第四十八話 愛理沙の峠バトルと丸松建設の応援
峠でバトルになった愛理沙ちゃんと相手
丸松建設の応援にまた借り出される悟瑠と雅子と隆弘
「いいよ、愛理沙、いきな」
「あ、はい。先輩、悟瑠さん。いってきます」
「愛理沙が本気で行ったらコーナー3つで米粒ね。愛理沙勝ったから」
「言ったな。よし。やってやろうじゃん」
いきり立ったように言う相手、車はマフラー、ホイールは社外品。
エンジンはわからないがいじっていることは確かだ
「愛理沙、覚えてると思うけど。どんなところでもイメトレ大事。お兄ちゃんの隣に乗ってたんだから」
「はい、先輩」
そう言って、サンゴちゃんのコックピットに収まってドアを閉めるとシートベルト締める愛理沙ちゃんだった。
「7代目、大丈夫かな?」
12代目という由香里という女の子が言う。
「由香里ちゃん、大丈夫よ。愛理沙だってドリフト大会で優勝したでしょ。総長時代は喧嘩100戦100勝でしょ。相手の弱点突くのはわかってるわよ」
「うん、そうですね」
「総長。傘下のメンバーが要所のコーナーに配置着きました。みんなSNSでつないでます」
「あ、素子、ありがとう。グループで?」
「はい、10人で入ってます。特に最終には3人いて実況上手を置きました」
「ありがと。来たら上手く実況するように言って。ここで聞いてましょ」
「実況しながらカメラで動画撮ります。後で送りますね」
『由香里。聞こえる?』
そう言ってると、由香里ちゃんと雅子のスマートフォンから愛理沙ちゃんの声が聞こえる
「あ。7代目も?」
『由香里、いい?あたしも走りながら言うわよ。ハンズフリーだからカメラは使えないけど音声は常時オンだから』
「はい、7代目、よろしくお願いいたします」
「あ、愛理沙。聞こえる?雅子。こっちにはお兄ちゃんいるからね。大丈夫。勝ったから。勝利の方程式はもう解けたからね」
『はい、先輩、悟瑠さん。ありがとう。ではいきます』
スターターのレディースの副総長が2台の間に立って両手を広げる。
ぶおおーん、ぶおおーんと2台のエギゾーストノートが高まる
「レディ、ゴー!」
スターターの両手が下がってスタートダッシュ。
ブオオオオオーン、キャリキャリキャリ、絶妙なホイールスピンでダッシュするサンゴちゃん。
しかし、隣のCN9Aの方が4WDの威力でダッシュが速く、一車身前に出て先行する。
「あああ、7代目。いかれた」
「由香里。スタンディングスタートは4WDが有利だよ。慌てないの」
「雅子、そうだけど。今のスタート見てて思ったんだが。なんかCT9Aのドライバーは車に慣れ切ってないように見えた。」
「やっぱり?お兄ちゃんも?あたしもそうおもったよ」
「え?どうしてわかるんですか?」
総長の由香里ちゃんが聞く
「慣れて切っていれば、あんなに半クラ使わないよ。下手したらクラッチ焼けちゃう。クラッチ焼いたらリタイヤだよ」
「そうかあ。乗り慣れ切っていればクラッチ上手く使うからすぐにわかるってやつですね」
「そういうことよ、由香里。お兄ちゃんとあたしはそこに気が付いたの」
「そうなんですね。さすがです」
「多分、愛理沙ちゃんも気が付いているよ」
『由香里。わかった?この二人のすごさ。見てて行くよ。ちゃんと勝ったから』
「7代目。ファイトー」
『総長、こちら3分隊、ほとんど接近戦です。あ。おしい。もうちょっと』
第一から第三までのコーナー区間の担当から実況が入る
『チッ。さすが4WD、低いギヤでターボゾーンにはいればこのサンゴちゃんの加速でも並べない。伸一。やるじゃん、いい車に仕上げたわね』
「7代目。ガンバ-」
ブオン、ブオンとヒールアンドトーでシフトダウンする音、刹那全開で加速しているのだろう、2台のエギゾーストノートが雄叫びをあげている。
キャリキャリというタイヤの悲鳴
『こちら第2分隊、いまだに7代目が後ろです。後は連続ヘアピン。あああ、また行くの?』
「今頃?」
『あああ、惜しい。すっげー加速。反則よ』
『やっぱりね。ふふふ。初めてのドリ競技以来ね、このゾクゾクする感覚、ふふふ。あたしの勝利の方程式解けてるから」
「7代目、一体どうして?そんなに余裕なの?ほんとに行けるの?」
「大丈夫よ、由香里、愛理沙を信じな。多分、愛理沙は今、相手のタイヤの状態を見たのよ。仕掛けるのは多分、最終かその一個前、または二つを絡めるかも」
『こちら第一分隊、連続ヘアピンの入り口、ああああ、7代目がアウトから。あああああ』
「沙羅?なによ。あああじゃわかんない」
