第三十話 隆文のTSカーデビューとバスのレストアと
隆文が待望のTSカーデビュー
それに受注の好調なお店は忙しく
「お兄ちゃん。明日午後からミニサーキット行くよ。走行枠取ったの」
「そうか。積載だけでいいか?」
「うん、トレーラーで行こうよ隆文もエンジンはまだ決まって無いけど慣れる為に走るって」
「おう、そうか。隆文の車も積んでいくか」
「うん、タイヤも」
「よし」
「隆文は物足りないって言うかな?」
「そうかもな。600psから100psもないよ」
「そうね。いくら700kg切って軽くてもね」
「うん。そうだね。準備しよう」
「うん」
3週間ぶりに走りに行けるとなった雅子はにっこりしていた
その可愛さに僕はクラクラ来ていた。
綺麗だった桜がすべて散って葉桜になっていたころだった。
次の日の朝起きると雅子のTSカーを準備していた。
そこに隆弘と隆文がきた。
「悟瑠、わりいな。隆弘の車積んだのか?」
「ああ、このレースに出ていいエンジンは4Kまでだろ」
「そうだよ。3KーBヘッド見つけたからそれ使うよ」
「そうか。後のいじりは任せるよ」
「もちろんだ。ヘッドは3Kの方かいいらしいよ。と言ってもA型マイナス20ps」
「そうなのね。1500クラス?」
「おう、雅子のはハンデで重量重いだろ、その分で勝負だな」
「言うわね。いいわよ」
「今日はシェイクダウンだからシャシの性能確認だよ」
「そうね。お兄ちゃんと隆弘さんと隆文のボディの作り方勝負ね」
「そうだよ。トレッドとホイールベースが広い分雅子が有利なんだよな」
「そう?いい勝負になるようにしてんじゃない?」
「そうだけどね。エンジンをどうやって仕上げようかと悩み中だ」
「じゃあ、とにかく、車に慣れてね。今度は菅○でレースよ。20周だったかな?」
「うん、それまで不完全でも車作るぞ」
「隆文。やろうな。考えろよ」
「おう、兄貴。やるよ」
「じゃあ、出るぞ」
僕と雅子がトラクターに隆弘たちは隆弘が乗っている軽自動車でついてきていた。
トラクターの中でしゃべっていた。
「雅子、実はヘッドにちょっと加工いれたんだよ。リメルト処理」
「なにそれ?」
「簡単に言うとだなヘッドをちょっと炙って同じ合金の材料を張り付けてレーザーでちょっと温度上げてプレスかけた。どうも某エンジンでやってる加工で熱に強くなるって言うから」
「ふーん。それにヘッドはギリ迄吸気をストレートにしてるんでしょ」
「うん、ビッグバルブも入れてあってソジュームバルブも」
「燃焼室もいじったんでしょ」
「若干ね。ノッキング対策がっちりしたよ」
「さすがね。ところで今度の場所のギヤどうしようか?」
「最高速で決まるって、多分使っても4速迄かな?5.182にして5速をちょっとハイギヤにする。それでどうかな?」
「今の仕様は?」
「それにしてる、5速がODになってる」
「そうなのね。この前よりもちょっと低いのね」
「そう言うこと。ストレート長めだからね」
「高速よりにするのね」
「だな、ミッションは4速クロスで行くよ。後は雅子に乗ってもらってだな。雅子のデータが言っているよ」
「データ上はそうよね。あってるかは現地だよね」
「そうだね」
ミニサーキットに着いて雅子と隆文も走る
まず3周走って雅子が戻って来た。
「お兄ちゃん、もうちょっとアンダー弱くできるかな?どうしてもFに合わせた設定だどタイトがきついよ」
「そうか。フロントの減衰下げてみようか?見てると突っ張ってるよ」
「お兄ちゃんさすがね。乗っててもそうよ。突っ張って押し出される感じ」
「2ランク減衰を落とそう」
そう言って僕はダイヤルを回して減衰を2ランク落とした。
「これでだめなら前ばね落とすのかな?」
「うーん、プッシュアンダーなら伸びがありすぎだよ」
「見てくる。微妙なところね」
そう言ってコースに復帰した雅子
雅子がでるとすぐに隆文が戻って来た
「パワー無さすぎだ。軽いっていいのはわかるな。脚が決まってなくて仕方ないけどドアンダーで曲がんないし」
「今は仕方ないなだろ。100psがいいところだ。やっぱりそうか。車体の補強しないとな。まずはドアンダー何とかするか」
