第十五話 バスの追加注文とイチゴちゃんの引退試合で
また、バスの注文が来た
それを見に行く途中で競技会のことを聞いた雅子出る気満々
「お兄ちゃん、ねえもう一台バス探してだって。あたしが、勤めていたスーパーから追加で注文来ちゃった。」
「え?そうなの?」
「うん、今度は大型サイズが欲しいって。できればまたノンステップで」
僕が先日雅子と引き取った路線バスのKC-HU3KMCAのエンジンをおろしてオーバーホールしてターボを付けていた。
その日の一日の仕事が終わって整備工場から事務所に帰って来た時だった。
「大型のノンステップだろ。うーん、あるかなあ?大型かあ。ホイールベース種類あるからなあ」
「うん、お兄ちゃんの候補ってなに?いいのあるかな?」
「売り場面積重視なら第一は○デのP尺だよ、エンジンは2種類ある。でもあるかなあ?いい車なんだけどね」
「ふーん、探すならあちこち当たるしかないよね」
「まあな。このバスだけ他のメーカーよりも全長とホイールベースが500mm長いんだよ。買い物カーにするならノンステかワンステしかないけど。でもさ、乗る時の段差を考えたらノンステだよね。ワンステならT尺だけどほとんどワンドアだから無理だなあ」
「やっぱりそうよね。わかった。あちこち電話してみるよ。そうすればいいの見つかるかも」
「それにバス会社もな」
「そうよね。廃車予定とか」
「そう、それも忘れずに。長いから使い勝手悪いとかそんな理由でも廃車になるのあるんだよ」
「お兄ちゃんさすがね。そういえば明日はナナちゃんの納車準備だよね。ナナちゃんありがとうっていっておかなきゃ」
「そうかもな、雅子が乗ってる車が3台も売れちゃうとは思わなかった。何か持ってるよね」
「そう?まあいいや、ナナちゃんもお婿に行ったってことで」
「あははは、ナナちゃんならお嫁入じゃん」
「あ、そうか。サザン君なら婿入りだけどね」
と、駄弁っているとピンポーンと連絡が来た。
「ねえ、うわ、もう見つかったって。ねえ、ゴーゴーくんの試験した時に行ったお店って言うか、トラクター買ったお店あるでしょ。そこのお店に明日入ってくるって。どうですか?だって」
「よし、明日行って来よう。ええと昨日はニジュちゃん仕上がって稼働開始したからテストドライブだな」
「ナナちゃんの整備は?隆弘さん?」
「うん、隆弘に頼むしかないだろ。公認取ってるし、一番おとなしい仕様だからエンジンオイルとバッテリーとフィルター類とミッション等の油脂類全交換でいいはず。エンジン内部クリーナーかければいいか。洗車とワックス掛けて内装掃除して」
「そうね。タイヤはどうしよ」
「いいのあったっけ?」
「グラントレッ〇なら。A/Tだからいいかな?」
「H/Tじゃなくていいかだけど、いやだったら履き替えるだろ。新品をサービスでつけちゃえ」
「うん。お兄ちゃんはタイヤをどこで探すんだか知らないけどほとんどロハに近いよね」
「まあな。つては大事だよ」
「さすがね」
「あ、雅子。そろそろ閉店の時間だろ。今日は売れたの?」
「うん、今日は展示の5台。でもね。展示だけじゃなくて注文入ったからね。バス一台」
「アハハ、それな。まあ、いいのあったらだけどな。とにかく明日見てこようか?良い個体なら買いだよね」
「あたしも見に行くよ。お兄ちゃんとパパだけで行くと別のも買って来そうで」
「ううう、ばれてる。うん、親父には言っておこう」
僕らは親に車を見に行くと言って、ニジュちゃんと呼んでいる大型9メートルクラスのバスでアジトに帰った。
アジトで僕らは遅い夕ご飯を食べ、明日の段取りを妹と話していた。
妹の佐野 雅子今はドリフト競技に嵌っていてドライバーとして競技に参加している23歳、普段は稼働始めたばかりのニジュちゃんと呼んでいるU-RP210GAN改275ps仕様、またはエムエム君と呼んでいるバスのエアロスターM○のMM618J改の300ps仕様で住んでいるアジトと仲間から言われている元祖父母の家から市内にある実家で経営している中古車屋に通っている。
入社して4年チョイ務めて異例の速さで係長迄出世して同期からは初の高卒女性役員誕生かとうわさされたスーパーを車に乗る仕事したいと言ってあっさり退職してしまった。
今は家業の中古車屋で専務となって経理関係全て見ているし、納車や部品手配も時には軽整備もする。
勿論、いろんな集計システムを組んでいて、両親も大助かりという。
妹は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級と事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっていた。
