身請け②
コンラートはそれだけ言うと、もう用はないとばかりに私から視線を外し机の上にあるベルを鳴らした。すぐに先ほどの数人の使用人達が戻ってくる、どうやらドアのすぐ側にいたらしい。コンラートは使用人の中の一人、身長だけならコンラートより高い、ショートボブの金髪碧眼の女性使用人に声を掛ける。
「アナスタシア、お前にはこいつに…カトゥーラにこの屋敷での生活を教えてやれ。」
【アナスタシア】と言うらしい女性にそう声をかけたコンラートは、またこちらを振り返ってくる。
「お前はこのアナスタシアと、後でやってくる教師と共にこの屋敷でしばらく生活してもらう。いつ終わるかはお前の飲み込み次第だが、その教育が終わり次第俺のガキのそばについてもらう予定だ。」
それだけ言って振り返り、部屋を出ていった。
「いってらっしゃいませ。」
アナスタシアは跪いてコンラートの方に頭を下げる。コンラートを見送った後、私の方を向く。コンラートとの身長差もすごかったが、アナスタシアはそれ以上だ。私の視線は自然と上に向けられ、アナスタシアは私を見下ろす形になる。
「改めて挨拶するね。
僕はアナスタシア、コンラート様の使用人の一人で、君と同じく獣人だよ。」
そう言ってアナスタシアは頭に巻いていたものをほどいてみせる。その中にあった美しい金髪の中に、ぴょこっと狼のような耳が見えた。 アナスタシアは膝を曲げて私と目を合わせてくれる。
「君の名前はカトゥーラ、であってるのかな?」
「は、はい…カトゥーラ、です」
「よろしくね、僕のことはアナって呼んでいいよ。これから仲良く暮らそ!
じゃあカトゥーラの部屋に案内するよ、ついてきて!」
ニコッと私に笑いかけてから、扉に向けて振り返って廊下に出る。
元気な人だ、それに元(?)奴隷である私にも特に嫌味なく接してくれる。
アナスタシアを追って廊下に出る。アナスタシアは前を向いたまま話しかけてくる。
「僕たちがいた部屋は人を出迎える客室、向かいにあるのが食事部屋。近所に住んでるシェフを雇ったから、基本的に決まった時間に食事が出るよ。」
「は、はい…」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ、これから長いんだし。ほら、カトゥーラの部屋はアレだよ。階段の先、2階の右から2つ目の部屋。」
アナスタシアが指を差した先にある部屋は他の部屋よりドアノブが低くされている。
というよりコンラート基準で作られたこの屋敷は、全体的に私に合っていない。あれはわざわざ作り直してくれたのだろうか?
…そこまで手間を掛けられているとむしろ不気味だ。なんで私なのか全く分からない…
意を決して、アナスタシアに聞いてみることにした。
「あの…アナスタシアさん。コンラート様はなんで私を選んだんですか?」
「ん〜とねぇ…知らない、かな。でも主人は割と気分屋だし、さっき話された以上のことはないと思うよ?」
アナスタシアはあっけらかんとそう答える。
…運が良かったのだろう、それもとてつもなく。そう思うことにした。
アナスタシアの後ろをついて行って部屋まで着く。アナスタシアは腰のあたりから鍵を取り出して渡してくる。
「これが部屋の鍵、必要なら掛けてね。」
そう言ってアナスタシアは私の部屋の扉を開け放つ。
部屋の上下は廊下と同じく木で作られていて、天井の真ん中には光り輝く紅い石がある。部屋の壁は木組みの枠と白い漆喰で覆われていて、奥側には外をのぞける穴と布でできたシャッターがある。入って左には暖炉があって、反対側に小さなベットが置いてある。ベットのそばに横長のチェスト兼机があり、そばにスツールが置いてある。
恐ろしくなるほど豪華な部屋。すこし身震いをする。
「取り敢えずご飯まで時間があるから、ここでくつろいでていいよ。鐘がなったら夕食だからさっき教えた食事部屋に来てね。」
「わ、わかりました。アナスタシアさん、ありがとうございます。」
そう言って私は頭を下げる。
アナスタシアは「じゃあ後でね。」と言い残して廊下に出ていった。
部屋に残された私は改めて部屋を見回す。
「…広すぎにゃ」
そう呟いてしまう。
どこからか何を確認しようか悩んでしまうくらい広い。取り敢えずチェストを開けてみる。
チェストの表は横開きの戸がある、それを開けて中を見てみると、上半分の大きな引き出しが2つと、下半分は小さな引き出しがいくつかある構造になっている。試しに上の大きな引き出しを同時に開けると、片方には私のサイズの服が、もう片方には本が入っていた、試しに見てみるけど何も分からない。
出したものを戻してチェストを閉じる。
スツールを窓に持ってきて、シャッターを開けて外を眺めて時間をつぶす。
ここは少し高いとこにあるようで、手前に畑があり、少し先にある街を見下ろせるみたいだ。街には大きな教会があって、そこに鐘が見える。外に出るきはない。また奴隷商にでも捕まったらもう生きる気力を持てる気がしない。
ゴーン、ゴーン……
ぼんやりとその絵画じみた景色を眺めていると、教会から荘厳な鐘の音が聞こえた。
これがご飯の合図なのかもしれない。
振り返って扉を開け、廊下に出る。
モチーフにした時代が思ったより何もなかったのでファンタジー要素で補っていきます。




