第二十七話 ボンネットトラックと雅子のTSデビューで
百合ちゃんの家の仕事とスーパーの仕事それだけじゃなく雅子のTSカーの整備にもかかりきりの悟瑠
雅子はデビューで楽しむTSカーレース
根っから走るのが大好きな雅子
「雅子、すまん。熱があって百合ちゃんの街中の練習にいけない」
「わかった。あたしが行ってくるよ。百合リン、悪いけど街乗りの練習したらあたしをお店においてくれる?錦君で帰ってくればいいから」
「ありがと。悟瑠さん大丈夫?」
「多分、ちょっと疲れがたまったのかも」
「そうね。お兄ちゃん確かにハードだったもんね。いいよ。神様が休めって言ってるの。ゆっくり寝てね」
雅子は僕にお昼ご飯を準備すると百合ちゃんと出かけて行った。
夕方まで寝たが直らず、雅子が全部世話してくれた。
休み明けの日、それでも僕の熱は下がらず、お店を休んでしまった。
雅子に聞くと隆弘と隆文もダウンしたらしい。
このところ忙しすぎたようだ。
それでも移動キッチンの製作やボンネット6×6ダンプの車検も有って仕事が溜まってしまっていたのだった。
次の日熱が下がった僕は一日遅れたがラムちゃんを建設会社に納車に行った。
ラムちゃんを運転するのは雅子で僕はトラクターの生エンジンマニ割仕様でいった。
それは船底を引っ張るのと雅子の帰りの足でもある。
「すみません、一日遅れましたがP-RA52Mの納車です。ボンネット6×4ダンプを引き取ります。」
「佐野さん、いくら若いからって無理しないでくださいね。今は予備車なんで多少遅れてもいいですから」
「すみません。約束の日程には間に合わせますので」
「いやいや、いいですよ。それもあるんですが。このボンネットのボンネット6×4ダンプにもバスのP-RA52Mみたいにターボつけたいんです。お願いします。実は娘の9メートル観光バス乗ってパワーあるとこんなに走りやすいのかと思ったんです。それなのでパワー出せるようにお願いします」
「ええと。このボンネット6×4ダンプのエンジンはRD8ですよね。詳しく見てないですが初期の280ps仕様ですよね。この車の部品があるかなあ?ブロック強度がわかんないなあ。360psならマリンにあったんですけど360psじゃあ不足ですよね」
「そうですか?うーん、総重量20トンなんで450psは欲しいですね。トルクも150kgは欲しい」
「それなら別のエンジンでやってみますよ。新しいRE8に載せ替えていいですか?排気量は1000ccほど大きくなってブロックも設計変更入ってるのがあるんです。このエンジンは1970年代の物ですけどU-のだと90年代生産の物があるんですよ。バスのラムちゃんと同じ仕様にしますので。U-のエンジンの在庫ならありますから」
「ぜひお願いします。」
「ミッションも強化品に入れかえるんでちょっとお値段張りますが」
「いいですよ。父も言ってたんですよ。めいっぱい積んだ時に坂登るの遅いんで後続車に迷惑掛けるからもっと速くなればいいなって言ってたんですよ。それもあってエンジン換装とターボお願いします」
「では、RE8にしてターボにしてみますね。速くなる分補助ブレーキも強化しておきます。リターダー2連装しますね。」
「それはぜひ」
僕と雅子はボンネット6×4ダンプを乗せた船底を引っ張ってお店に帰って来ていた。
その道中雅子としゃべっていた。
「百合リンのパパはマキちゃん乗ったのよね。10トンに385psのマキちゃんに乗ったらダンプたちのパワーじゃあいくら用途が違うとは言っても物足りないよね」
「そうだね。ちょっとね。この総重量20トンに280psは物足りないって言うよ」
「お兄ちゃん、またよろしくね。455psだっけ?」
「ああ、段取りはエンジン換装してすぐに公認取る。後付ターボは補機だ、K-にU-のエンジンだからまだ楽だよ。百合ちゃんの武蔵君と同じだ。総輪駆動のボンネットよりも工事は楽だよ。エンジンルームが広いから」
「それにしてもボンネット6×6ダンプとボンネット4×4ダンプは大型用のインタークーラーつかないんだもんね。狭いんじゃ仕方ないか」
「キャビンを載せ替えてやればいけそうだけどね。日本の車検制度はシャシさえ素性わかればキャビンははあんまり影響ない。全長と全高、全幅同じならそのままのいけるときもあるよ。ほんとはむき出しになったエアクリーナー直したいんだよね」
