表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走り屋の妹(全年齢版)  作者: 浅野 武一
10/73

第十話 今度は大型バス?

今度は大型車に手を染めた悟瑠

雅子は?

「ねえ、お兄ちゃん、やっぱりこの大型バス買ったの?って言うかなんかコレクション状態じゃん。それにエンジンおろしてばらしてるってことはまた何かやるんでしょ。」


僕がいい出物の自家用の前中ドアのバスを見つけて自分が工場長をやっている工場に運び込んでリフトと天井クレーンを使って車を持ちあげてエンジンをおろして、ミッションと切り離していた時のことだ。

妹の雅子(まさこ)が出先から帰って来た。

ふと時計を見るとお店を閉める時間を超えていた


「あああ、もうそんな時間かおかえりー、ご飯当番僕かすぐに帰って作るから。これは日〇の U-UA440HAN改:〇士重の7〇 直6の〇F6」


「ねえ、この前は観光バスも買ってたよね。お兄ちゃんって集めだすと止まんないからなー、でもさこんなの買って何に使うの?」


「ああ、このバスを950登録して中古の船底も買って来たからこれで引っ張ろうかと。そうすると雅子のイチゴちゃん乗せてけるし、部品は車内に積めるようにしたから濡れないよ。大分楽になるよ」


「はああ?そうなの?」


「でさ、この前買った観光バスはサロンバスなんだよ。これでエントリー先に行ってみんなで中でご飯食べたり疲れたら寝ることもできる様にするんだよ。この自家用バスは前のオーナーがどうやらエンジンとエアコンが調子悪いから手ばなしたみたいだよ。修理するんだけどついでにシャシとボディに錆がないか見てた。ほとんど錆がないいい個体だからラストストッパーセットしてボディカラー塗りなおそうかと思ってたんだ。ボディやってる間に隆弘(たかひろ)が働いてる会社でエンジン見てもらう予定」


「ふーん、観光バスは3列シートだよね。ってことは寝られるのね。ふへへへへー楽しみ。このバスは?」


「あー、雅子、寝るのが好きだからな。寝るとなるとどこでも爆睡するし。このバスは解析用の機器積んで解析車する」


「やるわね。それならいつでも解析できるようにしてってことね。うーん、このバスは獅子丸君って呼ぶね」


「そういうこと。座席取っ払って1ナンバーにするからね。部品を中ドアから積むんだよ。それに積載と違って雨が当たらないから」


「いいわねー。観光にはベッドも積むんでしょ」


「そうだけど。って言うかさ寝台車じゃないから寝るなら個室用シートのところで寝るの。交換するから」


「へえいいじゃん、あの観光バスにもニックネームつけたいじゃん、型式は?」


「○デのRA552RBMだよ。ボディが西○の02M○CⅠ。V8の最終型」


「うーん、なかなかいい名前が無いわねー。じゃあ、ゴーゴーくんにしよう。あの観光バスってどんな仕様なの?」


「ハイデッガーベースのサロンバスで、31人乗り、僕は2席減らして29人乗りにして登録する。シートを2席個室シートに交換する。電源付きだよ。それは場所取るから2席減らさないと付かないんだよ。エンジンはV8のRH8Hで430馬力、トルクは153キロ、6MTのフィンガーだよ」


「へー、排気量は?」


「おおよそ21000cc、面白いことにOHVなんだけど4V仕様。NAだからちょっとトルクが出てないかな?」


「へー、4VってOHVでもできちゃうんだ。面白いかもね。ねえ、お兄ちゃん、エンジンおろしてるってことは、またいじるんでしょ?」


「雅子にはかなわないなー、そこまでお見通しかよ。このV8シリーズにツインターボで560馬力出すのがあるんだよ。これもヘッドが同じ4Vだからその部品使ってターボにしようかと思ってた。95年くらいからはディーゼルは4V化が進んだんだよ。」


「んもう、ほんといじるの大好きね。ロックンって400だよね。でもエンジンは2Vだよね。もっと出そうだけど」


「うん、それは仕方ないね。ロックンは壊れてしまっても簡単に直せる。だからガンガン過給かけて、ポート整えて300KWね。400馬力ちょっと出てる」


「これはどのくらいにするの?800馬力?」


「そこまではやらないよ。せいぜい560から600馬力がいいところ。ブロックとクランクがどこまで持つかわかんないからノーマル最大+αでやめようかなって、500馬力以上にするとミッションが持たないから、トラック用のミッション取り寄せ中。ペラは採寸して作ってもらう。FDは2.6」