「雅子の車に全くついていけないって」
「それはしかないだろ。あっちはもう仕上がって実戦で戦っているんだから」
「エンジン仕上げてボディ仕上げて脚仕上げてか」
「そう、わかったけとにかくドアンダーで曲がんないのはまずいよ。まずはスタビでやるか?まずは」
「うん、2ランク太いのあったよな。それって配分が計算上6:4だよな。一回それ乗ってみたいよ。」
「やってみるか。悟瑠。交換手伝ってくれ。」
「おう、リジッドラックとコンプレッサーあるからな」
「隆弘、降りろ。おめえもやるんだぞ。バンからスタビ持ってこい。12の中実あっただろ」
「うん、もってくる」
「悟瑠、その間車上げよう」
「おう」
僕らは車を持ち上げリジッドラックで固定。
隆弘がスタビを外していく。
「よし、隆文、悟瑠。スタビの両端抑えててくれ。一か所とまれば後は簡単だ」
「こうか?」
「いいぞ。ブラケットで留めてよし、反対も留めた。念のためグリス噴いて置くぞ」
「おう」
「トルクレンチ」
「兄貴、何キロ?」
「3キロだな」
「ほいよ」
隆文は既定のトルクに設定して隆弘に渡す。
カチッ、カチッとトルクをかけて交換完了
「兄貴、サンキュ、行ってくる」
「気をつけて」
そう言うと手をあげてコースに復帰していた。
全開で走っているのを見てもエンジンが決まってなく100psでは既に完成している雅子の車ほどは走らない
しかしながら隆文はギリ迄ブレーキを遅らせて突っ込む。
タイトコーナーの連続ではアクセル全開のままだ。
非力な車を少しでも早く走らせようと全開で走る。
「この設定なら踏めてるな。隆文は」
「良かったよ。自分から言って来たんだ。でもさ、これも抉ってるんだよな。雅子とテレメのデータ比べたら一目瞭然だよ。雅子は殆んど修正舵当ててないけど隆文は切りまくってる」
「そうなんだよな。アプローチは雅子がゆっくり切って行くだろ。荷重移動上手く使ってスムーズに曲げてるんだよ」
「そうだな。ああ、隆文はどうしてもステアリングだけで曲げてる。雅子より遅れて向きが変わる分アクセル踏めてない」
「そう、雅子は向きを変えつつじんわりとアクセル踏んでいってるだろ」
「その分で雅子が速いんだよな」
「そう、雅子は全部一本の線でつなぐように走ってるけど、隆文はどうしても動きなバラバラなんだよな」
「隆弘、それなんだよね。雅子は自分でそれを見つけて学んでいるんだよ」
雅子と隆文は車にもっと慣れようとめいっぱい走っていた。
とやっていると走行終了の時間になった。
2台とも戻ってきて次にどうしようかと話していた
「お兄ちゃん、この前のところって結構特殊っていうか超高速サーキットなんだね。ここ走ってよくわかったよ」
「だろ。そのレシオのまんま別のところ走ったら全然ギヤ比が合わないだろ。雅子のデータがあるからなんだけどな」
「そうね。スピードが全然違う。あっちは2速から5速迄使っちゃう。ストレート重視の方が速いって思ってなかったな」
と言っていると、隆文がきて
「雅子の車速いよ。悟瑠さん車作りうますぎ」
「隆文。最後の仕上げたのは雅子だぞ。車体とかやったのは僕だけど、脚のセッティングは雅子が最後に決めてるよ」
「そうか。勉強だ」
「よし、じゃあ、帰るぞ。明日から俺たちはキャブオーバー4WDバスの改造だ」
「おう、積載に積んだな。いくぞ」
積載にTSカーを積んで僕と雅子、軽のバンで隆文たちが帰る
2軸トラクターの中で
「お兄ちゃん、車ありがと。燃料高速でちょっと絞ったでしょ」
「ああ、ちょっとな。レギュレーションに電制キャブも使えるってわかったから簡易電制にしてある」
「え?どうやって?」
「簡単に言うとジェットをやや濃いめにふって高回転で燃料が薄くなるように燃料供給量を電制バルブ使って絞ってある」
「なるほどね。それで濃すぎないようにしてるのね」
「そう、レーザーリメルト処理もしてあるからサーマルクラック入るところに逆の応力つけて入りにくくしたよ。可変ベンチュリ―も入れてるんだけどいろんな補正いるからね。補正を電制でやってるんだよ」
「なるほどね、ってことは薄めに振ってもいいってことね」
