第二十三話 百合ちゃんのバス仕上げと雅子のレースカー
雅子のレース車両を作ってる時にいきなりのピンチ?
さてバスに嵌った百合ちゃん。
どうなる?
「とにかく、百合ちゃんのバス仕上げてだな」
「うん、百合リンもバスに嵌るとはね」
「楽しいのは確かだよ」
「そうね。パワー使い切って走る。面白いよ」
雅子は今度はヒストリックカーに乗りたいというのだった。
僕はエンジン部品、駆動部品の確保に奔走することになったのだ。
レギュレーションを見ていくと、海外向けはレースに参加できない。
どうしたらいいか考えていたところ、部品を買っていた解体屋のデッドストックのところにどんガラ状態になっていた310クーペを見つけた。
これなら参加できそうということで早速買って来た。
「雅子、このどんガラを整備するぞ。錆が酷いところは切り取って作り直す。雅子が買って来た車から鉄板を移植するか?叩いて作るよ」
「うん、あたしもやるよ。お爺ちゃんのプレス機有るじゃん。木かなんかで下型作って上手く鉄塊から型おこししてプレス機で部品ってできないかな」
「なるほどな。大物部品というかサイドシルとかメンバーやフードリッジはそうやって作った方が早そうだな。今は高硬度レジンあるから大丈夫そうだ」
「うん。なるほど。それなら良いわね」
「プレス機を上手く使ってつくれば楽だな」
僕らはプレス機につける型を雅子が買ってきた北米仕様のボディをベースに作っていた。
解体屋に有ったドンガラはフロアにあちこち結構錆びて腐っているところがあり、張り替えるべく調べるとフロアの半分位鉄板が腐って薄くなっていたので、鉄板全体をかたどった高硬度レジンで型を作って鉄板を2000トンプレスで押して成型していた。
錆で薄くなっていてオリジナルの厚さが不明なので、雅子のドリ車の厚みを測ってそれに合わせておいた、
同じく、サイドメンバー、サイドシル、インナーの鉄板、バルクヘッドも高硬度レジンで型を作ってプレスして錆びたオリジナルと交換していた。
どんガラがあったとはいえかなり錆びてボロボロなので相当量のパネルの交換が必要となっていて僕らは休日はほとんど雅子のレースカーづくりでつぶされていた。
会社の方でも百合ちゃんから頼まれたU-LV270H、P-RU636BBのターボ化をやっていた。
幸いにも両方ともボディの錆が少なく、その分仕上がりは早くなる。
先にU-LV270Hにターボをつけるべく部品をかき集めて、隆弘や隆文とあーでもないこーでもないとやっていた時
「お兄ちゃん、百合リンがバスいつ頃仕上がるか聞いてきちゃった。先にP-RU636BBできるかな?だって」
「うーん、P-RU636BBは納車まで後、3週間かな?先にターボとミッション交換だけのU-LV270Hを仕上げるから。P-RU636BBのチューニングメニューはまずエンジンを別の新しい形式に積み替えてツインターボにする。それに合わせて冷却系の交換して耐トルクのでかいミッションとクラッチに交換して公認とるんだよ。その分時間がかかる」
「やっぱりね。百合リンがなんか待ちきれないみたいで。ならU-LV270Hは1周間位かな?来週の月曜日?」
「だね。仕方ないけどな、こっちも早くやりたいって言っても雅子のいたスーパーの車のメンテがあって中古車の整備とかやってたら百合ちゃんの車をいじれるのはほとんど僕一人とアルバイト君じゃん。チームのメンバーにもアルバイトで来てもらっても人が足りないって」
「まあね。このところ土日に営業して平日休みだもんね。わかったわ。先にU-LV270Hの方ね。百合リンに言っておくよ」
「そう、そうだ。スーパーではもう2台移動販売車いるんだよね」
「うん、お弁当と軽食販売用なんでマイクロバスでOK。いい子ちゃんみたいなバスで」
「それなら何とかなるよ。笠木さんのお店で探しておいて。注文書見ると1台は後ろ観音開きがいいな。お弁当販売車なら」
「OK、7メートルのマイクロバスがいいんだよね」
「うん、ねらい目は信頼性高いトヨ〇の車だね。他は似たり寄ったり」
「リアエンジンはだめかな?」
「それは軽食販売車にいいかも、リエッ〇もいいよ。運転席の脇にドアとか前中ドアがあるから。前中仕様ならいいな。右側に厨房つけてかな?」
「わかった、探してみるよ、前中ドアね」
「そうだ。親父がレッカーしてきたトラックも整備するんだよ。ミッションがこわれたとか」