『すみません。7代目のすっごい突込み。ストレートで離されていたのが一気にぶつからんばかりに詰めてアウトから行こうとしたけど頭抑えられた』
『こちら第五分隊、ヘッドライトが絡んでる。ああ、7代目。いけーもうちょっと』
「もう、実況になってないじゃん。第五は連続ヘアピンの真ん中あたりね」
『すみません。7代目が並んだんですけど頭が取れなくて。うっわー、すっごい加速力。あれじゃあ7代目きついっす』
『こちら第六分隊。おしい。7代目、ファイト。並んでも頭が取れないの』
『勝負は、ここよ、伸一。あたしがここまでついてきて、あんたのタイヤを垂れさせるために仕掛けたのはこのため。それにいまだにあんたの弱点を克服してない。それが出るのは高速の最終手前のここともう一つ更に高速の最終コーナー。伸一の弱点が出るコーナーが二つ続くの。それでもあたしに勝てると思ってるの?』
「第七分隊、えええええ?7代目がうちからいったあ。でも次はアウト。あああ、ブロック?」
『かかったわね。伸一。』
『うわあ、7代目。もう向きを変えてる?いったあブロックを躱してインをとったあ。』
『いけえ、いける。やったー。7代目がドンドン前にいく、相手は何も出来ない。やりー』
「え?7代目が抜いたの?」
『すっごい、総長。鳥肌もの。相手がアウトにブロックするんで孕んだのをみて7代目はインに入って抜き去ったの』
「抜いても7代目は大丈夫なの?」
「由香里ちゃん。すぐゴール。もう、CN9Aに抜き返すチャンスは全くない。この勝負は愛理沙ちゃんの勝ちだ」
『7代目すっごいですよ。動画撮ってたんでシェアしますね』
「ありがと、じゃあみんな撤収してね。動画撮ってたらみんなにシェアしてね」
『『『はい』』』
僕らがスタート地点で待っていると愛理沙ちゃんがゆっくり戻って来た、続々とレディスの分隊も戻って来た
その後ろからはCN9Aがついてきていた。
ドライバーが車から降りると
「教えてくれ、何が?なんで俺が勝てないんだ?」
「プッ、口の効き方からよね。教えてくださいでしょ」
「はい、小笠原さん、教えてください。何が不足で?あんなに練習したのに。前に出たから抑える自信あったのに」
「アハハ!あたしに勝とうなんて今の伸一の腕じゃあ10年早いわよ。負けた原因は3つあるの。一つ目はこの車に慣れ切ってないってこと。コーナーでシフトミスって何よ。それに4WDだから良いけどクラッチつなぐときに回転全然あってないじゃん。そんなのダメダメでしょ」
「そこまで見抜いていたのかよ」
「後ろ走ってりゃ簡単よ。二つ目はサーキットでいくら練習したって言っても公道とは決定的に違うところがあるの。」
「え?なんだ?」
「わかんないの?サーキットには対向車がないってこと、みんな同じ方向に走ってるからね。対向車がくる可能性のある右コーナに飛び込むって対向車の状況を見ながらだから慣れないと躊躇が出るの。それは経験で対向車がいるか否かの見方がわかるからね。伸一の右コーナーはどうしても突込みが甘いのよね。低速コーナーでは4WDの立ち上がりで離しても右コーナーの突込みが甘いから簡単に追いついちゃう。伸一は右コーナーが致命的に下手くそってこと」
「うううう」
「最後はサーキット走っている最大の弱点ね。公道にはエスケープゾーンが全く無いのよ。すなわちコースアウト=即クラッシュ。伸一はその恐怖に勝ててないから高速コーナーはスピンした時、孕んだ時のコースアウトを恐れててほとんど真ん中からコーナーに入っていくの。ってことは間単にインを刺されるってこと。今回の最終コーナーね。最終の一個前が苦手な右の高速コーナーで最終は更に高速のコーナー。ってことは伸一の苦手なコーナーが続くってこと」
「はっ」
しまったという顔になるCN9Aのドライバー
「その弱点ある限りあたしには勝てないわね。なんで伸一が前を走っていても何の焦りもなかったわよ。最終コーナーとその一個前の二つで抜けるチャンスあるの。ドリフトドライバーを舐めてるでしょ。あたしはスピンは怖くないの。怖いってことは身体がこわばって実力が全く発揮できないってことよ」
「くっ」
両手を握りしめてブルブル震えていた
「悟瑠さん、雅子先輩。サンゴちゃんありがとうございます。すっごくフィットするんですね。いい車ですよ」
「くっそー。次は勝ってやる」
キッとなったCN9Aのドライバーは、そう言うと、CN9Aとその集団はどこかに行ってしまった。