それなので、進学せずに地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら5年目で大卒5年目よりも多くの給料をもらっていたが、もともと車に乗るのが大好きでいろんな車に乗れる家業に転職した。
家業に従事してからは危険物、大型免許を取って今は整備士の免許、牽引免許も取るべく勉強中だ。
スーパーでの実績は入社3年目で、各店舗から集まる情報処理集計システムを自分で組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。
しかも妹が作ったソフトのほうが勤めている会社に事情に合っているのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とメンテナンス費用が浮いた。
万一、おかしなことが起きても、雅子がすぐに治せる。
それも褒美もあって、雅子は入社3年目という高卒では異例の速さで主任に昇格してしまったのだった。
それに集計の自動化を進めた結果、各店舗の仕入れと売上関連のほとんどが一目でわかるようになって社長も大喜び。
その成果が認められ、高卒の3年目の途中に主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになった。
4年目の7月からは入ってきた自分より年上の大卒を部下にもってチームを組んで仕事しているのだから驚く。
スーパーにいた頃の所属は経理部だが、5年目の4月からなんと係長に昇格して全社の業務効率化のリーダーに抜擢されていた。
そのチームで売り上げ仕入れ管理システムのソフトを雅子達が自力で組んでしまってさらに業務効率が上がったのだった。
しかし、当の雅子は出世には興味が全くなく、スーパーは給料のためと割り切っていたが、やっぱり好きな車の仕事がしたいといってあっさりとスーパーを辞めてしまった。
スーパーではなんと課長待遇にするから残ってくれと言われたらしいが出世に興味が全くない雅子はスパッと辞めたのだった。
もちろん、部下にシステムの使い方、直し方すべて引き継いでいるので大きな発展は無理かもしれないが、将来ビジネススタイルが変わっても最低限の対応はできる様にしてきたらしい。
走りの面では妹は峠を走り始めて既に5年がたっていて、僕の古くからの友人がリーダーを務めるチームで僕と共にサブリーダーになっている。
ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの運転指導もするようになっていた。
雅子が得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入ってアクセル全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに僕と雅子しかいない。
それにサーキットを走らせてもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。
今はドリ車を作って競技に参加するほどに嵌っている。
この前はなんと2回目で準優勝してしまったほどの出来だった。
帰りのローダーの中ではもらったトロフィーを見て嬉しそうに笑っていたのだが、表彰台の真ん中がいいといっていたくらいの負けず嫌いだ。
このドリ車はうちの会社でスポンサーしていて会社のPRの一環としてやっている。
僕:佐野 悟瑠は妹より4学年上の26歳。
地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。
今はそこで中古車の納車前整備や修理をしていて、時には中古車の買い取り査定もする。
大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機、レーザー溶接機、フレーム修正機はバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになったし、○ントリペアも勉強して資格もとった。
それに、カラスリペアと危険物の免許も取って玉掛けも資格を取っているので入社4年目の4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。
大型は在学中にとってさらに就職してから直ぐにけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。
キャリアカーも中古車で買ったものでもある。
商売柄、中古車で市場では人気がないが、程度のいいFR車を見つけては整備して雅子の走り仲間へ売っている。
時にはミッションの換装もやっている。
公認改造車検も取って、合法的に乗れる仕様にして販売している。