「そう、ピストンへのオイルジェットとクーリングチャンネルも付けたから燃焼温度高めでもいいようにしてるんだよ。ノッキングとの戦いだからな」
「お兄ちゃん、エンジンやったらすっごいじゃん。道理で吹けが軽いと思ったのよね」
「よかったか。次のところで走ってだな」
「任せて。狙うは表彰台の真ん中」
「やるなー」
「次のところのイメトレやって車は現地で微調整ね。来週出るからお兄ちゃんお仕事よろしくね。エンジン換装して公認取ってかな?」
そう言って次のレースのことで頭がいっぱいになっている妹の佐野 雅子。
免許取って最初は峠のバトラーだったが、負け無しのまま卒業してドリフト競技に参加。
対戦クラスで3回も優勝してしまった。
クラスを変えて出場すると言っている
もう一つ、TSカーを作ってTSカップのレースデビューもしてしまった24歳。
普段は親が経営している中古車販売店兼整備工場で経理、整備の段取り担当の副社長している。
お店には大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスを改造した貨物車のU-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるこれまたバスを改造した貨物車の○アロスターMMのMM618J改の300ps仕様で通勤している。
他には僕の大型バスコレクションから乗ってみたいバスを選んで乗るのだ。
大型免許と牽引免許も持っているので自分でバスを運転して僕らが住んでいるアジトと言われている元祖父母の家から大きな市内にある実家が経営している中古車版売店兼整備工場に通えるのだ。
このところは雅子が自分で営業して取引を始めた雅子の元職場のスーパーで調理に使った油から作ったバイオ燃料を買って自分のバスで実験している。
中古車店での仕事は車両の仕入れ、売却、メンテナンス部品手配や整備した車の納車が主だが、整備も好きで整備士の資格を取っているので、時には整備工場に来て納車前のお客さんの車をメンテすることもある。
工場が立て込んでいるときはアジトと仲間たちから呼ばれている普段僕と雅子が住んでいる元製材工場併設のガレージまでお客さんの車を積載に乗せて来てメンテすることもある。
雅子は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、在学中に商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級を取っていて事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっている。
その雅子は進学せずに高校卒業後すぐ入社したスーパーでわずか4年チョイという異例の速さで係長まで出世して、同期からは初の高卒30代女性役員誕生かとうわさされた。
しかし、当の雅子はいろんな車に乗る仕事したいと言ってあっさりスーパーを退職して家業についてしまった。
なぜなら雅子はスーパーでは出世することに全く眼中になく車好き、運転好きなので事務所で仕事するのは性に合わないというのだ。
買い付けとか、売却でいろいろな車に乗れるのが楽しみだと言っていたのだった
雅子は家業に従事してからは危険物、大型2種免許を取ってしかも整備士の二級免許、牽引免許も取ってしまったほどの車好きだ。
雅子はこのところGHATGTPやロボタイズのようなプログラム組むのも好きなこともあって自分のドリ車のエンジンの制御コンピューターも自分でプログラム組んでいた。
僕は雅子にエンジンを載せ替えたトラックのBCMのフルコンのセッティングをお願いしたらきちんと仕上げてくれた。
それに最新の点検整備機器も扱えるので整備の面でも助かる
他には実家の規模に合わせたいろんな経理システムを組んでいて、両親も大助かりといっている。
何せ、しっかりとお店の財務状況がわかるようなソフトを作って管理しているので、今までのように確定申告のときにバタバタだった準備作業が雅子の組んだソフトのお陰ですべてデータとして蓄積されていて簡単にネット上で確定申告できるようになっている。
