速ステージはパワー勝負ってことだけど、タイトの連続を考えるとむずいよね。パワーよりもレスポンスでしょ」
「悟瑠、どうする? いい案あるか?」
「そこだよね。向かう方は登りはそんなにきつくないからイチゴちゃんでもいけそうだけど、反対の登りはね。といってもパワー一辺倒じゃタイトできつい。ミッションのギヤ比が勝負だよ」
「おー、やっぱりだよな。何とかしないと。レガシ○じゃあきついか?」
「ああ。ちょっと悪い、データ取ってくるよ。データ見て隆文の車どうするか決めよう。高速をどうするかだよ。低速ならNAがいいよ」
「頼んだぜ」
「まあ、お楽しみってことで。イチゴちゃん見ててくれ」
「任せたよ」
その後は僕がロックンでコースを運転してデータを取っていた。
上りと下りが混じっていて、それがキーになるのと、下りの高速部分の終わりのところで路面の荒れがひどく、セッティングが難しそうだ。
いつもの機器でデータも取って、隆弘に分析すると連絡し、イチゴちゃんと帰途に就く。
帰りは雅子の要望通り、美味しいお蕎麦が食べられるお店に入る。
今日試走したあとのデータはすでにクラウドに上げてあり、家で動画や取ったデータの分析をリモートで回していた。
雅子はエクセルデータを落としたらマクロで走行軌跡から速度、ギヤ位置、エンジン回転までわかる分析ソフトを作っていたので、分析中はコンピューターに任せて僕らはご飯を食べて帰路についていた。
次の週、僕と雅子はイチゴちゃんとサンゴちゃんで早めに集合場所の駐車場に着いた。
一緒に来ていた隆弘に車を見ててもらい一往復して休んでいると、やや遅れて |隆文 が来た。
「雅子、調子はどうよ?」
隆文 が声をかける。
「今日はイチゴちゃんでいくけど、路面荒れてるから難しいよね。サスのストローク稼ぐ設定にしてきたよ」
「仕方ないね。雅子、今日も頼んだぜ。ダウンヒルじゃ雅子がチームのトップだからね」
「ま、何とかね。隆文、ヒルクライムはヨロね。ヒルクライムのエースじゃん」
「任せろよ」
そう言うと、雅子と僕はイチゴちゃんとサンゴちゃんで足回りのセッティングを再開する。
分析ソフトの結果を入れてきたといっても、現地での調整がいる。
「うーん、イチゴちゃん、ちょっと高速でお尻振り振りね。荒れてるところできついよ。バネ落としてストローク稼ぐようにしても」
「そうか、後ろのバンパーラバーショートにするかな? 路面荒れてるところがキーだからね。減衰落とすか?」
「うん、ちょっと戻って後ろのバンパーラバー入れ替えてもう一回行ってみよ。予備あったよね」
「雅子、右コーナーの処理で決まるから、ダメなら前のスタビを上げるしかないね」
「うん、でもまず後ろのバンパーラバーショートね」
もう一回走ってくる。
バンパーラバーショートのほうがいいと雅子は言う。挙動が安定して踏めるとして、Frのスタビはこのままでいくことにした。
僕もサンゴ君のセッティングだ。
車高を少し上げて縮みのストロークを稼ぐ設定にしたのと、元々ストロークが長いのが幸いして、高速の荒れたところでもイチゴちゃんほど乱れない。
こちらのセッティングが終わって、ここのルールを確認して開始だった。
ここは狭いので後追い方式だ。
やはり10秒ちぎれば勝ちだ。
今回も先にダウンヒルメインで雅子と僕はスタートラインに車を停めている。
相手はNC○ードスターだった。
ロールゲージを組んでいるところと、あおると“パシューン”とブローオフの音がする。ターボの後付けで結構いじっていそうだ。
雅子がイチゴちゃんのタイヤをざっと自分の目で確認して乗ろうとしたときに、
「おめえ、ビジターが美人女子だからってナンパしようとか考えんなよ。負けたらセーラー服着て次回のバトルな」
そう相手チームリーダーらしき奴が言うのが聞こえる。
ぷぷっと雅子が吹き出した。
乗り込んでドアを閉め、ベルトを締めると、
「じゃあ、あたしどうなるか見ちゃお。勝っちゃうもんね。セーラー服でバトルっていいかも。でも道路からはみ出していくのかしら」
雅子はリラックスしながらもバトルモードに切り替わって、眼の中の炎が見える。
走り仲間も“こりゃいけるぜ”という顔をしている。乗ってしまった雅子は手が付けられない。
僕をナビシートに乗せてスタートだ。
レーシングして、スタートの合図を待つ。
スターターの両手が下がってスタートだ。
絶妙のホイールスピンとともに立ち上がっていく先行のイチゴちゃん。
向こうはどうやらスタートしくじったのか? ダッシュで既に1車身離れている。
「雅子、この前と同じだ。相手のポテンシャル見るぞ。8500rpm以下でまずは走れ。登りはプッシュアンダー出るから、向き変わるまで気をつけろ」
「OK、対向車ヨロね」
1コーナーを2速でクリア。ストレートでタコメーターの針が8500rpmに近づく。
3速に叩き込んでさらに全開。2コーナーは右だ。ターンイン前で2速に落とし、しっかりインを締めて下る。