「愛理沙、アイツまだ愛理沙に言い寄ってるの?」
「そうね、よっぽど元旦那とあたしが結婚したのが悔しかったみたいね。高校の頃からしつこかったもんね」
「7代目、すっごくかっこいい。あたしも走る」
「ふふふ、由香里。頑張ってね」
「愛理沙、あんたも上手くなったわね。峠ろくすっぽ走ってないのに。それに冷静に相手を分析してるし」
「悟瑠さんに聞いてて、しかも脇に乗ってバトル見ていたからですよ。悟瑠さんはこの前あたしのGXE10でバトルになったときに冷静に相手の弱点見つけてそこをピンポイントでついてあっさり抜いたの。それとTSカーでの雅子先輩の走りを見ててそう思いましたもん。相手のタイヤを垂れさせてズルズルになったらブロックも無理でしょ。そうなったら遠慮なく躱しにいくの」
「愛理沙、さすがね。きちんと学んでるね。さすがね」
「雅子先輩。でも、あたしはまだ悟瑠さんには負けますよ。あたしのGXE10でバトッた時なんてあたしが絶対に無理ってところであっさり抜くんですよ。脇に乗ってると走ってるのが自分の車じゃないみたいに速くて。すっごく鋭い分析力とドライビングテクニック。あたしはまだまだって思いましたもん」
「え?7代目。この方そんなにすごいんですか?」
「そうねえ、雅子先輩より実は速いの。でもレースとか出てないからね」
「もったいなー」
「僕は裏方でいいんだよ。僕は車作る方が好きだから。雅子が速くなればいいのさ」
「でしょ。あたしがほれた人よ。素敵でしょ。自分より先輩優先。でもね。耐久レースの時はトップを堂々と走って後ろを引き離して陰の優勝の立役者なのよね」
「そうですね。7代目の眼に狂いはないと思いますよ。あたしは隣に乗ってそう思いました。めっちゃくっちゃスムーズにドライブしてて全部一本の線と言うか」
「はい、あたしも思いました。練習って言うのかな。7代目に教えてる時ってまさにぴたぴたって感じね」
「第一分隊長もみててそう思うでしょ」
「はい、そうです」
「みんな、良いけど。お兄ちゃんは唐変木なんだから。堕とすのは大変よ」
「そうかもですね」
「悟瑠さん、告ったからね、よろしくね。さあ、みんな帰るわよ、応援ありがとうね」
「あははお兄ちゃん、愛理沙の気持ちちゃんと受け止めてね。お疲れ様。あたしはレッカー車で帰るね。お兄ちゃんはサンゴちゃんね」
「そうだな。うん、愛理沙ちゃん。どうもありがとう」
「あ、そうそう。悟瑠さん、忘れてました。あたしにも車作って欲しいんです。レアですけどKA11見つけたんで。エンジンはAでいきます。TSカーデビューします」
「いいよ。車よろしくね。安定してていいかもね」
「はい、明日、積載で持って行きます」
「愛理沙もせっかちね」
「その足でお兄ちゃんにドリ車を持って行くんで。そうそう百合先輩もライバルですよ」
「そうなの?」
「実は百合先輩もTSカーやるって、車はE70のハードトップでエンジンは4Kで。車作りは隆弘さんに頼んだとか」
「そう言うことか?もしかして隆文が同じエンジンやってるからか?」
「そうねですね。百合先輩も実は有名な女子バトラーでしたもんね。雅子先輩も聞いたでしょ」
「知ってるよ。さすがにあたしよりは先に引退しちゃったけどね」
「ええええ?そうなんですか?あたし知ってますよ。百合先輩は6代目の友だちで丸松建設のお嬢さん」
12代目の由香里ちゃんが言う
「そうね、百合リンも速いよ。ドリ車はどうすんの?」
「スカクーはお兄ちゃんが乗るの。今持ってるのは予備車っていうかボディのフロアに亀裂が入ってるから部品取り」
「そうなの?知らなかった」
「点検してたら見つかったのよ。ほとんどフロアの真ん中あたりに。さて、帰りましょ。みんな。とにかく無事におうちについてね。あたしも気をつけて帰るよ。子供たちの顔みたいからね」
「7代目、さすがね。もうママですもんね」
「悟瑠さん、雅子先輩。今日はどうもありがとうございました。明日お願いします」
「愛理沙、みんなも気を付けてね。お疲れ様。動画ありがとうね」
僕らがアジトに着くと
「お兄ちゃん。愛理沙は本気よ。あのCN9Aのドライバーは菅原 伸一って言ってあたしと同級生。高校の頃から愛理沙に告っていたの。でも愛理沙は哲史さんの友だちと既に付き合っていたから相手にしなかったのよ。愛理沙が結婚してもあきらめらんなかったのか?オフロード競技に出て旦那を破って気を引こうとしたんだよね」
「そうか。それで?まさか、ああ、でも上手くいかなかったとか?」