「最新のでしょ。壊れるよね。高速道路で停まるとパパも命がけとか言ってるよ。ミッション交換しないとだめみたいで運転手さんが悩んでるみたいね。レッカー車の4軸って速いんだね。600ps以上でしょ」
「そうだね、4軸の方は高速専用だからね。ミッションの関係も有ってトルクは250で切ったけど元の排気量でかいからね。695ps仕様だよ。もっと出そうだけどミッションもたないからやめた」
「うん、あ、2軸のレッカーもターボにしたいってパパ言ってた。山間部行くと牽引してる時パワー足りないって」
「やっぱりね。そういえば2軸って4軸じゃ行けないところに行こうとするとパワー不足とか親父が言ってたもんな」
「そうなのね。マニ割りなんかやってるから」
「趣味だから仕方ないって。親父にエギゾーストマニフォールド作ってもらえばターボにできるから。レッカー車は良いことにキャビンの位置高いから何とかなる。クランクとミッションの強度からすると500psがいいところかな?トルクは175は出せる」
「パパに言っておくよ。百合リンにもお弁当販売車のレイアウト出してって言っとくよ、買うバス仕様決まらないもんね」
そう言ってお店の事務所に戻って部品の発注や、納車、整備の段取りしている妹の佐野 雅子。
以前は峠のバトラーだったが、ドリフト競技をやって2回も優勝、次はTSカーに乗ってみたいと車を探してきてレースに出るべく休日すべて使って僕と車を製作している23歳。
普段は大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスの改造車の貨物車、U-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるこれまた元バスの○アロスターMMのMM618〇改の300ps仕様の貨物車、時には僕のコレクションから乗ってみたいバスを選んでは自分で運転して僕らが住んでいるアジトと言われている元祖父母の家から市内にある実家で経営している中古車屋に通っている。
既に整備士の資格を取っているので、時には整備工場に来てお客さんの車をいじることもある。
アジトでもお客さんの車を積載に乗せて来てメンテすることもある。
雅子は高校卒業後すぐ入社して4年チョイ務めて異例の速さで係長に出世して、同期からは初の高卒30代女性役員誕生かとうわさされたスーパーをいろんな車に乗る仕事したいと言ってあっさり退職して家業についてしまったのだ。
今は家業の中古車屋では専務となって経理関係全て見ているし、納車や部品手配も時には軽整備もする。
妹は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級と事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっていた。
それなので、進学せずに地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら5年目で係長になって大卒5年目よりも多くの給料をもらっていたが、もともと車を運転するのが大好きでいろんな車に乗れる家業に転職した。
家業に従事してからは危険物、大型2種免許を取ってしかも整備士の二級免許、牽引免許も取ってしまったほどの車好きだ。
スーパーでの実績は入社3年目で、各店舗から集まる情報処理集計システムを自分で組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも妹が作ったソフトのほうが勤めていた会社の事情に合っていたのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とメンテナンス費用が浮いた。
その成果が認められ、高卒の3年目の途中に主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになった。
4年目の7月からは入ってきた自分より年上の大卒を部下にもってチームを組んで仕事しているのだから驚く。
スーパーにいた頃の所属は経理部だが、5年目の4月からなんと係長に昇格して全社の業務効率化のリーダーに抜擢されていた。
そのチームで売り上げ仕入れ管理システムのソフトを雅子達が自力で組んでしまってさらに業務効率が上がったのだった。
それだけプログラム組むのが好きなこともあって自分のドリ車のエンジンの制御コンピューターも自分でプログラム組んでしまった。
