第三十九話 百合ちゃんのお兄さんのコレクションとドリ車の訓練で
百合ちゃんのお兄さんが見つけてきたのはどんなダンプカー?
雅子が走りの講師になって
兄妹で競技に出る愛理沙ちゃんとその兄の決着は?
「あたしも。助かったわよ。それにしても雅子のお店に仕事頼みっぱなし。ええええ?ちょっとなにそれ?またあ?」
ピンポーンと百合ちゃんのスマートフォンに着信が有り、それを見た百合ちゃんが呆れたような声で言う
「百合ちゃん、どうしたの?」
「お兄ちゃんがおじいちゃんちの納屋にある旧い6トン積みのボンネットダンプを公道復帰させたいんだって。雅子に整備お願いしたいからってあたしからよろしくだって」
「まさか?それってダンプをレストアしてくれってこと?」
「そうみたい」
「えええ?また大型車のレストアかあ?」
「あたしの家はレストア屋さん?普通の修理工場なんだけど」
レストアのお仕事がいっぱいくる僕らだった。
次の日会社に行くと親父が
「雅子はもう乗って来たのか?見ためリバースシャックルにしてあるところからすると脚周りを相当いじったな。ってことは隆弘君の知見入れたね。」
「バレちゃった?スタビ入れてラテリン入れて、総輪の縮み側をエアアシストにして、ロングの2枚リーフと特製のロングシャックルにしちゃった。サスのストローク取りまくったらすごいわ。乗り心地良すぎ。キャブサス要らないよ。それにフリクション下がってるからダンパーいじらないと振動残っちゃう。お兄ちゃんと相談して取り付け点の補強してるんだよ」
「全く、雅子はこれだぜ、悟瑠の車はまだか?」
「親父。僕のはまだ脚が終わってない。隆文のエンジン積みかえて煙突マフラーを作るのが先になってる。休みが終わちまった」
「悟瑠、雅子。マニ割はな、生のV8にこそ効くんだよ。V8の欠点の排気干渉がなくなるからパワーアップする」
「あ、そう言うことか。親父が作るとそうだよな。言われてみればそうだな。2軸トラクター見て形が独特だと思ったけど確かにそうだ」
「わかったか?俺が作るV8のマニ割は片側のバンクの燃焼間隔が90度位相のところを叩きにするために抜くんだよ。そうすると残った3気筒の燃焼間隔が4気筒のマニ割の残りの3気筒と同じになる。排気が干渉するところを叩きにして抜くから叩きとその直前の気筒の排圧が上がらなくて排気の抜けが良くなるんだよ」
「あ、パパ、そう言うこと?排気系から言ったら4気筒×2になるのね」
「そう、とはいっても通常の4気筒と比べると燃焼間隔が90度ずれてるから叩きのタイミングが90度ずれるのは愛嬌だな」
「そうかあ、親父ある意味良い手だね。V8の場合はバンクの片方は燃焼間隔が180-90-270-180だよな」
「そう言うこと、90度のところを叩きにする。そうすると残った3気筒の排気間隔180-360-180になる。ところが安直にやろうとすると、端を割るんだけどそれだとどうしても90度が残って排気の干渉が起きる。音だけなら良いけどな」
「そうだよね。親父の方式だと、180-360-180だよな」
「そう、安直にやると残った3気筒の位相が180-90-450だよ」
「なるほどね。4発のマニ割って残った3気筒は180-180-360よね。パパの割り方だとそれに合っちゃうのか」
「そう、それに全部の気筒をステンで作るんだよ。ってことはエギマニの長さが取れるから排気の干渉が減るってこと」
「道理で、それが隆文はマニ割にしたらあゆかちゃんが異様に速くなったって言ってるわけなのね。高速が伸びるって言うのも」
「雅子、その通り。うちの2軸トラクターもマニ割やってるから、30ps位上がってて実力でカタログ値は出てるよ。高回転の詰まりがなくなるんだよ」
「パパさすがね。考えたわね」
「雅子の総輪駆動はマニ割りじゃなくてターボか?」
「うん、17.2リッターのV8なんだよね。ターボで440ps/2200rpm、153kg/1400rpmにしてる。もうちょっと欲しいけどミッションの関係でやめちゃった」
「その辺がいいところだな。それ以上はオフロードには要らないよ」
「そうだけどね。あたしはオンロードの方も重視してるのよ」
「速いのが好きなのは康子と変わらんな。車の好みは人それぞれだからな。そうだ。丸松建設から依頼来たぞ。5.5トン積みのダンプ直してくれって」
「親父、どんな車?」