「そうなんだけど、旦那さんが亡くなってからはほんと大変だった。今日は俺のお仕事こうだったとかメールしまくっていたし、パートに出たってわかったら子供の送迎やるよとか、とにかく愛理沙の気を引こうと必死」
「そうなんだね」
「あ、動画来たよ。お兄ちゃんは車一筋って感じだけどね。百合リンがTSカーデビューするのもお兄ちゃんの気を引くため。わかったかな?この鈍感さん」
「ううう、わかったよ。愛理沙ちゃんと百合ちゃんかあ、動画見よ。ハイライトは最終とその手前だろ」
と言っても、僕にとっては雅子の勝利の笑顔にかなうものは無いと思っていたのは確かだ
「うん、そこね。愛理沙がどうやって抜いたかでしょ」
動画を選んで見ていく、最初に見たのは最終の一つ手前のコーナーだった。
”いける、7代目が完全にピッタリくっついてる。”
実況していないメンバーが言うのだろう、まさにテールトゥノーズで右の高速コーナーに入る2台の車。
サンゴちゃんが空いたインに飛び込んでプレッシャーをかける。
ミッションのギヤ比の関係だろう、ピッタリターボゾーンが使えるCN9Aの立ち上がりが速い。
”あああ、おしい”
しかし、ほぼ並走したまま、サンゴちゃんも最終の高速の大Rに向かう。
「やっぱりな、CN9Aのドライバーは右がほんとにどへただな。愛理沙ちゃんは次が左だからCN9Aがもっとインから入っていたら愛理沙ちゃんはアウトからかぶせたね」
「うん、愛理沙がインから入っても加速で抜けないってわかってるから無理しないでいったのね」
「それよりもっと気になったのはブレーキだよ。ほら、なんか効きを試すように二度踏みしてる」
動画をシークさせてコーナー入り口のところを映す
「あ、ほんとだ」
次に見たのは最終コーナーのイン側から撮った動画だった。
”うわあ、7代目。もう向きを変えてる?いったあブロックを躱してインをとったあ。””いけえ、いける。やったー。ドンドン前にいく、相手は何も出来ない。やりー””7代目、いけええ””いけるっ、いけるっ、いったああ”そんな声が動画から聞こえる
二台並んでコーナーにアプローチするがそろそろブレーキングと言われるポイントでもアクセルを踏んだままのようだ。
「これってオーバースピードじゃん」
「愛理沙ちゃんが横に並んでるから抜かれまいとCN9Aのドライバーも必死なんだろう」
サンゴちゃんとCN9Aがオーバースピード気味でコーナーに入る、愛理沙ちゃんはアウトから減速のドリフトを使い減速と同時に一気に向きを変えてクリップを狙ってインに飛び込んでCN9Aを刺していく。
グイグイとインからCN9Aの前に出て行くサンゴちゃん。
ぎゃんぎゃんぎゃんとCN9Aのフロントタイヤが悲鳴を上げてアウトからかぶせてサンゴちゃんを抑えようとするドライバーの意思に逆らい、かぶせるどころか更に車をコーナーの外に引っ張る。
「あのドアンダーじゃあ、かぶせるなんて無理でしょ」
「お兄ちゃん、CN9Aがアプローチでミスってオーバースピードで入ったから?ドアンダー?」
動画を見ていた雅子が聞く
「いや、ブレーキをみて、もうローターが赤い。確かにオーバースピードのミスはミスだが減速しきってないからって言うか、減速Gが出なくて荷重移動しきれなかったんでドアンダー出してしまった」
ここももう一度シークして雅子と動画を見る
「あ、そう言うこと?もしかしてフェードしてたってこと?サンゴちゃんは19インチのブレーキだもんね。この程度の下りじゃあ悲鳴上げないよね」
「多分、愛理沙ちゃんは最終一個前でCN9Aのブレーキの踏み方おかしいの見てフェードと確信してアウトからオーバースピードになるように仕組んだのかも。愛理沙ちゃんに夢中でフェードに気付かなかったCN9Aのドライバーはブレーキング競争で減速しきれなくて結果ドアンダーで曲がり切れず外に孕んでしまった」
「そうか、愛理沙はその空いたところを悠々走って躱していったってことね」
「その通り、愛理沙ちゃんの作戦勝ちってこと」
「やるわねー」
動画ではCN9Aは向きを変えるためにやむなくブレーキを踏んだのだろう、ブレーキランプが何回も光る
ようやくフロントのグリップを回復して出口に向けて加速に移ったとき、既に愛理沙ちゃんは悠々10車身以上も前を走っていてゴールにまっしぐらだった。
「愛理沙も成長したわね、あたしもうかうかしてらんないわよ。お兄ちゃんのその女の子には脱力した感じがいいのかも」
「そうなの?愛理沙ちゃん、成長したね。TSカーレースでは雅子のいいライバルかも」
