第五十話 百合ちゃんと愛理沙ちゃんのTSカーデビューとレストアが増えて
愛理沙ちゃんと百合ちゃんのTSカーデビューはどうかな?
大型旧車の整備依頼が増える佐野自動車
主な登場人物
佐野 雅子 ヒロイン 24歳 4月生まれ
峠のバトラー⇒TSカップレーサー、5勝目にトライ中。
家業の佐野自動車販売の中古車販売店兼整備工場の経理、整備の段取り担当の副社長
前職はスーパーで経理兼販売促進
所有免許;大型2種、牽引運転免許。2級整備士免許
レース以外の趣味:
オフロード走行。大型の2軸総輪駆動のエンジン、サスペンションをいじって自分好みした。
パソコン:プログラム組むのも好きでシステムを自力で組める
所有車:大型バス2台、大型総輪駆動、イチゴちゃん。
僕;佐野 悟瑠 雅子の兄 27歳、3月生まれ 妹の雅子より4学年上
家業の佐野自動車販売に就職して6年目、整備工場の工場長兼副社長。
所有資格 2級整備士、MIG溶接機、レーザー溶接機、ガス溶接、玉掛。免許は大型、けん引免許
カーキチ、スペックオタク 所有車:バス9台+大型総輪駆動、サンゴちゃん、三四郎君
加藤 隆弘 悟瑠の親友。家業の内燃機整備工場に就職、佐野自動車販売に事業譲渡でそのまま異動
悟瑠の幼馴染、専門学校卒業後家業に就職 大型総輪駆動、CBA-GVB。
加藤 隆文 隆弘の弟。雅子より一学年上だが、3月生まれで実はほとんど同い年。工業高校から家業へ
所有車 大型総輪駆動。ロックン
松尾 百合 雅子の親友、丸松建設のお嬢さん。雅子と同じ高校卒業して同じスーパーへ。兄は譲さん
小笠原 愛理沙 雅子の一つ後輩。小笠原食肉のお嬢さん。元レディス総長。2児のママ 兄は哲史さん
ミーティングをたっぷり楽しんだ後、僕は船底でボンネットダンプを運んで丸松建設の届けるとまっすぐアジトに帰って来た。
次の日、会社に行くと
「予想通りね。再生の依頼来ちゃった」
「車は何かな?」
「デコトラの復活だって。エンジンの再生とフレームの修理も」
「おおお、親父はよっぽど営業したなあ」
「そうね。復活ならいいんじゃない?登録ナンバーないから何でもありでしょ」
「そうだな。そうだ。来週はTSカー試走だな。土日でだったな」
「うん、再来週レースあるからね。愛理沙と百合リンがレースデビューできるように」
「はいよ」
僕の車いじりは続くのだった。
次の日、会社に行くと親父が
「悟瑠、雅子。車の引き取り頼む。例の2台だ。俺のアサイー君で3人で行って2台引き取ってくる。」
「親父、車種は何だよ?補修部品の準備があるよ」
「P-FS668BAとP-CW66VEだ。どっちもフレーム見て欲しいのとエンジンのオーバーホールもだと。上物を更新するんで土台がしっかりしてるか見て欲しいらしい」
「そうか、F17CとRE10か。パワー重視のトラックだなあ」
「だと思う、P-FS668BAはマニ割のやり直し頼まれた。マフラーの煙突の作り直しも。P-CW66VEはパワーアップしたいとか。サージタンクをつけてくれってさ、2軸トラクターみたいな。2台とも左右煙突で。この前のミーティングにマニ割りしたV10ダンプ《U-CW61ANVD》がきてただろ。乗せてもらってパワー有っていいって思ったんだとさ」
「わかった。手っ取り早いのはRF10にすればいいんだよな。また142をやるか」
「お兄ちゃん、またエンジンをいじるんでしょ。ボアアップ?」
「もちろんだ。通称RF改の142だな。ブロックを攫って設計値に合わせて削りなおす。凡そ2mmの削りしろあるからボアピッチや倒れをそろえるには十分だ」
「それって、エンジンとミッション載せ替えたお客さんのお父さんのV10ダンプでやったよね」
「おう、それが手取り早いよ。駆動系はトルクと出力のでかい新型用に載せ替えて、マフラーは隆文に頼んで煙突にする。エギマニは親父、頼むよ。僕はサージタンクを作る。エンジン載せ替えの親父さんのV10ダンプは希望でマニ割だけどね」
