帰還
「疲れてるだろうけど、次の段階に進むわよ。」
一息ついた私に、先生はあからさまに申し訳なさそうにして話しかける。先生はスッと私に指を差し出して円の中に円があるだけの魔法陣を造る。
「さっきの感覚を思い出して、これを手のひらで造ってみて。けど注意してね、手のひらを絶対に頭のほうに向けないでね。」
先生は、目の前の水球には一切触れずにそう話す。結局これはなんなんだろうか…?質問したいけど、まずは言われた通りやってみることにする。
手のひらに集中してさっきを思い出す。
力を込めようとすると、水球の一部が糸のようにこちらに伸びてきた。
今気づいた。今まで見えなかった力が、あの形であそこにまとまってるんだ。
集中して水で円を描く。
ゆっくりと、先生のお手本を見ながら構築していく。大きな円を描き、その中に小さな円を描く。
「で、できました…!」
前に手のひらを差し出して見せる。
先生は透明の椅子に座って本を読んでいましたが、私の声を聞くと少し驚いたようにこっちを見る。
「あら、早かったわね。…それじゃあ向こうに手を向けて。」
先生が隣に来て、目の前の花びらの壁を指さす。
言われた通りそちらに手のひらを向ける。
先生は私と違って全く緊張していない。
「こう唱えて。バウマウアー
「バウマウアー」
さっきよりはましだけど、また力が抜ける感覚を全身に感じる。水球の一部が透明な力になって、魔法陣に通るのを感じると、目の前に手のひらくらいの水色に透き通った、半透明の壁が生成された。
「それが基本魔法。一番単純で、汎用性のある魔法。…こんなふうにね、バウマウアー」
そう言って緑の半透明な壁を作ってみせる。
「そして、見たら分かると思うけど、その水球は貴方の魔法の性質を決めるものよ。私は風を操る、貴方は水を操るの。」
魔法の性質…私は水で先生は風。
風って緑なのかにゃ…?
腑に落ちないけど、あんまり関係ないんだと思う。
そんな事を考えると、周りの花の壁が突然霧散して消えた。今まで見えなかったけど、外を見るともう薄暗くなっていた。
「今日はもう終わりよ。カトゥーラ、よくできたわね、想定よりずっと進んだ。」
先生はそう褒めてくれた。
「はい…!」
また先生の魔法で屋敷に帰ってきた。
屋敷に帰ると、思ったより疲れていることに気づく。ご飯の鐘はまだなってないみたいだし、部屋に帰ることにしよう。
部屋に入ってベットに倒れ込む。
「あぁ~疲れたにゃねぇ…」
つい言葉が溢れてしまう。
しばらくぼーっと天井を眺めていると、ふとアナスタシアのことを思い出す。
…そういえば、アナスタシアはまだ居ないのかな…?まぁ夜に帰ってきても別に問題ないんだけど…
ちょうどその時、大広間から扉の開く音が聞こえた。雇われの人たちはもう準備を終わってるはずだし、たぶんアナスタシアだろう。
体を起こして部屋を出る。さすがに迎えに行こう、もうそろそろ鐘が鳴るし一緒にご飯を食べて、津出に何があったかも聞いてみよう。
玄関前の廊下に差し当たったところで、私の鼻がピクッと反応する。
血の匂いだ、それも尋常じゃない量。駆け足で玄関に向かうと、そこには疲れ切ったアナスタシアが見えた。きっちりとした服は所々汚れて、髪は少し乱れている。汚れの大部分は血の跡みたいだ。
「ア、アナスタシアさん、大丈夫ですか…?」
そう言って彼女に駆け寄る。アナスタシアは、その声を聞いて初めて私に気づいたのか初めて目を合わせる。
「あぁ、カトゥーラ…ただいま。遅くなったね。」
近くで見ると、アナスタシアの黒いスーツには所々血の跡があった。でも怪我はしてないみたいだ。返り血、なのかな…なんの…?
ちょうどその時、食事の時間を告げる鐘が鳴る。私も全然疲れが取れてないけど、アナスタシアほどじゃない。
「あの、水浴び場に行かないなら、取り敢えずご飯食べませんか…?」
彼女は自分の部屋に向かっているから多分水浴びする前に寝たいんだろうけど、ご飯を食べてからねても良いと思う。そっちの方が健康的な気がするし、何があったのか聞いてみたいことは変わりない。
アナスタシアは視線を落として少し考える。
「ん…まぁ、いいよ。行こうか。」
そう言ってゆっくり食事部屋に向かっていく。
私はアナスタシアの後ろからついて行って、良い匂いの広がっている食事部屋に入る。