次はすぐ来るが、2速8500rpmまで上がる前にブレーキング。今度は左コーナーだ。
ここもしっかりインを締めて、この前の秋のバトルを応用してフロントの荷重が抜けないうちに舵を入れる。
タイトではイチゴちゃんのほうが得意なので、フロントタイヤを極力労わって走る。
タイトを抜けるとサミット前一回目の高速ステージだ。
「雅子、ここからは9500rpmまでいくぞ。今は後ろが離れかけている。逃げ切るぞ。多分相手はタイヤを今は温存してる。後半の高速に備えているんだ。後ろが離れた今はベストタイムラインが使えるから9500rpmまで目いっぱい行くぞ。パワーならこっちの勝ちだ」
「OK、ベストタイムラインね、とレブ目いっぱいね」
最初の高速ステージで、レブリミットの9500rpmまでめいっぱい引っ張りシフトチェンジ。
相手の作戦を読んだ僕は裏をかくため、雅子に目いっぱい回して走らせる。
「雅子、次のタイトは1速で行け。2速では登りで失速する」
「え? OK」
「相手は1速は低すぎてここは合わないはずだ。2速だからそこで差がつく」
僕は雅子に指示を出した。
その通り、3速で雅子が踏み込む。
一気にリミットの9500rpmを目指すイチゴちゃんのタコメーター。
間隔がさらに開く。相手は必死に追いすがろうとしてきた。
3速でフル加速していると9300rpmあたりでタイトコーナーが迫る。
雅子は3速から一気に1速までシフトダウン。タコが6000rpm付近を指す。
「いいぞ、雅子。対向車なし。目一杯2車線使え。10000rpmまで回せ」
「はいよ」
コーナーを立ち上がって10000rpmまで回して2速へシフトアップ。
ぐんぐん加速するイチゴちゃん。
あっという間にNC○ードスターは15車身以上離れたようだ。
窓を開けて聞いていると、相手はやはり2速で立ち上がったのか?
エンジンの特性の違いなのか、一瞬タービンの音が途絶える。
短めのストレートを2速9500rpmまで回して左ヘアピン。
2速そのまま6000rpmまで落として右の広めのヘアピンをクリアするとサミットだ。
下りに入って初めの右コーナーを曲がった先は、かなりタイトな左ヘアピン。
2速のまま5000まで落としてクリア。次の右は目いっぱい車線を使ってクリア。
タイトを抜け、やや大きめのヘアピンを3つクリアして最後の高速ステージだ。
後ろのライトが遠くになっている。
バンパーラバーショートの効果か? 路面の荒れで挙動が乱れることはなくなっていた。
「右大Rは気を付けろ。オーバースピードだと刺さるぞ」
「OK、ここねー」
雅子は大Rをきれいなドリフトで全開のまま抜ける。
「あとは右コーナー、早めに減速しろ。跳ねると減速しきれない。油断すると刺さる」
「はいよ」
3速全開から2速に落として右コーナーを抜ける雅子。
ぶっちぎりでゴールインだった。
約15秒遅れてNC○ードスターがゴールイン。
その場で雅子の勝利が決まった。
「雅子、お疲れさん。悟瑠、悪い。隆文のレガシ〇がマフラーから白煙吐いてて走れない。悟瑠、走れるか?」
「車はサンゴかイチゴちゃんだぞ。サンゴちゃんかな?」
「ああ、相手は90○ェイサーだ」
「まじか?」
「ああ、頼む」
ヒルクライムメインは僕が走ることになった。
サンゴちゃんを使う。
「お兄ちゃん、頑張れー」
「おう」
そう言うと、雅子は作戦を囁くふりしてほっぺにキスする。
「勝利の女神のキスよ。勝ったから」
今度も僕らが先行だった。
久しぶりの峠、しかもバトル。
緊張でハンドル握る手に震えが来た。
久しぶりの緊張が懐かしかった。
学生の頃のジムカーナ大会、ラリーを思い出す。
手が上がってスタートだ。
相手はパワーではサンゴちゃんより勝っていそうだ。
スタートもうまく離れない。
普段は雅子に指示を出すのだが、そんな余裕は全くない。
コンセントレーションを絶やさないようにして前だけを見て走る。
夢中で途中は全く覚えていない。
ゴールした。相手は僕から遅れること15秒、ゴールに入ってきた。
こちらも勝利だった。
集合した全員でハイタッチして勝利を喜んでいた。
「悟瑠、雅子、二人ともぶっちぎりとは恐れ入ったよ。悟瑠は全く走っていないのによく走れたよ」
「隆弘さん、お兄ちゃんだって走ってはいるのよ。セッティングするのって難しいのよ。限界まで見るからね」
「悟瑠さん、すみません、僕が車壊しちゃって」
「ま、いいってことよ。明日うちに持ってきな。見てみるよ」
僕らは帰宅する。
久しぶりの全力走行で疲れ切った僕は、お風呂で汗を流すと爆睡だった。
雅子も爆睡だったという。
次の日はイチゴちゃんとサンゴちゃんを次のバトルに備えてメンテしていたのだった。
隆文のレガシ〇がマフラーから白煙を吐きながら来た。
エンジンのオーバーホールが必要だろう。
今度こそはクラックチェック忘れないと思っていたのだった。
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。




