第四話 2回目のビジターバトル
2度目のビジターバトルに行く雅子
しかし、相棒のイチゴちゃんが
「お兄ちゃん、再来週また遠征だからね。隆弘さんがさ、また挑戦状たたきつけちゃって、○城のダウンヒルよろだってさ、○田方面の道っていってた」
9月、秋分の日があった週の金曜の夜だった。
いつものようにスーパーの仕事から帰ってきた妹の雅子が、通勤用の軽自動車をガレージに停めて家に入るという。
その日は雅子も僕も残業で遅くなって、時間節約のために雅子が勤めているスーパーからお弁当を買ってきていた。
「隆弘から聞いてるよ、雅子にとっては2回目のビジターバトルだ。この前の○葉ラインと同じだよ、如何に早くそこのコース攻略方法をつかむかだ。今から下見行くぞ。ごはん食べたら出発だ」
「OK、今日は何で行くの?サンゴちゃんかな?そうだ、隆弘さんから動画ももらったよ、今度はUSBに入れてきた。隆弘さんってよくバトルするチーム見つけるよね」
「ああ、僕もみたよ。このコースは高速と低速が組み合わさってるから、結構セッティング大変かも。隆弘はネットワークが広いからね。下見はサンゴちゃんでいくか?ちょうどショックもオーバーホール終わって組んだばっかりだから調子見るのもいいな」
「さすが、お兄ちゃん。お弁当食べて着替えて出発ね。この前の所よりも近いから楽ね」
「だな、サンゴちゃんの準備するから、ごはんの準備頼んだよ」
「OK、じゃ、案内お願いね」
そういうと、僕は出発の準備だ。サンゴちゃんはエンジンの慣らしが終わって、最近はお店への通勤にも使っているのでそのままエンジンをかける。
念のため音を聞きながら異常がないか確認して、異常がないとわかったらそっとリフトにうつす。
リフトで持ち上げ、タイヤを浮かせるとギヤを2速にいれてアイドルのままエンジン水温が80度くらいになるまで待つ。
エンジンと駆動系を暖機するのだ。
その間、夕飯を食べて、店の名前が入ったつなぎを脱ぐと、いつものサポート用つなぎに着替える。
雅子も夕飯を食べると、スーパーの制服を脱いでジーンズとドライビングシューズに着替えてきた。
妹の佐野雅子、普段はターボチューンされた軽自動車で会社に行っている入社3年目、4月生まれの21歳。
高卒ではいったスーパーの本社で経理をしている。
妹は地元の商業高校を断トツ1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシックなら任せての技能をもっていたので、地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら3年目の今は大卒と同じくらいの給料をもらっている。
あろうことか雅子は自力で各店舗から集まる情報処理集計システムを組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも雅子が作ったソフトのほうが勤めている会社の事情に合っているのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とシステムのメンテナンス費用が浮いた。
万一、おかしなことが起きても、雅子がすぐに治せる。
その褒美もあって、雅子は高卒では異例の速さで主任に昇格してしまったのだった。
それに集計の自動化を進めた結果、仕入れと売上関連の報告がほとんど一目でわかるようになって社長も大喜び。
その成果が認められ、高卒の3年目途中で主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになったという。
7月からは今年入ってきた新人の大卒を部下にもって指導しているのだから驚く。
その雅子が行くと言っているのは峠だ。
雅子は高校3年で免許を取ると同時に峠を走り始めて既に3年がたっている。あっという間に上手くなってその地域でトップクラスの速さになっていた。
