第二十一話 競技会での雅子と隆文のバトル
久しぶりの競技会
今回のバトルの相手は?
「そうなの?今度は同じエンジンで勝負ね。ふへへへへー楽しみ。隆文に言っといてね。勝っちゃうからねーって」
「はいはい」
「悟瑠、隆文の奮起に期待しよう。雅子には勝てないって思い込みがないといいけどねえ」
「そうだね。って言っても峠のダウンヒルで雅子よりタイムだせてないんだよな。もう一回指導するか?」
「ああそうだね。抉って走る癖が出るときあるから」
「だな。それがあるから大型難しいって言うんだろうね」
「そうかもね」
僕らは移動販売車のKC-RM211GAN改を納車してその日は早目に上がって雅子と隆文のドリ車を整備していた。
移動販売車のクレーム対応が終わった木曜日はお店を臨時休業にしてエンジンを積み替えたドリ車のシェイクダウンに行く。
その準備で大変だった。
一戦休んでの参加なので、雅子は既にどう走ればいいかシミュレーションしているのだろう。
否、雅子の頭の中には表彰台の真ん中に立っている姿しか見えてないのかもしれない。
水曜は午前中はアジトで雅子のドリ車のエンジン定数決めと隆文のエンジン交換、午後から移動販売車のKC-JP250NAN(改)の漏れ電波対策していた。
臨時に販売員兼電波調査をしている雅子のところに持っていって仕上がり具合を確認、問題無いこと確認して納車するとお店に戻らずにアジトに帰って隆文の車のエンジン交換していた。
「悟瑠、隆文のエンジン定数は?」
「雅子のと同じだ。ぶっつけ本番になっても仕方ないから雅子のと同じ定数で行く。エンジンの仕様は一緒だからなんとかなるよ。ミッションもファイナルも同じだよ」
「うん、そうだねえ。それでいくか?多少の違いは目をつぶっていけだな」
「その辺は隆文なら上手く乗るから大丈夫だろ」
「明日のシェイクダウンで乗って確認だな、おかしいところは直せば良いよ」
「ああ、もちろんだ」
次の日、僕らは北関東のミニサーキットに来てドリ車の設定を確認していた。
雅子はドライバーとしても優秀でこのサーキットでこんな挙動なら高速ではこんな挙動になると予想が付いている。
すなわちこのサーキットで走ればいつも参戦している所での車両挙動が予測出来る。
それなのでここのサーキットで本気で走るのは一仕様最大でも5ラップくらいでセッティングを決めることができる。
隆文はどうしてもセッティングを決めきれない時があって兄の隆弘にセッティングを頼んでしまうのだ。
まずはエンジンのセッティングを見ていた雅子が戻ってきた。
「お兄ちゃん、これいいじゃん。今までよりも低速からグイグイくるからフラットトルクでどっから踏んでもガンガンくるじゃん」
「そうか?良かった。エンジン制御の定数は調整いるか?」
「要らないよ。このままがいい。排気量デカくなった分乗りやすくって、隆文ってこのエンジンでおかしいって言ってるの?」
「雅子、どうやら隆文のエンジンはピストンが不良品で2気筒で圧縮漏れしてたようだよ。まあいい感覚してるよ。それにあのエンジンはクロスプレーンだから排気干渉でちょっと高回転のパワーでないんだよ。雅子のエンジンに乗ったから高回転の伸びが無いっていうのは分かる」
「そうなんだ。これももしかしてフラットプレーン?振動と排気音が今までのエンジンと同じなんだけど」
「そうだよ、純正と違うけど、実はサンデーレースパーツ。レース屋では普通に買えちゃう。鍛造クランクって言うから買ってみた」
「すっごい、これって鍛造クランクなのね」
「そうだよ。隆文と雅子は同じエンジンとミッション積んでるから、レースになったら雅子はパワーで隆文に置いていかれるってことがなくなるな」
隆弘もいう
「そうだよ。今までは雅子は前のドリ車のエンジンだったけど今度は排気量大きくしてパワーも上げたからその分どう使うかは任せるよ」
「OK、レスポンス良いって気持ちいいよねえ」
と言っていると、隆文が戻って来た