「そうね。あたしが2WD用のキャビンを探すわよ。海外ならあるんじゃない?このメーカー結構輸出してるし」
「そうか、海外からキャビン取り寄せるって手もあるよね」
「うん、日本でも廃車体いいのないか探そうよ。ここまでくるとレストアというよりも魔改造工房ね」
「なんか改造系の仕事増えちゃったなあ。整備工場なのに移動販売車の制作とか移動キッチンの制作とか、エンジン換装とか」
「とはいっても仕事あるんだから良いじゃん。経理のあたしからしたらありがたいよ。それに作業する人が増えて楽でしょ。」
「そうだな。この車たちを見てた工場を廃業するときに入ってくれた人に感謝だよ。旧車を見てただけあって知識豊富で助かる。」
「お兄ちゃんはこのところ工場長の仕事よりも作業員としてやっていたもんね。その後に工場長と副社長の仕事じゃ疲れたまるよ。お休みの日はTSカーの製作もやってじゃあ」
「そうだね。3人来てくれたけどいいことにみんないい腕してるよ。特に板金は任せっきり。腕が良過ぎあっという間に直しちゃう」
「そうね。それに丸松建設の車をずっと見てた人たちでしょ。ボンネットダンプの整備にも慣れてるって感じでいいじゃん」
「そう、3人に聞いたら丸松建設の社長は結構な飛ばし屋だって。運転の腕は確かみたいだけどね」
「それが百合リンに遺伝かも。その飛ばし屋さんがマキちゃん乗ったらボンネットダンプじゃあ物足りなくなるんじゃない?」
「そうだよ。さもありなんって言ってた」
「あはは、そうね。このボンネット6×4ダンプは隆弘さんたちに任せるの?」
「うん、ラムちゃんでRE8のターボ作ったから同じ部品でいいと思う。ラジエターはインクラを前に置くからその分容量あげないときついかな?」
「お兄ちゃんはいじることになると止まんないんだから。隆弘さんに任せなよ」
「そうだな」
「そうそう、また笠木さんのお店から連絡あっていいバスが見つかったって」
「明日直ぐ見に行こう」
「うん、いいことに2台見つかったんだって」
「やるなー。すごいよね見つけるの」
「うん、大助かり。どっちも前後ろドア仕様で一台はワンステップのKC-RM211GANでもう一台はU-LR332F改」
「良いじゃん。見て来よう。明日行こう。前後ドアなら真ん中にキッチン置けるよ。販売型式は車内での販売の方がいいな。全天候にできそうだ」
「そうね。それから百合リンも明日バスを見に来るって。今は百合リンが移動販売車プロジェクトのリーダーやってるから。見つかったよって言ったら来るって。課長は百合リンに任せた状態」
「へええ」
「百合リンも大型免許持っているのが大きいよね。会社にもマキちゃんと武蔵君とか時にはラムちゃんで行くくらいなんだから。よっぽどV8が大好きなんだよね。そうそう後ろに積んでるボンネット6×4ダンプも早く乗りたいって言ってるよ」
「そうか」
駄弁りながら、会社に帰ると直ぐに船底を工場に入れてボンネット6×4ダンプをおろしていく。
「悟瑠、雅子、おかえりなさい」
「ただいま、わりい、隆弘、おろすの頼む」
「はいよ」
僕がバッテリーをつないで隆弘がエンジンを始動する
くううううっ、くううううっ、くうううううううううっ、ガラ、ガラ、くううううっ、ガラガラシュパッシュパッシュパッシュパッガラガラガラガラガラガラ、グオオオオーン
ゴロゴロゴロとV8独特のアイドリングの音が工場内に響く
もうもうと排気管から煙を上げてボンネット6×4ダンプのエンジンが目を覚ました。
「隆文、誘導頼む」
バックで下ろすので船底後端からブリッジを出し、脚をおろして船底のフロアを固定していた隆文が誘導する
「兄貴、まっすぐバック」
「おう」
ガン、ゴロロロ、キュワッ
カプラーの打音、排気音とタイヤが船底の鉄板を擦る音がする。
「はい、オーライ、オーライ、オーライハンドル右、ゆっくり。オーライ、まっすぐそのままオーライオーライ」
ガシャーンとブリッジが船底を叩く音がしてボンネット6×4ダンプが降りた
「兄貴、ボンネット6×4ダンプはボンネット6×6ダンプの左隣のピットに入れてくれ」
「はいよ」
隆弘がボンネット6×4ダンプをピットに入れていく。
「隆弘、まずはエンジン載せ替えて公認よろしく。それからターボつけよう」
「おう、そうか、これは車外騒音規制前だからテストなしか」
「そう、楽だろ」
「排気ガスもそのままで通るのか」