「お兄ちゃんはこうなると止まんないんだよね。エンジンに補強入れるんでしょ」


「あははは、まあゴーゴー君を仕上げるのが先だね、明日もお休みもらったから部品の手配とエンジンを隆弘の工場に送る。オーバーホールしてもらうんだよ」


「お兄ちゃん、それだけじゃないでしょ。あたしに仕様一部言ってないでしょ。お兄ちゃんの目が語ってるよ。こらー、はけー」


「あはは、さすが雅子。よくわかったね。ミッションはH/L切り替え付き6速にする。燃料系をコモンレールにしてみようかと、インジェクターのいいのを見つけたから」


「そうか、コモンレールってロックンと同じじゃん、でもまだ隠してるでしょ」


「ばれちゃあ仕方ない。クランクを特注の削りだしにして、ジャーナル径を2mmとピン径を4mm太くして、コンロッドも大端部のボルトを細くしたいから2本ボルト仕様を特注で作る。ベアリングはいいことに流用できるのが見つかったから」


「え?クランク特注?どうして?」


「まあ、平たく言うともうちょっとクランクの剛性アップしたくて。それにクランクのバランサーウエイト変更して前のプーリーとフライホイールについてるマスを取りたいんだよ。そうするともっとクランクの負担が減ってパワーアップできる。なんとかできないか見てるけど、オイルバンの形見直して第一ウェブと第5ウェブをギリ迄厚くしたいんだ。もちろんフィレットロール加工とタフトライドしてだね」


「はいはい、じゃあさ腰下も弄るんでしょ。カムかえるとか、補強版入れるとか」


「まあね。カムはどのカム入れるかは仕様見て決めるよ。噴射時期はコンピューターコントロールに変更するからついでって感じかな?自由度高いから。補強版も考えてるよ。そうだ、この自家用バスもターボにするよ。エアコンを直結にしないと治んないみたいだ。もうコンプレッサー回す良いエンジンがない。それに船底引っ張るにはパワーいるからアップする、NAのままではパワー足りないから高速道路は無理だ」


「ふーん、そうか、後ろにトレーラーつけて乗せるからイチゴちゃん運転しなくってもいいのか。じゃあ楽しみにしてるね。それにベッド付き―」


雅子はニコニコしながら家に入っていった。

妹の佐野(さの) 雅子(まさこ)、かつてY○3のチューニングカーで麓の市内にあるスーパーの本社に通っていたがスパッと辞めて今は家業の中古車屋で経理担当の専務になっている。

入社して4年チョイ務めて係長にまでなったスーパーをあっさり退職してしまった23歳。

スーパーでは、いろんなシステムを組んでいて、その技能を駆使して組んだ効率化アイテムに両親も大助かりという。

妹は地元の商業高校を断トツの1番の成績で卒業して、商業簿記2級、電卓検定初段、キーボード早打ち選手権全国準優勝、エクセル1級、アクセス1級、ビジュアルベーシック1級と事務系なら引っ張りだこになるくらいの技能をもっていた。

それなので、進学せずに地元資本の大手スーパーの経理部に学校推薦で入って、高卒ながら5年目で大卒5年目と同じ給料をもらっていたが、もともと車に乗るのが大好きでいろんな車に乗れる家業に転職した。

スーパーでの実績は入社3年目で、各店舗から集まる情報処理集計システムを自分で組んでしまい、今まで買っていたソフトが不要になった。

しかも妹が作ったソフトのほうが勤めている会社に事情に合っているのと、パソコンになら大体標準で入っている○クセルを使うので、他に導入費とメンテナンス費用が浮いた。

万一、おかしなことが起きても、雅子がすぐに治せる。

それも褒美もあって、雅子は高卒では異例の速さで主任に昇格してしまったのだった。

それに集計の自動化を進めた結果、各店舗の仕入れと売上関連のほとんどが一目でわかるようになって社長も大喜び。

その成果が認められ、高卒の3年目の途中に主任に昇格して、部下を持ってその指導もするようになったという。

4年目の7月からは入ってきた自分より年上の大卒を部下にもってチームを組んで仕事しているのだから驚く。

所属は、経理部だが、5年目の4月から係長に昇格して全社の業務効率化のリーダーに抜擢されて売り上げ仕入れ管理システムのソフトを雅子が自分のチームで組んでしまってさらに業務効率が上がったのだった。

