第二十四話 雅子のTSカーと新たな取引先
忙しくバスとTSカーを仕上げる僕
百合ちゃんにバスの運転練習に付き合っている雅子
バス2台買っちゃう百合ちゃんって何者?
「はい、どうもありがとうございます。ところでP-RU636BBはいかがでしょう」
「ああ、そのバスはエンジン載せ替えて公認は取ったんで後2週間ください」
「よかった。このバスで練習しよ」
「そうね。移動販売車のKL-UA452PAN改よりは短いから車幅に慣れるにはいいかもね」
「雅子って普段からバス乗ってるせいか?簡単に乗ってるように見えちゃうんだもん」
「それは経験の差かも」
「そうね。あの距離毎日運転して通っているんだもんね」
そう言ってエンジンをかけてV8独特の音に満足していた百合ちゃんだった。
百合ちゃんのバスライフはここから始まった。
しかし、この百合ちゃんのバスライフでまた一つ大きな動きにつながるとは思いもよらなかった。
僕らは百合ちゃんのP-RU636BBのエンジンを色々なところが強化されているF17Dに載せ替えて公認を取ってツインターボ、インタークーラー、オイルクーラーで冷却系を強化してミッションも強化されている7速にしようかと見ていた時だ。
「悟瑠、A09C用ミッションは合わないな。軸が細い」
「隆弘、それじゃあ、使えないな。やっぱりE13Cの6速だよ。強化はされていそうだからリターダー付きのを買ってきてやるか」
「悟瑠さん、あの今ついているバスのミッション、なんか華奢な感じするよね。このメーカーはミッションに余裕ないってよくわかるね?」
「うーん、そうなんだよね、ほかのメーカーは耐トルクに余裕あるけど、このメーカーはないもんね。耐トルクは大きい方がいいよ」
「そう思う、ここの積載のトラクターもターボの方はミッションに余裕あるように感じるけど生の方は余裕ないって感じだもんな」
「悟瑠さんの親父さんのマニ割マニアっていうか、生は全部マニ割ですよね。V8でもマニ割って」
「仕方あるまい。親父は相当数作ったって言ってたよ。その頃は排ガスデバイスないし、マフラーの規制緩和されたんでガンガン作っていたようだよ」
「煙突マフラーにもするとはな」
「煙突は完全に趣味、と言ってもKC-じゃあ結構煙を吐くからねえ。それで燃料やや絞っているんだよ」
「ああ、黒煙対策ね。上にあげれば後続車の迷惑にならないからね。それにしてもすきだよね。親父さんが積載使うときって必ずマニ割の車使うもんね」
「それもよしだろ。そうだ、レッカーにターボつけよう。親父がマニフォールド作ってくれたよ。目標は500psでトルクは177キロかな?」
「そうだな、ツインターボで500psってことね。ちょっと不足って感じだけど」
「ミッション強度でこれ以上は無理なんだよね。もっと欲しいといっても耐久性なくなっちゃったらまずいでしょ」
「確かにそうだな。ミイラ取りがミイラになったらヤベえよな。じゃあ悟瑠の言うように500psでやめとこう」
「どっちにしてもクラッチの負担は変わんないし、発進のところは排気量で決まるからな」
「そうだな。さて、悟瑠。百合ちゃんのP-RU636BB仕上げたらレッカーターボ化だな。結構忙しいな」
「百合ちゃんはマキちゃんに乗っててなんか満足してるみたいだよ。しばらくは来ないって」
「それならいいけど。雅子にレッカーのターボに使う部品頼んでおくのか?」
「もう頼んだ。6HLの300psのタービン2個使うよ」
「インタークーラーは?」
「6WFの520ps用、ラジエターは10TD1の600ps用にしてポンプは電制の10TD1用で絞るから」
「いけそうだな」
「ノズルはV12の640psのあるから流用」
「悟瑠はもうプラン決まってんじゃん」
「まあね。計算したらオイルクーラーは今のままでいいよ。低速の時を重視した大容量ついてるから」
「そうだな」
「非常停止装置は雅子のバスとレッカーと積載、ターボのトラクターにつけるんだ。部品来てるから隆文に加工頼んだよ。良い腕だよ」
「あの器用さは俺もびっくりさ。今日は雅子のバスか?」
「うん。百合ちゃんのも忘れないように」
僕らは百合ちゃんのバスをターボにして非常停止バルブをつけていた。