「そう、それよりも厳しいU-のエンジンだ。オーバーホールしてあるから大丈夫だろ」
「まあな、隆文と俺がやったエンジンだ。強度計算だけど、あ?これ300ps版乗ってるじゃん。ってことはトルクが5%違いか。強度計算簡単じゃん5%ならどうやっても通るよ」
「それいいじゃん」
調べると最初から300psのエンジンが乗っていた
U-のREエンジンはトルクが105kgなので100kgの今、ボンネット6×4ダンプが積んでいるRDとは5%の差なのだ。
「隆弘。明日は百合ちゃんのスーパーに頼まれているキッチンカーのベースを見てくる。ボンネット6×4ダンプのエンジン載せ替えよろしく」
「おう、ターボの部品は公認の時に揃えればいいよな。先にボンネット6×6ダンプの組み立てだな」
「うん、ボンネット6×6ダンプの改造が終わったらキャブオーバーバスのレストアが来るよ」
「悟瑠、仕事相当入ってるな」
「ありがたいことだ。キャブオーバーバスは新しく来てくれた3人に任せようと思う。丸松の社長からレストアの相談はされていたらしいから」
「それでいいよ。俺はボンネット6×4ダンプのエンジン載せ替え。隆文とバイト君でボンネット6×6ダンプの車検とターボ、やるよ」
「明日の段取りはそれで行こう」
僕はその日に船底を丸松建設の敷地に返していた。
その後、工場に帰って仕事の割り振りを作って隆弘に連絡、終わってアジトに帰ってくると先に雅子が帰ってきていた。
駐車場になんとリングちゃんが停まっていた
「お兄ちゃん、明日は百合リンも行くから今日からここに泊まって車はリングちゃんで行くの。百合リンが下りの練習したいんだって」
「わかった、いいよ。百合ちゃん、リングちゃんはリターダーが単機だからシフトダウンしてエンブレ使うからね。速くなったからってブレーキの効き上がってることはないからね」
「そうね。脇でお兄ちゃんが教えてよ」
「うん」
次の日、僕らは行きに雅子のドライブで笠木さんのお店に向かっていた。
急な登りはやはり重量が観光仕様で重くトルクがないリングちゃんでは結構きつい。
「雅子、全開でいいからね。これはマキちゃんに比べたら遅いと思うけど」
「百合リン、排気量倍くらい違うじゃん。マキちゃんはあの10トンに13リッターなのよ。パワー余るでしょ」
「そうね。その分排気が効くのね」
「うん」
「雅子、これは排気量はニジュちゃん位だから気を付けて。それにリターダーが単機」
「うん」
雅子は急な下りも排気とリターダーを主に使って危なげなく運転して笠木さんの店についた。
「笠木さん、おはようございます。いつも大変お世話になっております。今日はバスを使う方を連れてきました。松尾 百合さんです。ここでブルーリボンとスーパークルーザーを買った」
「いやいや、こちらこそ。またお願いします。ウッディパラソルの笠木です」
「松尾 百合です。また、よろしくお願いいたします。実は雅子の同級生です」
「いい車があるって連絡貰ったので。いつも助かります」
雅子が言う
「これですよ。これらどっちもターボの前後ろドアなんです。KC-RM211GAN改のワンステップでもう一台はU-LR332F改です。」
「両方ともにターボですか。それなら好都合ですね。百合ちゃんいいかな?」
「うん、これがいいよ。これ使ってキッチンカーにしよ。洋食系はU-LR332F改にしてお弁当はKC-RM211GAN改にしよ。重量配分考えたらキッチン什器はなるべく真ん中に置いた方がいいかな?」
「うん、お兄ちゃんとしっかりお話してからね」
「今日はどっちか乗って帰れるかな?」
「佐野さん、どっちもナンバー切ってるんで今日は無理ですね」
「そうですか。雅子、明日に隆弘を連れて来よう」
「悟瑠さん、明日あたしがマキちゃんで来るんで乗せますよ。あたしマキちゃんでも下りの練習するから」
「良いけど。わかった。百合リン。お願いね」
「笠木さん、明日引き取りに来ます」
「承知しました」
僕らは契約して内金を入れてお店に戻っていた。
帰りは百合ちゃんの運転だ。
サミットを過ぎて下りが急になって来たころ雅子が百合ちゃんにアドバイスする
「百合リン、3速に入れて排気とリターダー使って。マキちゃんと違ってゆっくり行かないとまずいよこの下り坂は」
「うん」
百合ちゃんは排気、リターダー、ブレーキで減速すると3速に入れて下って行く
ぼおおおっと排気ブレーキ独特の音が車内に響く