当の雅子は出世には興味が全くなく、スーパーは給料のためと割り切っていたが、やっぱり好きな車の仕事がしたいといってあっさりとスーパーを辞めてしまった。

スーパーではなんと大卒でも10年はかかるという課長待遇にするから残ってくれと言われたらしいが出世に興味がない雅子はスパッと辞めたのだった。

もちろん、部下や同僚にシステムの使い方、直し方すべて引き継いでいるので大きな発展は無理かもしれないが、今後のビジネススタイルが変わっても最低限の対応はできる様にしてきたという。

雅子は峠を走り始めて既に5年がたっていて、僕の古くからの友人がリーダーを務めるチームでサブリーダーの一人になっている。

ホームグラウンドでは断トツトップの速さで時には新たにチームに加入してきた後輩たちの指導もするようになっていた。

得意なのはダウンヒルで、大Rコーナーにノーブレーキで入って全開のままドリフトさせっぱなしで抜けられるのは、チームの中ではいまだに雅子しかいない。

それにサーキットを走らせてもダウンヒルのタイムもチームの中では一番だ。

この前はなんとバスを運転したいからといって大型免許と牽引免許を取りに行っている何でも乗りなのだ。

僕:佐野 悟瑠(さとる)は妹より4学年上の26歳。

地元の大学を卒業して家業の中古車屋に就職して5年目、大学の頃は自動車部でラリーやジムカーナをやっていた。

今はそこで中古車の納車前整備や修理をしていて、時には中古車の買い取り査定もする。

大学のころから家業の手伝い=バイトしていてMIG溶接機やレーザー溶接機、フレーム修正機もバッチり使えるようになったし、板金も大分できるようになったし、○ントリペアも勉強して資格もとった。

それに、カラスリペアと危険物の乙4の資格も取って玉掛けも資格を取っているので去年4月から整備工場の工場長兼副社長をしている。

大型は在学中にとってあってさらに就職してからけん引免許もとっているので、オークションに買い付けに行く時には自分でキャリアトレーラーを運転していくこともある。

それも中古車で買ったものでもある

商売柄、中古車で市場では人気がないが、程度のいいFR車を見つけては整備して雅子の走り仲間へ売っている。

時にはミッションの換装もやっている。

改造車検も取って、合法的に乗れる仕様にして販売している。

3級整備士の資格もあるので自分で運行の管理士になれるのでバスも持ちたい放題だ。


「雅子、今日は面倒だからタンドリーチキンにして味付けは既に済ませた。後は焼くだけだよ。帰ろうか」


「ありがと、ご飯は?冷凍?」


「冷蔵庫に戻してある、冷蔵庫で自然解凍してそれを温めて食べる。これが一番いい」


「まあ、お食事はお兄ちゃんにかなわないからね」


アジトに帰りつくと手を洗ってキッチンに立った。

僕らの住んでいるアジトところはと呼んでいる、そこは祖父母が現役の頃、林業を営んでいてそこに住んでいたのだった。

祖父ががっちり防腐剤と難燃剤を含侵させた木材を100%使ってあり、しかも木材の倉庫、製材所も併設していた、そこにピットを作り、大型リフトと天井クレーンは製材するのでもともとあったのを使っている。