それなので僕はエンジンを載せ替えたトラックのBCMのフルコンのセッティングをお願いしたらきちんと仕上げてくれた。
家業の方でも、いろんな経理システムを組んでいて、両親も大助かりという。
特にしっかりと財務状況がわかるようなソフトを作って管理しているので今までは確定申告のときにバタバタだった準備作業が雅子の組んだソフトのお陰ですべてデータとして蓄積されていて簡単にネット上で申告できるようになっている。
例年夜なべして伝票整理、資料記入していたが、全くすることがないのだった。
部品の発注も整備の受注もネット上でできるようにしてあるので電話での対応も減っていてその分営業に時間がさけると母親は喜んでいるし、父親もネットで事前に不具合の状況を画像等でもらっているので修理箇所の予測がつけやすくなって仕事が早く進むと喜んでいる。
走りの面では妹は峠を走り始めて既に6年目になっていて、僕の古くからの友人で整備工場の副工場長をやっている隆弘がリーダーを務めるチームで僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせてもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
今はドリ車を作って競技に参加するほどに嵌っている。
この前はなんと出場4回目で2回の優勝してしまったほどの出来だった。
しかも前と同じくドリフトとレース両方でトップという完全優勝だったのだ。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを持って嬉しそうに笑っていたのだが、やっぱり表彰台に乗る時は真ん中がいいといっていたくらいの負けず嫌いだ。
このドリ車はうちの会社でスポンサーしていて会社のPRの一環としてやっている。
今度はツーリングカーでレースしたいと言っているのだ。
その雅子の普段の運転はとてもスムーズで隣に乗るとついつい寝てしまうくらいだ。
普段は車を労って走らせているのがよく分かる。
かつては大型バスを使ったスムーズドライブ競争でも勝ってしまうほどのスムーズさなのだ。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の26歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の自動車工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
また、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型免許は大学在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
それを良いことに中古だが、観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
妹の雅子がメインで使っているバス含めて全部ターボにしてパワーアップと同時に黒煙対策している。
特に唯一のKL-のKL-RA552RBM改はDPDが付いているのでエンジン本体での黒煙を減らして起きたかったのだ。
僕らの両親はどちらも車好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
父親はこのところ僕の趣味に感化されたのか中古のバスを3台も買ってきていじってマニ割仕様して、それに乗ってどこどこ音をさせて営業に行ってしまっている。
それにレッカー車も買ってきて若いころやっていたマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーにしろと言うほどのマニ割マニアっぷりを発揮してしまった。
エギマニは自分でマニ割仕様をステンレスパイプを手曲げで作ってしまうほどの腕を持っていた。
そんな父親なので、整備工場では本格的に大型車を整備するようになった。
大型車の整備をする関係で乗用車等は元々隆弘の親が経営していたエンジン整備工場に機器を移してそっちでやるか、アジトとチーム員から呼ばれている僕と雅子が住んでいるもと製材工場でやることになったのだ。
母親の独身の頃はドリフト競技に出ていたという位の運転好きだ。