「型式は71年式のDU780Hダンプだ。ND6を積んだモデルで5.5トン積みの中型増トンのボンネットだな」
「中型増トンのボンネット?そんなの有ったのか?」
「そうだ。まあ。エンジンのオリジナルは135psなんで決して速くはないけど堅牢でいい車だよ。この系列のエンジンは2000年まで生産されていたから万が一壊れてもOKだ。エンジンもいじるか聞いてくれ。いじるならNF6ターボ+6速ミッションだな。後はターボ取っ払うか?」
「あったなあ、9.2リッターの320psだね」
「ああ、そのくらいあれば文句は出ないよ」
「へえ、結構遅くまでエンジンは生産されていたのね」
「P系と似たような時期までだな。部品は何とかなるよ。Pはディーゼルカーで使ってたから未だに部品は手に入るよ」
「そうかあ、エンジン回りは何とかなるな」
「5.5トンボンネットは画像来てるぞ。見たとこ幸いなのはフレームが大丈夫ってことだな。問題はエンジンがかからないらしい。エンジンを開けてみてひどいようならNF6に載せ替えかな?俺はそっちがいいと思うぞ。ラジエターも錆びまくってるだろうからNF6用に交換して。NAで行くならミッションはそのままで何とかなるだろ。公道を走れるようにしてくれって依頼だ」
「はあ、やっぱり直すの本気なのね」
「雅子は先に丸松のお嬢ちゃんから聞いてたんだろ。それなら話が早い。あの3人に頼んでやってもらおう。今週はあんまり急で詰まってる仕事ないよな」
「それがあるんだよ。ダンプの車検が2台急いでって依頼が来てる。そのうちの一台は僕が改造したのをやるんだ」
「ああ、もしかして、エンジンとミッション換装したダンプか?」
「そう、11リッターから13リッターに載せ替えた奴。その一月後にはV10ダンプのマニ割が来る。もう1台は前にバトルした狩野さんが持ってるダンプで古いけどスードルのV10を積んだやつ。丸松建設で使っているから急いでくれって」
「ああ、あのダンプな。確か笠木のお店で買ったやつだろ。今はダムの底攫いの季節だもんな。今のうちにやっておかないと堆積物が腐ってやばいからなあ」
「そう、連続で車検きまくるから。その次くるV10ダンプは親父がマニ割りやった車だ」
「わかったよ。大変だけど仕事有っていいかもな。件の5.5トンボンネットはちょっと遠いところにあるから引き取りは新しく入って来た超低床船底で行け、トラクターは3軸トラクターがいいぞ。急坂の多いところだからパワーがいるのとリターダー増設してあるから」
「分かった。雅子と行ってくるか。隆文には車検の仕切りまかせて」
「お兄ちゃん、百合リンに場所を聞いておくね」
「よろしく。明日行くと伝えてよ」
「はーい」
その後、ぼくらはエンジンとミッションを積み替えたダンプの車検をやっていた
「悟瑠、このダンプの左後ろの2軸目、ブレーキがヤバいよ。なんか引きずっていそうだ」
「グリス不足?なんだ?」
「いいや、エアがおかしいのか?分からないけどブレーキが完全に緩解して無い」
「それはヤバい。完全に緩解しないとブレーキ焼けるだろ」
「そう、ほら見ろよ、ライニングに焼けかけた跡。こっちの3軸目は無い。ってことは気がつかない位の引きずりを起こしてる」
「それはマズイ。ホイールパークだからパーキングが軽くかかったままなんだな。緩解用のエアが不足か?」
「そうかも」
「隆文、エンジンかけてくれ」
「はい」
くううっとスターターが回ってぐろろろーんとエンジンが始動した。
「パーク緩め頼むぜ」
すると、しゅーっとエアが漏れる音がする。
「隆弘、これは緩解用のエアシールが逝ってるな。シールやり直しか」
「だな」
「隆文、ブレーキのどこから漏れているか見てくれ」
「兄貴、なんかこの車のエアドライヤー汚れって言うか劣化が酷いんだけど」
「やっぱりなあ。だと思ったよ。空気が逃げてるからコンプレッサーも結構回ってたんだろ。それじゃあ湿気吸うだろ」
「そうなんだ。どっから漏れてるか調べてみる」
隆文が聴診器を耳当ててあちこち調べていた。
「反対もみようぜ」
「だな」
僕らは隆文が見ている間に反対側もドラムを開けてシューを見ていた
「こっちは大丈夫だな。前も大丈夫だ。ディスクブレーキは整備は楽なんだがパッドの交換が結構頻繁らしい。ドラムだと2車検持つみたいだ」
「隆弘、それはパッドの面積小さいからだろ。それにドラムよりも制動中心が小さいからなあ、フェードには有利でもなあ」