それに加えて、大型の油圧プレス、定盤迄有るので車弄りにはぴったりだ。

その夜、寝る時間になるまでいじる計画を立てていた。

あれこれ考えているうちに寝てしまっていた。

次の朝、起きると


「お兄ちゃん、獅子丸君(U-UA440HAN)はエンジンどうすんの?ターボって言ってたけど」


「うん、いいことにKL規制に同じ形式でしかもターボがあるよ、それなんでトルクをターボに合わせて出力はあげるかな?ミッションは6速にしたいなあ」


「ふーん、6速ね。高速乗れるもんね。そうだ今日はたまにはイチゴちゃん乗って行こう。バッテリー上がっちゃうでしょ」


「そうだね。って普段から充電しっぱなしでしょ」


「そうね。乗って行こ」


僕らはまた会社に出勤した。

時はひと月前に戻る。

4月になって新たな気持ちで仕事して帰ってきて整備場でイチゴちゃんのメンテしていると、仕事から帰って来た雅子は会社の制服を脱いで、風呂に行ってリラックス用のスウェットに着替えて整備場にきた。

雪が溶けてやっと新緑が芽吹き始めた時だった。


「お兄ちゃん、ありがと。ごめんね、今日急に遅くなったからお弁当買って来た。食べよ」


僕らは何時ものように一緒にご飯を食べていた、すると妹の雅子が言う。


「お兄ちゃん、次のバトルも遠征だって、場所はイロ○坂って言ってた」


「ああ、僕も昼間に隆弘からLINEで聞いたよ。行楽シーズンも始まる前に一回やろうってさ。また、ほかのチームから挑戦状来たみたいで」


「あはは、そうね。隆弘さんってお兄ちゃんが組んだ車乗ってるから結構速いんだよね。それに自分たちで車の細かいセッティングもやってるでしょ、それで現地でバトって勝ったもんだからリベンジってきたみたい。ところでお兄ちゃん、帰りにおうちのお店の近く通ったらバスが3台置いてあったよ。まさか今度はバス買ったとか?」


「うん、雅子はよく見つけたね。出物のバスがあったから衝動買いしちゃったよ。一台は作りが頑丈だからさすが親会社鉄道車両メーカーって思ったよ、もう一台はエンジンのコンサルタントで有名な人が設計したエンジン乗っかってるから買っちゃったよ。もう一台は自家用だったんだけど程度がいいから買っちゃった」


「お兄ちゃん、まさか3台とも買うの?はあああ、ロックンは?」


「うん、よくわかったね。3台買う。一台は観光仕様でもう一台は路線仕様、後は自家用だけどナナちゃんをチームの誰かに売ろうかって思ってる」


「はああ、んもう、コレクターじゃん。まあいいや。ここ場所余ってるからね。ねえ、ナナちゃんあたしに頂戴よ。サザン君元居た会社の後輩に車好きがいてどこで買ったのって聞かれて、それにサザン君だとバトル挑まれてうざくって」


「そうか、サザン君売るのか?」


「うん、欲しいって言われちゃった」


「そうか、僕の手を離れるならタービン交換して耐久性方向にしないとやばいね。僕が見てるならエンジンの異音とか見れるけど」


「そうなのね。どのくらいかかるの?」


「ええと、タービンの予備はあるからここで交換すればいいよ。1週間もあればいいかな?安全見て350迄落とすよ。でも十分に速いけどね」


「ふーん、わかった」


そんな会話していた。

ひと月後、サザン君のタービンを交換して出力は350psに変更、乗りやすさと耐久性を重視してエンジンを仕上げ、脚を調整してアンダーを減らす方向にセッティングしなおしたのだ。

雅子用のセッティングだと腕がないとドアンダーになって曲がらないになってしまう。

その車を後輩に譲って、帰りの脚がなくなった雅子を僕がロックンに乗せてアジトに向かっていた。


「お兄ちゃん、後輩がもう喜んじゃって、お兄ちゃんのこと知ってたよ。サンゴちゃんでヒルクライムでツインターボのマーク○の勝ったでしょ、ドライバーが後輩の学校の先輩なんだって。ターボがNAに負けたって悔しがってた」


「あはは、そうだったのか。以外に世間は狭いな」


「そうね、でもさ、今日麓迄乗っていったけど、なんかさらに下から回るようになったでしょ」


「うん、排気量はそのままだけどハイフロータービンになった分だね、出力は少し下がってるけど。耐久性重視でレブを7000迄下げたから」


「へえそうなんだ。あの排気量あれば2000以下でも十分だもんね」


「そうだよ、雅子はアレでバトッて来たのを帰り撃ちだろ。この辺の峠じゃサザンには逆らうなって言われてるからね」


「きゃははは、そうよねー、登りのストレートで着いてこれるのってエボとかインプかな?8○はパワー足りなくてそこで離して、コーナー流してもストレートで離せるんだもんね。雨はちょっとセーブするけど」


