離れ離れ
コツンと足音を鳴らしながら、3人は無言で階段を上がっていく。
ノーンはあの穴から返そうと思ってたけど、本人の希望で出入り口までついてきてもらうことにした。
そのノーンは今、ベルナさんの手を握っている。
子供らしく、この暗く、閉鎖的な空間を恐れてるのか、もしくは…最後までベルナさんを慰めようと思ってのことか。て
二人について思いを巡らせている間にすぐ出口近くについた。
「…扉を開けるので、少しここで待っててください。」
「手伝い…ましょうか?」
「ご心配なく、力は強い方なので。」
心配してくれるのは嬉しいけど、下手に怪我させてもノーンに悪い。
ノーンは首を傾げて、不思議そうに聞いてくる。
「まじょさんはだいじょうぶなの?あれおもいよ?」
「…魔女は強いんだよ。」
2人から離れてから鉄板のすぐ下、少し開いた空間に一人で入る。
すこし斜めになっている板の前に立ち、深呼吸する。集中して、杖の先に術式を構築する。
「…ヴァサルト」
―薄い水の膜が、全身を覆うように広がっていく。肉体を保護して、多少身体能力を強化する魔法だ。
ひんやりと冷えた鉄板に手を触れる。元は収容所として設計されただけあって、しっかりとしてる。
力を込めてゆっくりと持ち上げる。
ゴゴゴ…と音を立て、鉄板を持ち上げる。
――猫人は下手な魔物より力が強い。ここまで大きな物を持ち上げれることついては私の魔法によるところも大きいけど、それでも2-3人いれば素でも持ち上げられるだろう。
これを怖がる人も多いけど、シスターや後ろの二人の私の耳を見たリアクションを見る限り、修道院の人達はそうでもないみたいだ。
余計なことを考えてる間に扉を最後まで持ち上げて、後ろの壁に立て掛ける。
「もう大丈夫ですよー」
振り向いて、少し離れたところにいる2人に声を掛ける。
少しして、後ろから二人の足音が聞こえてきた。
「ありがとうございます。それじゃあ…」
来て早々、ベルナさんはノーンを振り返る。
「私はもう大丈夫だから…あの穴から帰って。」
「…ほんとに?」
私の方をチラチラ見ながら、ノーンはまた同じ質問をベルナさんに投げかける。
生命力に溢れた若く赤髪のシスターもまた、別れを惜しむように儚く俯く。
「…大丈夫だから…」
「……『あなたの』…」
「『あなたの隣人に対し、偽証してはならない。』…シスターがいってたことだよ。」
「……」
ノーンは俯いたベルナさんの手を両手で握り締め、下から顔を合わせて最後に口を開く。
「…ノーンも家族だよ…いつか、ほんとのことおしえて…」
「…うん…」
ベルナさんと抱き合ってからこっちに向き直る。
「まじょさんは…べるねえをいじめないでね…?」
「…私はただの旅人だよ、そんなことしないから安心して。」
安心したように頬を緩め、静かに階段を降りていく。
子供らしくないとこもある子だけど…悪い子じゃない。賢くて、家族想いの善良な少女だ。
…でも、今回の罪に対する処置によってはあの子の心に、治ることない深い傷が残るかもしれない。
「…もしかしたら、これが別れになるかもしれないですけど…」
「大丈夫です。…私は既に、あの子と、その周りの子供達と深く関わってはいけない、罪人になってしまいました。」
「それに…ノーンは賢い子です。さっきのアレが別れなのかもしれない事くらい、何となく分かっているはずです。
…あの子が…あの子がこれ以上を求めていないのに…っ…」
淡々と言葉を連ねていたシスターは、段々と感情が高ぶるように口が回っていく。
目の端に涙を浮かべ、ノーンを目の前にして、押し込めていた言葉が溢れるように出てくる。
「どうして私が…!どうして私の方から…あの子との別れに、納得を求めようとできるのか…!!」
手をギュッと握りしめてそう話す。
私の顔を見て、はっとしたように目を見開き、服の袖で涙を拭う。
「ご、ごめんさい!カトゥーラさんは悪くないのに…」
「いえ、こちらこそ申し訳ないです。私も…少し踏み込みすぎました…それでは行きましょうか。」
「あ、はい!…それ暑くないんですか?」