2級整備士の資格も取ってあるので運行の管理士になれるのもありバスも持ちたい放題だ。
両親はどちらも車好きでそれが高じて中古車屋兼整備工場を経営している。
次の朝、僕と雅子はアジトからお店に向かっていた。
雅子がニジュちゃんを運転しているので出来を聞く。
「雅子、275馬力に上げて見たけど、やっぱりトルク72キロじゃ小さいか?この登りはどうだ?」
「お兄ちゃん、欲を言ったらそうだけど、ニジュちゃんの排気量いくつよ?6.9リッターだよね。仕方ないよ」
「そうだけどね。このエンジンはコンパクトでいいんだけどちょっとトルク不足かなと思って」
「この時代の2バルブエンジンでここまで出したんだから良いじゃないの?」
「うん、トルクも4バルブ純正と同じにしてるからね。まさかミッションいいのあるとは思わかなったよ」
「獅子丸くんのでしょ」
「うん、ワイドでもいいギヤ比だね」
「路線用の5速か。それにしても結構回るよねこのエンジン。3200迄一気に行くのね」
「そうそう、このエンジンあたりかもね。って言うかさこの車元々はターボ付きみたいだよ。前のオーナーがなぜかNAに載せ替えている。もしかするとターボの中古エンジンなかったのかも」
「NAは乗って面白そう。へえ、でもそれじゃあ遅いでしょ。困んないのかしらね。」
「わかんないけど遅いから手放したのかもね」
「まあね、遅いと困ることあるよね。あたしが速い車に乗りたいときは三四郎君に乗ればいいのか?」
「そうだね。三四郎君ならいいんじゃない。600馬力出てるし」
「そうねえ、そう言えばこのところイチゴちゃん乗ってないなあ」
「あ、そうだ。なんかさ、個人の車のチューニングカー選手権があるみたいだよ。」
「へええ」
「出場資格は公認を取った車でナンバー付きだけ。公認ならどんなにいじってもいいんだってさ。隆弘が言ってた。ショップのデモカーはだめで個人のオーナーのみ」
「へええ、いいじゃん。それにイチゴちゃんで出ようかな。オーナーはあたしになってるから」
「そうだね。出れるよ」
「場所は?」
「うん、場所はこの前のドリ大会と一緒」
「へええ、いいじゃん」
「それから履いていいタイヤは決まっててSタイヤはだめで市販のハイグリップ迄、もっと面白いことに燃費も測るから速くても燃費悪いとだめみたいだよ」
「へええ、それ面白そうじゃん」
「雅子、それに出るんだな。レースクラスでいいよね」
「もちろんよ」
「じゃあさ、エントリーするからちょっと待ってよ」
「うん」
そう言うと、スマートフォンでエントリーしていた。
「よし、受付完了。受付番号はこれだよ。スマートフォンに送ったから。僕がエントリー人になってるから三四郎君でもいいからね。家族間はOKなんだって」
雅子のスマートフォンに受付番号を送る
「ありがと。たまにはイチゴちゃん乗らないとね、かわいそうで」
「そうだな、雅子は好きだもんな」
「うん、でも。ギンギンに走るのはそのレースが最後かな?エンジンも元に戻して保存するのもいいかも。ボデイのアライメント取り直して」
「そうだな、エンジンは元に戻してね」
「うん、なんかさ。3台の車たちとお別れしちゃったけどみんないい子だったなあって思うの」
「そうだね」
「それでね、イチゴちゃんがあたしにピッタリなんだもん。大きさも速さも全部。叔母さんが何を考えたんだか知らないけどあんなに走る車買うんだもんね」
「そうだね。イチゴちゃんは良い車だよ」
「お兄ちゃんがジムカーナ用にするのを取っちゃったけどあたしが一番嵌ったなあ」
「そうだな」
「ふふふ、出会いは嬉しいけどお別れは寂しいよね。特にいい子たちは」
「そうか、雅子が出会ったってことね」
「うん」
「あ、坂が更にきつくなって来たぞ」
「うん、これってさ、制限速度+αなら簡単ね」
「うん、そうだね。ここまで速いなら十分だね」
「そうね。ゴーゴーくんたちはめっちゃ速いもんね。これならこれでいいかも」
「次はKCーRA531MBNとKC-UA521NANとU-RU2FNABのチューン終わったらここにきて調べよう」
「全部500psくらいでしょ」
「ええと今の計画だとKCーRA531MBNが510、KC-UA521NANが480、U-RU2FNABが490かな?」
「どれが一番速そう?」
「空ならKC-UA521NANかな?観光系よりも1トンは軽くてローギヤードだからね。フル積は別だけど」
「そうなのね。3台は全部ワンドア仕様なのね」
「うん、KC-UA521NANは路線系のシャシだから高速道路の100オーバー連続はきついかも。ステダンとかサスジオは見直すけどね。そうしないとシミーがやばいかもね」
「そうなんだ。KC-UA521NANは路線系のシャシなのね」