「兄貴、このエンジン異様に振動でかいんだけど。それ以外はパワーって言うより軽いふけがいいねえ。このレスポンスならいけそう。振動だけ気になるんだけど」
「当たり前だ、今までのはクロスプレーンなんだよ、このエンジンはフラットプレーンクランクだから振動は4気筒並みだ」
「え?何それ?」
「はあああ。もっと勉強しろ。ほんとにおめえは脳筋だからなあ。はあああああ」
「隆文、次もあたしが勝っちゃうからね」
「はああ、雅子に追いつくぞ」
「隆文、その意気で頑張ってくれ」
「お兄ちゃん。セッティングはこれで行くからちょっと慣れてくるからね」
そう言って嬉々とし次の週末の競技に備えてドリ車のセッティングのためにコースに復帰していったのは妹の佐野 雅子。
以前は峠のバトラーだったが、今はドリフト競技に嵌っていてドライバーとして競技に参加している23歳。
普段は大型9メートルカテゴリーのニジュちゃんと呼んでいるバスの改造車の貨物車、U-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるこれまた元バスの○アロスターMMのMM618〇改の300ps仕様の貨物車、時には僕のコレクションから乗ってみたいバスを選んでは自分で運転して僕らが住んでいるアジトと言われている元祖父母の家から市内にある実家で経営している中古車屋に通っている。
既に整備士の資格を取っているので、時には整備工場に来てお客さんの車をいじることもある。
アジトでもお客さんの車を積載に乗せて来てメンテすることもある。
雅子は高校卒業後すぐ入社して4年チョイ務めて異例の速さで係長に出世して、同期からは初の高卒30代女性役員誕生かとうわさされたスーパーを車に乗る仕事したいと言ってあっさり退職して家業についてしまったのだ。
今は家業の中古車屋では専務となって経理関係全て見ているし、納車や部品手配も時には軽整備もする。
妹は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級と事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっていた。
それなので、進学せずに地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら5年目で係長になって大卒5年目よりも多くの給料をもらっていたが、もともと車を運転するのが大好きでいろんな車に乗れる家業に転職した。
家業に従事してからは危険物、大型2種免許を取ってしかも整備士の二級免許、牽引免許も取ってしまったほどの車好きだ。
スーパーでの実績は入社3年目で、各店舗から集まる情報処理集計システムを自分で組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも妹が作ったソフトのほうが勤めていた会社の事情に合っていたのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とメンテナンス費用が浮いた。
その成果が認められ、高卒の3年目の途中に主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになった。
4年目の7月からは入ってきた自分より年上の大卒を部下にもってチームを組んで仕事しているのだから驚く。
スーパーにいた頃の所属は経理部だが、5年目の4月からなんと係長に昇格して全社の業務効率化のリーダーに抜擢されていた。
そのチームで売り上げ仕入れ管理システムのソフトを雅子達が自力で組んでしまってさらに業務効率が上がったのだった。
それだけプログラム組むのが好きなこともあって自分のドリ車のエンジンの制御コンピューターも自分でプログラム組んでしまった。
それなので僕はエンジンを載せ替えたトラックのBCMのフルコンのセッティングをお願いしたらきちんと仕上げてくれた。
家業の方でも、いろんな経理システムを組んでいて、両親も大助かりという。