「ああ。悟瑠、この車はリターダー追加したのか?」
「うん、電磁3連装+強力排気+吸気シャッターにしてる。聞いた通り下り坂多いところにしょっちゅう行くっていうから」
「やるなあ、そこまでやったか」
「聞いたら丸松建設の現場にも出入り多いっていうし、ダムの底攫い工事にも行くって言うんだよ」
「なるほどな。それなら土砂満載で下り坂走るんだろ」
「そうらしい。隆弘の親父さんのところも峠越えを走るトラックにはリターダー追加しただろ」
「ああ、そうか。親父も古いけど峠越え専用で大排気量残してるもんな。このドライバーの予備車はV10積んでて排気量が20000cc超えてでかいからエンブレ力が不足しないのか」
「そう、このダンプ他は足回りに不具合なさそうだな。隆文は見つけたかな?」
僕らは隆文のところに行った。
「兄貴、わかったよ。アクチュエーター本体から漏ってるよ。交換?」
「本体の不良なのかわかんないけど交換しないとやばいでしょ。部品はあるだろ」
「交換だな。手配しよう。外したやつはばらしてみてみよう。簡単に治るなら直して予備にしよ」
「そうだな。ブレーキの引き摺りが車検で見つかってよかったよ。悪化してたら火災になっちまう」
「そうだな」
僕は雅子に頼んで部品を取り寄せを頼んでいた。
持ち主には引き摺りが発生してて交換が必要と連絡して部品を手配していた。
次の日。僕と雅子は3軸トラクターで超低床船底を引っ張って百合ちゃんのお爺ちゃんの家に向かっていた。
「お兄ちゃん、ボンネットって百合リンも持ってるけどお兄さんもちょっと小さいの欲しくなったのかな?」
「そうかもね、そうか、自分でもボンネットトラック買って来てよね。ボンネットトラックが好きなのかもね」
「ああ、そう言えば3軸ボンネットダンプは家業用になったんだよね。えええ?結構きつい坂ね」
そう言ながら超低床船底を引っ張ている3軸トラクターを運転して百合ちゃんのお爺ちゃんの家に向う妹の佐野 雅子。
峠のバトラーからスタート、無敗のままバトラーを卒業、その後はドリフト競技に参加して3回も優勝して卒業。
今はTSカップのレースに参戦している24歳。
耐久レースでは自分で燃費とタイヤのマネージメントする方法を考え、それを実践してベテラン勢の作戦を躱して優勝してしまった。
雅子のTSカーはうちの会社の他にも元職場のスーパーと百合ちゃんの家の建設会社からもスポンサーを受けている。
凝り性のある雅子は今、オフロードに嵌ってしまって大型の総輪駆動を買ってきて走るためにエンジンをいじって、サスペンションを自分好みにいじってしまった。
その車はV8の大排気量エンジン、しかもターボ迄追加しているので、パワーが有って速い車が好きな証でもある。
オフロード車をいじった時は隆弘が詳しいのでエンジン特性やサスペンションのセッティングも勉強できてしまいとてもたのしそうだ。
雅子は親が経営している中古車販売店兼整備工場では、経理、整備の段取り担当の副社長になっている。
運転免許は大型2種免許と牽引免許を持っていて、2級整備士の資格も取っているので仕事で必要なら大型トレーラーや積載車を運転して買い付けた車の引き取りや、整備工場に来て納車前のお客さんの車をメンテもやれる。
それに運転だけでなくプログラム組むのも好きなので、実家の規模に合わせたいろんな経理システムを自分で組んでいて、両親も大助かりといっている。
自分の車の脚を組むときに計算してスペックを探してしまっていた
雅子は僕といっしょに仲間内からアジトと呼ばれている祖父母が経営していた製材所の跡に併設してある家に住んでいる。
そこから市内のお店に通っているが、使う車は大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスを改造した貨物車のU-RP210GAN改280ps仕様か、エムエム君と呼んでいる、大型9メートルカテゴリーのバスを改造した貨物車の○アロスターMMのU-MM618J改の300ps仕様だ。
この2台には以前勤めていたスーパーから買っている使用済みの食用油をリサイクルして作ったバイオ燃料を使って環境に配慮している。