確定申告の時期は例年何日も夜なべして伝票整理、資料記入していたが、全くすることがないのだった。
部品の発注も整備の受注もネット上でできるようにしてあるので電話での対応も減っていてその分営業に時間がさけると営業担当の父親と母親は喜んでいるし、僕もネットで事前に不具合の状況を画像等でもらっているので修理箇所の予測がつけやすくなって仕事が早く進むと喜んでいる。
雅子は僕の古くからの友人で整備工場の副工場長をやっている隆弘がリーダーを務めるチームいて、そこでは僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせたタイムもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
ドリ車を作ってでた競技で出場5回で3回の優勝してしまったほどの出来だった。
しかも優勝した3回はすべてドリフトとレース両方でトップという完全優勝だったのだ。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを持って嬉しそうに笑っていて、やっぱり表彰台は真ん中がいいといっていた。
今はTSカーでレースしたいと言ってデビューしているのでこれも会社PRのためにスポンサーすることにしていた。
雅子の普段の運転はとてもスムーズで隣に乗るとついつい寝てしまうくらいだ。
普段は車を労って走らせているのがよく分かる。
かつては大型バスを使ったスムーズドライブ競争でもバスドライバーや、トラックドライバーのプロに勝ってしまうほどのスムーズさなのだ。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の3月生まれの27歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して6年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の中古車販売店、整備工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
また、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型免許は大学在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
それを良いことに中古だが、観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
妹の雅子がメインで使っているバス含めて全部ターボにしてパワーアップと同時に黒煙対策している。
特に唯一のKL-規制対応のゴーゴーくんはDPDが付いているのでエンジン本体での黒煙を減らしておきたかったのだ。
11台のバスにはパワーアップに対応して止まる方も強化としてリターダーを追加している。
家業の整備工場は大型車の整備もするようになった関係で場所がいる。
そのために小型車のオイル交換等の軽整備は元々隆弘の親が経営していた整備工場に機器を移していてそっちでやることにした。
他に整備する工場としてはアジトと仲間から呼ばれている僕と雅子が住んでいるかつて祖父が経営していた製材工場跡のガレージでやることになったのだ。
アジトと呼ばれているところには車両をいじる設備として、すべて中古ではあるが、大型車対応のボードオンリフトが2機、大型エアーコンプレッサー、スポット溶接機、MIG溶接機、プロパン+酸素バーナー、レーザー溶接機、板金道具一式、定盤、2000トン油圧プレス、油圧けん引機、油圧ベンダー&カッター、ボール盤、旋盤、フライス盤、20トン対応天井クレーン、ワゴンしき工具箱、タイヤチェンジャー、バランサーまでそろっているので、メンテどころか改造迄できてしまう。
事実、ドリ車とTSカーはここでどんガラの状態から作り上げたのだ。