「ああ。お、下りだ。排気とリターダーで下れよ。大型と同じブレーキで3トン以上軽いから少しは良いけどね」
「うん、あ。下り。そうか。ブレーキは大型用ね」
「うん。とはいっても頼むよ。排気使ってくれ、リターダーも使えるようにはしてある」
「OK、帰りはあの道通るの?」
「もちろん」
「どの位の速さで登るかかな?」
「そうだけど、燃調も見たいからね」
駄弁りながら下って無事にお店に着いた。
見慣れた車が置いてある。
「ええと、あれ?親父?」
親父がお店に既に着いていたのだ
「あ、ねえ、パパどうしたの?どうしてここに?」
「急遽レッカーいることになってな。いいのがあるって言うから見に来た。このバスも悟瑠がいじったんだろ。速いよな、後ろ見てても登りで制限プラスなら簡単にでてるし、下りもよくあの減速度出ると思ったよ。やっぱり運転は雅子か全く康子と同じだなあ。康子のセンスは抜群だったからなあ」
と喋っているとお店の社長がでてきて
「あ、佐野社長。お久しぶりですねえ」
「あ、笠木君。社長になったんだろ。お互い様だ」
「そうですねえ。親父は社長引退ですよ。若の方もお嬢さんの方も立派になって安泰ですねえ」
「ありがと。それでレッカーのベースにいいのがあるとか」
「ええ。いいんですよ。これがまた」
「これか?総輪駆動?」
「そうですよ。元除雪車の払下げですが」
笠木さんが見せてくれた車は4軸総輪駆動だった。
若干の錆はあるが状態としてはとても良かった。
「いいなあ、よし買った。これを改造する。悟瑠。これにレッカー装置つけるからキャビンとフレーム整備頼んだぞ」
「うん、へえ、KC-かこれなら楽だな」
「そう、いいことにマフラー規制前だから煙突もOKだろ」
「親父、煙突はアウトリガーに干渉するからやっても左右サイドのデュアルだ」
「そうか、それでもいいや。エンジン載せ替えかね?さて?後はバスだっけ?」
「うん、KL-UA452PAN改があるって聞きましたんで」
「はい、これです。査定証がこれです。それと車検証」
「へええ、300仕様ですか?」
僕がエンジンに貼ってある表示を見て言う
「そうです。300仕様です。ラッシュ時によく使うのでパワーいるらしくて」
「雅子、これならいいだろ。これを買って行こう。11.52メートルあってホイールベース5.8メートル仕様なら広さも十分だろ。ボディは西○の96MCだ。」
「佐野さんたちが来るって言うからナンバー切って無いんで乗って帰れます」
「助かります。いいんですか?」
「せっかく社長も来るんですから」
「お兄ちゃん、よかったじゃん。乗って帰ろ」
「うん、そうだな」
「あれ?あのバスは?」
「あ、パパ、また?」
「雅子、良いだろ。ここまで増えたんだから。それに久しぶりに来たんだからさ」
「そうだけど」
親父が見つけたのはあろうことか、○すゞ P-LR312J:富士○6Eボディと○そう K-102Hの○菱純正 ボディだった。
「親父、K―とは。これさすがに古すぎでしょ。でもめっちゃ手入れいいじゃん。へえええ、サビがほとんど無い」
「いいだろ、これはだな俺が久しぶりに整備やりたくなったから。俺が買う。久しぶりにつなぎ着るか」
「えええ?パパ?整備?」
「雅子。知っての通り、俺は昔は大型のディーラーにいたんだ。そっから独立して始めたのがうちのお店だ。ここの社長は俺の先輩でな。開業の時は色々お世話になった。って言うか元々は整備工場にしようと思ってたんだがいろんな人が直すついでに車を探してくれって言うから中古車販売がメインになっちまっただけだ。」
「いやいやいやこっちこそ、そうだ、あの隆義さんのお店は?」
「ああ、整備部門というか内燃機部門はうちが引き取った。運送部門は今も隆義が社長してるよ」
「そうですか、親父もたまには佐野さんのところに行くかな?と言ってましたよ」
「そうか。今日は?」
「あはは、温泉に行商行ってますよ。今はもう移動販売車もって野沢菜漬け売ってますよ。この店は僕に任せたといって」
「あ、そうか。センパイの奥さんの実家は農家だったな」
「そうですよ、お袋の実家は今は親父とおふくろ、弟夫婦で農業やってますよ。周りで農業辞めちゃう人が多くて耕作放棄地を買って行ったら大規模になって弟家族とお袋だけじゃ回らなくてこのお店は僕に任せて親父はお袋の実家にいっちゃった。そこで作った野菜の出荷と漬物に加工して行商もやってますよ」
「そうか、今は漬物屋の親父か?」
「まあ、でも錆びない車作りは名手なんでいいですよ。今でも防錆処理依頼来るんで」
「そうだな。それに先輩はステンレスの加工名手だったなー」
「あ、珍しい。親父がきた。なんかしたかな?」
見ると結構派手なカラーリングの移動販売車がお店に入って来た