得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入って全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中では雅子しかいない。
ダウンヒルなら雅子が一番だ。
僕:佐野悟瑠は雅子より4学年上の3月生まれの24歳。
大学を卒業してすぐに家業の中古車屋に就職して3年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は実家の中古屋の整備工場で働いていて、中古車の納車前整備やトラブルが起きた車の修理をしていて、時には中古車査定もする。
大学のころから家業の手伝い=アルバイトしていてMIG溶接機やフレーム修正機はバッチリ使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
加えて、○ントリペアも勉強して資格もとった。
僕は中古車で人気がないが、程度のいいFRを見つけては整備して雅子の走り仲間へ売っている。
必要ならエンジンとミッションの載せ替えもやるのだ。
今、僕と雅子は僕の同級生がリーダーを務める走り屋チームにいる。
僕はそのチームの整備係になっている。
「お兄ちゃん、動画見てさ、気が付いたんだけど、ここって結構ブラインド多いよね。対向車の処理が難しいのかな」
「うーん、車線は別れているから、何とか行けるんじゃないかな?この前と同じく低速から高速ステージへの切り替えがうまくいけばって感じかな?」
「まあ、そういうことね。イチゴちゃんそろそろオイル交換しないとね。なんか上の切れが悪くなってるの。残りの500回転が苦しそう」
「上の切れ?そうか、腰下オーバーホールいつだっけな?圧縮抜けかな?クリアランスがひろがったかな?」
「うん、たしかヘッド交換する前にやって、後はしてないから1年は過ぎてるかも。結構無理掛けてるからね。圧縮が抜けてきてるかも」
「OK、今週末はオーバーホールをやっちゃおう。ピストンリングとメタル、シリンダーみて修正するか決めよう」
「ありがと、でさ、部品はあるの?」
「あるよ、ばらしてみて変なこと起きてないかだよ。ブロックまで逝ってたら時間がかかる」
「そうよね」
雅子のいう通り、この前からの遠征や地元でのバトル続きでイチゴちゃんを酷使しているので、エンジン関係がそろそろくたびれてきたのかもしれない。
このところボディを重点的にみていて、エンジン関連はあんまり見ていなかった。
今、イチゴちゃんはボディの後ろの補強がうまくいって後ろのスタビを強化できた。それでトラクションの掛りがよくなった。
加えて、後ろのばねを下げて、粘りをだすセッティングにしてある。
フロントも同様で、スタビ取り付け点の補強がうまくいっているので、コイルバネの定数を下げてもロール量は変わらない。
踏ん張りで言えばやや後ろが踏ん張る設定にしている。
その特性は、向きがきちんと変わる前や舵角が大きいとき、アクセルオンするとプッシュアンダーが強めに出る。
雅子はその特性に既に慣れてガンガン踏んで行っているので、エンジンに負担がかかったのかもしれない。
出発準備が整った僕らはサンゴちゃんに乗ってアジトとしている祖父母が住んでいた家を出る。
祖父母は病院に通うのに不便ということで、麓にある中古車屋に併設してある僕らの実家に入った。
それと入れ替わりで雅子と僕が祖父母の家に住んでいる。
今日出番のサンゴちゃんはC35○ーレルだ。
○34GTRの部品と80○ープラのT/M部品をつかっていじってある。
エンジンは特製の86mmクランクと○B26用のビスカストーショナルダンパーを組んである。オセアニアむけ○ファリのブロックを使ったボア径87、ストローク86の3リッター仕様でヘッドに機械加工して9500rpmまで回せるようになった。
ブロックはダミークランク+ダミーヘッドを組んでボーリングとホーニングしてありフリクションをがっちり減らしてある。
もちろん、ヘッドは○B26ヘッドにしてある。
最高出力もNAながらも約300KWを8700回転で叩きだす。