もっとも、スポット溶接機、レーザー溶接機、タイヤチェンジャー以外は祖父が現役の頃林業で道具や木材運搬車等が壊れると、そこで修理していたのでそれを受け継いだのだ。
2000トン油圧プレスは材木が反ってしまったときの修正用兼圧縮用でかなり大きいのだ。
油圧牽引機は木材で変形した運搬用トレーラーを直すためのものでその能力は200トンと聞いた。
それにアジトの敷地は木材搬送のために大型トレーラーが20台くらい悠々と停められる広さがあり、父親がこの場所を借りて中古車版売店を始めた場所でもある。
ここもお店の整備工場として登録してある。
僕らの両親はどちらも車大好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
父親は元は大型車メインのディラーにいたが独立してこの店を立ち上げた。
このところ僕の趣味に感化されたのか中古のバスを3台も買ってきて全部をマニ割仕様して、それに乗ってどこどこ音をさせて営業に行ってしまっている。
それに会社のトラクターも若いころやっていた技術を使ってマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーに自分で改造してしまうほどのマニ割マニアっぷりを発揮している。
エギマニは自分でマニ割仕様をステンレスパイプをベンダーを使って手曲げで作ってしまうほどの腕を持っていた。
若いころに大型車が主な整備工場に勤めていた時にはマニ割車を相当数作ってはお客さんに収めていた。
トータルでマニ割車を100台近く作ったというマニ割マエストロでもある。
その業界ではちょっと名の知れた存在だ。
そんな父親なので、整備工場では僕が工場長になったのを良いことに運送会社をやっている隆弘の親が経営していた整備工場を買い取り本格的に大型車も整備するようになった。
加えて父親は雅子の親友の百合ちゃんの父親が経営する建設会社の重機の整備も引き受けた。
以前建設会社の重機の整備をやっていた会社が廃業して、重機の整備が出来ないと困っていた話を聞いてその会社の重機の整備も請け負った。
親父は困った人見ると黙っていられないらしい。
母親の独身の頃はドリフト競技、ラリーに出ていたという位の運転好きだ。
かなり上手く入賞する位だったらしい。
競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時大型車メインの整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
乗用車の整備工場では見てくれなかったが、大型車メインの工場なのにうちの父親が仕事を引き受けていたのだ
この両親を見れば僕と雅子が車大好き、運転大好き、競技に出たいとなってしまうのは当然だろう。
「工場長、ボンネット6×6ダンプのキャブこれでいかがでしょう?」
「いいですねえ。ここまでやれば10年以上錆が来ないでしょ。来ていただいてよかったですよ」
元から板金が得意という廃業した工場から来てくれた職人が仕上げてくれたキャビンをみた。
一旦バラバラにして各部の錆を落として工場にある機械をフルに使っていた。
外に廃材としてキャブから外した鉄板が置いてあるのを見るとほとんど全部作り直してあるようなものだった。
「ありがとうございます。プレス機、ジンクメッキ機とか自動鉄板慣らし機があるのはいいですね。ボンデ板を入れるだけで慣らしが終わって出てくるんですから。いろんな形の型があってプレス機でできるんで早くていいですよ。設備整ってるといいですね。これはキャビンの基本骨格は総輪駆動用でボンネットの部分を作り直したんです。そっちの方が早かったんですよ」
「さすがですねえ。機械は親父と祖父のおかげだよ。親父はもともと板金工で修理工だったんだ。マニ割で有名みたいだけど。もっと助かるのは高硬度レジンだよ。50回ならレジンで型作ってプレス機で打てるんだよ」
「そうですねえ。オリジナルの鉄板から型とってプレス機で打ったら早くて。社長はマニ割マエストロですよね。キャブオーバー4WDバスのエギゾーストノートマニフォールドあるんですからねえ。僕らはボンネット6×6ダンプの仕上げですね」