同じように念のため雅子のニジュちゃんとエムエム君にもつける算段していた。
会社のレッカーと積載とトラクターのターボにも付ける算段していたのだ
僕の車は優先度下げた、何故なら全車MTなのでいざとなったら最上段のギヤに入れて排気とリターダーを入れてブレーキ踏めばいいと思っていたのでモノだけは準備して時間をみつけてつけていくことにしていた。
「悟瑠、見立ては確かだな。P-RU636BBからおろしたEF750のブロック見ると明らかにリブが少ない。F17Dの方がどう見ても剛性高いよ」
「そう、パワーだすならブロックの剛性いるよ。」
「冷却系はルーシーちゃんと同じで良いか」
「ああ、それやれば余裕さ」
「エンジンルーム狭いから苦労だけどやるか」
「リターダー2連装するからその場所も見つけてだな。マフラーはマキちゃんと同じくフルデュアルにするぞ」
「おう、V8のマフラーはやっぱりフルデュアルだよなあ、V8のパワフルな音が聴ける」
「百合ちゃんはそれに嵌ってるってよ。P-RU636BBは武蔵君ってニックネーム付けたらしいよ」
「武蔵君か、いいかもな。ところでU-LV270Hはどうしてマキちゃんなんだ?」
「ボディが17型マキシオンだからさ」
「それでマキちゃんか」
僕と隆弘、隆文は3人で百合ちゃんのバスの武蔵くんを仕上げていた。
その日は日曜日でアルバイトでチームの学生が二人も来てくれたので総勢5人がかりで部品を組み付けていた。
この個体も笠木さんの先代の社長が面倒を見ていた=防錆処理していたので年式のわりには錆がほとんどない。
それに電子錆止めも着いていてその効果も抜群なのだ。
定時で仕事を終えて、アジトに帰る。
「みんな、ありがとう。今日はここまで」
「はーい、明日はお店休みだ。アジトに来れる人いるか?午後でいいんだが」
「はい、いきます。僕ら明日午後休講なんで、午後からいけます」
二人とも手をあげてくれた。
「おう、助かる」
「明日はTSカー作るから手を貸してくれると」
「はい」
僕がアジトに帰ったとき、雅子が乗って行ったニイナちゃんが戻っていなかった。
今日は百合ちゃんの練習に付き合うと言っていたので遅くなるのかなと思っていた。
軽く夕飯を食べるとガレージにいって明日の作業の準備していた。
買って来たどんガラのあちこちが錆びまくっていて鉄板の交換が必要だったので交換の段取りをしていたのだ。
交換すると、熱で鉄板が歪んでしまってボディアライメントが狂うことも考えられるのでアライメントを測りながら進めていく準備していた。
1時間くらい作業してお風呂に入ろうとしたところ
"どりゅどりゅどりゅどりゅ、ドスドスドスドス"とV8独特のエギゾーストノートが聞こえて来て2台のバスが来た。
雅子のニイナちゃん改と百合ちゃんのマキちゃんとニックネームが着いた9メートルの観光仕様のバスだった。
「雅子、お帰り。え?もしかして?百合ちゃんも」
「うん、ちょっとおしゃべりもしたくて。聞いたら百合リンも明日お休みなんだって。それに武蔵くん納車まで長さに慣れたいんで運転の練習もしたいんだって」
「そうか。わかった」
「お兄ちゃん、ご飯は食べちゃったよね」
「ああ、作ってあるから雅子も食べな。百合ちゃんの分もあるよ」
「いいんですか?なんか悪いです」
「大丈夫。余ったら冷凍するだけなんで遠慮なく」
「さすがお兄ちゃん。悪いけど食べたら百合リンのバス運転練習にいくから。お兄ちゃんも付き合って。大型バスの運転はお兄ちゃんにかなわない」
「いいよ。部屋で明日のTSカー製作の段取り考えているから食べ終わったら食洗機よろしく。じゃあ、雅子、百合ちゃん食べてね。冷めないうちに」
「うん、いただきまーす」
そう言っておいしそうに百合ちゃんと一緒にぼくが作った夕飯を食べている妹の佐野 雅子。
ここに来た当初は峠のバトラーだったが、その後はドリフト競技に嵌って2回も優勝してしまった、次はTSカーに乗ってみたいと言って車を探してきてTSカップに出るべく休日すべて使って僕と一緒に車を製作している23歳。