競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
この両親を見れば僕と雅子が運転大好きになってしまうのは当然だろう。
雅子が事務所に戻った後、百合ちゃんのバスをいじっていると、隆弘がやって来て言う
「悟瑠、このリース車両メンテいい加減だな、オイルはろくすっぽ交換してないぜ。それとも低グレードオイルか?」
そう言ってレべルゲージを拭いたウエスを見せる
記録簿の交換後3000キロにしては汚れで黒い、エンジンから発生するカーボンが多いのかと思ったがそうでもなさそうだ。
「そうだろうな、いう通り汚れが酷い。もしかするとフィルターも交換してないんじゃ?」
「そのようだ、交換日が書いてない。これは3年目に入ったところだからもしかすると新車のままか?」
「あり得るな。今日交換しておくよ。それにバッテリーも古いなー。でも再生したやつかな?保水タイプだ。もしかしたら新車時からのかも」
「いったん外してうちの再生機に掛けて見よう。かなりの劣化方向だよな。新車のバッテリーなら結構性能いいから再生できるよ」
「そうだね、2サイクルやればいいか?」
「そうだな、補水して冷やしながら2サイクルもやればいいだろ」
雅子のもといたスーパーの社用車のメンテをしていた隆弘がやってきて以前メンテしていた工場では相当手抜き整備していたと言っていた。
オイルは交換していたようだがフィルターは交換していたか疑わしいし、バッテリーも近距離ばかり乗っていたのか?劣化が結構進んでいる。
これでは何処か調子悪いというのもよく分かる。
「隆弘、リース会社の整備料金じゃあメンテも手抜きになるよ。雅子に言われたけど結構安い」
「そのようだな。といってもこの手抜きメンテは非道いな。タイヤの空気圧も合わせてない」
「確かに、バラバラでしかも少ないよ」
「雅子に言っておくか」
「そうだな。ここはまだスーパーの本社に近くていいけど遠くて引取、納車って言ったら赤字だよ」
「どうやっていたか聞いてみるよ」
僕は雅子にスーパーの車両運用について聞いていた。
雅子が知っている限りだと、雅子が管理していたときは普段、何台かに分けてそれぞれの店舗に配置され点検時期になると定期の会議で来る人が乗って来るのが通例だったらしいが雅子が退職した後は本社で管理しきれないということで各店舗で管理する方法にしたらしい。
メンテは各店舗でいろいろな整備工場に頼んでいたらしい。
それではリース会社も支払い処理が大変なので一括でできないか相談されていたようだ。
雅子の代わりに異動してきた百合ちゃんが支店から要望を受けて雅子の方式に戻して百合ちゃんが一括で管理している
その中で整備を纏めてできる整備工場を探しているということを百合ちゃんから聞いた雅子がうちの工場で受けたのだった。
その第一弾として、本社にある支店との行き来に使う車の法定点検に入庫してきたので点検のついでにあちこち確認していたのだ。
「この調子だと定期点検が一周するまでは結構調子悪いって言う車が来るな」
と、僕が言うと
「まあ、仕方あるまい。オイルもろくすっぽ交換してないでこれだけメンテしないで無事に動くんだから日本の車は大したもんだよ」
と、隆弘が言う
「そう言っちまったらそうだね」
「百合ちゃんのバスはどうすんだ?隆文とチームのメンバーがなんかやっていたよ」
「百合ちゃんのP-RU636BBなんだけど今はエンジンマウントもなんとかなってエンジンを在庫のF17Dに載せ替えた。後は純正のツインターボ使ってやれば注文書通りにできるよ。隆文の工作の腕はすげえよ」
僕が言うと、隆弘が
「良かったよ。450psだっけ?あいつは工作はめっちゃうまいんだよな。兄のおれもびっくりだよ」
「そのくらいは出てたはずだな。ほんと手先が器用で上手く作るよ」
「俺も時間作ってP-RU636BBの方やるよ。P-RU636BBには電子錆止め有ったよ。それあると錆びなくていいね。ほとんど錆びが無い」
「大助かりだ。ミッションと先に冷却系交換してやればいいか。あとはターボつける前に公認取りに行くんだな」
「そうだね。ターボはいいとしてP-RU636BBの申告出力はどうする」
「310psで申告だな。F17DはKC−のエンジンだから310ps仕様が乗ってるよ」
「EF型750より新しいし、出力トルクが出てないから排ガスも強度も楽か?」
「楽だよ、雅子に書類作って貰えばOK」
「検査所に持ち込みでやればいいんだな」