その燃料は会社で使ってるトラクターやバス達、積載車にもつかっていて環境にやさしいBDFとステッカーを貼っている。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の3月生まれの27歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して6年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の中古車販売店、整備工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから2級整備士を取って家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金もできるようになった。
会社にはいってから、へこみのリペア、カラスリペアと危険物の免許と玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
免許は大学在学中に大型をとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっている。
オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していく。
使っているキャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
またバスの管理士になれるので、中古の大型観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
ほ他には丸松建設のバスの管理もやっている。
僕らの両親はどちらも車が大好きでそれが高じて中古車屋兼大型車や建設機械の整備もする整備工場を経営している。
その関係で小型車を整備する場所が不足することに備えて僕と雅子が住んでいるアジトのガレージもお店の工場にしてある。
アジトにある車両をいじる設備はすべて中古ではあるが、大型車対応のボードオンリフトが2機、大型エアーコンプレッサー、スポット溶接機、MIG溶接機、プロパン+酸素バーナー、レーザー溶接機、グラインダー、エアツール一式、板金道具一式、定盤、2000トン油圧プレス、油圧けん引機、油圧ベンダー&カッター、ボール盤、旋盤、フライス盤、20トン対応天井クレーン、3トン対応のリフター3機、ワゴンしき工具箱、タイヤチェンジャー、バランサーまでそろっているので、小型車のメンテどころか大型車の改造迄できてしまう。
事実、僕らの総輪駆動はここで脚を組んだのだ。
もっとも、スポット溶接機、レーザー溶接機、タイヤチェンジャー以外は祖父が現役の頃、林業で使う道具や木材運搬車等が壊れると、そこで修理していたのでそれを受け継いだのだ。
アジトの敷地は木材搬送のために大型トレーラーが20台以上を悠々と停められる広さがあり、父親がこの場所を借りて中古車版売店、整備工場を始めた場所でもある。
社長である父親は元は大型車整備メインのディーラーにいたが、結婚を機に独立してこの店を立ち上げた。
若いころはマニ割をやっていた。
今も技術を使ってマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーに自分で改造してしまうほどのマニ割マニアっぷりを発揮している。
マニ割仕様のエギマニはステンレスパイプをベンダーを使って手曲げで作ってしまうほどの腕を持っている。
若いころに大型車メインの整備工場に勤めていた時にはマニ割車を100台以上作ってはお客さんに収めていた。
トータルでマニ割車を何台作ったか覚えていないというマニ割マエストロでもある。
その業界ではいまだに名の知れた存在で旧車のマニ割作って欲しいという発注がいまだに来る。
副社長の母親は、独身の頃にドリフト競技、ラリーに出ていたという位の運転好きだ。
かなり上手く何回か入賞する位の腕を持っていたらしい。
ドリフト競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時大型車メインの整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
乗用車の整備工場では見てくれなかったが、大型車メインの工場なのにうちの父親が仕事を引き受けていたのだ