普段は大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスの改造車の貨物車、U-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるこれまた元バスの○アロスターMMのMM618〇改の300ps仕様の貨物車、時には僕のコレクションから乗ってみたいバスを選んでは自分で運転して僕らが住んでいるアジトと言われている元祖父母の家から勤め先の大きな市内にある実家が経営している中古車屋兼整備工場に通っている。
整備も好きで整備士の資格を取っているので、時には整備工場に来てお客さんの車をいじることもある。
アジトでもお客さんの車を積載に乗せて来てメンテすることもある。
雅子は高校卒業後すぐ入社して4年チョイ務めて異例の速さで係長に出世して、同期からは初の高卒30代女性役員誕生かとうわさされたスーパーをいろんな車に乗る仕事したいと言ってあっさり退職して家業についてしまったのだ。
今は家業の中古車屋で専務となって経理関係全て担当しているし、営業も納車も部品手配も時には軽整備もする。
妹の雅子は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級と事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっていた。
それなので、進学せずに地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら5年目で係長になって大卒5年目よりも多くの給料をもらっていたが、もともと車を運転するのが大好きでいろんな車に乗れる家業に転職した。
家業に従事してからは危険物、大型2種免許を取ってしかも整備士の二級免許、牽引免許も取ってしまったほどの車好きだ。
スーパーでの実績は入社3年目で、各店舗から集まる情報処理集計システムを自分で組んでしまった。
いいところは妹が作ったソフトのほうが勤めていた会社の事情に合っていたのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とメンテナンス費用が浮いた。
その成果が認められ、高卒の3年目の途中に主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになった。
4年目の7月からは入ってきた自分より年上の大卒を部下にもってチームを組んで仕事しているのだから驚く。
スーパーにいた頃の所属は経理部だが、5年目の4月からなんと大卒ても7年かかる係長に昇格して全社の業務効率化のリーダーに抜擢されていた。
そのチームで売り上げ仕入れ管理システムのソフトを雅子達が自力で組んでしまってさらに業務効率が上がったのだった。
それだけプログラム組むのが好きなこともあって自分のドリ車のエンジンの制御コンピューターも自分でプログラム組んでしまった。
それなので僕はエンジンを載せ替えたトラックのBCMのフルコンのセッティングをお願いしたらきちんと仕上げてくれた。
最新の点検機器も扱えるので整備の面でも助かる
他には実家の規模に合わせたいろんな経理システムを組んでいて、両親も大助かりといっている。
特にしっかりと財務状況がわかるようなソフトを作って管理しているので今までは確定申告のときにバタバタだった準備作業が雅子の組んだソフトのお陰ですべてデータとして蓄積されていて簡単にネット上で申告できるようになっている。
例年夜なべして伝票整理、資料記入していたが、全くすることがないのだった。
部品の発注も整備の受注もネット上でできるようにしてあるので電話での対応も減っていてその分営業に時間がさけると母親は喜んでいるし、父親もネットで事前に不具合の状況を画像等でもらっているので修理箇所の予測がつけやすくなって仕事が早く進むと喜んでいる。
走りの面では妹は峠を走り始めて既に6年目になっていて、僕の古くからの友人で整備工場の副工場長をやっている隆弘がリーダーを務めるチームで僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせてもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
ドリ車を作って競技に参加するほどに嵌っていた。