「まあな」
「補機類だからまず公認だな。ターボは補機扱いだから車検は関係ないのか」
「そういうことだ。それいったらU-LV270Hはエンジン型式変わんないからそのままで大丈夫」
「そうだな。じゃあやるか。あ、ありがとう。どうやらメンテは終わったし。オイルはうわ抜きでフィルターも交換したよ。見る限り新車時から変えてないよ」
アルバイトから報告受けた隆弘が言う
「まったくいい加減だな」
「バッテリーも2サイクル再生に掛けたらOKになったってよ。交換しないでよかったよ」
「純正品でよかったな」
「そうだね」
「とにかく、雅子に書類頼んでおくよ。明日には出来上がるよ」
「悟瑠、わりいな。じゃあおれは明日はP-RU636BBの公認取りに行ってくるよ」
「頼んだぜ」
隆弘は念のためエンジンをF17Dに積み替えたP-RU636BBのエンジンをかけて屋外に置いて不具合がないか確認すると同時に3時間くらい回しっぱなしで水漏れとかないかの確認していた。
公認取って戻ってきたらターボをつけて排気系を作っていく計画だ。
仕事が終わってアジトに帰ると、雅子が動画を見ていて聞いてきた。
「お兄ちゃん、ディーゼルってオイルを燃料にしてエンジン回っちゃうの?」
「そうだね。よくあるのがエンジンオイルに燃料が混ざって量が増えてそれをブローバイから吸うんだよ」
「ふーん、するとどうなるの?」
「暴走してオイルがなくなるか。壊れる迄回る」
「こわいねえ、止めるにはどうすればいいの?キーでも止まんないんでしょ」
「止まんないよ。そういう時はマニュアルミッションなら6速に入れてブレーキで停める。」
「それ以外はどうすんのかな?」
「あとは、排気かけてジェイク使ってかな?一番確実なのは最上段のギヤに入れて停めるんだよ」
「そうか、百合リンにはそんな知識ないよ」
「そうか。わかった。万が一にもあったら大変だから他の手も考えるよ」
「うん、あたしのもそうなの?」
「うん、と言っても古いタイプはターボのオイルシールから吸うんだよ。それだとそんなに吸えないから排気かけて最上段に入れてブレーキで停まる」
「そうか」
「最近はリコールになったけどU◯のGH○1エンジンで燃料リターンホースから燃料が漏れてオイルに入ってそれをブローバイから吸うのが有ったよ。日本では近年はブローバイ大気解放禁止になって吸気系に導くんだけどヨーロッパは排気ガスに混ぜて出すのは合法なんだよ。その違いで日本だけでそんなことが起きたみたいだね」
「へええ、近年なんだ。あたしのは後付のターボだからね。念のためオイル管理を気をつけよ」
「そうだね、百合ちゃんのバスには良い手がないか考えておくよ。ブローバイは百合ちゃんの年式なら大気開放になってるからブローバイからはありえないよ」
「うん。ということは、暴走したら空気をシリンダーに入れない様にシャッターつけるっていうのも止める手だよね」
「うん、そうだね。そうか、吸気にシャッターバルブ付ける手もあるな」
「百合リンのには念の為よろしく」
雅子に言われて僕の車と雅子の車、百合ちゃんの車、お店のレッカー車に非常用の吸気シャッターをつけるべくレイアウトを考えていた。
次の日、百合ちゃんのU-LV270HとP-RU636BBに吸気シャッターをつけて非常には確実に作動するためにどうすれば良いか隆弘と考えていた。
「そうだよね。ヨウツベの動画にアメリカかな?エンジンが暴走して止まらない動画有ったよな」
隆弘が言う
「そうなんだよ、ディーゼルエンジンの燃焼は圧縮自己着火だから吸気に混じって燃焼室にオイル入りこむと止まんなくなるんだよね。僕らは知ってるからいいとして百合ちゃんのバスで万が一起きたらやべえだろ」
「だよなあ、エンジン止まんなくてパニックになったらやばいよね」
「それなんで、非常停止スイッチつけようかと思うんだよ。吸気を閉じっぱなしにして強制的に止めるの」
「ツインターボだろ。2つ付けるんだよな」
「そう、ってことは常時バネかなんかで閉じようとするのをエアで開かせるようにするか」
「それもいいな。緊急の時はエアを抜く」
「エアサスと同じだな。抜けたら走れない」
「そう、抜け切ったらベビコンでやってか」
「良い手だ。空気用のバルブあるだろ、重量にもよるけど」
「作ってみよう。EGR用を加工して完全に閉じるようにすればいい」
「それがいいな。ついでにエギブレも強制的に閉じてしまえばいいよ」
