辺境伯の裏庭
部屋に帰って寝る準備をする。
どうやら天井の紅い石は部屋を照らしてくれるらしい、昼間のように部屋が明るい。石から垂れ下がっているひもを引っ張ると明かりが消えていくらしい。
やることなんて特にないし、そのままベットに寝っ転がる。横になると、つい明日について考えてしまう。
「ん〜…明日から始まるのかぁ…」
当たり前だけど、勉強なんてしたことない。する時間なんてなかったし、そもそもできる環境になかった。
覚えが良いと言われたことはある。
それくらいしかない、それ以上褒められたこともない。
思考が嫌な方に向かって行く。
もう寝よう。これ以上考えても仕方がないし、そもそもここから逃げることは絶対にあり得ない。
翌朝、教会からなる鐘の音で目が覚める。
今日は私の教育を担当する人間(獣人?)が到着する。どんな人か全く分からないし、何するのかもよくわからない。
けど最終的には貴族様の補佐に就くらしい、ただの奴隷には過ぎた話だにゃ。
「はぁ~…ほんとになんで私なんだろう…」
ため息が出る。気持ちを切り替えるため、頬をパンッ!と叩く。痛い。
部屋を出て食事部屋に向かうことにする。
鐘が合図なら朝食も出るんじゃないかと思ったからだ。
せっかくだ、食事の後には気晴らしに教師が来るまで外を散歩でもしよう。
食事部屋に向かっていると、応対室の隣からアナスタシアが薄手の肌着で出てくる。
私を見つけたアナスタシアは楽しそうに私に声をかける。
「あっ、カトゥーラおはよう!」
「あぁ、おはようですに…おはようございます。そこに水場があるんですか?」
「そうだよ、君も入る?」
「ご飯を食べてからなら…」
「そう?僕はもうご飯食べたからまた後でね。次の鐘がなったらここに来て、その頃に教師が来るから。」
それだけ言って部屋に帰っていった。
次の鐘まで時間はある、街を軽く歩くくらいはできるはずだ。
今朝の食事は昨日始めた食べたものと同じだった。
カブとベーコンの入った薄味のスープに白パン。昨日の夕飯より味やボリュームがないけど、本当においしい。
食べ終わると昨日のと同じく雇われと思われる人が片付けに来る。少し頭を下げてみるとすぐさま返してくれる。
その後替えの下着を持って水浴び場に入り、体を洗う。
水は少し温かいし、すごくさっぱりする。 桶ですくうと温かくなってるみたいだ、何か仕掛けがあるみたいだけどよくわからない、これが魔法とかいうやつなのかな…
気持ちがいい、暗くなっていた気持ちが少し上向く。
体を洗い流して新しい服を着る。
チェストの中に合った黄色と白を基調としたワンピースと、緑のズボンを着ている。
尻尾を通せるスカートがないのでズボンになった。
「少し出るだけなら大丈夫…なはず。」
元々なりたくてあんな商人のもにいたんじゃない、誰かに攫われてアイツラに売られたんだ。屋敷の周りで攫われそうになったらアナスタシアがすぐ気づいてくれる…と思う。
不安は消えないけどほんとに問題はない。
そう言い聞かせて玄関を開く。
屋敷は少し小高い丘の上に建っていて、石で舗装された道がぐるりと回って近くの街まで続いている。街とは反対方向に大きな森が続いていて、そこから先は1本の道以外何もないみたいだ。
道に沿って街へ向かう。
畑の横を通っていると、度々馬車とすれ違うけど、その度に馬車が停止して操縦手が頭を下げてくる。たぶん来た方向と服を見てコンラート様の使用人だと思っているのだろう。間違いではないけど。
「服が派手過ぎたかにゃ…」
変な気分だけど悪い気はしない。これだけでも気晴らしになった気がする。
畑の入り口であり街の出口でもある門につく。槍を持っている、泥で少し汚れた服を来た男が2人警備をしているみたいだ。私を見ると少し目を見開いて姿勢を良くしたけど、呼び止められることもなく街に入れた。
街は大きな石造りの道路が中央にドンと敷いてあって馬車はそこを通るようだ。
それを中心に枝分かれに道と建物が建って市街地が広がっている。人の往来も活発で、農民らしき人もいるが、大半はそうは見えないしっかりとした服を着ている。
中には重武装の冒険者らしき人たちもいる。人混みの匂いとしか言えない独特な匂いが蔓延してる。
部屋にあった銀貨を握りしめて中央道を歩く。脇にテントのような店を開いている商人たちは声を張り上げてセールスをしてるようだ。
「そこの猫のお嬢さん!うちの卵は新鮮だよー!」「こっちのリンゴは採れたてだよー!」「みんなー!うちが一番安いよー!なんでもあるよー!」「うちのパンはなんと焼きたてだよー!」「ビール飲み放題だよー!」「本日限り!このワインがなんと………
「こいつらうるせぇにゃ…」
猫人は耳が敏感なのだ。それに中には変な道具を口につけて声をバカみたいに大きくしている商人もいる。それに声だけでかくてあんまりいい匂いがしない。
耳を畳んで街の中心に向かう。
少しすると冒険者たちのエリアになったのか武装した人間が多くなってきた。剣や杖、弓とかを持ってる人たちだ。朝が明けてそこまでたっていないけど、もうくたくたでビールを飲んでる集団がぼちぼちいる。冒険者も大変なんだろう。
なんだかんだで街の中心の大きな砦についた。冒険者が馬車でいろいろ運び込んだり、商人の馬車が出てきたり、文字通り街の中心みたいだ。
「邪魔だどけ!」
ぼーっとしてると冒険者に怒鳴られる。そりゃそうだ、街の中心なんだから。
そそくさと横に逸れる。
そろそろ良い時間な気がする。教師と同時に帰って出迎えないのは失礼だしそろそろ屋敷に帰ることにする。今度は中央の道から逸れた道で帰ろう。耳が死んでしまう。
相変わらずうるさいことこの上ない街を通り抜けて畑に出る。「この畑ってコンラート様のものなのかな…」とかどうでもいいことを考えながら屋敷の扉を開ける。
街と比べると屋敷は少し不気味なくらい静かだ。誰も居なのかも…?
「ただいま帰りましたぁ……」
誰も反応しない、そもそもアナスタシアさんしかいないけど。出迎えに向かったのか、部屋で寝てるのか…まぁ、鐘がなったらここに来るだろうし、取り敢えず教師を出迎えるために応対室に座っておくことにする。
少しして、ゴーンと大きな鐘の音が響く。
教師はもう来るはずだ、そう思った時扉の開く音がする。
急いで応対室を出て入ってきた人を見る。
大きな灰色のローブを纏った、一般的な身長の女性だ。緑の目に赤い髪、そして猫の耳が見えた。彼女は私を少し見つめてから穏やかな口調で口を開く。
「貴方がカトゥーラ…で合ってる?」
「は、はい。カトゥーラです…貴方が先生ですか…?」
彼女はコホンッと咳払いをして私に向き直ってから口を開く。
「貴方がカトゥーラね。私は今日からあなたの先生になるソイルよ。よろしくねカトゥーラ。」