「そうね。あたしも練習しよ。そうそう、あの伸一みたいにがつがつしてないのがいいのよ」
にっこりして言う妹の佐野 雅子。
峠のバトラーからTSカップのレースに参戦するようになっていて、前回のレースではウエットコンディションをものともせず4勝目を上げて5勝目を目指す24歳。
雅子のTSカーはうちの会社でスポンサーしてて、他には元職場のスーパーと百合ちゃんの家の建設会社、新たに小笠原精肉会社からもスポンサーを受けている。
そんな雅子は今、オフロードにも嵌って大型の2軸総輪駆動を買ってきて、エンジンをいじって、サスペンションをいじって自分好みにいじった。
その総輪駆動はV8の大排気量エンジン+ターボ追加してオンロードでもそこそこ速い車にしてある。
オフロード車は隆弘が詳しいのでエンジン特性やサスペンションのセッティングも勉強できてとてもたのしそうだ。
それが高じてオフロードコースを作って丸松建設の百合ちゃんと共同で運営すべく準備してコースを完成させてしまった。
雅子は親が経営している中古車販売店兼整備工場の経理、整備の段取り担当の副社長になっている。
運転免許は大型2種免許と牽引免許を取った、他に2級整備士も持っている。
必要なら大型トレーラーや積載車を運転できるし納車前のお客さんの車をメンテもやれる。
それに、プログラム組むのも好きなので、実家の規模に合わせたいろんな経理システムを自分で組んでいて、両親も大助かりといっている。
自分のTSカーの脚を組むときに計算してスペック決めていたし総輪駆動では動きのシミュレーションもしていた
それに雅子の車を含めたうちの会社のディーゼルエンジンの車には、以前勤めていたスーパーから買っている使用済みの食用油をリサイクルして作ったバイオ燃料を詰めて環境に配慮していて、使っている車全部に”環境にやさしいBDF”と書いたステッカーを貼っている。
動画をみたその日は遅くなったので寝ていた。
次の日、10時過ぎに愛理沙ちゃんが積載にTSカーのベースのKA11を乗せてアジトにきた。
結構長期間倉庫かどこかで放置されていたようで、埃だらけだった。
見る限りはフロアや外板には錆はなさそうだった
「これは結構きてるなあ。直しがいがある。あしまわりの部品はどっちかなあ?710は510流用だけど、これはどうかわかんないなあ」
「すみませんが、よろしくお願いいたします。あ、そうだ。あたしのドリ車預かってくれてありがとうございました。お兄ちゃんが乗るんで引き揚げますね」
「よろしく」
愛理沙ちゃんの積載にドリ車を積んでいく。積み終わると荷台をもとに戻して
「どうもありがとうございました。TSカー作成お願いいたします」
そう言うと、ファンと電子フォーンを鳴らして帰って行った。
「お兄ちゃん、この車って?」
「昔だけど、これのセダンがサファリで連勝したんだよ」
「そうなんだ」
「これの1400ccはL型じゃなくてA型積んでたんだよ」
「これは?」
「すげえ、まさに1400ccだよ。いいのを見つけたねえ」
ボンネットに収まっていたのはA14だった、しかも奇跡のブロックと同じ品番だった。
「へえ、じゃああたしのエンジンと同じ仕様にするの?」
「それでやるけど、どこまでいけるかな?エンジンの素性の良さが勝負だよ」
「そう言えば百合リンは隆弘さんに頼んだんでしょ」
「そうそう、隆文の車と同じエンジンだからね。百合ちゃんの車はKE70のハードトップバージョンって隆弘から連絡来てた」
「そうか、隆文と百合ちゃんの勝負かもな」
「お兄ちゃん、こっちも愛理沙と勝負でしょ」
「うん、ホイールベースが愛理沙ちゃんの方が長い分スタビリティで有利なのとサスがもしかするとワンサイズでかいのかも」
「そうなの?」
「とはいっても、重量が重いから軽量化しても雅子の車くらいがせいぜい。百合ちゃんの車も軽量化しても隆文の車よりは重い。でもホイールベースがA11と同じくらい長いからその分高速は安定する」
「ふーん。百合リンと愛理沙の腕次第ね」
「そうだね」
愛理沙ちゃんの車をみてボディ周りの組み込んでいくメニューを考えている、僕:佐野 悟瑠は妹の雅子より4学年上の3月生まれの27歳。
地元の大学を卒業して家業の佐野自動車販売に就職して6年目、今は家業の中古車販売店、整備工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備が担当だ。