「はい、ボンネット6×6ダンプの仕上げお願いいたします。出来たらエンジンの確認もあるので教えてくださいね。急ぎのキャブオーバー4WDバスのエンジン換装と車内改装は隆弘たちメインでやってもらいます。僕はスーパーのキッチンカーをやるんで」
「そうですね、明日にはボンネット6×6ダンプを動かせると思います。いいことに車体の寸法変わってないんです。届け出も要らないですね」
「それは良かった。明日お願いいたします」
僕は雅子の居たスーパーの車を改装する前の整備していた。
エンジンをかけると始動性が悪く、それにアイドルにも関わらず結構ブローバイを吐く
暖機が終了してもブローバイの量が親父のいい子ちゃんよりも多いのだ。
それにヘッドカバーとクランクプーリーのところからオイルが漏れている
「雅子、この車エンジン結構きてるなあ。ブローバイ多過ぎる。それにクランクのところからオイルが漏れてる」
「あ、そうね。百合リンに聞くよ。現状販売で買ったのかな?それにしてもひどいよね」
「うん、あ、そうか。わかったぞ。これ結構拭いていた跡がある。ってことはにじんでいるのをごまかして使っていたんだよ」
「えええ?そうなの?エンジン整備必要なの?」
「百合ちゃんに聞いてくれ。このままじゃあ車検は無理だよ。最低限オイルシール交換とパッキン交換。どっちにしてもおろしてバルブクリアランス見る。整備の状況見てだな」
「わかった。百合リンなら見逃さないはずだけどなあ」
「もしかして、課長さん?」
「あ、そうかも。やっすいの見つけたのかも。聞くよ」
「事故ッてないか見てみるよ、エンジンはちょっと排気量ちょっとでかくするよ。NAの予備エンジンあるから積みかえる。N型のクランクと共通だからパワーアップできるよ。でもさ、これミッションの予備が無いからトルクはそのままの42キロで175迄出せる」
「全く、お兄ちゃんはこれだよ。百合リンに予算アップでやってもらうよ。どっちにしても停車してエンジン回すからラジエター大きくするんでしょ。インクラも」
「もちろんだ。冷えないのがヤベえだろ。エアコン使うんだろ。それも考慮しておくよ」
「はああああ。百合リンに予算ヨロだわ。お兄ちゃんがエンジンいじると止まんないから。マフラーは純正並みに静かにしてよ」
「もちろんだ。エンジンパワーアップしてもちゃんとタイコつければ行けるよ」
「頼んだよ。お金はあたしが取ってくるのね」
「部品あるからいいよ。タービンいってたら交換だけどね」
「はいよ」
僕はアルバイト君と一緒に車を持ち上げてエンジンをおろしていた。
「工場長、このエンジン酷いですねえ。あちこちオイルだらけで」
「おう、ひどいよな。タペットのところ開けてみてくれ」
「はい。ミッション側もっとオイル漏れひどいなあ」
「あ。工場長。これ」
見せてくれたのは、冷却水にオイルが混じっているのだった
「あ、エマルジョン?エンジンオイルが冷却に入ってるじゃん。ってことはヒーター系も全部ホースも交換しないとだめじゃん」
「工場長。タペット周り真っ黒ですよ。ここもヘドロ」
「これはひどいなあ。手入れが難しい車だけどね。雅子を呼ぼう。悪いが軸距離とボディとタイヤの位置関係見てくれ」
「「はい」」
僕が事務所に雅子を呼びに行った。
雅子が百合ちゃんと連絡していたがそのままきた。
「お兄ちゃん、惨状見せてあげて。やっぱり課長が安いって言うことで買ったみたい」
「仕方ないか。テレビに切り替えればいいよ」
「そうね。百合リン、見える?エンジンの惨状」
『えええ?こんなにひどいの?』
「うん、ここまでひどいのあたしも初めて見た」
『課長、いくら安いって言ってもこれじゃあまずいですよ。雅子エンジン整備して。んもう』
「わかった。整備済のうちのエンジンに載せ替えるから。いいことにしてよ。これだとタービンのオイルシールも怪しいからタービンも交換するね。エンジンが暴走するよりいいでしょ」
『うん、よろしく。あたしが乗ってるならいいけど他の人だとまずいもんね』
「お兄ちゃん、エンジン換装とタービン交換ね」