そこから満面の笑みを浮かべた60後半くらいの人が降りてきた。
「おう、佐野。元気そうだ。良かった」
「センパイ、ご無沙汰です。元気そうで何よりです。」
「久しぶりだ。今日は例のトラックを買いにか?」
「はい、実はレッカーが急遽いるんで。知っての通り冬に救援要請多いんで総輪駆動が欲しくて」
「せがれに聞いたよ。これならこのトラックだろ。総輪駆動で生エンジンだ。これは俺が新車の時から防錆処理してきたんだ。古くなって来たんで引退するって言うことになったんだと。真っ先に俺に声掛け来たんだよ。売り先が佐野ならいいよ。」
「親父、佐野さんはこの2台も買うとか?」
「ああ、そうだな。今は俺が整備できないからそっちでやってもらうか」
「センパイ。ありがたく。久しぶりに工具持ちたくなったんで」
「そうか。今日は3台売り上げか?」
「いえ。このバスも」
「回転が早いなあ。これもいいぞ。このバスもこの県のバス会社に導入時からここで防錆やってたバスだ。そうかこれも引退か」
「大事に使ってくれるところに行くんでぜひ。うちで整備の面倒見ますよ」
「佐野ならちゃんとした売り先に出すから。よし。明日3台納車行くからな。久しぶりに佐野の店に顔出すとするか。4人で行くから。ちょうどいい。明日と明後日はお店休みだよな。ちょっとした旅行だ。たまには良いだろ。佐野。俺とうちのとせがれ二人で行くから。明後日は休みだろ」
「はい。明後日は休みです。」
「明日の夜は久しぶりに隆義も呼んで飲もうぜ」
「はい、そうですね」
「親父、ところで今日はなんでここに?車の発注?」
「おまえなあ、佐野が来るんだぞ無視はないだろ。それにワンドア一台仕入れてくれ。ホテルで送迎車を入れ替えるってよ。小型使っていたんだが狭くなって来たんで。それもあったんだけど。佐野が来るって言うから発注なくても来たよ」
「わかったよ、中型か?」
「そうだな。29人乗りにするんだぞ。そこは例の管理者いないから29人のり一台なら持てる」
「そうか。小型じゃあ荷物置き場がないってことか」
「そう。中型がいいらしい。バスの駐車場が狭いから大型9メートルはだめってことで。さすがにK-102Hは古すぎだろ」
「親父、わかった」
「センパイ、すみませんが自分はお店に戻ります。助かりましたいいのが見つかって。それにセンパイに会えてよかったです。帰って駐車場空けますから」
「佐野。明日な。俺も楽しみだ。久しぶりにあの道通るか」
僕らはお店を出て雅子が買い取ったKL-UA452PAN改を運転、僕がニジュちゃんを運転して例の坂道を帰ってきていた
「お兄ちゃん、ニジュちゃんさすがね。このKL-UA452PAN改じゃあ300仕様って言っても重量差あるのと長くてちょっと道が狭いから追いつかない。長いと結構大変ね」
「ああ、今回のKL-UA452PAN改はロザン君とほとんど長さ一緒でホイールベースも大体一緒だからね」
「うん、そんな感覚ね。いやあ、でもトルクはあるよねえ。120キロでしょ」
「まあな」
「ニジュちゃんはエンジンの伸びで速いのね」
「だね。」
「後ろから見てても煙出ないから良いわよ。これも高圧噴射でしょ」
「まあな。2段加圧に改造だよ」
「やるわねえ」
僕らがお店に帰ってきたころには雅子が居たスーパーの担当者がきていた
「すみませんねえ。以前納車してもらったのもいいんですが、どうしても後部のところの動線が狭いって言うのがありまして。今回は停める場所が広めのところでの運用なので広さを重視しました。計画はこれです」
「仕方ないですよ。はい、冷蔵庫と冷凍庫は手配したものをここに納入ですね」
「はい、後はお任せします。予算通りになりそうでよかったです」
「承知いたしました。冷蔵庫納入されてから3週間お時間お願いします。直ぐにバスが見つかってよかったですよ」
僕は改装期間を見積もっていた。
必要な部品をリストアップしていると雅子が
「お兄ちゃん、イチゴちゃんでそのままレース出て大丈夫?」
「まあ、クーリング系を容量アップしないと駄目だ。ミッションとデフにクーラー入れるよ。ラジエターとオイルクーラーも大型にする」
「そうなんだ」
「レースの負担は半端じゃない。発熱凄いからラジエター容量は大凡倍にする。オイルクーラーも。ミッションとデフにもレイアウト成り立つ限りでかいの入れるよ。任せろ」
「頼んだよ」
それからは雅子が居たスーパーに納車するバスの改装とイチゴちゃんの改造の部品集めを開始していた。
幸いにも以前にバスを作ったときの履歴が有ったので再発注していた。
買ってきたKL-UA452PAN改を確認すると良いことに車体もエンジンもしっかりしていてちょっと車体を補強する事でなんとか行けそうとわかったのだ。