この前はなんと出場4回目で2回の優勝してしまったほどの出来だった。
しかも2回ともドリフトとレース両方でトップという完全優勝だったのだ。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを持って嬉しそうに笑っていたのだが、やっぱり表彰台に乗る時は真ん中がいいといっていたくらいの負けず嫌いだ。
このドリ車はうちの会社でスポンサーしていて会社のPRの一環としてやっていた。
今度はTSカーでレースしたいと言っているのだ。
その雅子の普段の運転はとてもスムーズで隣に乗るとついつい寝てしまうくらいだ。
普段は車を労って走らせているのがよく分かる。
かつては大型バスを使ったスムーズドライブ競争でも勝ってしまうほどのスムーズさなのだ。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の26歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の自動車工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
また、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型免許は大学在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
それを良いことに中古だが、観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
妹の雅子がメインで使っているバス含めて全部ターボにしてパワーアップと同時に黒煙対策している。
特に唯一のKL-規制対応のゴーゴーくんにはDPDが付いているのでエンジン本体での黒煙を減らして起きたかったのだ。
家業の整備工場は大型車の整備もする関係で場所がいるので乗用車等の軽整備は元々隆弘の親が経営していたエンジン整備工場に機器を移していてそっちでやるか、アジトとチーム員から呼ばれている僕と雅子が住んでいるもと祖父が経営していた製材工場跡のガレージでやることになったのだ。
僕らの両親はどちらも車好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
父親はこのところ僕の趣味に感化されたのか中古のバスを3台も買ってきて全部をマニ割仕様して、それに乗ってどこどこ音をさせて営業に行ってしまっている。
それにレッカー車も買ってきて若いころやっていたマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーにしろと言うほどのマニ割マニアっぷりを発揮してしまった。
エギマニは自分でマニ割仕様をステンレスパイプを手曲げで作ってしまうほどの腕を持っていた。
そんな父親なので、整備工場では僕が工場長になったのを良いことに本格的に大型車も整備するようになった。
若いころは大型車が主な整備工場に勤めていてマニ割を相当数作ってはお客さんに収めていたその業界ではちょっと名の知れた存在だ。
母親が独身の頃はドリフト競技に出ていたという位の運転好きだ。
競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
乗用車の整備工場では見てくれなかったが、大型車の工場なのにうちの父親が仕事を引き受けていたのだ
この両親を見れば僕と雅子が車大好き、運転大好きになってしまうのは当然だろう。
僕が自分の部屋で次の日のTSカー制作の段取りを組んでいると"コンコン"とノックされ雅子と百合ちゃんが入ってきた。
「お兄ちゃん。ルーシーちゃんを使って良いかな?百合リンが買った武蔵くんと大きさ一緒でしょ」
「いいよ。暖機しておいて。たしかロザン君の退けないとでれないよ」
「じゃあ、2台を暖機するね」
雅子がロザン君の暖機を始めた、ルーシーちゃんのエンジンも掛けていた。
「雅子、ロザン君の方がいいんじゃない?そっちの方が勉強になるよ武蔵くんとホイールベースほぼ一緒で全長が約500mm長いから練習なら」