「インタークーラーとラジエターも冷却水にオイルが混じってるからガスケット抜けたんだよ」
「百合リン、聞いた?インタークーラーとラジエターも交換ね。ホースも全部」
『いいわよ。途中でエンジンブローして動けなくなるよりも』
「お兄ちゃん、作業よろしく」
『お兄さん、よろしくお願いいたします。』
「はいよ」
百合ちゃんの許可があったのでエンジンを交換してラジエター周辺機器交換の段取りと在庫になかった190ps用のタービンとインタークーラー、ラジエターを発注した。
エンジン部品が来るまで内装の改装に入ったのだった。
それから2日たった日の朝
「お兄ちゃん、今日はこのボンネット6×6ダンプの試走でしょ」
「うん、悪いけど念のため2軸総輪駆動レッカーでついてきてくれ。何かあったら引っ張って」
「はいよ」
「隆弘、テスト走行行ってくるよ。キッチンカーの内装とキャブオーバー4WDバスのエンジン換装を急いで頼む」
「水漏れ無いから大丈夫だろ」
「ああ、高負荷にしてやってみるよ。この前のボンネットはそれよりも条件厳しいバスで見てたからいいけど、このエンジンにターボは見てないから」
「そうだな」
「午後には戻る」
僕と雅子はいつものところにいって確認してきた。
全開で登っても水温に変化なく問題なさそうなのでボンネット6×6ダンプを納車してボンネット4×4ダンプを引き取って車検とターボ化していた。
「工場長、これもキャビン載せ替えないとターボは無理です」
「キャビンは倉庫にあるからまたお願いします」
「今度は型があるんで楽ですよ。任せてください」
僕は廃業した工場から来た3人に作業を任せてキッチンカーをやっていた。
合間にリース車のメンテと納車前整備で、マニ割したV10エンジンのダンプの車検と本業に忙殺されていた。
休日になって、北の方でレースがあって雅子と隆文を連れてエントリーしていた。
予選では雅子がフロントロウの2番手に隆文は7番手からのスタートになっていた。
「雅子ははやいなあ。軽くてもなあ」
「隆文、ブレーキング競争ならそっちが有利よ」
「そうか?うーん」
「と言っても今回がデビューでしょ。上出来よ」
「そうだぞ。車だって出来たばっかりのぶっつけ本番で昨日の予選でやっとセッティング出たんだぞ」
「うん、とにかく行ってくる」
ピーンとなってエンジン始動だ。
ブルブルルルルルッとエンジン始動の音。
ブオオオーン、ブオオオーンとアクセルをあおる音。
「いい調子じゃん。雅子はトップとれるかだな」
「ああ、隆弘。前回雅子に抜かれた車だな。警戒はするたろうな。隆文は61のトップか」
「うん、トップと雅子とは0.01秒差だからな。隆文も上手くなったけど抉って走る分どう出るかだな」
「雅子とゼッケン52はどっちが勝ってもおかしくないな」
「そうだな。予選の、タイムが他より1秒以上速いんだから2台の戦いだろう」
「雅子は最初は仕掛けないと思うぞ。多分だけどある程度後ろを離してからだよ」
「そうか、邪魔されたくないってことか」
「その通り」
と、いってるとシグナルが点滅、フォーメーションラップが始まった。
ブオオオオオオン、ブオオオオオオン、ブオオオオオオンと各車が動き出す
一週でそろってレースのスタートだった。
「そうだな。雅子は団子状態のまま仕掛けるのはやばいという判断だな」
「悟瑠。やっぱりあの2台は速いぜ」
「そうだな。おおお。隆文やるなー。上手い。一台ぬいた」
「そう言うのはバトラーの特技だな。セオリー無視で行くからな。それにドリフトやってるからスピンを恐れない」
「そうだな。雅子はタイヤ温存で行ってるな。相手は最初から攻めてるぜ」
雅子はトップを静かに追っていく、不気味な位目立たない走りだ。
ストレートはパワーの差があるのか隆文が抜き返された。
「隆文はちょっとストレートきついか。やっぱりいったか」
隆文は前をあっさりブレーキング競争で躱すとその前に襲い掛かっていた。
「雅子が不気味だな」
「隆文、何か考えてるんだろ。ああ。え?そうか。雅子はその作戦か」
「どうした?」
「雅子は9000でシフトしている。9500迄使っていいといってるんだが500回転取ってるぞ。ということはまさかね」