「全くこれだよ」


だべっているうちにアジトに着く


「雅子、お弁当買ってきたよね」


「うん、買って来た。もしかして今度は路線の方も弄るの?」


「うん、エンジンはオーバーホールするよ。って言うかもうガタガタ。中古エンジンとミッション買って来たし、明日はエンジンおろしかな」


「うん、お兄ちゃんって車なら何でもって感じね。バスも面白いかもね。あたしも免許取ろうかな?」


「おう、取るなら2種がいいかもな」


「じゃあ、そっか、時間作って取りに行こう。ママたち大型車も扱うって。台当たりの利益大きいから」


「おう、悪いけど明日は納車あるけど頼むぜ。僕は工場でエンジンおろして隆弘の工場に出すから」


「うん、いいよ」


僕らはお弁当を食べる次の日に備えて寝ていた。

次の日、工場に来た雅子がバスを見て言う


「ねえ、この子はどこの?」


「いす○のキュービッ○。LV28○、ボディは富士重○の7○。標準尺だよ。エンジンはこれもV8の8P○の240psなんだけど285psに積みかえる。ターボどうしようか検討中」


「ふーん、じゃあ決めた。この子はキューピーちゃん。はああ、またターボね。排気量は?」


「おう、15000ccだ。このエンジンシリーズを積んだトラックにターボ付きがあるんだよ。その部品取ってタービンを7.7リッターの物2個に変えて上手く行ったらこれもコモンレールにしようかと思ってる」