資格は2級整備士、MIG溶接機、レーザー溶接機、ガス溶接、玉掛。
フレーム修正機も使え板金もできる。
他にはへこみのリペア、カラスリペアと危険物の免許も資格を取って入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長になった。
免許は大型、けん引免許を持っている
オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していける。
またバスの管理士になれるので、中古の大型観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
他には丸松建設のバスの管理もやっている。
その後は自分のアジトの掃除や片付けで休日が終わった。
休みが終わって会社に行くと
「悟瑠。考えたんだが。うちの2軸トラクターは狩野さんの6×4V10ダンプと同じメニューがいいんじゃねーか?V8の時は排気干渉減るからマニ割はパワーアップするけど、V10だと等長にしてサージタンクの方がパワーアップするだろ。実力で480psほしいよなあ」
「それ言っちまったらそうだよ。理想は520psだけどな。排気量を差っ引いて500psかな?ポンプはV26CのKL-を使ってみる」
親父が聞いてきた。
うちの親父=佐野自動車販売の社長は若い頃がマニ割を100台以上作ったマニ割マエストロでもある。
その親父が言うのだからその通りなのだろう。
「悟瑠、お父さんはマニ割マエストロって言われてるけどあたしのドリ車のエギマニ作ってくれるほどの腕なんだよ。大型でもパワーアップするのが目的なら等長のエギマニ作っていたんだよ」
そう言うのは母親だ。
母親=営業担当の副社長も車好きで、若い頃はドリフト競技に出ていたほどの好きもので親父のところにドリ車の改造や整備を依頼したのかきっかけで一緒になったようなものだ。
二人の車好きの両親なのだから、僕と雅子が車好きになるのも当然だろう
「親父、2軸トラクターは等長+サージタンクにするよ。等長を作ってみて。それに合わせてサージタンク作る」
「それで行こう。狩野さんのダンプでエンジン載せ替えやってだな」
と言っていると、雅子から
「ねえ、百合リンから連絡来たんだけど。狩野さんの6×4V8ダンプの車検取ってくれって。6×4V10ダンプの予備車にするみたいよ。6×4V8ダンプは仮ナンバーで走れそうだって」
「良いけど、もしかして取りに行くのか?」
「うん、お兄ちゃんとあたしかパパといくのよ。その間は、愛理沙の2トン総輪駆動保冷車のエアサス化は隆文にまとめを頼んで。3軸総輪駆動は例の3人にPE8の4×2キャブオーバーのエンジン換装は隆弘さんにまとめをお願いするの。うちのトラクターの載せ替えは、ちょっとお休み」
「わかった。2軸レッカー車で行くか。ここから2時間くらいだよね。今から行こう。万が一バッテリー上がりしてたらレッカーなら始動装置もあるから2軸レッカー車がいいよな」
「うん、そうね。エアもあるから空気充填もできるでしょ」
「狩野さんの実家に連絡は?カギと」
「それは大丈夫。もう連絡してあるって。カギは実家に置いてあるみたい」
「よし、じゃあ行こう」
僕と雅子は狩野さんに今から取りに行くと言って2軸レッカー車で向かった。
念のため、この車には10都市乗り入れ対策してあるのでいつでも入れる。
狩野さんの実家に着くと家の呼び鈴をおす、すると両親だろう、6×4V8ダンプのカギを持って来た。
庭の広い家で、そこには大型車でも5台は停めれそうな場所になっていた。
「こんにちは、初めまして狩野です。息子から聞いてます。6×4V8ダンプ引き取りどうもありがとうございます。え?これエンジン掛かったら乗っていくんですか?」
「はい、初めまして。佐野自動車の悟瑠です」
「佐野自動車の雅子です」
「今日はわざわざ来ていたきまして、これの車検取るんですか?息子は運送会社辞めたと思ったら建設会社に入ったとか?」
「はい、今は現場で重機のオペレーターですね。そのほうが性に合ってるようですよ」
「そうならいいんですけどね。これは?」
「これは6×4V10ダンプの予備車にしておくんだそうです」
「アイツも好きだからなあ。よろしくお願いいたします」
「はい」
「雅子、エンジンかけるぞ。バッテリーはいいか?」
「うん、バッテリーは外してあるね。つなぐね。」
「タイヤの空気は6.0に合わせておくぞ、ダブルは外だけだけどな」