「悟瑠、エンジンは任せた。P-FS668BAのマニ割とP-CW66VEの特長エギマニは俺がステンで作る。それに合わせて煙突左右は隆文に依頼するよ」
「親父、それで行こう。」
午後一番に親父と僕、雅子の3人で件のトラックを引き取って来た
2台共にまさに昭和のデコトラでエンジンをかけるとマニ割の効果なのだろうバッバッバッという叩きの音とともにひゅひゅひゅという鳴きの効いたアイドル音を奏でる。
しかも、両方とも煙突マフラーになっていて相当黒煙を吐くのだろう、マフラ周りの架装物の前面がかなり煤けている
引き取りの時は僕がP-CW66VEに乗って、雅子がP-FS668BAを乗って帰って来た
工場に帰ってくると。
「うーん。P-FS668BAはちょっとパワー無いのか?ちょっとした登り坂で真っ黒い煙を吐きあげてるなあ。それに比べたらP-CW66VEの走りには余裕ありそうだけど。結構架装のところが煤けているなあ。使われ方がわかるなあ」
後を走っていた親父がP-FS668BAから吐きあげる大量の黒煙をみていたのだろう
「おやじそうか?僕も後ろにいてびっくりしたよ」
「うん。パパとお兄ちゃんの言うこと合ってるよ。燃料増量されてるのか知らないけど、パワーはこのメーカーにしてはそこそこあるんだけどミラーで見えるくらい煙吐いてるよ」
「P-FS668BAは煙突マフラーだから煙が上に行くからまだいいかもしれないけど、サイド出しなら隣の車が迷惑かもなあ」
2台のトラックを工場にいれると隆弘を呼んだ
「おおーい。隆弘。来てくれ」
「悟瑠。今度はこのトラックのレストアか?」
「ああ、P-FS668BAは念のためエンジンオーバーホールとマニ割のやり直しと煙突作り直しだ。マニ割のエギマニは親父に頼んだよ。それからP-CW66VEはエンジンオーバーホールって言うかRF10改の142にする。2台とも、あの3人にはフレームを見てもらいたい。錆が酷いなら作り直しってことで」
「ほかの3人にはリースの整備と、お客さんの法定点検と車検があったよね。お願いしよう」
「OK。先ずはその段取りで行こう」
僕は在庫のRF10エンジンを引っ張り出して前回V10ダンプで使ったダミークランクとダミーヘッドを使って設計値に近づけるよう隆文に加工を頼んでいた。
「悟瑠、このエンジンさあ、オイルシール全部だめじゃん。ヘッドもクランクもミッションのところも漏れてるよ」
キャブをチルトさせて点検していた隆弘が言う。
[これはたしかF17Cだろ、念の為、カムも見てくれよ。結構減ってるかも」
「おう、ライナーから全部見る」
「洗浄してだな」
「そうだな」
次の日、僕らがエンジンを降ろして新人君をアシスタントとしてF17Cの分解していると隆弘が言う。
「悟瑠。このエンジンってさあ、かなりくたびれてるなあ。見ろよライナー触ってわかるくらい減ってるぜ」
「そうだな。うーん。それにこの時代のエンジンはメインベアリングの支持剛性も低いよな。メインベアリングを繋ぐような板をブロックの下に挟もう。ベアリングビーム代わりにすればいいぞ」
「よし。それもいいな。静かになればいいな」
「隆弘。ターボにしないならこれでいいだろ」
「悟瑠、RF10改はどうする?」
「もう、隆文にやってもらってるよ。ボアピッチとシリンダーの倒れをそろえて。もちろんダミークランクで歪ませてからな。これも鉄板を加工してビームにするよ」
「ってことは、隆文の加工済んだら組めばいいのか?」
「そう言うことだ。このF17Cエンジンは全部再利用だろ。そこが大変だよ。RF10はまだまだ削って修正する余地あったからさ」
「悟瑠。そうだな。レーザー変位計で位置合わせしてか。RF10は相当精度が高いなあ」
「隆弘、もちろんそうだけど、このF17Cはやりたくてもブロックを削る余地ないから無理だけどな」