見かけもワイドフェンダーに換装してあって、空力関係も純正のリアスポからGTウイングに、タイヤも広くなった車幅を利用して245/40-19を履かせている。
そのボディも一旦、どんがらまでばらして、弱いと言われているセンターフロアとリアフロアのつなぎをしっかりさせたのだ。
空冷式オイルクーラーも組んでいて、場所は純正のインタークーラーの場所に組んであるのでパッと見では全く分からない。
しかし、室内を覗くと只者でないことがよくわかる。
純正にない6MT仕様で冷却関係の各メーターがダッシュボードに並んでいるし、車内にロールゲージを組んである。
T/Mは○34GTRのおかまと80○ープラのお尻を組み合わせ、ペラは某製作所特注の強化競技用をサンゴちゃんのホイールベースに合わせて作ってある。
ファイナルは低速のトルクに余裕があるので3.7にしてある。
オイルポンプ焼付き対策でドライサンプにしてるのもこの車のポイントだ。
この車は後ろのボディーフロア構造がイチゴちゃんと同じなので、これで強化の効果を試して、イチゴちゃんのボディー剛性アップになる様部品開発しているのだ。
この車は重量がイチゴちゃんよりも重いのでブレーキも進化して○34用の大口径4ポットベンチに換装した。
17インチ用のブレーキと違って余裕が増えて、いつもの場所ならフェードの兆候すら出なくなった。
この前のようにサンゴちゃんに各計測機器をセットして現地に向けて出発した。
次の日イチゴちゃんのエンジンを下ろすので時間を稼ぐため、家の最寄りのインターから高速に乗っていく。
「お兄ちゃん、イチゴちゃんね、なんか、あと500回転かな?ってところで、苦しげなんだよね。音も変だし」
「そうか、レブは9000rpmだよね」
「うん、そう。8500rpmから上で前よりも伸びが無くなってる。なんか重いっていうのかな?サチってるっていうのかな?」
「そうか、それならピストンがやばいかな?リングだけならいいけど最悪は燃調もみないといけないかも。タービンもいったかな?リングで済めばいいけど」
「そうなんだ。ま、お任せするよ。お兄ちゃんの整備の腕は信用あるからね」
「ありがと、見てみるよ。最悪オーバーホール間に合わなかったらサンゴちゃんで走るかもしれないから、今日は自分でもしっかりこの車で路面の感覚つかんでおけよ」
「OK、そうね」
そういっていると雅子と僕は現地についていた。
いつものように下からゆっくり登っていく。
サンゴちゃんの前後左右にカメラを着けていて、画像をとってきた。
僕は各コーナーでのギヤ位置とエンジン回転、スピードのデータも同時に取った。
GPSとヨーレイトセンサー、3方向加速度計も使って軌跡も記録した。
下りは雅子がハンドルを握る。
「うーん、やっぱりサンゴちゃん前が重いからかな?ちょっとイチゴちゃんよりアンダー強めに出るね。その分考えて走るね。あとはミッションのギヤ比がちょっと高いんだよね」
「うん、路面感覚を勉強してくれ」
「もちろんよ」
雅子がスピードをあげる。本人は60%と言っているが、その走りは21歳の女の子ではない。
この前と同じくトーヒールは完璧で全く回転にずれがなく、測っていると時々7m/s2以上の旋回加速度でコーナーを抜けている。
ブレーキも同じで、踏み始めが優しいので気が付きにくいが、時には7m/s2以上で減速する。
以前より格段にスムーズなので隣にいると気が付きにくいがデータを見てびっくりする。
「このへんって右コーナーがブラインドだからって、左ばっかり走るとイン刺されちゃうよね」
「うん、ここは対向車をいかに早くつかんで、どこですれ違うか予測することだよ」
「うーん、そうなると対向車がいる時と居ない時でラインが全く違っちゃうのね」
「うん、そういうこと。相手も正面衝突避けるから簡単には来ないよ。夜ならヘッドライトの光でわかるし」
「はーい、そうよね」
コーナーいくつか過ぎた。急にストレートが長くなる。
ここから高速ステージだ。