この両親を見れば僕と雅子が車大好き、運転大好き、競技に出たいとなってしまうのは当然だろう。
雅子の小学校からの親友で高校の同級生の松尾 百合ちゃんも同じく車好きでもある
百合ちゃんは雅子と同じ地元の商業高校を2番目の成績で卒業して雅子と同じスーパーに入った。
販売部にいたときに提案した買い物難民救済用の移動販売車の成果が認められて主任になってキッチンカーの担当もしていたが、家業の人手不足もあってやむなく退職して家業についている。
この百合ちゃんも大型バスにも嵌って2台、自分で買ってしまった。
V8エンジンの排気音が好きというから筋金入りの車好きだ。
百合ちゃんの一家も車好きで社長の百合ちゃんの父親は旧車好きでしかも速い車が好き。社長の奥さんで副社長の百合ちゃんのお母さんも大型車好きでしかも旧車好きのオリジナル好き。
百合ちゃんの兄も旧車好きで、マニ割好き。55年近く前の元送迎車のフロントエンジンキャブオーバーバスを見つけてきててそのバスのレストアも頼んできた
この百合ちゃんのお兄さんは車を作るときはマニ割で出力よりもマニ割を優先してほしいというのだ。
それに百合ちゃんの家の会社の車と建設機械のメンテもうちの仕事になっている。
もう一つの仕事として雅子の元職場のスーパーで使っているリース車両のメンテを引き受けた。
雅子が辞めた後はリース車を各店舗で管理してメンテするようにしていたが、車検切れさせたのがわかって、元通り本社で一括管理することにしてそのメンテナンスをうちにお願いしてきたのだ。
その仕事もあって人員も増強したがそれを上回る仕事量で嬉しい悲鳴を上げている状態だ。
「雅子、どうもこの辺らしい」
「うーん、どこかしら?あれ?あれは百合リンの鉄子ちゃんじゃん」
僕らは3軸トラクターで鉄子ちゃんのところに行った
「雅子、悪いわね。お兄ちゃんのことを雅子は知らないから代わりよろしくって言ってあたしに丸投げよ」
「それで?百合リンが来てるのね」
「うん。全開試験じゃないけど。ここも結構上るでしょ。総輪駆動がどのくらい走れるか見たくって乗って来た。それに今日はパパがこの辺のダムの底攫いしてるのよ。それで万が一ダンプが動けなくなったらこの総輪駆動で救援するの。空転防止で土砂をめいっぱい積んでいてトラクション稼ぐのよね」
「ああ、ほんとね」
「雅子、案内するね。叔母さんは今日はいるって。エンジン掛かんないからウインチで引っ張るしかないんでしょ」
「うん、納屋からどうやって出すの?」
「それはこの車で引っ張るから。万が一ブレーキが固着してても引っ張れちゃう」
「百合リン、頼んだよ」
百合ちゃんが先に立って案内する。
この鉄子ちゃんのサスは縮み側をエアでアシストするのでエアタンクを増設している。
そのエアを使ってオートレベリングもできるので車両の姿勢が一定になって走りやすいと聞いた。
ターボを追加している効果だろう、きつい登り坂をフル積にしているにも関わらずグングン加速する。
エンジンの調子もよさそうでめいっぱい迄引っ張っているようだが黒煙がほとんど見えない
BDFの効果もあるのだろうが、黒煙が少ないのはセッティングがうまくいったのかもしれない。
「お兄ちゃん、百合リンの車って結構調子よさそうね」
「そうだね。ターボも効いていてなかなか速くていいよ」
「ほんと意外に速いじゃん。この車でも回してる方だよね」
「まあ、速くなったもんだ。それに高回転も伸びるじゃんいい出来かも」
と言ってると百合ちゃんが屋敷に入るところでいったん止まって降りてきた
「そうね。あ、ここを曲がれってことね」
「雅子。中でターンできるか百合ちゃんに聞かないと。バックで入らないと戻れないとか?」
「はいよ。ねえ、百合リンこのトレーラー中でターンできるの?」
「うん、お庭が広いから大丈夫。ここは丸松建設の創業の場所だよ。お爺ちゃんが始めたころはダム建設が盛んだったから、ここに現場の拠点を構えたの」
「そうか。そうよね」
「でしょ。それにトレーラーも入れるように隅切りしてあるでしょ。頭から入っていいよ」
「じゃあ、頭から行くよ」
僕はトラクターを頭から入れていった。
屋敷の中には今は百合ちゃんの父親の妹夫婦が住んでいるという古民家と納屋、資材置き場跡があった。
「百合ちゃん、5.5トンボンネットはこの納屋の中にあるの?」