「どこまでパワー上げるのよ?」


「いいところ405psかな?クランクとブロックが持つかわかんないからね、マリンエンジンは450の連続だからそれくらいなら持つかなって」


「まあ、考えたわね。獅子丸君(U-UA440HAN)はもういけるの?」


「うん、エンジン仕上がった。でも燃調取ったけど実際の走行で確認しないとだめだからね。確認しがてらに下見に行くのもいいかもな」


「ねえ、行こうよ。面白そうじゃん」


「いいけど、キューピーちゃん(KC-LV280N)のエンジン降りたから、パレットに乗せて、固定は暖機してる間にしよう。」


そう言って僕は獅子丸君(U-UA440HAN)のエンジンをかける。

がららがららとアイドリングを始める。

前のエンジンよりは少し振動が大きいが、それは個体差かもしれない。

暖機している間に隆弘に電話しておろしたエンジンを引き取りに来てもらうようにパレットに固定していた。

エンジンを乗せたパレットをフォークリフトで駐車場の脇に置いておく。

終わると、エンジンがいい具合に温まっていた。


「雅子、後ろ見てくれ、車庫から出すぞ。」


工場の駐車場でバスの向きを変えて大きな通りに出ると近くのインターチェンジを目指す。

ちょうど渋滞が始まる前の時間帯だった。

エンジンの慣らしは済ませておいたので、高速の本線に入る加速車線で4速、5速とめいっぱいの2400rpm迄回してみる。

大型のディーゼルとは思えないくらいスムーズに回転を上げるのは、インタークーラー大型化の効果かもしれない。

それに音もドロドロした感じがなく、ちょっと軽い感じの音に仕上がっていた。


「ねえ、お兄ちゃん。この車まさか脚も弄るとか言わないよね」


「あのなー、これは脚をいじるって言うよりもボディとシャシを何とかしないとダメなんだよ。このままじゃあやわすぎて」


「ふーん、そうか、サザン君と同じなのね」


「まあな」


ちょっとダンパーに車体取り付け点の剛性が負け気味で、段差の度にブルンブルンと残ることがある。

とはいってもトラックよりはいいのと普通に乗るには問題ないので、このままでもいいかと思っていた。

目的のインター伊勢〇でおりて一路イロ〇を目指した。

のぼりでも全く苦にせずに走る。

ターボの威力で5速に入れても登っていける。


「お兄ちゃん、これってほんとに大型バス?喘ぐような感じなくってすいすい行ってるよね」


「うん、ターボがいい具合に低速から効いててトルク出てて楽だし、燃調も濃すぎないね。各メーターもいい数値だ。フルに回しても大丈夫そうだから坂道で回してみるよ」


「なんかお兄ちゃん好きだよね。楽しそうに乗ってて」


「まあな、制御ソフト組んだの自分だからどっかにバグあるとヤベえと思ってたんだけどね」


「お兄ちゃんもパソコン好きだったじゃん。やっぱりねって感じね」


「まあな、3次元でマップを組むのが結構大変だったよ。雅子の組んだ3次元ビューワーのおかげ」


「へえ、よかった。お兄ちゃん。上りをずっと5速のまま?」


「うん、ずっと5速で登れるんだよ、ファイナルは路線の直結ようの物にしてるからちょっと高めなんだけど全然苦にしてないよ。スロットルメータでもフルに踏んでないのわかるだろ。40キロのトルクアップはでかいよ。」


「そうね。すごいじゃん。スムーズだよね」


だべっているうちに、バトルの場所に着いた。

まだ日が高いが既に走っている連中がいる。

念のため隆弘に聞いた番号に電話してそこのリーダーとしゃべる


「佐野です、今度の下見に来ました。」


「はい、聞いてます。走ってる連中に連絡するんでLINE登録いいですか?番号で」


「はい」


友達登録する。

麓の馬返しの駐車場で待ってると

ピンポーン!となって

“どうぞ、車のナンバーと色は?”

“XXXXです、色は白、大型バスです”

“承知しました”

“左車線ををゆっくり行くんで”

“右空いてるんですね。気をつけて”

“承知しました。”