3速、30キロくらいでゆっくりと下る。
「百合ちゃん、その調子」
「うわー、これすごい。悟瑠さんはこの前にラムちゃんでここ下ったんですよね。あたしは武蔵君で4速の排気とダブルリターダーで下ったのと夜だから気がつかなかったけどすごい下りなんですね」
「そうだよ。ここが難所。でもラムちゃんは排気量15リッターあるからまだこのリングちゃんよりも排気が効くから楽だよ。雅子の持ってるニジュちゃんも大変だよ。リターダー2連装にしたのはその対応」
「そうなんですね。このリングちゃんが一番大変なんですね」
「うん、社長がほとんど運転するのとそんなに急坂いかないって聞いたから、リターダー2連装はしなかった」
「そうなんですね。マキちゃんの方が万能ってことですね」
「そうよ。お兄ちゃんはちゃんと乗り手のこと考えて車作るの。安心して乗ってね。壊れないように作るからね」
「さすがね、もっと練習しよう」
百合ちゃんの運転でゆっくりと下って時間はかかったが無事にアジトに着いてそこから僕らは自分の車に乗り換えて会社に向かった。
会社で雅子と百合ちゃんとキッチンカーの内容を詰めていた
「やっぱり什器はここにおいてかな?フライヤーは電気とガス併用かな?」
「そうだね」
「前から乗って後ろのここで清算ね」
「そうか、そうよね。でもさ降りるときに2段になっちゃうから後ろ乗りで前にレジの方がいいよ」
あーでもないこーでもないと百合ちゃんとキッチンカーの仕様を話している妹の佐野 雅子。
免許を取ってしばらくは峠のバトラーだったが、その後はドリフト競技に嵌って3回も優勝してしまった、今回はTSカーに乗ってみたいと言って車を探してきてTSカップに出るべく休日すべて使って僕と一緒に車を製作してシェイクダウンしている23歳。
普段は大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスの改造車の貨物車、U-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるこれまた元バスの○アロスターMMのMM618J改の300ps仕様の貨物車、時には僕のコレクションから乗ってみたいバスを選んでは自分で運転して僕らが住んでいるアジトと言われている元祖父母の家から勤め先の大きな市内にある実家が経営している中古車屋兼整備工場に通ってる。
家業では経理担当の副社長になっている。
普段は車両の仕入れ、売却、メンテナンス部品手配や整備した車の納車が主な仕事だが整備も好きで整備士の資格を取っているので、時には整備工場に来てお客さんの車をいじることもある。
僕らが住んでいるアジトとチームの仲間たちから呼ばれているところでもお客さんの車を積載に乗せて来てメンテすることもある。
妹の雅子は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業していて、在学中に商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級を取っていて事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっている。
その雅子は進学せずに高校卒業後すぐ入社したスーパーでわずか4年チョイという異例の速さで係長に出世して、同期からは初の高卒30代女性役員誕生かとうわさされた。
しかし、当の雅子はいろんな車に乗る仕事したいと言ってあっさりスーパーを退職して家業についてしまった。
なぜなら雅子はスーパーでは出世することに全く興味なく高卒ながら大卒でも7年はかかるはずの係長に5年目でなって大方の大卒5年目よりも多くの給料をもらっていたが事務所で仕事するのは性に合わないというのだ。
そんな雅子なので、もともと車を運転するのが大好きが高じていろんな車に乗れる仕事がしたいといって、家業の中古車販売店、兼整備工場に転職した。
家業に従事してからは危険物、大型2種免許を取ってしかも整備士の二級免許、牽引免許も取ってしまったほどの車好きだ。
雅子はプログラム組むのが好きなこともあって自分のドリ車のエンジンの制御コンピューターも自分でプログラム組んでしまった。
それなので僕はエンジンを載せ替えたトラックのBCMのフルコンのセッティングをお願いしたらきちんと仕上げてくれた。