特にしっかりと財務状況がわかるようなソフトを作って管理しているので今までは確定申告のときにバタバタだった準備作業が雅子の組んだソフトのお陰ですべてデータとして蓄積されていて簡単にネット上で申告できるようになっている。
例年夜なべして伝票整理、資料記入していたが、全くすることがないのだった。
部品の発注も整備の受注もネット上でできるようにしてあるので電話での対応も減っていてその分営業に時間がさけると母親は喜んでいるし、父親もネットで事前に不具合の状況を画像等でもらっているので修理箇所の予測がつけやすくなって仕事が早く進むと喜んでいる。
走りの面では妹は峠を走り始めて既に6年目になっていて、僕の古くからの友人で整備工場の副工場長をやっている隆弘がリーダーを務めるチームで僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせてもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
今はドリ車を作って競技に参加するほどに嵌っている。
この前はなんと出場3回目で優勝してしまったほどの出来だった。
しかもドリとレース両方でトップという完全優勝だったのだ。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを見て嬉しそうに笑っていたのだが、やっぱり表彰台に乗る時は真ん中がいいといっていたくらいの負けず嫌いだ。
このドリ車はうちの会社でスポンサーしていて会社のPRの一環としてやっている。
雅子の普段の運転はとてもスムーズで隣に乗るとついつい寝てしまうくらいだ。
普段は車を労って走らせているのがよく分かる。
かつては大型バスを使ったスムーズドライブ競争でも勝ってしまうほどのスムーズさなのだ。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の26歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今は家業の自動車工場で中古車の納車前整備や車検、修理、一般整備もしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになった。
また、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型免許は大学在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアトレーラーも中古車で買ったものでもある。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
それを良いことに中古だが、観光バス4台と大型路線バス5台もってしまった。
妹の雅子がメインで使っているバス含めて全部ターボにしてパワーアップと同時に黒煙対策している。
特に唯一のKL-のKL-RA552RBM改はDPDが付いているのでエンジン本体での黒煙を減らして起きたかったのだ。
僕らの両親はどちらも車好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
父親はこのところ僕の趣味に感化されたのか中古のバスを3台も買ってきていじってマニ割仕様して、それに乗ってどこどこ音をさせて営業に行ってしまっている。
それにレッカー車も買ってきて若いころやっていたマニ割り+左右の煙突デュアルマフラーにしろと言うほどのマニ割マニアっぷりを発揮してしまった。
エギマニは自分でマニ割仕様をステンレスパイプを手曲げで作ってしまうほどの腕を持っていた。
そんな父親なので、整備工場では本格的に大型車を整備するようになった。
大型車の整備をする関係で乗用車等は元々隆弘の親が経営していたエンジン整備工場に機器を移してそっちでやるか、アジトとチーム員から呼ばれている僕と雅子が住んでいるもと製材工場でやることになったのだ。