「雅子出るぞ。計測器のスイッチ入れてくれ」


「OK」


積んでいた計測器のスイッチを入れてゆっくりと登っていく。

2速で発進して3速4速とアップして登っていく。

発進の2速、次の3速は簡単にリミットの2400迄回る。

スモークメーターも許容範囲だ。

ブーストはばっちりかかっている、ターボの調子もよさそうだ。

4速にシフトアップして、全開で踏んでいくとコーナーが迫る。

減速すると同時に4速から3速に落とす。

タコメータは1500+を指している、全開にするとブーストメーターはフルブーストを指し一瞬スモークメーターがレッドゾーンに入る。

しかし、ブーストがフルになるとクリーンゾーンに戻る。

パワーピークの2100を超えてもグリーンのままだ、燃調はこれでよさそうだ。

エンジンが2400になって吹け切ったところで、4速に切り替え全開で回す。

水温計は85度で正常範囲、油温計も90度で安定している。

後付でオイルクーラーを追加してラジエターの容量をトラックのターボにアップしたのも効いていそうだ。

真夏の昼間に走ってみないと何とも言えないが、全開で走っても全く問題なさそうだ。

またコーナーが迫る、また3速に落とす、ほとんど3速、4速主体で登って行く。

一気に登っていくと、ロープウエイの駅に着いた。

ギャラリーが不思議そうな顔していた。

それはそうだろう、ひゅーんゴーゴーというディーゼルエンジンターボの音ともにバスにしてはかなり早いスピードで通過していったのだ。

頂上に向かうトンネルで窓を開けて異音が出ていないか確認しながら走っていた。


「お兄ちゃん、このデカいのスムーズに走らせるよね。」


「まあ、まだこの車はタイヤが買ったままで古いんだよ。バースト怖いから60%以下で走ってる。それにエンジンの数値が気になって」


「そうねえ。モバイル通信で家に送ってるからもう解析進んでるよ。」


「さすがだね。あ、そこのパーキング入って下る前にタイヤ見るよ」


「そうね」


「下りの方が前輪に負担掛かるからね、後付でリターダーあるとは言っても」


「そっか」


僕がバスを降りてタイヤを見ていた。

まもなく下ることを連絡しようとした時だ。

パーキングにBR○が入って来た。


「佐野さんですね。まさかバスとは」


「すみませんね。今日はこいつのシェイクダウンなんで連れてきました」


「うちのチームの連中がびっくりしてました。古いバスなのに異様に速いって、シェイクダウンって?」


「エンジンオーバーホールしたんで、調子を見に。ターボにしたんで」


「そうですか?でも区間タイムからすると330psは出てないと、それにミッションも6速でしょう。やっぱりターボ付きですね。良い音してたって言ってましたよ」


「さすがですね。その通りです。インタークーラーターボと自家用の6速ミッションなんで。340psです」


「ですよね。うちのチームにもバス持ってるのがいて、あのバスにしては異様に速いって言うんで区間タイム取ってました」


「仕様を見破るとは恐れ入りました」


「次週ですね。楽しみにしてます。動画も撮ってたみたいですし」


「こちらも楽しみです」


「では、下りの連中にバスがいるって言っとくんで」


「どうもありがとう」


「気を付けて」


僕はバスを発車させた。


「ねえ、ここってヘアピンの連続?」


「おう、ここはブレーキとエンジンレスポンス、後はプッシュアンダーとの勝負だな。おっときついぜ」


「お兄ちゃん排気とリターダー?」


「もちろん、バスは前後ともドラムだよ。エンジンブレーキ主体で行かないとフェードして突っ込むよ」


「そうよね」


ぶおおおお、ばっしゅん

排気を使いつつ下る。

リターダーも作動させてフットブレーキの使用頻度を下げる。


「雅子。ここは向きを変えていかに全開で走れるかだよ。」


「だよね、お兄ちゃんほとんどフル転に近いじゃん」


「そうだよ、ゴーゴーくんのような12メートルフルサイズだとここまでやんないと曲がれないんだよ」


「だよね。お兄ちゃんだから安心だけどね」


ほとんど麓に来る。


「雅子、ここから急にハイスピードコースだ。ここの切り替えを上手くしないと置いて行かれる」


「そうなのね」


「ああ、ここが一番のバトルポイントだ。連続のヘアピンで抜けなくてもここで抜ける」


「そうね。ここもいいわね」


「ここで全開で行くとS字があるから一個目を捨てて最後でインに入って抜くのがいいかもな」


「お兄ちゃんってバス乗っててもここの攻略考えてるだもんな」


「あはは、つい」


麓について、いったんタイヤを確認しつつLINEでここのリーダーに連絡して帰宅した。


「やっぱりタイヤがもう駄目だね。帰ったら交換しよ。もうショルダーがボロボロ。抑えていたけど攻め過ぎたか?ああ、タイヤが古かったか?もしかして10年違った?」


「お兄ちゃん、こんなでかいのバスのタイヤって交換大変でしょ。乗ってて眠くなるくらいスムーズだったよ」


「どうもありがと、タイヤは予備のホイールもあるから組んで工場で変えるよ。補助装置もあるから」


「準備の良さはさすがね」


「ロックンのタイヤ用に買ったんだけど結局使ってないんだ」


「だよね」


バーストの恐れがあるので一般道でゆっくりと帰って工場にバスを置くとロックンに乗り換えてアジトに帰った。

ふとスマートフォンを見ると工場の駐車場においたエンジンを引き取ったと連絡が入っていた。


「雅子、データと動画ありがとう」


「お兄ちゃんこそ運転お疲れ様。明日はお休みだからちょっとはゆっくり寝ようね」


「おう」


ロックんを車庫に入れて後は爆睡だった。

次の週、バトルではヒルクライムの隆文、ダウンヒルの雅子ともに勝っていた。


「悟瑠、雅子、お前たちって何やってもスゲーよ。バスでデータ取ってもベストラインだせるなんて」


「あはは、雅子の作った解析ソフトのおかげだよ」


「雅子か、走って良し、解析してよしか」


「隆弘さん、お兄ちゃんの腕もあるの。ヒルクライムの時は後ろがいないとベストラインで走ってたんだからね。」


「そうか、勝てるのは二人のおかげか」


「チーム運営してる隆弘にも感謝だよ」


「ありがと。じゃあ帰ろうぜ」


「だな」


イチゴちゃんを乗せたトレーラーを獅子丸君と呼んでいるバス改造のバンにつないで帰る。

その途中


「お兄ちゃん、バスもいいかもね。あたしも嵌りそう」


「そうか?雅子も欲しいっていうのかな?」


「ふふふ、そうかもね。いいのが有ったらなあ」


「「じゃあ、探そうか」」


雅子は大きな車に興味を示したようだ。

いつも読んで頂き、どうもありがとうございます。

今回はここで更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