「そうなの?百合リン。それならロザン君使うよ。お兄ちゃんの言うようにちょっと長いけどメーカー一緒だし。百合リン、練習には良いでしょ。ルーシーちゃんのエンジン止めてくる」
そう言うと雅子はルーシーちゃんのエンジンを止めて僕の部屋に戻ってきた。
「お兄ちゃん、ホイールベースってルーシーちゃんよりも武蔵くんが長いの?」
「そうだよ。百合ちゃんの武蔵くんはホイールベースが5.6有って5.7のロザン君の方に近いから。よし。準備OKいこう」
僕らは降りていくとバスに乗って百合ちゃんを運転席に座らせた。
百合ちゃんはドラポジを合わせていた。
「おにいちゃん、ロザン君くんってホイールベースは5.7だよね。武蔵くんはルーシーちゃんと同じ5.48じゃなくて?」
「いいや、5.6メートルあるよ。重量配分改善前の車なんでこうなっちゃう。ルーシーちゃんはちょこっと重量配分を改善したんだ、ロザン君は改善後だから前輪位置が約400mm後退してる。武蔵くんは一番古いレイアウトだよ。百合ちゃん、出発前にブレーキペダル何回か踏んでみて」
百合ちゃんは10回ほどロザン君のブレーキを踏んでは離すを繰り返す。
シュンシュンシュンシュンシュンとエアを開放する音がする。
すると後ろからチンチンチンチンとコンプレッサーの作動する音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、それは知らなかった。それならロザン君にしよう。言うようにフロントのオーバーハングが約400ミリ長いのね。ってことはマキちゃんよりも前が長いからちょっと難しいかもね。OK、コンプレッサー作動するね」
「うんわかった。このロザン君の方が難しいのね。雅子、お兄さん、お願いします。練習するぞー。そうか。エアの確認しないとね。」
「よし、圧力計よし、行こうか。百合ちゃん。バイパスに向かって。そう。マキちゃんの感覚でハンドル切ると後輪と後ろのオーバーハングをひっかけるからね」
「はい」
百合ちゃんの運転で僕んちからバイパス方面に向かって入りだした。
ブバババ、ズドドドとロザン君はV8独特のエンジン音とフルデュアルマフラーのエギゾーストノートを響かせ加速していく。
カポンカポン、プップッギン、2速から3速、3速から4速とシフトアップ。
百合ちゃんは相当マキちゃんで練習したのだろう、幅の感覚は確かで対向車が来ないときはやや右に寄っていて対向車が来ると左による。
雅子よりはスムーズさでは劣るが練習した跡がよくわかる。
「百合リン。上手になってるじゃん」
「会社のKL-UA452PAN改を運転してて練習いるってよくわかったの。雅子のおかげよ」
「それは良かった」
僕らはロザン君でバイパスを登っていく。
トルクが190キロあるので5速で行けてしまう。
無事に登り切って下りに入る。
「百合リン、排気とリターダー使ってよ。」
「うん、っていうかさ。こんなに効くんだ」
「そうよ。リターダーが2個作動するんだから」
「ちょっとまって、あ、一個しか使ってない」
「もう一つ上げて」
「うわー、すっごい。ブレーキ踏まなくていいじゃん。雅子。あたしの武蔵くんにも付くんだよね」
「つけてあるよ。武蔵くんは液体を2連装。マキちゃんは液体と電磁の組み合わせ」
「へえ、そうなんだ」
「そうよ。うちの車も観光系は液体2連装で路線系のV8は液体と電磁、直6は電磁2連装だよね」
「親父のも電磁2連装。マニ割で排気効きづらいから」
「すっごい。これなら安心ね」
「でしょでしょ。これいいでしょ。百合リンは武蔵くんちゃんと運転できるようになってよ」
バイパスを下りきって帰りは旧道を走って来た。
百合ちゃんは狭さに格闘しながらもなんとか無事に帰ってこれた。
後で雅子に聞くとおしゃべりの最中に百合ちゃんが寝落ちして朝までぐっすりだったらしい。
百合ちゃんの運転練習に付き合った次の休みの日、僕と雅子、隆弘、隆文はアジトで雅子のTSカーの製作でレギュレーションを確認しながら作っていた。
ここのアジトには車両をいじる設備としてはすべて中古ではあるが、ボードオンリフトが2機、エアーコンプレッサー、スポット溶接機、MIG溶接機、プロパン+酸素バーナー、レーザー溶接機、板金道具、定盤、2000トン油圧プレス、油圧けん引機、ベンダー、ボール盤、旋盤、フライス盤、ワゴンしき工具箱、タイヤチェンジャーまでそろっているので、メンテどころか改造迄できてしまう。