最新の点検機器も扱えるので整備の面でも助かる
他には実家の規模に合わせたいろんな経理システムを組んでいて、両親も大助かりといっている。
特にしっかりと財務状況がわかるようなソフトを作って管理しているので今までは確定申告のときにバタバタだった準備作業が雅子の組んだソフトのお陰ですべてデータとして蓄積されていて簡単にネット上で申告できるようになっている。
例年夜なべして伝票整理、資料記入していたが、全くすることがないのだった。
部品の発注も整備の受注もネット上でできるようにしてあるので電話での対応も減っていてその分営業に時間がさけると母親は喜んでいるし、父親もネットで事前に不具合の状況を画像等でもらっているので修理箇所の予測がつけやすくなって仕事が早く進むと喜んでいる。
雅子は峠を走り始めて既に6年目になっていて、僕の古くからの友人で整備工場の副工場長をやっている隆弘がリーダーを務めるチームで僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせたタイムもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
ドリ車を作って競技に参加するほどに嵌っていた。
出場5回目で3回の優勝してしまったほどの出来だった。
しかも3回ともドリフトとレース両方でトップという完全優勝だったのだ。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを持って嬉しそうに笑っていて、やっぱり表彰台は真ん中がいいといっていた。
今度はTSカーでレースしたいと言っているのでこれも会社PRのためにスポンサーすることにしていた。
その雅子の普段の運転はとてもスムーズで隣に乗るとついつい寝てしまうくらいだ。
普段は車を労って走らせているのがよく分かる。
かつては大型バスを使ったスムーズドライブ競争でも勝ってしまうほどのスムーズさなのだ。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の3月生まれの26歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の自動車工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
また、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型免許は大学在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
それを良いことに中古だが、観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
妹の雅子がメインで使っているバス含めて全部ターボにしてパワーアップと同時に黒煙対策している。
特に唯一のKL-規制対応のゴーゴーくんはDPDが付いているのでエンジン本体での黒煙を減らしておきたかったのだ。
家業の整備工場は大型車の整備もする関係で場所がいるのでオイル交換等の軽整備は元々隆弘の親が経営していた整備工場に機器を移していてそっちでやることにした。
他にはアジトとチーム員から呼ばれている僕と雅子が住んでいるもと祖父が経営していた製材工場跡のガレージでやることになったのだ。
アジトと呼ばれているここには車両をいじる設備として、すべて中古ではあるが、ボードオンリフトが2機、エアーコンプレッサー、スポット溶接機、MIG溶接機、プロパン+酸素バーナー、レーザー溶接機、板金道具、定盤、2000トン油圧プレス、油圧けん引機、ベンダー、ボール盤、旋盤、フライス盤、ワゴンしき工具箱、タイヤチェンジャー、バランサーまでそろっているので、メンテどころか改造迄できてしまう。
事実、ドリ車とTSカーはここでどんガラの状態から作り上げたのだ。
もっとも、スポット溶接機、レーザー溶接機、タイヤチェンジャー以外は祖父が現役の頃林業で道具や木材運搬車等が壊れると、そこで修理していたのでそれを受け継いだのだ。
2000トン油圧プレスは材木が反ってしまったときの修正用兼圧縮用でかなり大きいのだ。
油圧牽引機は木材で変形した運搬用トレーラーを直すためのものでその能力は200トンと聞いた。