「雅子、ここから高速ステージだ。一気に速度上がるから対応するんだぞ」
「うん、ここからね。たしかに、えー?3速でここまで?○葉ラインとおんなじね」
サンゴちゃんのエンジンが3速で8000rpmまでまわっている。
クランクの剛性上げてしっかりバランスとっているのでエンジン音は小さく8000rpm迄回っているとは思えない。
「イチゴちゃんなら確実に4速に行くぞ。急に変わるからね」
「いきなりだねー。ここはやばいって」
雅子は流しているので、連続するコーナーをほとんど3速で抜けて行く。2速主体のタイトから、3速、4速主体の高速への切り替えもうまい。
「雅子、減速、2速迄おとせ。ここからまたタイトで低速になる」
「うん、うわー最終近くはタイトなんだね」
「そう、だからここはセッティングが難しいんだよ」
「そうよね、低速重視だと高速で安定しないから踏めないし、高速重視だと低速でドアンダーで曲がんなくってって感じかな?」
「さすが、雅子。わかってるじゃん。ミッションのギヤ比もだよ。中速コーナー主体だから、サンゴのはエンジンがトルクあるから合うけどイチゴちゃんは3.7か3.9か迷うところだよ」
「さすがお兄ちゃんね」
雅子が感心したように言う。
サンゴちゃんで下見した後、家で動画や取ったデータの分析をしていた。
雅子はエクセルデータ落としたらマクロで走行軌跡から速度、ギヤ位置、エンジン回転までわかる分析ソフトを作っていたので、分析中はコンピューターに任せていつものようにお風呂に行って寝ていた。
次の日曜日、僕と雅子はイチゴちゃんのエンジンをばらしていた。
土曜日の夜に水を抜いておいてあるので、ラジエターを先におろす。そのあとハーネスのコネクターを外して、残った配管も外してミッションとの結合も切ってエンジンを下ろす。
エンジンスタンドに固定してバラしていく。
ここには電動ホイストもあるので作業が楽だ。それにごく低速モードがあるので、微妙な高さ調整も楽ちんなのだ。
お昼ご飯のあと、ヘッドを外す。
ばらした限りではヘッドには問題はなさそうだ。
ヘッドのひずみも測ったが、全く問題ない範囲だ。
次に腰下を確認していく。するとトラブルが見つかった。
「あ、これやばいや。第一メタルが限界だ。それに第4気筒のピストンランドが溶けかかってる。ここは燃調薄かったか?」
「え?結構重症?」
バラシの作業していた雅子が聞く。
「うん、第4のピストン交換だよ。重量はいくつだっけな?」
「ちょっと待って」
雅子はそう言うと、手を洗ってタブレットを操作した。
「これかな?320.5g」
「うん、これ。ちょうど320.5だ。あとは径も合ってればいいな」
「えーと、これ合いそうよ。86.55」
「おう、これこれ。合ってる。ってことは87用のリングがあればいいや。見る限りシリンダーは無事だから」
「じゃあ、イチゴちゃんで行ける?」
「うーん、ちょっと無理かも。燃調が4番目が薄いみたいなんで、インジェクターもチェックして、リセッティングするから。来週は間に合わないよ。仕方ない、来週はサンゴちゃんで行こう」
「仕方ないなー。結構重症なのね。じゃ、お兄ちゃんのサンゴちゃん借りるね」
「おう、ターボじゃない分レスポンスいいから気を付けろよ。あとはサンゴちゃんはイチゴちゃんよりも前が重いからどうしても限界の挙動がイチゴちゃんよりトリッキーなところがあるんだよ」
「はーい。じゃさ、来週は早目に乗り込もうね。サンゴちゃんになれるから」
次の週、僕と雅子はローダーにサンゴちゃんを積んで早目に集合場所の駐車場についた。
一往復してセッティングを考えていると、走り屋仲間が来た。
「雅子、調子はどうよ?」
隆弘の弟の隆文が声をかける。
「今日はイチゴちゃんエンジントラブルで走れないから、急遽サンゴちゃんなんだ。セッティングに時間かかるかも」
「仕方ないね。雅子、今日も頼んだぜ。ダウンヒルじゃ雅子がチームのトップだからね」
「ま、何とかね。隆文、クライムはヨロね」
「OK。任せろ。この前みたいにぶっちぎりだな」