もっとも、スポット溶接機、レーザー溶接機、タイヤチェンジャー以外は祖父が林業で道具や木材運搬車等が壊れると、そこで修理していたのでそれを受け継いだのだ。
2000トン油圧プレスは材木が反ってしまったときの修正用兼圧縮用でかなり大きいのだ。
油圧牽引機は木材で変形したトレーラーを直すためののものでその能力は200トンと聞いた。
この場所の敷地は大型車が20台くらい悠々と停められる広さがあり、父親がこの場所を借りて中古車版売店を始めた場所でもある。
「悟瑠、車体はここまでかな?」
「ああ、スポットのところは全部レーザーでやり直したからいいところまで行くだろう」
「すげえな。あとはエンジンか」
「エンジンはどこまでやるかなんだよな。クランクはいいとして」
「うん、シリンダーは削り直して合わせるんだろ」
「もちろんだ。ブロックにも補強入れて走りやすくするよ。ミッションも同じく」
「そうだな。後は冷却系か」
「もちろん、目標は10000回転迄回せるようにしていく、良いことに点火系は自由だし、クランクもコンロッドも自由だ。キャブ仕様だから雅子にとっては新鮮だろ」
「そうね、クランクは鍛造でしょ。」
「そのとおり、ブロックがハーフスカートだからラダーフレーム入れる」
「成る程、良い手だな」
「クランクを支えるところの剛性は大事だよ。軽量プッシュロッドも」
「ドライサンプにもするんだろ」
「もちろん、雅子。ピストンとコンロッドの重量合わせ頼むよ」
「うん、自分が乗るんだもんきちんとやるよ」
「出力はポート形状で決まるよな」
「そう、吸気はなるべくまっすぐで排気は仕方ない。遮熱版と導風板シッカリつければいいか」
「スペシャルクランク使ってピン径はギリ迄拡大しておいてだな」
「うん、それが必要だな。クランク強度の勝負だろ」
「おう、バネットの廃車から取ったエンジン準備してある。ストロークは78にする予定。あと一伸びってところが勝負で決まるように。ボアは77」
「お兄ちゃん、そうだよね。10000迄回すんだよね。OHVでそこまで回るんだもんね」
「目標は200ps車重は750キロだからドリ車にくらべたらかなり軽いな」
「悟瑠。エンジン搭載位置も下げるんでしょ」
「お兄ちゃん、重心下げるため?」
「もちろんだ。とにかく出力も要るけど耐久重視だ。いつでも全開で走れるように」
「OK」
その日は午後からアルバイト君たちが来てくれたのでボディの修繕が進んでサスを取り付けるところも固まっていた。
火曜日からは百合ちゃんのバス武蔵くんをいじっていた。
「悟瑠、全部部品ついたよ。暴走防止の非常停止も」
「ありがとう。465ps出てるはずだからいけるだろ。外に出して3時間くらいエンジンかけっぱなしで放置しよう。水漏れ、オイル漏れとかオーバーヒートとかしないか見てOKならあした全開テストいく」
「うん、隆文。外に出すから誘導してくれ」
「はい、ところでこのバスの色ってどうするんですか?」
「これは塗り替えて昔のはとバ〇カラーにするって」
「へええ、なるほどね」
「全開テストでOKなら親父に頼む。今は電動の磨き機あるから楽だよ」
「そうだね。水研ぎも」
「そうそう。隆文。塗装やってくれ。いいか?」
「うん。エンジンもいいけど外観もいいよ」
隆弘の運転で武蔵くんを外に出してエンジンかけっぱなしで定時迄放置して確認していた
問題ないのでアジトに乗って帰って全開でいつものテスト用の峠を登ってみることにしていた。
次の日、朝早くから雅子に念のため親のKC-CVS80改を借りて後ろをついてきてもらっていた。
いつものところをエンジン全開で登って行く。
計測器をつけていてスモークメーターを見ながら走っていたが、ブーストがフルにかかっていればずっとグリーンゾーンに有って問題がない。
油温、水温も全く問題ないので次の塗装工程に入る。
「お兄ちゃん、このレッカーってエンジン回るよね」
「そうだね。ブンブブーンって感じだね」