母親の独身の頃はドリフト競技に出ていたという位の運転好きだ。
競技に出ていたころ、ドリ車の整備と改造を当時整備工場に務めていた父親に依頼したのが馴れ初めで結婚したのだ。
母親も雅子のドリフト大会には必ずきて応援している。
この両親を見れば僕と雅子が運転大好きになってしまうのは当然だろう。
その週の週末、僕らは北の方にあるミニサーキットに来ていた。
お店は父親に任せて僕、雅子、応援の母親、隆弘、隆文、チームから2人がピットクルーとして来ていた。
2台のローダーにドリ車を乗せてサポートカーのキューピーちゃんの3台体制で乗り込んでいた。
「ここって国際コースなんでしょ」
「そう、それに結構速度乗るからね。パワー勝負だよ」
「イメージトレーニングしてきたから後は実際走って確認ね」
「雅子、行って来い」
「うん。ここもドリとレースだって」
「ラジエターも大容量にしてあるし、オイルクーラーもばっちりだ」
「さすがお兄ちゃんね。練習で見てくる。セッティング変えるようなら言うから」
「OK」
フォンフォンとアクセルを煽って雅子がプラクティスラップに行った。
カーンと甲高く乾いたエギゾーストノートを上げ走って行った。
「兄貴、行ってくる。パワーアップした分どうするか考えるよ」
雅子の直ぐ後に隆弘が弟の隆文に
「頑張れ。ここは初めてだよな。セッティングかえる必要あるか見ろよ」
「うん、兄貴、じゃ行ってくる」
クウォンクウォンと乾いたエギゾーストノートを上げ、ピットロードからコースインしていた。
「うおおおおおおおっ」
既に観客席にいた観客からの歓声
見ると雅子が練習なのだろうが、結構ド派手に振っていた。
圧巻なのはコーナーとコーナーの繋の区間も完全に進行方向に対して真横に向いたまま抜けている。
「雅子は絶好調だな」
「そうだな。乗っちまってるなあ」
「おっと、隆文も乗ってるぜ」
隆文も今回は思い切りよく振って行く。
「ちょっと、トラクションのかかり悪いか。ブリブリ来てそうだね」
僕が隆弘に言う
「そうかも、雅子のはもっとトラクション重視か?」
「ああ、スピードに乗せるためにガンガン踏めるようにしてる」
「隆文のじゃあ、振りやすいけどスピード乗せるのはちょっと難しいか?」
「と言っても、今の隆文の腕じゃあ雅子のセッティングだと曲がんないよ。見る限り荷重移動というよりもブレーキングがきっかけだろ」
「そうだな、雅子は荷重移動上手く使って曲げてるな、隆文はまだ抉って曲げてるもんな」
「そこなんだ。僕が指導しようかと思ってるところは。雅子は抉って曲げるとどうしても速度落ちるからって練習したんだよ」
「そうか、悪い癖付いちまったなあ」
「今回は仕方ないとしても次回まで練習して置かないと表彰台は難しいな」
「まあ、それは今回また雅子に負けて壁に当たってだな。言ったってわかんないから自分で何が悪いか気がつくようにするよ」
「そうだな。壁に当たって打ち破るにはどうしたら良いか模索するのがいいよ。隆弘も教えすぎたかもな」
「そうそう、受け身になっちまった。整備の仕事でも同じだな」
「そうだな。自分で壁を乗り越える根性あるかだよ。雅子は自分で乗り越えた。今回は言い訳なしで同じエンジン、ミッションだからレースではガッツリ差が出てはっきり思い知らされるよ」
「まあな、この前の時はストレートではパワーに勝る分、隆文が少し差を詰めてたけど今度は同じパワーなら腕の差で離される一方だろ」
「勉強だよな。隆文が独り立ちする良い機会だろ」
と、言っていると雅子が帰って来た
「お兄ちゃん、バッチリ。イメージ通りよ。足はこのままで行くよ。レースの時はもっとスタビリティに振るから、この前は高速サーキットだからスタビリティ相当重視したけどここは前回よりちょっと回り込む様にしたほうがいいよ」
「わかった」
「キューピーちゃんで休んでるから」
「エアコン効いてるはずだよ」
「お兄ちゃんありがとう」
雅子はキューピーちゃんに入って寝ていた。
しばらくすると隆文が戻ってきた。