「仕方あるまい。このエンジンはとにかくゴム部品全交換とプレーンベアリング、下手したらピストン全交換かな?」
「そうだな。噴射ポンプとノズルもやんないとだめだろ。」
「オイルポンプもチェックもだな」
僕と隆弘の2人でF17Cのエンジンをばらして洗浄、燃料ポンプもオイルポンプもすべてばらして整備していた。
「うん、隆弘。ここまで洗浄やればいいだろ。ポンプのリターンスプリングが異様に高圧になっていたな」
「ああ、悟瑠、このポンプF20CのU-用になってるなあ。ポンプで高圧噴射にしたかったんじゃないか?いや、燃料増量だな」
「そう言うことか。380ps仕様のポンプを組んでるから黒煙吐くんだな。増量されていてノズルがそのままじゃあ圧力上がってないからなあ」
「多分、ノズルも交換するかノズルの圧力調整バネ交換しないと噴射圧力変わらないのにそのままだよ」
「だろうなあ、ポンプだけ交換して増量したって感じだよなあ」
「悟瑠さん、ノズルがそのままだとどんなこと起きるんですか?」
「噴射圧が変わんないから単純に黒煙増えるだけ。霧化が変わらないから思ったよりもパワーアップしないんだよ。細かくしないとうまく燃えないんだ」
「なるほどね」
「隆文、もっと悪いことに燃料の濃いところは燃焼温度上がっちゃうからピストンに負担がかかる。煤が増えるから下手すると煤で排気系が詰まる」
「悟瑠さんわかってる」
「ほら、悟瑠はターボにして空気過剰率上げるだろ。そうすっと燃焼温度は下がるし、空気がたくさんあるから燃えやすいしいいことづくめ」
「ってことはこのエンジンは噴射圧をあげてですか?」
「まあ、そうだな。F17E用のノズルバネにするかだな。KC規制のF17Eは高圧で吹いてたみたいだし」
「そうですね」
「まあ、親父のマニ割が上手くいけばちょっとはパワーアップするさ。カタログ値出ればいいだろ」
「悟瑠、このF17Cは噴射量少し絞って高圧化で乗り切るんだな」
「もちろん、こんなに黒煙吐くんじゃあ架装のところを飾っても直ぐに煤けて大変だろ。磨くのも大変だろ」
「そうだよなあ」
「交換するのはライナーとピストンとゴム類、バルブ、ベアリング、スリッパとバルブシートか。幸いカムはOKだな」
「両方ともクランクとかコンロッドの重量はきちんと合わせてやろう」
「OK」
そう言っていると、3人組のリーダー格の鈴木さんが来て
「副社長、P-FS668BAのフレームに亀裂があってできれば修理したほうがいいんですよ」
「やっぱり亀裂あったかあ」
「リーフのと言うかトラニオンの負荷がでかい様で結構サスのマウントの近くとか亀裂入ってます。過積で走ってたみたいですね」
「その頃はそうですね。2倍積んでと言うのがいつものことでしたね。ところで画像はありますか?」
「はい、これがスーパーチェックの結果です」
「おお、フレームのここかあ。交換がいいよねえ。うちで作れるかな?」
「あの自動ボンデ板馴らし機は厚さ8mmいけますか?フレームが6.5mmなんで叩いてつくるのにいいんです」
「13ミリまでOK。お爺ちゃんが作ったんだけど、プロパンガスつなぐとバーナーで熱も入れれるはずです」
「ええ?そうなんですか?」
「昔、丸太を運ぶトレーラーのフレームがいったらフレームを鉄板から作って交換してたんで、それに斧とかナタの手入れって言いうか手作りで鉄板からナタを作ってましたよ。その作業用に作ったんです。今はボンデ慣らしになってるけどね」
「鍛造鉄板も作れるんですね」
「もちろん」
「やりますよ。使いますね。おーい、手伝ってくれ。ガスをつなぐぞ。熱処理して強度を出そう」
「はいよ」
3人で機器の点検をやってバーナーの具合を見て
「よし、これならいける」
「幅は0.8メートルだな」
「それだな。よしやろう。焼きを入れて叩いて鉄板の強度あげてだな」
「ここに水道つなぐと水出ますから。ここのオイルパンに焼きいれオイルも入れれます」