「今回行ったところって道が狭いから武蔵くんはカーブで速度落として曲がるでしょストレートで離されてもこのレッカーは短いんでそこで追いついちゃうね。ミッションがローギヤすぎないの?90キロ出るかでしょ?このギヤ比ならこの道にはぴったりでガンガン行けちゃう」
「これはスピード要らないからいいんだよ。親父は牽引時に登りで失速するからターボつけたいって言ってるけどね」
「そうかもね。空だから結構速いんだよね」
「うん、液体式リターダー2連装もしてあるから牽引時の減速も十分なんだけどね」
「これから会社に行って百合リンのバスはペイントでしょ、このレッカーはターボね。マフラーは煙突のまま行くの?」
「ああ、タイコの位置は変えるけど左右煙突デュアルで行く。親父にはマニフォールド作ってもらったから」
「じゃあ、戻ろうね。V10にターボね」
「500psの177kgでやめておく。ミッションが持たないから」
「へえ、お兄ちゃんらしいね。耐久性重視」
「まあな。会社行くぞ。百合ちゃんにあと一週間って言っといて。親父が突貫工事するって。隆文は専任で親父とペイントする」
「はーい。百合リンも喜ぶ」
僕らは会社に戻ってレッカー車に扇風機で冷やしてターボ化の準備していた。
それから一週間後、レッカーのターボ化を終えて試運転して問題ないこと確認して親父に渡していた。
その間も工事現場から救援要請が来てやむなくその時は4軸のレッカー車で出動していた。
やはり、長さが長くて使いづらいのはやむをえないが、駆動軸が多いので牽引力はさすがでトレーラーダンプも簡単に救援できていた。
「悟瑠。このパワーならばっちりだ。P-RU636BB塗り終わった。隆文くんは親の器用さ引き継いだな。この細かい塗り分けすげえだろ。これできるんだから俺もびっくりだ」
「すげえ、ばっちりじゃん。オリジナルよりもいいかも」
「これは、買ったのは松尾のところのお嬢ちゃんだろ。松尾も車好きだからなあ、旧車が好きなんだよ。親が建設会社だったからな、引き継いで頑張ってるよ。松尾のところに収めるんで気合が入ったよ」
「え?親父もしかして、あの建設会社の?うちの工場拡張頼んだよね」
「そうそう、会社は今は実質長男坊がやってるけど、お嬢ちゃんは雅子がいたスーパーにいるだろ」
「えええ?百合リンって丸松建設のお嬢さん?あ、確かに松尾 百合だ」
「ってことでだ、今度から丸松建設の機械のメンテナンスの仕事するから。どうも今までの整備工場に後継ぎいなくて廃業するってさ」
「そうか、スーパーもそこに出していたけどなくなって工場探していたんだよ。それであたしが受けちゃった」
「親父、大型もやるんだろ。人たんないって」
「つてはある。廃業する工場にいた若いのとベテランの板金職人をうちに引っ張って来た」
「そうか。それで親父はここの工場拡張したんだな」
「そうだ。撤退して売りに出てたからな。した整備工場の跡地は雅子がいたスーパーが買い取って移動販売車置き場にするんだってさ。道の駅でもキッチンカーで移動販売するとか言ってるぞ」
「あの課長と社長やるわね。道の駅でキッチンカーって」
「俺もそう思うよ。キッチンカーの注文もきてるんだろ。雅子、悟瑠、このP-RU636BBを松尾のところに納車よろしく、忘れてたけど早速今週末には丸松建設からバスがメンテで入ってくる。 P-RA52Mの○士重R15型BとP-RU192AAの2台。納車のついでに引き取りよろしく。それからボンネット6×4ダンプとボンネット6×6ダンプも来週には来るからな。どっちも最終型だ。しばらく動かしてないらしくて車検切れてるからレッカーで持ってきてくれ。さび落としも頼まれたから。ボディ腐ってたら張り替えも。大がかりな作業と言っていたな。」
「ええええ?ねえ。パパ、ここって修理工場でレストア屋さんじゃないんだけど」
「仕方あるまい。仕事頼まれちゃ。社員が増えるから悟瑠、教育よろしくな。雅子、先ずは2台引き取りよろしく」
「「はああああああ」」
大きなため息が出た僕と雅子だった。
順調に車を仕上げる悟瑠と雅子
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
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