「兄貴、これで行ってみる。レースの時はどうするか教えてくれ」
「お前な、ここを走ってない俺に聞いてどうする?タイム出すにはどうするか自分で考えて走れ。走ってるのは自分だろ」
「そう言っても」
「峠ならおれも走るから分かるけどここは走ったこと無いぞ、さすがに走ってない場所は分かんないよ」
「この前のところは?」
「かつて走ったから教えられた。ここは走ったこと無い。隆文の考えでやるしか無い」
「うーん」
「前も言っただろ、雅子は自分でこのセッティングって言えるんだよ。走ってるのにいいセッティング見つけられなくてどうするんだよ」
「そうだけど」
「とにかく、どうしたいのか考えてみろ」
「うん」
「隆文」
「悟瑠さん、なんでしょう?」
「今は目の前のドリフトに集中だ。レースはその後でいいから」
「はい」
「お、雅子来たな」
「隆弘はセッティング決まったの?」
「ドリフトは」
「良いじゃん。まずはそっちね」
「雅子はレースの方も決まったの?」
「うん、この前のレースのセッティング参考にしたよ。ここは高速コーナーよりもインフィールドが大事だからね」
「ふーん、そうか。考えよう」
「隆文、ドリフト競技行くよ」
「おう」
雅子と隆文は対戦クラスにエントリーなのでここは2台ずつ行くのだ。
先に雅子が対戦相手は前回準優勝のアルテッツ〇だった。
「雅子、行ける。」
「もちろん」
雅子の頭の中には既に対戦相手に勝っているのがシミュレーションされているのだろう。
眼がキラキラと輝いている。
隆弘もこれはいけるぜという顔してみていた。
「雅子が後ろか?」
「有利なポジション取ったな」
「2回走って入れ替えだろ」
「そうだな」
ピーッと鳴って2台がコースインしていた。
アルテッツ〇が第一コーナーを真横にして魅せる。
「おっほお」
ギャラリーからの歓声
雅子はあろうことかほとんど真横になったアルテッツ○の真後ろのアウト側から
並んでコーナーに侵入。
インばかり見て雅子を抑え込んでいたアルテッツ○のドライバーは既に左側に並んでいる雅子に気がつくのが遅れていた。
ふと、アルテッツ○のドライバーが左前を見ると既に雅子は抜き去って前を走っていて次のコーナーめがけて直ドリもまま抜けていく。
「うおおおおおおぉっ」
またも上がるギャラリーからの歓声
雅子に抜かれて焦ったのかアルテッツ○のドライバーはドリフトを停めてしまった。
熱くなっているドライバーは気がついていないが雅子に抜かれて減点、直線でドリフト停めて減点と大幅な減点になってしまっていた。
雅子はその周回ほとんどカニのように横走りで一周してピットに戻ってきた。
抜かれた方はがっくり来ていたようだ。
次は隆文の番だった
先行の隆文は雅子の走りを見ていたのだろう、高回転の伸びが良くなったエンジンをぶん回し一気に後続を引き離してこれまた真横を向けて第一コーナーをクリア。
「おおおおおっ」
ギャラリーからの歓声
雅子ほどでは無いがほとんど全コースでドリフトしたまま後続に抜かれること無く一周していた。
次の雅子の出番になった。
今度は雅子が先行だ。
上手いスタートを切った雅子はあろうことか第一コーナーアプローチ手前から車を真横どころかスピンかと思わせる位のドリフトのまま抜け、ストレートはドリフトアングルを維持したまま抜けた。
「うおおお、すげー」
ギャラリーからの声
後続も同じ様について行こうとしたがストレート途中でスピンしてしまった。
「あああああ、惜しい」
雅子は危なげなく前回と同様に綺麗にドリフトさせたまま一周して戻って来た。
圧巻はシケインで右コーナにドリフトのまま飛び込んで一気に左に向きを変えると派手にスピンかと思うくらい振ったのをこれまた一気に向きを変えて真横のまま最終コーナーを抜ける
「うおおおおおおお」
ギャラリーの歓声
その歓声がやまないうちに戻って来た雅子がくるまから降りると
「隆文、逃げ切っちゃった」
「くぅっ、雅子やるなー」
「ふへへへー、気持ちいいねえ。隆文。次は後追いだかんね。目一杯いかなきゃ」
「おうし、いくぜー」