「と言っても前の車は結構回してるぞ」
「それだよ。雅子はレブを落としていると言うか温存している。相手は音を聞く限りやや回し気味」
「そうか。相手のエンジンがつぶれるのを待ってるってことか」
「多分な。多分、残り5周になっても無事のままなら仕掛けるという2段構えだ」
「そう来たか。隆文はめいっぱいいってるな」
「隆弘、エンジンは大丈夫か?」
「若干オーバー気味だな。クランクは鍛造だからある程度のオーバーレブはいけるんだが。タフト加工はしてない」
「そうそう、そこなんだよ。雅子の相手も同じだと思う。音を聞く限り9800近くまで回してる。雅子のミッションは2から5速迄クロスにしたんでシフト回数は多いけど各コーナーのつながりがいいから9000で行ける」
「隆文はシフトチェンジ減らすって言ってるぞ。2速から4速で走るって。雅子はこまめにシフトする作戦か」
「雅子はそう言っていたな。第一コーナーは2速迄落としてミッションのギヤ比が相手より低いから立ち上がりが速い。9000でシフトアップしている」
「隆文は2速だけどここはちょっと捨てて中高速で勝負だからな。立ち上がりで5000か、ここで9500迄回してる」
「雅子は6000で立ち上がって9000でだけど立ち上がりの初期が相手より速いだろ」
「ああ、そうか、相手は離そうとして回し過ぎを狙ったな」
「ああ、クランクがどうなっているかわからんが。オーバーレブ続くのはヤベえな」
レースは不気味なほど動きがなく進んで残り5周になった。
「隆弘、雅子が行くぞ。タイヤも温存してて行けるはず」
「そうだな。十分トップを狙えるだけ後ろをちぎった。」
「隆文も9500迄で走ってるな。あああ、隆文が仕掛けたぜ」
「やっぱり、タイヤを温存してたな」
「隆弘、あらら、隆文の相手はなすすべなしか」
「悟瑠。相手はタイヤがダレているんだよ。車重で」
「隆文は今4番手か。残りからすると雅子には追いつかないな」
「3番手と2番手の差がでかい。残りのラップからしたら。おおおお、トップがスピン?」
最終コーナーでトップを走っていた車がスピン。
なんなく雅子は躱していく
「雅子、よくよけた。予想していたな」
「悟瑠。雅子がトップか」
「後は逃げ切りだな。隆文は3番手だ、この差じゃあつまらないしもう仕掛けも無理だろ」
今のスピンでトップがレースに復帰した時既に6番手迄下がっていた、スピンでフラットスポットができてしまったのかスローダウンだ
「そうだな。雅子はもう流して逃げ切りだ。2番手も隆文もタイヤが残ってないだろ」
「うん、悟瑠。隆文はあんなにアンダー出てる。フロントの負荷がきつかったか?」
「そうかもな。トップの奴は痛恨だったな。タイヤが垂れたか」
レースはそのまま終わって雅子がトップで帰って来た。
表彰台で嬉しそうな顔の雅子だった。
それよりもデビューで表彰台に乗った隆文の方がもっと嬉しそうな顔していたのだった。
「雅子、やるなー」
「たまたまよ。前の車は残り8週くらいから左の後ろがスローパンクチャ―してたの。スピンするとしたら一番速度が乗ってる最終かタイトな第一だからそこで気をつければいいからね。それなんでちょっとインフィールドでプッシュしてたんだ」
「雅子、さすがだよ」
「トップは嬉しいね。隆文も表彰台じゃん」
「ああ、もっとタイヤマネージメント勉強だ。もう最後はずるずるでやばかった。雅子を追いかけられないんだよ」
「隆文、成長したな。以前だったらガンガン行ってたんだけどな」
「よし、雅子、帰ろう。今日はゆっくる寝ようぜ。トラクターで寝てていいから」
僕と雅子は3軸トラクターでTSカーを乗せたトレーラーを引っ張って、隆弘たちはフーセンちゃんでアジトにむかっていた。
「お兄ちゃん。3軸トラクターの運転ありがと」
そう言ってそっとほっぺたにキスしてきた雅子だった。
トップを取った雅子と腕の差を痛感する隆文
総輪駆動の楽しさを見つけた雅子は?
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