「そうなの。実は、叔母さんから早く出せって言われてたの。母屋修理するんで納屋を改造してそこを仮住まいにしようとしたんだけど中にいろんな建機とか入ってて片付けていたらこのトラックが見つかったの。エンジンはかからないし、農作業のトラクターじゃどうしようも無いからちょっと放置されていたんだけどさすがに母屋の修理しないとやばいってことでトラックをばらして捨てるっていうもんだからお兄ちゃんがもったいないって言って」
「そうなのね」
「鑑定士に見てもらったらエンジンは全くかからないし、ホイールも錆びまくっているし、荷台ボロボロでくず鉄位の資産価値しかないっていうからお兄ちゃんがレストアして乗るって。捨てる方のお金で赤字なんだもん。廃車工場までの運搬費用だけで赤字。でもね一時抹消の書類が会社の事務所にあったのよ。お兄ちゃん喜んじゃって」
「それは、しかたないわねえ。じゃあ積んでいっていいのね。うまく引き出してね」
「うん、叔母さんに声掛けて運ぶって言うから」
百合ちゃんは古民家に行った
すぐに百合ちゃんのお母さん位の歳の女性が一緒に来て
「初めまして、黒川と申します。この度はあのトラックを引き取ってもらえるそうで」
「はい、この積載車に積みます」
「お願いします。百合。納屋からどうやって出すの。エンジン掛からないんだよ」
「大丈夫。この車で引っ張るから。救援用でお仕事に来てるの。既に5.5トン土砂を積んであるから大丈夫でしょ」
「そうなの?お願いするね」
僕が超低床船底の向きを変えている間に雅子と百合ちゃんが納屋から埃まみれになった5.5トンボンネットを引きずり出していた。
「お兄ちゃん、いいことにブレーキの固着が取れて引っ張れるようになったよ。さすが総輪駆動ね」
「そうか、パーキングブレーキがセンターのバンドブレーキだからある意味簡単か」
「そうか、ドラムなら離れているから固着しづらいかもね」
「あ、雅子。そう言うことね。それでギヤが入っているんだね」
「そう、ちゃんと輪留めあったでしょ。タイヤがどうしようもないけど何とか乗りそうじゃん」
「おう、雅子、乗せるぞ」
「うん」
僕らは船底のウインチを使って乗せて行く。
前後にフックがついているのでそことサスペンションにスリングベルトをかけて固定した。
「黒川さん、お邪魔しました」
「どうもありがとうございました。一番の懸案がなくなりました」
僕らは排気とリターダーを駆使して下ってきて家の工場に帰ってきた。
フォークでピットに入れると改めて3人の職人に聞いてみた
「これをレストアお願いします。僕は画像から見ると3カ月かかるとみてるんですがいかがですか?」
「ちょっと見ますね。懐かしいなあ。俺が整備してた車じゃん」
「よろしくお願いいたします」
3人は下回りから荷台の状態、キャビンの状態を見ていた
小一時間で
「これはいい個体ですよ。下回りに全くと言っていいほど錆がないんです。どうも防錆パスターたっぷり吹いてその後ほとんど走ってないですよ。それにこれは私が整備していた車ですよ。最後に整備した20年前の防錆用亜鉛版が何か所かありますよ。フレームとサスペンションには特にいっぱい貼ってあるんです。まだ亜鉛版が残ってる。あそうか、これには直流電顕通して防錆してた跡もあります」
「え?どれですか?」
「はい、これです。前代はトラックを大事にする人で全部電子防錆つけてるんですよ。バッテリー上がらいないように本社に駐車するときはこうやって充電器つなぐんです。バッテリーは常に満充電状態に維持するんですよ。へえ、この電子防錆生きてますね。もしかして?」
職人はボンネットを開けてヒューズボックスを何やらいじっていたが
「エンジンかけます。ワリイこれ100Vにつないでくれ」
「おう」
100Vにつないで予熱していたが
「行くぞ」
カチカチっとキーを逆にひねってスターターを回す
くうううっ、くうううっ、くうううっ、くううぅ、くうぅ、くくくくゴロロロロン
「え?かかる?」
「やっぱり、そうか」
「えええ?そうなの?」
ぐおおおんとアクセルをあおると軽くふける
「おう、調子いいぜ」
「もしかしてヒューズが抜けてただけどか?スターターも回らないって言ってましたが」
