こども
どうしようかなこの子…
「あのぉ…カトゥーラさん…」
「あっはい、なんでしょう?」
振り向くと、ベルナさんがノーンを抱きかかえながら心配げにしている。
「その…この子は、どうなるんですか?」
「どう…と言われましても…別に何かする気もないですよ。」
「…よかった!ありがとうございます…!」
「ぅへへぇ…」
ベルナさんは安堵したようにノーンを撫でる。ノーンは相変わらず、嬉しそうにニヘラと笑って彼女に寄りかかっている。
「まぁ…それはそれとして」
「…!な、なんですか…?」
「ぶへっ!」
ベルナさんはノーンを強く抱き寄せて、警戒するようにこちらを向く。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ…その子をどんな風に返すか聞きたいんです。」
「あぁ、そうですねぇ…でもシスターが迎えに来た時に突き出していいと思いま――「や!や!」
こ、こら!暴れないの!」
「…いえ、恐らくシスターは来ないと思います。合図したらあなたを連れてきてほしいとだけ言われいるので。」
ノーンが大きくない部屋を走り回り、ベルナさんはそれを追いかけてベットから飛び出る。この年でもシスターに突き出されるのは嫌らしい。
ベルナさんは…もうそこまで警戒しなくていい気がする。嫌な考えだけど、ノーンがここにいる以上、子供を大事にするベルナさんが何かすることはないと思うし。
考え込んでいると、ベルナさんはノーンをとっ捕まえてベットに押さえつけられてた。器用にも、じたばた暴れるノーンを抑えながら真剣な顔でこっちに向き直る。
「はなして!!や!!」
「そこで反省してて!…で、カトゥーラさん…そういうことなら…私としては、何も言わずこの子を教会に返してほしいです。」
深々と頭を下げてくる。
「お願いします…!出来る限り、少しでも、私の愚行に、この子を関係させたくないんです…!」
「まぁ…私としては別に問題ないですよ。特にその子を反省させたいというわけではないので…」
少しばかり絵面がシュールだけど、ベルナさんを差し置いてノーンの扱い口を出す気は毛頭ない。
「ありがとうございます…!!」
「はなして!!」
「取りえず放してあげてください…」
いい加減ノーンがかわいそうになってきた…
「あっはい…ノーン、暴れないのよ。」
「わかった!!まじょさんありがとう!!」
ベルナさんから解き放たれたノーンは、ようやく落ち着いた様子であたりを見渡し始める。
そうして、自分の周りにある糸を見て不思議そうに首をひねる。
「んん?…あっ!そうだ!べるねえなにしたの!?」
「それは…」
「おはなしでわるいことしたの?まえもそれで…どうしたの、べるねえ…?」
ベルナさんは顔を曇らせ、それを見たノーンは途端に不安そうな顔をする。
そうか…最初ごたごたしてたけど、ノーンは好奇心だけで突撃してきたんだ。当然だけど、やったことは決して褒められることではないとはいえ、『べるねえ』と呼び慕ってくれる純粋な子供に話すのは相当躊躇いがあるだろう…
二人の沈黙が続いている中、ノーンがふと思いついたように、ベットの端に落ちている糸を手に取り、あたりに張り巡らされているヴァファーデンを見て私のほうを向く。
「…これ、まじょさんの…?」
「…」
つい、黙り込んでしまう。子供だってバカじゃない。
さっき自分に使われたように、その糸が人を縛るものであることくらい理解出来るだろうし、使われた相手と友好的でないことくらい、何となく察するだろう。
「なんで…?だって…だってべるねぇは―「ノ、ノーン!」
横でベルナさんが大声で制止する。
ビクッと驚き、ノーンは私とベルナさんを交互に、不安そうに見る。