「すげえなあ。すごく助かります。よし。これで作るぞ」
3人は嬉々としてフレームづくりをやっていた。
「悟瑠、ってことは僕らでも鉄板の鍛造って言えばいいのかできちゃうの?」
「もちろん。雅子のTSカーもここで鉄板作ってやったよ」
「なんだよ、教えろよ」
「え?言わなかったっけ?すまん」
「まあいいや。どっちにしても百合ちゃんのリーフを作るにはよさそうだ」
「そうか。そうだな。隆弘はワイドリーフにするんだろ」
「もちろんだ。車体ブラケット幅ギリ迄攻めてみる」
「そうかあ、シャックルの方の取り付けかあとは」
「悟瑠、シャックルはワイドにしたやつを作ってだな」
「そうだね、アシストスプリングでバネ定数を稼いでリーフは一枚にして位置決めだけにしたいよね」
「そのとおり。車体の補強先にしてだな。ブレース渡さないときついだろ」
「そうだな。隆文に頼んで作ってもらうんだろ」
「そうだよ。設計は俺がやる。うまくしないと別のところに亀裂が入る」
「頼んだぜ。僕は愛理沙ちゃんのKA11をやるからさ」
「上手く行ったら、ブレース隆文の61にも使うよ。どうもバネとショックの取り付けの剛性が出てないみたいだ」
「それはいいな。ブレースで雅子のロールバーの着地点とつなぐのもいいなあ。31も剛性足りないようだ。おっと、仕事だ。ええと僕らはF17Cを組んでRF10改の組み立てと噴射ポンプはKL-のRH10の450ps仕様を組む」
「まずはF17Cだな」
と言っていると、雅子が工場に来て
「おにいちゃん、隆弘さん。今度は3台整備の依頼が来ちゃった。KC-CW63CVXとKC-FR3FWCAとKC-CXM81V1だって。デコトラの愛好者がエンジン調子悪いのとパパにマニ割してほしくってきちゃったよ。それからマフラーを煙突にして欲しいって。うちのトラクターにサージタンクつけて煙突にしたでしょ。なんかそれが良いって。V10の方はサージタンクでV8はマニ割で」
「CW63CVXとCXM81V1はサージタンクかあ、もしかしてCW63CVXって山越えやってたの?。それとも青森や新潟の豪雪地帯に行くとか?」
「さすがお兄ちゃんね。その通り。CW63CVXはどうやら北海道の山越えで使ってたみたいね。残りの2台は中央道に行く仕様って聞いたよ」
「ああ、そうだな。CW63CVX以外は引きずりだもんな」
「じゃあさあ。見積もりをやってみよう。雅子。車は来てるの?」
「明日来たいって、都合聞いてきた。」
「いいよ。見積もりしてだな。エンジン交換はしなくていいはず」
「午前がいいかな?見積もりに来てもらうの」
「いいよ。って言うか親父はミーテイングで相当営業したんだなあ」
「パパって、名刺100枚渡すの目標って言ってた」
「100枚ならいっぱい来そうだなあ」
その後はいつもの3人と連携してフレームの修理を確認して先にF17Cエンジンを組み立てていた。
次の日、あろうことか4台も来ていて、雅子から聞いていた3台の他に、KC-FU515SXも来たのだった。
「佐野自動車の佐野です。この度はどうもありがとうございます。お見積りしますね」
「はい、ミーティングの時のこの会社の2軸のトラクターのサージタンクがいいと思ってお願いしました。それにマニ割りしたV10ダンプの煙突が気に入ったんです」
そう言うのは、二階堂と名乗ったKC-CW63CVXのオーナーだ。
「僕も同じですよ。エンジンが結構くたびれ気味なんで活を入れるって言うかですね。ステンレスの等長マニフォールドとサージタンクが気に入りました。僕は煙突でなくてサイドデュアル出しにして欲しくて」
と言うのはKC-CXM81V1のオーナーで岡田と名乗る人だった
「俺のは自分でマニ割やってマフラー作ったけどどうしても耐久性が無くて一年でマフラーに穴が開くんでマニ割をやり直してほしくって。サイドはどうしてもサイドバンパーが汚れてしまうんですよ。それもあって思い切って煙突にしたいと準備していたらこの前のミーティングでお店を見つけたんですよ」