「隆文、その調子だぜ」
「悟瑠さん、エンジン調子いいですよ。さすがです」
「ありがと」
そういうと、雅子と僕はサンゴちゃんで足回りのセッティングを再開する。
分析ソフトの結果を入れてきたといっても、現地での調整がいる。
「うーん、ちょっとタイトはアンダーね。高速はいいんだ」
「そうか、後ろのダンピング2段上げてみよ。高速に合わせすぎたかな?元々アンダー強いのは仕方ないんだけどね」
「うん、ちょっと戻ってもう一回ね」
「雅子、右コーナーの処理で決まるから、駄目なら後ろのスタビをあげるしかないね」
「うん、でもまずダンパーでみてからね」
もう一回下る。
後ろの減衰力を2段階あげたセッティングのほうがいいと雅子はいう。高速でもいいことにアンダーが減って踏めるとして、スタビはこのままでいくことにした。
チームのもう一人のドライバーである隆文は雅子の一つ上で、チームリーダーの隆弘の弟だ。
乗っているのは〇ガシーだ。
これはエンジンを2.2から2.5にしてパワーを稼いでいる。
パワーバンドを重視して330kw仕様にしてある。
他にはロールゲージを組んである。
ブレーキはサンゴちゃんと同じだ。
こちらのセッティングも終わってここのルールを説明して開始だった。
ここは広いので、並んでのスタートだ。
とにかく先にゴールしたもの勝ち。
一発勝負だった。
今回も先にダウンヒルで雅子と僕はスタートラインに車を停めて作戦を話している。
相手はメガーヌトロフィーだった。
ロールゲージを組んでいるところからすると、結構いじってそうだ。
雅子が降りてサンゴちゃんのタイヤをざっと自分の目で確認して乗ろうとしたときに、
「おめえ、ビジターが美人でも手抜きすんなよ。もう勝ったようなもんだからってナンパしてんじゃねーぞ」
そう相手チームリーダーらしき奴がドライバーにのんきに言うのが聞こえる。
ピキッと雅子が反応する。
乗り込んでドアを閉め、ベルトを締めると、
「へん、あたしをナンパの相手としか見ないんだったら痛い目に合わせてやろうじゃん。勝ったようなもんよ、油断してるし」
もう完全に雅子はバトルモードに切り替わって、眼の中の炎が見える。
雅子のスイッチが入ってしまった。
そう、雅子は普段の生活ではおくびにも出さないが負けん気がめちゃくちゃ強い。その負けん気で突っ走っている。
二台並べて僕をナビシートにのせてスタートの準備完了だ。
雅子はサンゴちゃんのエンジンをレーシングして、スタートの合図を待つ。
スターターの両手が下がってスタートだ。
キャリキャリキャリと絶妙のホイールスピンとともに立ち上がっていくサンゴちゃん。
向こうはどうやらスタートしくじったのか?ダッシュで既に2車身離れている。
「雅子、8500rpm以下でまずは走れ。舵角はこの間のバトルのようにするぞ。前の重さはあっちと同じくらいだ。フロントタイヤが勝負を分けるぞ」
2速で全開の雅子。
「OK、ブラインドの対向車ヨロね」
タコメーターの針が8500rpmに近づく。
ゴグっと3速にたたき込んで更に全開。1コーナーはややきつめの右だ。ターンイン前で2速におとし、しっかりインを締めて下る。
次はすぐ来るが、2速8500rpmまで上がる前にブレーキング。今度は左コーナーだ。
ここもしっかりインを締めて、この前のバトルを応用して荷重移動を目いっぱい使って舵角を減らして走る。
タイトではサンゴはややフロントヘビーなので、フロントタイヤを極力労わって走る。
タイトを10個ほど抜けると一回目の高速ステージだ。
「雅子、ここからはMAXの9500rpmまで回せ。今は後ろが離れてかけている。逃げ切るぞ。2回目の高速ステージに備えてタイヤを温存してるんだ。多分、10車身離れたら焦るはずだ。うしろが離れた今ならベストタイムラインが使えるから、今のうちに目いっぱい行くぞ」
「OK、レブ目いっぱいね」
最初の高速ステージで、レブめいっぱいの9500rpmまで引っ張りシフトチェンジ。相手の作戦の裏をかくため回す。