「だ、大丈夫だから…私は大丈夫だから…」
言い聞かせるように、ベルナさんはノーンを落ち着かせようとしてる。しかし、その視線は空を切っている。
「だいじょうぶ…だからぁ…!…っ……ぅぅぅ…ッ!」
ベルナさんの目から涙が溢れてくる。ベットに手を付き、ノーンの前で項垂れる。
ノーンは視線を右往左往し、心配するようにベルナさんを手でさする。
少しして俯き、何か覚悟したようにトボトボと私のほうに歩いてきた。
目の前に来て私を見上げるノーンは、子供ながらに知性を感じる面持ちをしている。
「…まじょさんは、なんでここにいるの?」
「…それは」
「ねえさまはなにをしたの…?なんで…ねえさまにあれを、まきつけたの…?」
教える、べきなのかな…
ベルナさんはもう話をできる状況ではないとはいえ…
「…もう!なんでなの!!」
私のローブを引っ張り、ノーンが癇癪を起こし始めた。
…仕方ない、ここで何も伝えられない方がこの子は傷付くと思う。程度を考えて、少し抽象的に伝えれば問題ないだろう。
「落ち着いて…教えるから。」
「…うん…」
軽く手を掴みローブから手を離させる。
「…あなたのベルナ姉さんは…少し前に、大人の話し合いで、あなたと…あなたの他の友達の為に怒っちゃって、大暴れしちゃったの。
暴れすぎちゃったから…忙しいシスターの変わりに、私がお話し相手を頼まれたの…。」
…ノーンは納得しきれないような顔で私を見ている。
何か言いたいようだけど、我慢しているのか、口をパクパクさせている。
フードを外して膝を付き、ノーンに視線を合わせる。
始めて私の顔を直視したノーンは、ビクッとして硬直する。
ベルナさんがやっていたように、優しく頭に手を置く。
…出来る限り微笑みを浮かべて、落ち着かせるように声を柔らかくてするように心掛けて声を掛ける。
「…だから今は、泣いちゃってる貴方のお姉さんを慰めてあげて。大丈夫だから。」
「…ぅ…うん…!」
まだもやもやしてそうだけど、それでも納得はできたのかベルナさんの元へ向かう。
顔を手のひらで抑えて涙を流しているベルナさんの横に、ゆっくり向かう。
「…っ…うぅぅ…なんで…なんでぇ…!」
「べるねぇ!」
「…ノ…ノーン…?…あっ…ご、ごめ…っ…わ、わたし…」
ノーンは泣いているベルナさんの背中から抱きついてから声を掛ける。
「わた、わたし…!も、もぅ…っ…!み、みんなにぃ…うっうぅ…」
「ねえさま…おちついて…」
涙を拭い、ノーンのほうを振り向こうとして、また俯き目の前の子供より子供らしく泣く。ノーンは背中から、ただ抱きついて声をかけ続ける。
その声を聞いて、さらに自分を責めるように声を震わせる。
「…家族愛、てやつなのかな…」
つい、そう呟く。
ノーンは賢い子だ。彼女が、姉が何をして、私がなんなのか知りたいはずだけど、我慢して家族を助けたいと思ってるんだろう。
――カーン、カーン
軽快な鐘の音が鳴った。その音が少しずつ吸収されて、部屋の中で小さく響く。
昨日は一度も聞かなかった音だ。多分、合図とはこれのことだろう。
「ノーン、ごめんね…ベルナさん。」
「…ぅ…うん…!わ、わかってます…ノーン、ありがと…!」
「…ねえさま…んわっ!」
少しは落ち着いたようで、起き上がってから返事をする。まだ心配そうにしている妹のような子供を抱き返して、私の方に歩いてきた。
覚悟を決めたように私と目を合わせる。ここでようやくフードを外したことに気付いたのか、少し面を食らったような顔をする。
「…あれ…もしかして、思ったより年が近かったりします…?」
「…私の雰囲気って、そんな年増な感じします?」
すこし口角を上げて、始めて笑い合う。思えば始めて目を見て話した気がする。