そう言うのはKC-FR3FWCAのオーナーで松本さんだった
「この車は、マニ割しようと思ってたんですがなかなか時間がなくてできないんで思い切ってお願いしようと思い二階堂達と来ました。僕のはサイド出しにしてほしくて。この前連絡して無くてすみません」
最後に言うのは村上さんでKC-FU515SXのオーナーだった。
「承知いたしました。村上さんのは8DC9ですよね。フルに積んだら登りとか結構大変じゃないですか?310psですよね」
「いいんですよ。実は非力なんで結構回すんです。そのほうがマニ割のサウンドが響いていいんですよ」
「そうそう。マニ割やって俺も登りが好きになっちまった。なんでかって言うと合法的に回せるから。登りをついつい走ってガンガン回してしまうんです。平たん路では回せないんだよな」
そう言うのは松本さんだ。
「そうだな。僕のは最近はマニ割の車が厳しくて。マニ割辞めて等長にしたいんです。」
二階堂と名乗ったKC-CW63CVXのオーナーがいう。
「そうそう、俺のも。マニ割の車は目の敵のようにされるんだよなあ」
岡田というKC-CXM81V1のオーナーも言う。
「承知いたしました。今は既に2台修理依頼が来ているのでその後になります。見積もりは後程送ります」
「よろしくお願いいたします。あの2台ミーテイングにいましたね。ナンバー無しでしたが」
「そうです。公道復帰したいってことでエンジンの整備とフレームの修理です。」
「でしょうねえ。あの2台はうちの親の知り合いです。V10が好きで燃費どうでもいいって言うことなんですけどね。親に聞いたら自前のBDF使いたいから古いの復活みたいです」
「そうですか。やりますね」
「見積もり、よろしくお願いいたします。」
僕らがオーナーにメニューを聞いている間にベテランの3人に修理箇所がないか見てもらっていた
「今日は御来店いただきどうもありがとうございました。おくりますので」
「入庫可能日もお願いいたします。」
「はい、承知いたしました。」
4台はブババババ、ピヨピヨピヨピヨとマニ割の音を響かせて帰って行った
「工場長、全部見ましたけど。KC-FU515SXは未再生なんでフレームの修理が要りますよ。他は廃業した僕らの工場で見てた車なんで大丈夫です」
「良かったです」
「ここの工場はエンジンばらしするんでいいんですよ。前のところはエンジンできなくて外注でしたよ」
「でしたね。確か加藤内燃機整備に」
「親父の工場ですよ。今は佐野自動車になりましたよ」
「あ、そうか。そうですねえ。廃業って聞いたんで」
「俺の親が作業員の高齢化もあって設備と場所をここに売ったんですよ。俺と隆文をつけて」
「そうですよ。隆弘の工場は引きとりと配達やってたもんな」
「それで。僕らは場所知らないんですね。エンジン引き取って直したら配達ってとっても楽でしたよ、加藤運輸があるから引き取りと配達ができるんですね」
「そうですね。前は予備の人員がいたんですけど。今は無理です。仕方ないですけどね、それもあって配達と引き取りのサービスできなくなってエンジン整備工場売ったんですよ」
「そうなんですよ。ええと鈴木さん。P-FS668BAのフレームはいかがですか?エンジンは積んでますが」
「はい、今日には架装を戻します。エンジンの漏れ試験ですね」
「はい、よろしくお願いいたします。」
「次はP-CW66VEですね」
「この車は幸いフレーム問題なしです。これは元の工場で再生してます。それに新車の時から過積してないですよ」
「道理で、今日の4人は昔の工場のことを知ってましたよ」
「そうですか。なるほどね。絵柄が違うから気が付かなかったですね。作業します」
「僕らはエンジン組み立てます」
僕と雅子、隆弘は見積もりを作るために残業になった。
アジトに帰ると