「ですね。それだけじゃなくて、先代の注文で間違ってエンジン掛からないように燃料の元栓をつけたんです。冬に凍る位寒いところなんで冬にパーキングブレーキ引けないところに行ったらギヤいれるんですけどメカポンプだと押しがけになっちゃうんですよ。それを防ぐために燃料を強制的に止めるバルブつけてかからないようにするんですよ。デコンプ引きっぱなしで燃料バルブ閉じていたんじゃエンジン掛かりませんよ」
「鑑定士は一体どこを見たんだろ」
「どっちにしても良かったですよ。荷台は仕方ないですね。キャビンもしっかりしてます。エンジンルームも埃が凄いだけで落とせば簡単です。外観は荷台を直して、フレームに防錆処理してキャビンの塗りなおしでいけますよ。ひと月もいりませんね。燃料抜き変えます。ブレーキのオーバーホールいつやったかな?足回りのベアリング交換とエンジンオーバーホールしたほうが確実ですね」
「へえ、見かけよりもよかったか。助かりました。」
「鑑定士もこんな古い車の整備の仕方知りませんし、エンジンのかけ方も知らないでしょうね。作りがシンプルなんで長持ちしますよ。整備記録見るとエンジンのオーバーホールは私の親が90年にやったのが最後ですね。オイルフィルタは部品出ますから楽です。エアクリーナーはないかもしれませんが今の車のを流用すればいいです」
「整備お願いします。エンジンは乗せ換えましょう。NF6当たりに」
「それがいいですね」
雅子に頼んでエンジンを探してもらおうとしたところ百合ちゃんから連絡が来て納屋にエンジンがあるのでそれを引き取ってくるらしい
「百合リンのダンプで引き取ってくるんだって明日の夕方着くって」
「へえ、すごいじゃん」
「明日から雨が降る予報で今日は残業でやるんだって。百合リンもダンプで土砂捨てやってるみたいよ」
「大変だよね。雨水がたまったら抜かないとできないもんな」
「そうよ。できるだけ今日のうちにやって明日は建機のメンテとダンプのメンテだって」
「こっちは狩野さんのダンプの仕上げか。スードルのV10に乗り換えだもんな」
「好きよね。狩野さんも。そうだ明日は積載借りるね。ドリ車を愛理沙の家に届けるから。百合リンからエンジン受け取りお願いね」
「そうだね。受け取りなら隆文に頼もう」
「うん、なんで今日の帰りから別便ね」
僕らはその週に忙しく働いていた
百合ちゃんが持って来たのはNF6のターボでミッションがなくラジエターがついていた。
ミッションがないのでターボを取って排気量拡大だけで行くと連絡しておいた
予想通り、この車もマニ割にして欲しいと言って来たので、親父に頼んでマニフォールドを作ってもらう算段していた。
休みの前日、雅子が
「お兄ちゃん、明日はサーキットに行ってくる。愛理沙がドリフト教えて欲しいって言うんだよ」
「そうか、小笠原さんって積載あるの?」
「うん、自前で持ってる。今日はお兄さんが仕事でいないからショップの走行会に申しこんだんだって。自分で積載を運転していくって」
「うん、わかった気をつけて」
「サンゴちゃん借りるね」
「おう」
「僕と隆弘は総輪駆動やるから」
「はーい」
次の日、僕と隆弘は僕の総輪駆動車であるサイバー君の足回りを交換していた。
メニューは雅子と一緒でリバースシャックル、ロングリーフ、ロングシャックルとドラッグリンクとの軌跡合わせのラテリンとスタビ、エアアシストだった。
「悟瑠、ブラケットが先についてるって言っても一日じゃあ終わんないな」
「ああ、それと雅子が言ってたけど後ろのバタつきがでかいとか」
「そうか。対策しないとな」
「と言ってもダブルタイヤじゃあ、ダンパーのロールのレバー比が悪いんだよね」
「そうだな。トランプ共振でバタつくんだろ」
「あ、そうか。スタビの取り付けのところにダンパーつければいいか」
「なるほどね。それもいいね」
「レバー比が取れても0.5か。ないよりはましだな」
「悟瑠のでやってみよう」
「そうか、リーフの取り付け点を使えばできそうじゃん」
「ああ、それが良いな」
僕らは現物あわせでブラケットとバーを作って2本のダンパーをリーフ取り付けブラケットの左右につけて同相で動いた時はダンパーは作動しないで位相差がある時だけ作動するようしておいた。
「これ迄か、後は次の休みの日だな」
「兄貴、俺の車にも入れるのか?」
「何言ってんだ?お前のはリーフの板間摩擦があるから要らないんだよ。悟瑠のみたいに二枚とかなら板間摩擦が小さいからいるんだよ」
「そうか。それならよかった。作動原理が難しくて」
「はああ、脳筋か?あきらめないで理解しろよ」