コースインしてフォーメーションラップをクリアした隆文が先行車を追う。
2台が並んで綺麗にドリフトしたまま第一コーナー、バックストレッチとめいっぱい振ってコースを駆け抜ける。
「隆文気合入ってるなー」
「雅子の1本目の走りと2本目の圧巻の走り見たら燃えるだろ」
僕が言うと
「あっと、先行車がスピン。よけろー」
先行車がスピンする。
読んでいたようにドリフトのままアウトに逃がして躱す
「隆文、よし。かわした」
コースでは逆ドリフトをしくじった先行車のスカイライ○がスピン。
ドリフトしたままアウトに逃げかわした隆文はそのままゴールしてきた。
全員が走り終わって結果集計すると
午後の10周のレースだ。
ポールポジションはやはり雅子、セカンドには隆文だ。
3番目には前々回の優勝者の順番で前回の優勝者は6番グリッドだったし、隆文の前でスピンした奴は8番目としんがりに近いところからのスタートだった。
全部で12台の車が10週のレースクラスに来ていた
「お兄ちゃんセッティングよろしく。後ろのキャンバー寝かしてスタビリティあげたいの。コーナーは全開で踏みたいから」
「OK!」
「兄貴フロントのキャンバー少し立ててくれ。ブレーキング競争で勝てるようにするのとガンガン踏んでいくから」
「いいけど」
隆弘と僕はそれぞれのセッティングし直していた。
午後のレースはフォーメーションラップからだった。
一周で揃ってペースカーがピットイン、シグナルが青に変わるや否やフロントローの二台がダッシュしていた。
トラクション重視の隆文の車の方がアウトから雅子の車に並ぶ。
しかし、インをガッチリ締めてしかも減速を兼ねたドリフトで一気にむきを次のストレートに合わせた雅子はあっという間に隆文を2車身離す。
スピードが乗ったストレートの速さはほぼ互角、雅子のコーナー重視のセッティングが功を奏しコーナー毎に隆文をジワリジワリと離していく。
ホームストレッチに戻って来た時には既に5車身以上離れていた。
そうなるとベストタイムラインを走れる雅子はどんどん後続を離していく。
隆文は必死に追いかけているが、離される一方だった。
パワーに勝る隆文の車はコーナーでは後続に迫られるが、ストレートの速さで逃げ回る。
スリップに入ってもそのパワー差で並ぶことすらできないくらい速い
「雅子、2位以下はバトルでベストラインが使えないから遅い」
『OK、このペースでいいかな?』
「いいよ、これで逃げ切れる。水温正常、油温正常そのままいけ」
『了解』
隆弘は隆文と交信していた
「隆文、油温120度、水温110。オーバーレブ気味だ」
『うん、そうしないとやばいって。コーナーで詰まる』
「あと、3週こらえろ」
『了解』
「隆弘、ちょっときついか?」
「うーん、オイルクーラーの容量が少なかったか?ちょっと上がり気味だ」
「そうかもな。雅子はオイルクーラー最大サイズ使って0w20使ってるいるぞ」
「え?そんなに柔らかいの?あ、そういうことか。90度くらいで使えば良いもんな」
「うん、油温90度、いいところだ」
「そうか、こっちは0w40だ。高回転重視で」
「高温には強いからいいか?」
「それでか、雅子の方が高速の伸びがいいのは。フリクション少ないし」
「そうなんだよ。雅子はオイルの粘度落としてフリクション下げる、その分パワーに振るって言って来たからな」
「その辺までも考えたか。隆文にはまだ雅子には勝てないな。既に俺の予想の2ランク位上に行ってるよ。サスのセッティングもそうだけどレースならスタビリティー重視できたか」
「そうだな」
と言っているとレースはファイナルラップになっていた。
「よし。ファイナルラップ、隆文。もうめいっぱいいけ」
『おう。持てよ○ボレーV8』
「大丈夫だ、ターボじゃないから。油温140度ギリだがいける」
『それにしても速いなー。雅子―。待ちやがれー』
「ははは、もう追いつかんよ」
レースはぶっちぎりで雅子、隆文、そして前回準優勝のアルテッツ○の順番でゴールラインを通過していた。