「お兄ちゃん、百合リンのKE55ってどうなの?」
「うーん、リーフがって言うか?難しいのはやっぱりデフかな?オフロードとは違うから」
「そうだよね」
「ミッションはいいとしても。エンジンと車重かな?空力はKPよりいいから高速サーキットだと早いかもね」
「そうなんだあ、愛理沙のは?」
「重さだけだよ。サスがいいよ。とにかくボディの鉄板の厚さが違いすぎ」
「そうかあ。あたしのといい勝負?」
「そうなんだよ。やっぱりさ、メーカーがラリーに出ようって作ったのとは大違いかもね。510の血統は素性がいいよ」
「ううう、ってことは愛理沙がいいライバルね」
「そうかもね」
その週は隆弘と隆文は百合ちゃんの車を仕上げていたし、僕は愛理沙ちゃんの車の補強を終えて雅子の予備エンジンを積んでシェイクダウンできるようにしていた。
土曜日、会社を休んで仕上がったTSカーのシェイクダウンのためにミニサーキットに行った。
「百合リン、愛理沙。今日はシェイクダウンだからね。慣れてよ」
「雅子、ありがと。すっごい。見るからにレーシングカー」
「先輩。これアドレナリンガンガンきそうです」
「百合ちゃん、愛理沙ちゃん。この2台は作ってから全く走ってないからハンドリングを見てない。5割で行ってくれ。リーフはわかんない」
「はい、サーキットは久しぶりなんで。無線があるんですね」
「そうよ。愛理沙もね。無線で何かあったら連絡ね」
「雅子もいくんだろ」
「うん、新しくしたホーシングのテストね」
「隆文は?」
「僕のは車体補剛の確認だよ。コーナーで勝負なんだ」
「じゃあ、いってこい」
「はい」
ミニサーキットで4台のTSカーが走る
レースに出ていて既に脚が決まっている雅子の車は安定していて速い。
百合ちゃんの車の車はどうなのか全く分からないが今のところは安定していそうに見える。
愛理沙ちゃんの車は雅子の車のセッティングを参考にしたので結構踏めている。
隆文の車は結構安定していて、これまた速い。
「隆弘。百合ちゃんの車って結構いいところ行ってるじゃん」
「ああ、がっちり踏めてるな。リーフは初めてだけどちょっと後ろにロール剛性振って有る」
「そうみたいだなあ。いいところなんだろうな」
「愛理沙ちゃんもいけてるなあ。ブレーキが強いのかな?」
「ああ、S110には後ろのディスクブレーキあってなあ。移設可能だから後ろはディスクにしてある。フロントは定番のプレジだろ」
「だよなあ。31には無理か」
「そうなんだよね。難しいよ。ホーシングに痛みあったからC121用に交換したんだよ。」
「C212か。トラック用だろ」
「うん。それはね。ディーゼルターボのなんでベアリングでかいし、ブレーキもでかい。850積み」
「そう言う手があったか。なるほどなあ」
「百合ちゃんのなら、バン用があるぞKE73V用、隆文のならKP62V用はどうかな?」
「探してみるか。入れ替えよう。ハブが強化されてるだろ」
「そうおもう。愛理沙ちゃんのはポン漬けだからなあ」
見てると、初めて持った百合ちゃんと愛理沙ちゃんも結構踏めていてシェイクダウンとは全く思えない。
無線で聞いてみる。
「愛理沙ちゃん、どうだ?」
『悟瑠さん。どうもありがとうございます。良い調子ですよ。アンダーもきつくないし。結構安定していてガンガン踏めます。ブレーキがいいですよ』
「良かった。その調子で」
『はい、ありがとうございます。』
「雅子はホーシング交換してけどどうだ?」
『うん、スタビリティーめっちゃ上がってるよ。もっと後ろにロール剛性寄せていった方がコーナーで踏めていいかも』
「後ろの方ね。スタビ少し太くしよう」
『次の時にね。規定時間だよね。第2部で変えてみよ』
既定の時間になって4台が戻って来た
「百合ちゃん、どう?」
「もうちょっと慣れないとね。いい具合だから攻めれる。隆弘さんありがとう。ドアンダーになるかって思ってたけどいいです」
「愛理沙は?乗りやすいでしょ」