「できればな、オイルハンマー起こすのはどうかとも思うけどな」
「それもあるか。それなら吸気だけでいいか」
僕らは大型車の部品を使って吸気シャッターをつけて非常停止ボタンで作動するようにしておいた。
言うまでもなく、そのボタンを押すと燃料の供給も止まるようにしておいた。
その間も残業のない日はアジトに帰った後に雅子の車を直していたのだった。
車体はモノコック迄ばらされているので、錆びた鉄板は切り取って張替え、ロールバーを組んでストラットのところと連結させた。
すべてレギュレーションに合わせて組んでいく。
開口部はずべてレーザーでシームレス溶接していたのだ。
それにいろんな穴という穴をすべて鉄板で塞いでそこもシームレス溶接しておいた。
当然、サスペンションの付け根もがっちり補強して、しかもスタビライザーの取り付け部分含めて補強を入れておいた。
組みあがったどんガラを見ていた雅子が
「お兄ちゃん、すごいよ。これ。ここまで補強するんだ」
「もちろんだ。ここまでやってやっとだな」
「ふーん、こんなにガチガチにロールバー入れたらイチゴちゃんよりがっちりじゃない?」
「まあね。ほとんどスケルトンに近いからね」
「それじゃ、楽しみかも。走らせ方も変わるからね」
「もちろん、その辺は雅子のセンスで」
「怖いなー、あたしのセンスね。頑張るぞー、早く乗りたくなってきた」
「その前にエンジン組むんだから」
「そうね、奇跡のプッシュロッドだよね」
「そう、10000迄回るOHVなんてないよ」
「そうよねえ、楽しそう。どっちのクラスにするの?」
「クラスⅡの予定」
「そうか、キャブでしょ」
「うん、デスビも使うからメカ進角。その進角特性も考える。ポイントは使って無いから」
「フルトラだっけ?」
「そう、最終型は純正のフルトラ。それを最新の電子機器でやるから」
「そうね、プラグもでしょ」
「もちろん」
「お兄ちゃんって車作らせるとこっちゃうよね。こりすぎかもね」
「雅子が表彰台の真ん中にいることイメージして作るから」
「そうなんだ。それならあたしもトップを走るイメージで」
「あ、そうだ、もう少しでU-LV270Hが仕上がるよ。約束通り来週の月曜には渡せる」
「百合リンに言っておくよ。百合リンに聞いたんだけど。百合リンのママがサザン君乗ってるって。速くて最高とか言ってるよ」
「やれやれ、仕方ないなー」
「百合リン、結局今はエッちゃんに乗ってるって。早くバス来ないかな?だって」
「はいはい。U-LV270Hは385psの137キロ仕様になったよ。結構速いのとホイールベース短いから丁寧に走らないとがっこんがっこんピッチングしちゃって走れないよ」
「そうなのね。言っておくよ」
週が明けた月曜日、U-LV270Hが仕上がって百合ちゃんに渡した。
「百合リン、このバスは385psで137キロのトルクあるからね。もちろん液体リターダー2連装。念のためだけど、万が一エンジンが暴走したらこの赤いボタン押すんだよ」
「フーン、そうなのね。わかった」
「百合ちゃん、この車のチューニングメニューはツインターボと400psターボ用インタークーラー、ラジエターで出力385ps/2250RPM、トルク 137kg/1400RPM。ミッションはバスの10PE用の6速ミッションでリターダー2連装にしてある。車重は約10トンで軽いからね。この前運転したバスより速いのとホイールベース短いから丁寧なアクセルワーク、ブレーキ操作いるからね」
「はい、どうもありがとうございます。ところでP-RU636BBはいかがでしょう」
「ああ、そのバスはエンジン載せ替えて公認は取ったんで後2週間ください」
「よかった。このバスで練習しよ」
「そうね。移動販売車のKL-UA452PAN改よりは短いから車幅に慣れるにはいいかもね」
「雅子って普段からバス乗ってるせいか?簡単に乗ってるように見えちゃうんだもん」
「それは経験の差かも」
「そうね。あの距離毎日運転して通っているんだもんね」
そう言ってエンジンをかけてV8独特の音に満足していた百合ちゃんだった。
百合ちゃんのバスライフはここから始まった。
しかし、この百合ちゃんのバスライフでまた一つ大きな動きにつながるとは思いもよらなかった。
仕上げには時間がかかるレースカー
百合ちゃんのバスも一台納車になって
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。