次の日、KL-UA452PAN改を買った中古車屋さんから4台の車で納車に来た。
「佐野、来たぞ」
「センパイ、ありがとうございます。遠路はるばるお疲れでしょう」
「なーに、毎日ずっと運転してるんだ。大丈夫だ。」
「センパイ。この車は?」
親父が中古車屋さんの奥さんが運転した来た車を見ていた
「ああ、これか。これは昨日佐野が帰ってから引き取った。車検もあってだな。ホテルに納車する中型が見つかったんで明後日納車するよ。その後で預かって色の塗り変えするんだよ」
「センパイ大変ですねえ」
「何を言ってる、今は漬物屋の親父だ。佐野。このバスも欲しいってか?いいぞ」
「え?でも乗って帰るのが?」
「ここで売ってるそのワンボ買うから。4WDでないと冬の出荷が大変でさ。漬物運びにぴったりなんだよ」
「え?あれですか?」
「おう、どうだ?」
「はい、喜んで」
「交渉成立だな。いくらだ?」
「このバスと等価交換で」
「おいおい、年式考えたら佐野が赤字だろ」
「いいえ、これはそんなにしないんで。過走行車両で20万走ってますよ」
「いいよ。うちが面倒見る。なら、等価交換で」
親父がワンボの4WDと等価交換したバスは○野 P-RB115AA3〇野純正ボディの W04Dを積んだモデルだった。
「はあああ、パパもバスコレクション?」
「良いだろ」
「はああああああ」
また買うとなって呆れていた母親と雅子だった。
アジトに帰ると
「パパも趣味人だからなあ」
「こるのは仕方ないって。さて明日はイチゴちゃんばらすからね。クーリングが勝負だから。とはいっても警戒されないように外見はそのままで行くよ。ファイナルは元に戻すから」
「そうね。お兄ちゃん上手いから」
「ありがと。」
次の日、会社が休みなので朝からイチゴちゃんのフロント周りをばらしてラジエターを取り、オイルクーラーも取っていた。
ミッションとデフにクーラー付けるので導風板も考えてたのだ。
「お兄ちゃん、隆弘さんがラジエター見つけたって。オイルクーラーも持ってくるみたい」
「そうか、それ使うよ。隆弘には感謝だな。ミッションとデフのオイルクーラー導風板作るのが鍵だな」
「そうか、導風板要るもんね」
「ああ、いくらクーラー付けても風が当たんないんじゃあ冷えないだろ。とにかく、全開で30周持つ仕様にするよ。テクニカルサーキットだからとにかく冷やさないと」
「その辺はさすがね。任せるよ」
僕はイチゴちゃんの車高をちょっと上げて導風板を型紙で作って入れていた。
ドリ車には入っているので参考していた。
最低地上高100mm以上取る必要あり干渉しないようにしていたのだった。
昼過ぎに隆文がオイルクーラーとラジエターを持ってやって来た。
「悟瑠、このラジエターってイチゴちゃんに入るかギリかもな」
「ああ、入ることは入るけど結構ぎりだなあ。元から電動ファンにしてるから良いけど」
「これってGT500のラジエーターだけど良いのか?」
「ああ、これくらい必要だろう」
「オイルクーラーも大容量だもんな」
「まあな。計算上は足りるはず。でも雅子が熱くなったとき対応しきれるかわかんない。今回はぶっつけ本番になっちまったから入る最大サイズを入れてみた」
「そうだな。雅子には勝ってほしいな」
僕と隆弘、隆文はイチゴちゃんをレース仕様に仕上げてミニサーキットに持ち込んで確認走行をしていた。
「雅子、どうだ?」
「うん、いい感じ。さすがお兄ちゃんたち。水温も安定してるし。ミッションの入りもいいし」
「よし、それじゃあアジトに帰ってハブベアリングとサーモスタット、油脂類交換するぞ。来週の準備だ」
「悟瑠さん、会社のステッカーも貼るんでしょ」
「今回は貼らない。雅子のプライベートカーとして出るから」
「はい、わかった。」
レース当日になった。
場所はこの前ドリ大会の有ったところで30周するレースだ。
「雅子、レースだ。9000迄でいけ、但し、抜くときとか勝負の時は10000まで回せ。いけるぞ」
「うん、お兄ちゃん、隆弘さん、隆文ありがとう。絶対勝ってくる」
そう言って雅子はピットを後にした。
雅子は午前の予選をトップタイムでポールポジションを取っていた。
フォーメーションラップがスタート、2週の後、先頭のペースカーがピットイン、シグナルが青に変わった刹那、全車一気にフル加速していた。
イチゴちゃんの500psのパワーは半端でない。
しかし、レースに出る連中の車も600psとか出している仕様だ。
僕は車のトータルバランスならイチゴちゃんと思っていたので安心していた。
予想通り、いくらストレートが速くてもコーナーで置いていかれる車も多く、雅子のイチゴちゃんに追いすがろうとするが予選のラップで2秒以上速い雅子には全く追い付けずドンドン離れていく