「雅子やるなー、2連勝か」
隆弘が言っている。
「隆文も2番手だろ。ドリフトでも2番手、レースでも2番手だろ。成長したな」
「そうだね。今日は褒めておこう。あいつは乗せると力発揮するから」
「さすが、隆弘は隆文の扱い知ってるな」
「まあな。それにしても雅子の成長はスゲーなー。峠の無敵のイチゴちゃんは伊達じゃなかったんだな」
「うん、さすがだよ。兄びいき入ってるかもしれないが頭が良すぎだよ。なんでもちゃんと考えて走ってるよ」
「そこだな。隆文は乗りで走っちまうからな」
表彰式での雅子の顔の輝きを見ると世界一の妹だとおもってしまったのだ。
アジトに帰って来て、ドリ車を仕舞って次の日の出勤の準備していた。
準備しながら競技会のことを話していた
「お兄ちゃん、いい車ありがと。あのエンジン速いよね。隆文のトラクション重視の仕上げもよかったけどコーナー遅かったな」
「ああ、今回はいい勉強だろ。自分でブレーキングで勝てるようにフロントのキャンバー立てるって言って来たんだ。それに表彰台は気合で取ったようなもんだな。隆弘とはいいところ4着かと言っていたんだ。レースはパワーに勝るから速いにしてもドリフトで2着に入れたのが良かったよ」
「そうなんだ。ってことは隆文も腕を上げたのね」
「そう。隆弘は後ろを寝かせてコーナー重視とスタビリティ確保にしろって言いたかったらしいけどあえてそのままにしたって。どうなるか勉強のためって。隆文が仕様を言ってきたんで練習って意味もあって」
「そうなんだ、うなくいかないときも勉強だよね」
「まあな。今までは隆弘が車作っていたけど今回は隆文が考えていたんだから尊重するってさ」
「いい勉強ね。隆文は隆弘さんの作った車に乗ってただけって感じだもんね。自分でやってみて車の動きがわかるのも良いかもね」
「そうそう、それもよしだろ。明日からはバス探しか?百合リンって娘から注文が入ってるんでしょ」
「うん、百合リンが大型取ってバス買うって言うんだもんな。良いのあるかな?シンプルなのが良いって言ってた。敷地はあるから。12メーターのフルじゃないのがほしいって。あ、ええええ?お兄ちゃん。笠木さんのお店でまたいいバスが見つかったって」
「そうか。どんな奴?もう見つかったの?早いよね」
「ブルーリボ〇最終型観光仕様の11メーター車。百合リンが欲しがってるのと条件あってる。チョイ古だけどうちで面倒見ればいいでしょ」
「もちろん。型式は?なんだい?」
「ええとP-RU636BBだって」
「ってことは11メーターのホイールベースが5.6メーターだな。エンジンはEF750か。P−なら結構黒煙吐くかもな」
「んもう。お兄ちゃんはそれ言うだけでスペックわかっちゃうの?百合リンもターボ欲しいって言うかも」
「まあな。いいの見つかったじゃん。明日早速見に行こう。親父たちには連絡するよ。エンジンは何とでもなる。公認取っていじるか」
「うん、百合リンにも教えておくよ。明日の午後には引き取ってきて来れるから、お店についたら軽くお掃除しよ。百合リンには早引けして見に来るか聞くよ」
「だね」
僕らは手分けして僕は親父に、雅子は百合リンという女子に連絡していた。
すると
「え?明日は百合リンお仕事休みだから一緒に笠木さんのところにバスを見に行きたいって」
「百合リンって娘この場所しってるの?アジトから直行なんだけど」
「うん、知ってるよ」
「朝の7時に出発だけど来れるかな?」
「連絡するよ」
雅子が連絡すると来ると言うので僕らと一緒に行くことにしていたのだった。
「お兄ちゃん。明日は何で行こうか?」
「そうだな。今度は錦君でいくか?320ps仕様も良いだろ。これは高回転の伸びがいいぞ。」
「そうね。それもいいか。寝よう。おやすみ」
僕らは昼間の競技会の疲れで爆睡していたのだ。
センス違い過ぎの雅子と隆文
雅子が次に選んだのは?
いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。
今回はここで更新します。