「兄貴みたいに自動車の専門学校に行ってねーし」
「そうじゃねーよ。高校の物理でできるよ」
「えええ??」
「とにかく、明日から車検とメンテで大変だぞ。丸松建設のトラックの3か月点検とかあるからな」
「おう」
その週も僕らは整備の仕事で大変だった
救いは丸松建設の車は5.5トンボンネットを除き重整備がないので楽になっていたのは確かだった。
次の日曜日、僕はショップ主催のドリ大会に来ていた。
「お兄ちゃん、今日は愛理沙とそのお兄ちゃんの直対だかんね」
「へえ。そうか。直対か。前回は雅子が付きっきりで教えたんだろ」
「うん、愛理沙って結構筋がいいよ。スポンジのように吸収しちゃう。我流で走っていて自分で限界がわかったみたいね」
「そうか。え?対決クラスで直対?」
「言ったじゃん。トップでだよ」
そう言っているとアナウンスが”第一組スタートです小笠原 哲史選手と愛理沙選手です。なんという籤の残酷さ、兄妹対決です”
ぷおぷおぷおーんとラッパが鳴って2台が走りだした。
「愛理沙行けえ」
雅子の応援、場内には”この二人は車の関係でそれぞれ異なるクラスに出てましたが今回から同じクラスにエントリーです。兄の哲史選手は入賞多数。妹で既に2児のママさんの愛理沙選手はレディスクラスのチャンピオン。この二人の直接対決です”とアナウンスが流れる。
「おおおおお、すげええ」
「愛理沙?やるわねー」
見ていた雅子が思わず立ち上がっている。
なんと愛理沙ちゃんはインから堂々と突込みの勝負だった。
600psのドリ車を難なく乗りこなし兄の車をインから躱して次のコーナーに入って行く。
「きゃあ、かっこいいー」
女性観客の声、雅子から聞いたことをフルに生かして見事なまでのカニ走り。
スピンかと思うくらいのドリフトアングルで攻める。
愛理沙ちゃんは抜かれることなく回り切って戻って来た。
次は前後入れ替えてだった。
ぷおぷおぷおーんとなってシグナルが青に変わる。
フラットプレーンV8独特の乾いたエギゾーストノートを響かせ一気に加速すると同時にいきなりのパワーを生かした直ドリ。
そのまま第一コーナーに合わせて弧を描く元雅子が乗っていたドリ車
その走りに圧倒されたのか全く戦意喪失という感じで哲史選手の車が走っていた。
愛理沙ちゃんがゴールした時の観客からの割れんばかりの拍手
「すっごい」
「これはいいところいくでしょ」
「そうね。決勝には行くよね」
午後になると予想通り予上位者のレースだった。
愛理沙ちゃんはセカンドポジションだった。
「愛理沙に後ろのキャンバー変えろって言ってあるんだよ。ちゃんと交換したね」
「お兄さんが手伝ったかな?」
「多分ね。愛理沙に抜かれてもう戦意喪失って感じだったもんね」
「妹の晴れ舞台かな」
「そうね。結構愛理沙もうまかったからね」
と言ってると、レースがスタートだ
一周のフォーメーションラップが終わってペースカーがピットに入る、ぶおおおーんと各車のエギゾーストノートが高まる。
ポールは上位の常連のBMだった。
600ps出していると聞いた。
さすがの僕らが作ったドリ車でも抜くのは不可能だった。
「レースは深く教えてないからなあ。それにレディスクラスじゃあ愛理沙は殆んどトップだったからなあ。逃げ切りだったよ」
「そうか、バトルに慣れてないかもな
「だよね。峠を走るってことしてないもんね。妊娠してたからね」
「抜くって難しいか?」
愛理沙ちゃんは何回も仕掛けるが結局トップに阻まれでそのままゴール。
準優勝だった。
「あー、残念。今度は仕掛け方教えないとね」
「そう。センスは有りそうじゃん」
「うん」
にっこりしていた雅子
後輩の指導もここまでできるようになったかと思うと雅子の人間としての成長を感じていたのだった。
大会の表彰式では準優勝とは言っても愛理沙ちゃんはとても嬉しそうだったし、BMのドライバーは愛理沙ちゃんの若さを脅威に思っていそうな顔だった。
「雅子、帰るぞ。いいセンスじゃん」
「そうね。愛理沙のお兄ちゃんが走りを聞きに来たりしてね」
「あははは、そうか。それもありかもなあ」
僕らはのんびりと錦君でアジトに帰ったのだった。
雅子の走りを伝授すされたのは強い
600psのドリ車を乗りこなす愛理沙ちゃん
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