5週もしないうちに10秒以上差がついて独走状態になっていた。
6週目に入ってイチゴちゃんがS字コーナー抜けたあたりで、僕らのピットで”ピューン、ヒューン、ヒューン”という警報が鳴った。
緊張が走る。
テレメトリのモニターを見るとあろうことか?雅子の左リアタイヤの空気圧が下がっている。
「雅子、ピットはいれ。タイヤトラブルだ」
『了解!』
「隆弘、隆文、タイヤ交換。左リヤにトラブルだ」
「おう。リヤタイヤ準備OK。ジャッキ、インパクトOK。給油」
「兄貴、全部OK」
「よし」
『お兄ちゃん、入るよ』
「OK」
僕らは雅子のイチゴちゃんが入ってきて既定の位置に止まる
「給油口」
パカっと給油口が開く、僕らは後ろ持ち上げインパクトでナットを外してタイヤを交換。
その間に給油していた。
「交換OK」
「雅子、行け」
「うん」
イチゴちゃんがおよそ25秒のピットストップで戦線復帰
その間に10秒以上あった2位との差は逆転されて6位まで下がっていた。
”ピンポーン”とコーションが鳴る
「悟瑠、10000超えた」
「ああ、だろうと思ったよ」
雅子はピットアウトした次の周にバックストレッチで五番手に並ぶと最終コーナーでインをとりあっさりと抜き去って四番手を追走していた。
「大丈夫か?雅子にペース抑える様に言わないと。最後までもつか?」
「今の雅子には何を言っても無駄だ。鬼の形相になっているよ。知ってるだろ雅子が乗ったら手がつけられないのは」
「そうか。悟瑠の組んだエンジンが最後まで持つことを祈るしかないか。よし、四番手に追いついた」
四番手をS字の切り返しで抜き去るとちょっと離れた三番手を追走していた
レースは残り10週を切った。
「そうだろうな。雅子は今はなんぴとたりともって感じだろう。あと3台か」
「そうか、わかったよ。隆文はテレメから目を離すな」
「ああ、イチゴちゃんはわかってくれるよ。今の雅子のまさに燃え上がってる炎を抑えるのは無理って」
「悟瑠さん、また10000超えた」
”ピンポーン”なるコーション
「イチゴちゃんにとってはこれが最初で最後のレースだ。雅子の思う通りに走らせてやろう、それが俺達の役目だ」
「そうだな、峠じゃ無敗のイチゴちゃんだもんな」
「そう。最後がサーキットで頂点って言うのも良いだろ」
「うん」
「悟瑠さん。三番手まで上がってます。後2台」
「今の雅子なら、二番手を抜くのはたやすいと思う。しかしトップは離れちまったな。おーし、いったあ」
雅子はS字の切り返しでバランス崩した二番手をヘアピンで抜くと直角で一気に差を広げトップを猛追していた。
”ピーン、ピーン、ピーン”と別の音が鳴る。
「悟瑠さん、水温105度。オーバーヒートは大丈夫ですか?」
「ああ、隆文、油温は?」
「油温は115度です」
「ギリギリだな。後6週か」
「ああ、おっと雅子が追いついた。」
二番手を抜いて2周後、イチゴちゃんがなんとかトップに追いついた。
「悟瑠、スリップはやばい。冷えなくなる」
「ああ、そうは言っても最終コーナーが勝負だろ」
「おう」
「悟瑠さん、水温115、油温125」
「やべえ、オーバーヒート気味だ」
「雅子に指示出すか?」
「いや、もう一周まとう」
最終コーナーでトップは必死に雅子をブロックしていた。
そのまま、第一コーナーをクリア、S字もクリア、直角でも必死に頭を押さえるトップ
「悟瑠さん、水温110迄下がってます」
「そうか、雅子は8000までしか回してないというか、トップが雅子より遅いからだ」
バックストレッチ前のヘアピンをクリアしてストレート勝負かと思った刹那、トップがすっと道を空ける様に左に寄った
なんなく躱す雅子
「え?トップがスローダウン?」
雅子が一気に抜き去って行く。
「そうか、トップもオーバーヒートかも」
「やったー。雅子がトップだ」
「雅子、8000以下で走れ。あと3週。今のところ後ろは来ない」
『ありがと、油温135度、イチゴちゃん何とか耐えてくれたよ』
「よし、このままだ。行ける」
雅子は危なげない走りで2週走って差を広げながらファイナルラップに突入
『ふううう、油温105度なんとかいけそう』
「そのペースで大丈夫。後ろはスローダウンしてる。ファイナルラップだ」
交信終わった刹那”ヒューン、ヒューン、ヒューン”また警報が鳴る。
僕らのピットに緊張が戻る。
「どうした?」
「悟瑠さん、わかりません。また、油温130度オーバー」
「え?油温?何が?」
「わかりません。ああっ。水温もドンドン上がっていく。うわ水温120オーバー」
「後ろは?」
「25秒はあります」
「雅子は今はバックストレッチか?」
「はい」
イチゴちゃんが謎のオーバーヒート。
スローダウンか?どうするか?