「OK。念のためレッカーから電源引っ張るね」
「おう、よろしく」
僕と雅子はしばらく放置されていた6×4V8ダンプのエンジンをかけようとしていた。
2軸レッカー車の発電装置からバッテリーにつないでエンジンをかける。
くううううっ、くううううっ、ううううううっ、ブルブルブブブン、ガラッガラッガラララン、ガララララ、ゴロゴロゴロロロっとエンジンが目を覚ました。
「エアは大丈夫かな?」
チンチンチンチンとエアコンプレッサーの音が響く
「エアもOKだね」
「仮ナンバー付けていくわよ」
僕らは6×4V8ダンプに仮ナンバーをつけると
「確かに引き取りました。お邪魔しました」
僕が6×4V8ダンプに乗って、雅子は2軸レッカー車に乗って帰って来た。
「悟瑠、雅子。お疲れ様。これは調子どうだよ」
「いいよ。半年前まで狩野さんの運送会社で使ってたんだ」
「じゃあ、これは車検大丈夫だな」
「うん、大丈夫そうだ。タイヤの空気詰めて油脂類交換だな。しばらくはBDFつめれないだろ」
「そうだな。エンジン内部のスラッジ落としてだろ」
「だな。せめてもの救いは予備車だかんね。6×4V10ダンプの改造が終わればエンジンを念のためオーバーホールしたほうがいいだろ。親父がマニ割やりそうだけどなあ」
「あはははは、悟瑠悪いことにマニフォールドあるだろ。2軸トラクターのエンジンを載せ替えたら」
「そうだなあ。確かにそうだ。マフラーも作り直すから煙突にできちゃうのか」
「社長ならやるんじゃないの?全部部品あるし、ロハでどうだっていって」
「はああああ、決定だな」
「悟瑠。PE8の4×2キャブオーバーのエンジン換装とラテリン装着、マニ割は終わったぞ。隆文が煙突左右出しマフラー作っちまった。漏れもないから明日納車だな」
「それなら、今日のうち行ってくる。現場から帰るならアジトに直接帰った方がいいから」
「そう言うことか。そのほうがいいな。明日の朝一には車があるのか?」
「うん。そう。雅子。ワリイが今日はゴーゴーくん乗って帰ってくれ。僕は会社の帰りにPE8の4×2キャブオーバー納車してRF8の4×2キャブオーバー引き取ってそのままアジトに帰る」
「はーい」
僕らは残りの時間2軸トラクターにオーバーホールしたV25C改をのせていた。燃料ポンプはKL-のV26Cにして改造申請の準備していた。
定時の一時間前に
「お先に。PE8の4×2キャブオーバー納車して帰るから」
「お兄ちゃん、気を付けて」
「うん」
作ったばかりのマニ割車で工事現場に向かった
ババババっと叩きの音が響くがほとんど鳴かない、完全に親父の好みでやったなと思っていた。
しかし、排気干渉が減ったせいか?オーバーホールしたエンジンのせいか?オリジナルよりは確実に速くなっていて低速から高速まで綺麗に回って走りやすくなっていた
現場について、
「こんばんは。PE8の4×2キャブオーバー納車です」
「悟瑠さん、どうもありがとうございます。これお願いいたします」
百合ちゃんからRF8の4×2キャブオーバーを引き取ってアジトに帰った
雅子は僕と仲間内からアジトと呼ばれている祖父母が経営していた製材所の跡に併設してある家に住んでいる。
ここアジトの車両をいじる設備はすべて中古で、大型車対応のボードオンリフトが2機、大型エアーコンプレッサー、スポット溶接機、MIG溶接機、プロパン+酸素バーナー、レーザー溶接機、グラインダー、エアツール一式、板金道具一式、定盤、2000トン油圧プレス、油圧けん引機、油圧ベンダー&カッター、ボール盤、旋盤、フライス盤、20トン対応天井クレーン、3トン対応のリフター3機、ワゴン式工具箱、タイヤチェンジャー、バランサー、ユニフォーミティマシンまでそろっているので、小型車のメンテどころか大型車の改造迄できてしまう。
事実、僕らの総輪駆動はここで脚を組んだのだ。
アジトは元は製材工場なので木材搬送のために大型トレーラーが20台以上を悠々と停められる敷地の広さがあり、父親が中古車版売店、整備工場を始めた場所でもある。
市内にあるお店に大型車の入庫が多く、小型車を整備する場所が不足した時はアジトのガレージでやる。
そのためにお店の工場にしてある。
次の日から僕と隆弘は3軸トラクターと2軸トラクターのエンジン換装を進めていた。
エンジンは既に組んであったのでおろして組みなおすだけだったが、3軸トラクターはタービンとキャブの隙間のスペースが少ないのでキャビンを55mmかさ上げして積んでいた。