この場所の敷地は搬送のために大型車が20台くらい悠々と停められる広さがあり、父親がこの場所を借りて中古車版売店を始めた場所でもある。
ここも整備工場として登録してある。
僕らの両親はどちらも車大好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
父親はこのところ僕の趣味に感化されたのか中古のバスを3台も買ってきて全部をマニ割仕様して、それに乗ってどこどこ音をさせて営業に行ってしまっている。
それにレッカー車も買ってきて若いころやっていたマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーにしろと言うほどのマニ割マニアっぷりを発揮してしまった。
エギマニは自分でマニ割仕様をステンレスパイプを手曲げで作ってしまうほどの腕を持っていた。
若いころは大型車が主な整備工場に勤めていてマニ割を相当数作ってはお客さんに収めていた、マニ割車を100台近く作ったというマニ割マエストロでもある
その業界ではちょっと名の知れた存在だ。
そんな父親なので、整備工場では僕が工場長になったのを良いことに隆弘の親が経営していた整備工場を買い取り本格的に大型車も整備するようになった。
母親は独身の頃はドリフト競技に出ていたという位の運転好きだ。
競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
乗用車の整備工場では見てくれなかったが、大型車の工場なのにうちの父親が仕事を引き受けていたのだ
この両親を見れば僕と雅子が車大好き、運転大好きになってしまうのは当然だろう。
「雅子、百合ちゃん。明日、笠木さんの所に車取りに行ってバラしてフロアの詳細な採寸して詰めよう」
「はい、車はあたしと調理主任と詰めたいので明後日に主任を呼びますね」
「百合リン、明後日迄車の採寸するからね。必要な場所よろしくね」
「ありがと。雅子採寸頼むね。今日もお泊りいいかな?」
「いいよ」
百合ちゃんは昨日に続いてアジトにお泊まりしていた。
車をマキちゃんに変えてきていた。
次の日、朝一番で笠木さんのお店に着くとすぐに仮ナンバーをつけてバス2台引き取ってきた。
帰りは安全を考えて百合ちゃんは補助ブレーキが一番効くマキちゃん、僕がU-LR332F改を運転して、雅子がKC-RM211GAN改を運転してきた
時間がなかったのでサミットを超えて帰ってきたが、僕が乗っていたU-LR332F改は排気量が小さくて排気の効きがいまいちなのでゆっくりと下って来たのだった。
到着してすぐに隆弘たちの手を借りて車内の椅子を全部外して、つり革も外し、床の採寸していた。
雅子と百合ちゃんは測った結果を見ながらあーでもないこーでもないと話していた
次の日からは調理主任を交えて配置を決めていた。
キッチンカーの製作で忙しく過ごしたその週の土曜日、日曜日は雅子のTSカーのデビュー戦だった。
僕らはお店を両親にまかせて参加していた。
ウイング式の積載とサポートカーのキュピーちゃん、雅子のリラックス用のなごみちゃんの3台で行った
「雅子、今日は課題出しが主と思って走ってくれ」
「うん、予選で大凡の周りの実力はわかったけど、何があるかわからないのがレースだかんね」
「そうだね」
デビューの雅子は3番グリッドからのスタートだった
場所は先々週に雅子がドリフトで勝ったのと同じ場所だった。
グリッドに着いて準備していた雅子に無線の感度を確認する
「雅子、聞こえるか?感度いいか?」
『うん、感度良好。今日は様子見で行ってくるよ。ストレートの速さからするとパワーじゃあ5番手くらいまではあたしより上だから』
「うん、もうちょっとパワーアップするようにする。そのためのデータ取りも兼ねてだな」
『もちろんよ。ふへへへへー楽しみ。速い車の後ろで走りも盗んじゃお』
「その意気だ。頼むぜ」
『OK、任せて』
シグナルがレッドからイエローになってフォーメーションラップのスタートだった。
僕と雅子が組んだエンジンなので他と比べてどうかは全く分からない
レギュレーションでは1510ccまで許容されているがこの車はショートストロークの1490CC仕様だ。
20ccの差がどこまであるかわからないので今回は雅子に走って差を調べようとしていたのもあったのだ。
ぷおおおおーんとやや甲高い音で雅子の車が加速していく