僕は迷わず雅子を、イチゴちゃんを無事にゴールさせることを選んだ。
「雅子、流せ。オーバーヒート」
『うん』
コースを見ると、なんとラッキーな事に後ろの2台もペースが上がっていない。
それどころか更にペースが落ちている。
どうやら二番手、三番手もオーバーヒートとの戦いのようだ。
「悟瑠、間に合ったか?」
「油温140度、水温120オーバー」
隆文のテレメトリのデータを読む声が場を支配する。
「ああ、なんとか」
「よーし、雅子がトップだ」
『お兄ちゃん。やったよ。トップ』
スローダウンしながらゴールにたどり着いたイチゴちゃんにチェッカーフラッグが振られ雅子が何とかトップでゴールイン、逃げ切った。
『あ、エンスト。停める』
雅子からの無線。
「え?」
『あああ、何?ブロー?』
プッシャー、シュワワッという音がピット響く、イチゴちゃんを見るとボンネットからもうもうと白煙を上げて第一コーナー手前のサンドに停まっている。
オーバーヒートでどうやらLLCが噴き出したようだ。
「オーバーヒートで焼き付いたか?」
「ああ。そうかもな。あ、赤旗。レース終了だ。あーあ、二番手もエンジンブローでコースに撒いちゃつた。うわ、三番手もだ」
二番手もイチゴちゃんの後ろで停まっていた。
エンジンブローに気付いて急いでアウトに寄ったのだが、間に合わずコース上にオイルを撒いてしまったようだ。
三番手も同様だった。
「そうか。みんなギリギリで戦っていたんだな」
隆文が言っている。
その通りでレースの後半20周過ぎたあたりから速度を落としてクーリングラップする車、トラブルが起きてピットインする車が急に増えていたのだ。
走っていた車両が全部ピットに入ったあと、クルーがイチゴちゃんと二番手、三番手の車を回収していた。
「イチゴちゃんありがと、そしてごめんね。ううううう」
先にピットに戻っていた雅子が牽引されてピットに戻って来たイチゴちゃんのボンネットにしがみついて泣いていた。
優勝の感謝とエンジンブローのお詫びだろう。
釣られたのか?隆文たちも泣いていた。
「お兄ちゃん、いい車ありがとう。イチゴちゃん引退ね。そのまま乗って帰りたかったけど」
「そうだな。まさかオイルクーラーに落ち葉が張り付くとはな」
イチゴちゃんのオイルクーラーガードの金網に2枚の大きな落ち葉が張り付いていた。
小石を防ぐ金網をつけていたが、落ち葉のせいで風のあたりが相当悪くなってオイルクーラーが全く冷えなくなっていたようだ。
「うん、ファイナルラップだったからよかったわよ」
「よかったよ。イチゴちゃん、お疲れ様。」
イチゴちゃんのルーフを撫でながら言う
「うん、イチゴちゃん。本当にお疲れ様。もうバトルしないからね。ゆっくりしてていいからね」
「そうだな。悟瑠。エンジンは載せ替えか」
「ああ、元のS〇に戻す。ヘッドだけはVV○にするよ。Y型ロッカーが欠品みたいなんで。イチゴちゃんはうちの宝物さ」
「そうだな。トラブル起きて直せないんじゃ仕方ないよな」
「車検証上は変わんないから」
「そうだね」
その後の表彰式では雅子の真ん中に上ってやり切ったという笑顔がとてもまぶしかった。
帰りはイチゴちゃんを積載に積んで僕が運転、雅子は隣に乗っていた。
雅子がどうしてもイチゴちゃんと一緒に帰りたいというのだ。
「お兄ちゃん、イチゴちゃんのナンバー変えるんでしょ」
「おう、5ナンバーに戻す。番号は希望だけど3915だ。一旦ばらしてレストアして」
番号はまさに今まで活躍してくれたイチゴちゃんに感謝を込めてだ
「そうね。それがいいわよ」
雅子はそう言うと帰りの積載車の中で寝入ってアジトつく迄起きなかった。
レースでは雅子が思った以上に緊張してつかれていたのだろう。
優勝して幸せそうな顔で寝ている雅子の寝顔がとても可愛かったのだ。
イチゴちゃんの引退試合。
無敗のまま引退です
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今回はここで更新します。