「むしろ涼しいですよ、魔法の力で自動で調節されます。」
フードを深く被る。外に出るともう夕暮れになっていた。確か議会は昼前頃に開かれたはずだし…思ったより時間が経っているのかもしれない。
入口がある小屋から出ると、外にはネベルクと付き人、そしてシスターヒューラがいた。
「…シスター…」
「…バカなことをしたね…」
シスターは大きくため息をつく。ベルナさんはビクッと肩を震わせてまた下を向く。
シスターが何かを続けようとするのを制止するように、ネベルクが一歩前に出てきて、ベルナさんを真っ直ぐ見つめる。
「…お前のような子供を議会に引き入れたのは、我々の失敗だった。」
「…」
「今回お前が起こした事件は…未遂とはいえ、話し合いの場である議会を侮辱し、人命を奪う、許されざることだ。…その命一つでは足りない程の大罪だ。」
「…。」
顔を青ざめて怯えていたベルナさんの顔から、諦観の感じがでてくる。
「…本来ならな。」
「……?」
ネベルクは付き人の方を向いて何か合図のような事をする。
「…我々とて、子供の癇癪一つで若い命を敢えて奪うほど余裕が無いわけではない。
…いま横にいる魔女娘に感謝をしておけ、議会はお前を追放処分で済ますことにした。」
付き人の一人、ビッテが肩幅くらいある大きめのチェストを抱えてくる。
「…教会からの餞別です。一頭の馬と小さな荷車を渡します。」
…やったことを考えれば、本来あり得ないほどの処遇だ。けど…それでも、ベルナさんを慕っている子供たちには酷な経験になるんだろう。
「あなたに必要な荷物はそれに詰めてあるから…子供たちとの別れを…」
憐れみに満ちたシスターの目を、ベルナさんは真っ直ぐと、強く見つめ返す。
「…大丈夫です…私はもう、あの子達に会うべきではないと思――
――突然、仕掛けていた南側の糸が魔物を検知した。
「…ッ!?今すぐ避難の合図をしてください!魔物が来ました!!」
それだけじゃない…全方向から犬と…犬と…?
犬に便乗するように、何か別の存在も来てる…!?
「よりによって今か…!ビッテ!」
「はっ!」
ビッテは議会の方に走り出す。ネベルクはもう1人の付き人と共に追いかける。
「ベルナ!子供たちを地下に避難させます!」
「え、でも」
「口答えしない!早く地下の扉を開けなさい!」
「ぅ…わかった!」
二人とも、年齢に似合わないほど素早く対応していく。
――集中して、術式を構築していく。
天に白磁の杖を向け、一つ、二つと幾何学模様を天に描く。魔力の奔流で、物理的に周囲が圧迫されるように風が吹く。
空間の色が変わる。
四つの青の幾何学模様が杖の先に重なって空想的な光景が顕現する。
――目を開き魔法を唱える。
「……ヴァサー・ヴェガング」
小屋ほどの大きさがある水球が創り出されて、幾何学模様の術式がその水球に溶け出す。
そこから程の水の板が、風を切りながらバラバラの方向に飛んでいく。
「…糸で…マーキング…された…やつらから…」
全方位に気を配りながら、最初に糸を突っ切りながら突撃してきた魔物達を圧殺する。
―…21匹、といったところだろうか。
一匹一匹にマニュアルで水盾を操作する余裕は、ない。
「…先生が見たら怒るんだろうなぁ…」
乱暴なやり方だけど、マーキングされた魔物の周囲に、20-30ほどの盾を飛ばして周囲の物もろとも押し潰す…!
「…ゥーラ……!」
先鋒を無力化しても、その後は探知できていない魔物たちの位置をどうにか把握して…
「…ゥーラ…さん!」
全員が避難を完了すれば攻撃魔法を乱射すれば…
「最大でも…十分後には開始しないと…」
「カトゥーラさん!聞いてますか!?」
「…え?」
気が付いたら目の前にベルナさんがいた。
ふと辺りに気を配ってみると、各方向から大きな地響きと轟音が鳴り響いている。
ベルナさんは困ったように私を見つめてくる。
「え、え?な、なんですか!?」
「い、いや…あのぉ…」
ここに来て子供のように言葉を濁してくる。そんな状況じゃな…
「私も役に立てないかな…って…」
投稿遅れすぎてごめんなさい!
(追記)またタイトル間違えてましたすいません。