「スタート切ったら本番だな」
「おう、隆文、テレメータ頼むぜ」
「悟瑠さん、兄貴。今のところいい状態だよ」
フォーメーションラップ一週で終わってペースカーがピットに入るとシグナルが青に変わってスタートだ
「よし、いい位置だ」
「うん、パワーが拮抗しているから抜くのも簡単じゃないな」
「そうだよな。このダンゴじゃベストラインは全く使えないから腕の勝負だ」
「悟瑠さん、テレメータなんですが、思ったより水温が高いです」
「そうか。ラジエターの容量あげないとダメか」
「ですねえ」
「オイルクーラーも容量あげた方がいいかもね」
「ああ、キャブはソレックスだろ。外気温で設定変えないとな。なかなか難しいよね」
「悟瑠さん、ちょっと空燃比濃いめの様で上が苦しいです。」
「そうか、ソジュームバルブなんでもう少し薄めにしてみよう」
「ここはミニサーキットと違って速いからもっと冷却風入るかと思ったけど意外に入らないね」
「そうだね。それに思ったよりも発熱が多いよ。古い形式のエンジンだからかもなあ」
「周りはデータの蓄積があるからいいけど。こっちはない分不利だな」
「悟瑠さん、水温が下がってます」
「なんだ?もしかしてエアが抜けきってなかったか?」
「それはないと思うけど」
「あ、そうか。周りの速度が落ちている。雅子はタイヤを温存して後半に勝負の作戦だ。」
「そうか、タイヤ交換なし、ノーピットで行くんだな」
雅子はずっと3番手を維持している。
10周を過ぎてくるとペースが決まってきているようで雅子を含む3台がトップ集団になって他を引き離している。
「雅子、車の調子はどうだ?」
無線で雅子に聞く
『うん、今のところ大丈夫』
「仕掛けるか?」
『あと5週待ってみる。そろそろ2番手のフロントが厳しいはず』
「そうだな。ちょっと抉っているね」
『うん、もうちょっとフロントタイヤをいじめてからね』
雅子はずっと2番手の隙を狙っていながら上手く相手のフロントタイヤが減るように仕組んでいた。
コンディションはほぼ同じなので腕の勝負になる。
2番手のドライバーは雅子がここまでやるとはおもってもいなかったのだろう
前を追いながらも雅子に抜かれまいと結構無理をかける走りになっているようだった。
敏感に雅子は2番手の車に無理がかかっているのを感じていたようだ。
『お兄ちゃん、行くよ』
「え?」
レースも残り5周となったとき、雅子は2番手を抜きに行く
バックストレッチでスリップに入って行くブロックしようと左右に振った2番手が最終コーナーへインをがっちり締めたまま入る。
「え?あ、そうか」
雅子は殆んど当たる位の位置で2番手の付いて飛び込む
「やっぱりそうか」
「なんだ?」
見ていると2番手はフロントタイヤが相当ヘタって来ていたようでアプローチでの減速が不十分且つやや強めのアンダーステアを発生されてしまった
「うまい」
雅子は2番手がたまらずアウトに膨らんで開けた進路を駆け抜け難なく2番手上がった。
若干離れたトップを追う
「雅子、よくやった」
『ふへへへへー、やったよ。次はトップね』
「乗ってるぜ」
雅子はトップを追ったもののさすがに上位者はブロックが上手く、結局抜けずに2番手でゴールした
その差は0.5秒もなかった。
「あーん、悔しい。抜けなかったか」
「雅子はやるなー。ドリで俺が勝てないのはそう言うことか」
「さすがみんなうまいよ。これならあたしのレベル上がる。お兄ちゃん。いい車ありがとう」
「いいやどういたしまして」
「悟瑠の車と雅子の腕だな。データもろくすっぽ無いのによくやるよ」
親には結果を連絡して明日から仕事するといっていた。
次の日、出勤すると
「お兄ちゃん、ダンプカー見つかったってKL-FS1KKCD。これならいいんじゃない?2デフ」
朝一番に雅子が笠木さんのお店からの連絡を受け取っていた。
「うん。これいいかもね」
「もう一台KL-CW55XKUD改もあるって」
「これも2デフか。社長に選んでもらうのもいいよ。松尾さん誘って見にいこう」
「いいよ、連絡するね」
雅子が連絡するとなんと、すぐに行くと社長自らリングちゃんを運転して僕らを迎えに来たのだった。
復活した悟瑠は大型車に掛かり切り
TSカーの課題も見えて
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。