雅子が聞く
「すっごくいい感じです。何が良いってブレーキですよ。後ろのディスクが凄くいいです」
「お兄ちゃんってセッティング名手だかんね。ブレーキがいいと早いからね」
「そうですね」
僕らには2台のノウハウがたまって来たので何とか狙い通りの車を仕上げることが出来た
初めて乗った百合ちゃんと愛理沙ちゃんはニコニコしていた。
「百合リン、愛理沙。レースは過酷だかんね。レブリミッターないんだからほんと音で回転判断しないとやばいからね」
「はい、ありがとうございます。思ったよりもアンダー気味で、それのおかげでガンガン踏めました」
「そうかあ、アンダーか」
「あたしは今の位がいいです」
「次もそのままかな?」
「はい、まずは車になれます」
「雅子は後ろのスタビ1サイズ太くだよな」
「お兄ちゃん、よろしく」
「雅子、速くなってないか?」
隆文が聞いている
「スタビリティ上がったの。ホーシングを交換してベアリングの径が大きくなって。耐荷重大きいのに交換したから」
「そうか、いいなあ」
「隆文、ホーシングをKP62V用にする手がある雅子とおなじでベアリングがでかい」
「兄貴、それで行こう」
「百合ちゃんは、今日この仕様に慣れて欲しい」
隆弘が言っている
「はい、そうします」
次の回は雅子は後ろのスタビをワンサイズ太くして走っていた。
その日の練習が無事に終わって
「お兄ちゃん、ばっちり」
「おおお、それは良かったな」
「百合ちゃんは?」
「ボディーが重いのはちょっと辛いですね。その分高速コーナー強いです」
「そうか。見てたらもうちょっとオーバー消せればよかったけどな」
隆弘が言う
「大丈夫です。今のセッティングならレースも行けますよ」
そういうのは百合ちゃんだ
「隆弘、解体調べて部品無いか調べよう。バン用」
「そうだな、リーフならいいな」
「アニキ、俺のは?」
「自分でバン用探せよ」
「えええ?」
「ブラケットは自分で作れ」
「へーい」
「隆文は昔っから手先は器用だったもんね。図工得意で」
「すっごおーい、悟瑠さんは一体どっからそんなに情報集めてるんですか?」
「大学時代うちのお店で働いていたからだよ、安く直してくれっていうのと、峠の車作ってくれって言うのが有ってね」
「そうねえ、お兄ちゃんが大学入った頃ってあたしが中3だったけど車の雑誌山程有ったもんね」
「まあ、そうだな」
「そう、悟はいろんな雑誌とかネットから部品どれが使えそうとか調べてこれとこれは使えるって言ってやってた」
「そうかあ、悟瑠さんの博識はその頃からなんですね」
「そうよ。百合リン。調べた結果があれば後で確認出来るでしょ」
「そうかあ、それにしてもバン用とは思わなかった」
「それ言ったらあたしのホーシングもバン用だよ。ワンボのだよ」
「悟瑠さん、あたしのに合うワンボ用がなかったってことですか?」
「ハブのところが違ってて5ケツハブなんでそこがどうかだけだよ」
「え?」
「ゴメンね、今履いているホイールが使えないってこと。13インチの5ケツって無くて」
「ああそうなんですね」
「そうそう、愛理沙のは上級用のホーシングたかんね。これもラリーに使えるくらい丈夫なんだよ」
「うわー凄い」
今日の練習を終えて車を積載に積んで帰ってお風呂に入ってくつろいでいるとスマートフォンを見ていた雅子が言う
「えええ?百合リンの会社からまた2軸8トン探してだって」
「ああ、笠木さんに頼んだよ」
「え?もう見つけたの?KC-EP515FXDだって。車検無し」
「早すぎ、まあいいや。明日早くここをでて取りに行こう。船底だな」
整備の仕事がまた来たのだった。
愛理沙ちゃんと百合ちゃんのセンスはいかに?
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。
お気に召しましたらイイネや感想いただけると更新のモチベーションアゲアゲになります