申請して公認が取れ、丸松建設の車の全て、狩野さんの車も愛理沙ちゃんの車も納めて久しぶりに仕事が空いたのでお店を2連休にしようとしていたところ親父に。
「悟瑠、雅子。隆弘。ワリイが明日一日また、丸松建設の応援頼む。悟瑠はまた鉄骨運搬、雅子は重機運搬で隆弘はダンプのオペレーター」
「親父、また来たのか?」
「ああ。そうだ。隆文は明日は加藤運輸でバイトだぞ。近場の配送で。仕事に対して人がいない」
「はああ。人手不足だよなあ」
「仕方あるまい」
「じゃあいいよ、行ってくる」
「悟瑠と雅子はこの前と一緒。隆弘は自分の車で行ってくれ。6時からな」
「はいよ」
次の日、僕と雅子はアジトにトラクターと船底で帰って翌朝は直接丸松建設に向かった。
6時に丸松建設の本社に着くと、百合ちゃんが迎えてくれた
「ごめんねえ、悟瑠さん、雅子、隆弘さん。お休みの時に頼んじゃって。今回も車両持ち込みのバイトお願いします」
「僕は鉄骨輸送って聞いたけど」
「そうなの。雅子とあたしは重機をスーパーからマンション建設現場まで運ぶの。ちょっと距離があって2時間かかるんだよ。スーパーとマンションまで2往復。悟瑠さんは鉄骨を3往復かな?それだけで今日のお仕事終わっちゃうくらい。隆弘さんはこのPE8の4×2キャブオーバーで橋梁建設現場で砂利運びお願いします」
「OK、とにかく僕は鉄骨ね」
「あたしは重機運搬ね」
「僕は砂利運びね」
「じゃあ、雅子。船底あるね。スーパー行くよ。完成したから重機引き取ってマンションに。今日は狩野さんは高速の補修工事でずっとダンプのオペレーターなんでパパが30トンクレーン運転して現場いってるの。ママが移動事務所のレン君に乗ってマンション建築現場の監督。クレーンを運んだ後のパパは高速の監督、お兄ちゃんが橋梁工事の監督よ」
「うわー大変」
「じゃあ、よろしくね」
「百合リン、あたしは百合リンについていけばいいんだね」
「うん、あれ?このトラクター静かになってない?ターボにしたの?」
「ううん。これはエンジンをV10に交換してタコ足。マフラーはお兄ちゃんが作ったからすっごくいよ。パワーあって」
「やるわね。今日の次第じゃあ、あたしの家のもV10にしてもらおうかしら。いこうよ」
雅子と百合ちゃんが船底を引っ張ってブオンとエアホーンを鳴らして出発した。
「隆弘さんですね。すみませんがここに隆弘さんの車で行くようお願いいたします。」
この前の神山さんが隆弘に紙を渡して指示を出した
「はい、向かいます」
そう言うと隆弘はブババババっとマニ割の音を響かせダッシュしていった。
「悟瑠さん。トラクターに鉄骨乗せたトレーラーつなぎますね」
「はい」
僕は神山さんの誘導に従ってトラクターをつないでいた。
ブレーキの緩解やエア漏れのチェックを済ませると
「悟瑠さんはここです。通行証なので携帯お願いいたします。全長は18メートル、重量は総重量で50トンギリですので」
「はい。いってきます」
僕は3軸トラクター鉄骨を満載したトレーラーを3軸トラクターで引っ張り出発した。
エンジン換装の効果で凡そ10000ccの排気量アップされていて苦手だった発進がかなり楽になっていた。
元々V10エンジンは低速重視のトルク特性に仕上げてあるので最大のトルクこそ20kgの違いだがターボか効いてない回転数では排気量の差がモノを言ってこ線橋の登りでもセカンドで発進出来て運転が楽になっていた。
一日鉄骨運びをやってアジトに帰って来た雅子にエンジン換装の効果を聞くと
「うん、お兄ちゃん、いいよこれ。実力で480psでしょ。発進も楽でしかも百合リンのトラクターがターボ効いても簡単についていけるよ。」
「それは良かった。480psとトルクは170kg・mだ。トラクターヘッドは460psで163kg・mだよ」
「そうかあ。それじゃあねえ」
夜にアジトで次の日の休みの準備していると
「え?百合ちゃんのTSカー作るから場所を貸してくれってか」
「隆弘さんね」
「うん、愛理沙ちゃんの積載で運んでくるって」
「隆弘さんもお休みないよね」
「そうだな。僕も愛理沙ちゃんのTSカーやるか」
休みの日の使い方が決まったのだった。
初めてのバトルにも関わらず勝っちゃう愛理沙ちゃん
相手の弱点を突くのはさすが
今度はパワーアップしたトラクターのおかげで作業が楽に
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