「まさこ、先のタイトは1速も使うぞ」
「え?いいの?OK」
「ストレートの後のタイトは1速まで落とせ。遠慮なく9500rpmまで回せ」
僕は雅子に指示を出した。
その通り、雅子が踏み込む。一気にリミットの9500rpmを目指すサンゴちゃんのタコメーター。
間隔が更に開く。相手は虚をつかれたようでシャカリキになってきた。
タイトコーナーがせまる。雅子は4速から一気に1速までシフトダウン。狭いので1速でもタコが7000rpmまで落ちる。
「いいぞ、雅子、対向車なし。目一杯2車線つかえ」
「はいよ」
コーナーを立ち上がってすぐさま2速。
これを抜ければストレートだ。
メガーヌは15車身離れたようだ。
窓を開けて聞いていると、相手はギヤが合わないのか?2速で立ち上がったようで重そうな排気音がする。
予想通りだ。レブリミットの関係で相手は立ち上がりで1速がつかえない。
短めのストレートを3速9000rpmまでまわして左ヘアピン。
2速に落としてそのまま右の広めのヘアピンをクリアするとトンネルだ。
トンネルでも9500rpm迄回してシフトアップ。
3速の8500rpm当たりでトンネルの出口。そこは直角で2速でクリア。
曲がった先はかなりのタイトなヘアピン。
2速から1速におとしてクリア。次の右は目いっぱい車線をつかって2速でクリア。
タイトを抜け、やや大きめのヘアピンを3つクリアして最後の高速ステージだ。
後ろのライトが遠くになっている。
「次の左大Rは気を付けろ。オーバースピードだと刺さるぞ」
「OK!おりゃー」
雅子は大Rをきれいな最小限のドリフトで全開のまま抜ける。敵チームながらギャラリーから拍手が起こる
「雅子、あとは右を抜ければゴールだ」
「はいよ」
3速全開のまま右コーナーを抜ける雅子。
ぶっちぎりでゴールインだった。
約15秒遅れてメガーヌがゴールイン。
ふと気が付くと、メガーヌの排気管から白煙を吐いている。
後付ターボの様で無理がかかったのか?ピストンが棚落ち気味かもしれない。
「雅子、お疲れさん。あとは隆文に任せよう」
「お兄ちゃん。サンゴちゃんって、イチゴちゃんよりも下からトルクあるし、パワーバンド広くって乗りやすいんだもん。弾ける様なレスポンスでしょ。こんなエンジンがイチゴちゃんに乗ってたらもっと楽よ」
「乗りやすかったか。さすがだよ、あっという間に乗りこなしてるんだから」
「お兄ちゃんのセッティングって、乗った感じがイチゴちゃんと似てるんだもん。すぐ乗れちゃうわよ」
「雅子のセンスだよ」
ヒルクライムもメガーヌトロフィーだったが、どうもレブリミットが〇ガシーよりも1000rpm以上低かったらしく、隆文が最後のひと踏みでノーズ分の差分の勝利だった。
全員でハイタッチして勝利を喜んでいた。
「雅子、ぶっちぎりとは恐れ入ったよ。イチゴちゃんじゃないからヒヤヒヤしてたんだ」
「隆弘さん。これはサンゴちゃんのエンジンのおかげ。サンゴちゃんを作ったお兄ちゃんのお陰ね」
「悟瑠、良い車ありがと。隆文もよかったってさ」
「いいってことよ。まいったよ。イチゴちゃんのエンジンが思ったより重症でさ。オーバーホールが間に合わなかったんだよ。燃調薄くてピストン溶けちゃったんだ」
「そうよ。急遽だったけど、サンゴちゃんの足回りのセッティングがイチゴちゃんと似てたから勝てたのよ。後はエンジンね。はじけるって言葉がピッタリなレスポンスよ」
「さすがだよ。悟瑠も走ればいいのに。ジムカーナじゃアマチュアナンバーワンだったじゃん」
「ま、いいってことよ。ドライビングは雅子に任せるから」
解散して僕らは帰宅した。
一眠りしたらイチゴちゃんのエンジンのセッティングの続きをやっていた。
すべてのピストンリングを交換したので軽く慣らししていた。
しかし、僕は一つ重要なことをチェックしていなかったのだ。
サンゴちゃんでも勝ってしまった雅子。
次はどこに?
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。




