大人と子ども
…ほぼ全員が議会を離れ、ネベルクと私、ヒューラ議員、そしてベルナさんのみが円卓に座っている。
杖はまだベルナに向けいるけど、彼女は気を失ったようだ。
「お、おい!俺達はまだ降りられないのか!?」
最初にヤジを飛ばした男が天井からそう叫ぶ。
…ネベルクとヒューラさんがその男を睨みつける。まぁ大概アイツのせいだし仕方がない。
「この炎止めてる糸と、貴方達を引っ張っている糸が繋がってるから無理でーす!」
それっぽ理屈を立ててみた。別に出来るけど吊るしておいてやろう、反省しろにゃ。
ネベルクは火を見て顔をしかめる。
「…カトゥーラくん、この火は消せんのかね?」
難しい話だ。ベルナさんは、魔法を使い慣れてる気配はしないとは言え、死力を尽くして作り出したものだ。秘めているエネルギーは、うまく使えばこの議会を吹っ飛ばすほど高い。
「まだ無理です。…無理やり消すなら空の上で大爆発させることになりますが…」
「まだ、と言うなら後で安全に消す術があると考えてもいいのかね?」
「はい、夜頃になれば可能です。」
「…タネンの代表として感謝する、カトゥーラくん。」
ネベルクは、少し悲しそうにベルナ方を振り返る。
ヒューラさんは倒れたベルナを介抱しているけど、その顔にはネベルクと同じく、憐れみのような、悲しみのような顔を浮かべている。
「…ヒューラ、言い訳の余地はない。その女はこれから法に則り罰を受けてもらう。」
「………はい。しかし、拘束は教会の方で行わせていただきます。」
ネベルクは難しい顔をするけど、納得をしたようだ。
ネベルクは議会を発つ。ヒューラさんはベルナを椅子に座らせ、こっちに近づいてくる。
「カトゥーラさん、すこし。」
「なんでしょう?」
「彼女の監視をお願いしたいの…小さな頃から、この子のことは見てきたのだけれど…もう何をしでかすか分からなくなってるのよ…子供に被害が出るようなことは、この子も、もちろん私も望んでいない。」
苦虫を噛み潰したような顔で私に頼み込んでくる。
多分…それこそノーンのように育てて来た人だったんだと直感する。
「別に構いませんが…場所はどこですか?」
「…感謝を。」
議会を出て、ベルナさんを抱えながら無言でヒューラに付いていく。
教会の近くに着くと、先ほどノーンを引っ張って行った男の子が教会の入り口近くで待機していた。
ヒーュラを見ると、パッと顔を上げて駆け寄ってきた。
「シス……え?」
そして、肩にベルナさんを抱えた私を見て顔を曇らせ足を止める。どう説明したものかと思い、ヒューラさんに視線を向けると、バッと手のひらをこちらに向けてけくる。
…何も言うな、ということだろう。
ヒューラさんはその男の子の近くに行き、少し強く、言いつけるように話しかける。
「キント、一つ頼みがあります。他の子達が出ないようにしてください。」
「え…でも…でもベル姉が!」
「キント!」
キント…と呼ばれた少年は、その声を聞いて顔をさらに曇らせる。俯き、涙を滲ませながら、少年なりに、必死に色々考えてるようだ。
……
「…わかり、ました…」
それだけ言って教会に入って行く。それでもチラチラと、私に担がれて、声一つ出さないベルナさんを気にしている。
…ドアが静かに閉められ、ヒューラさんは悲しそうにキントを見守っている。
「あの…いいんですか?」
ヒューラさんは、頬を緩ませて扉の方を向く。 ここにきて久しぶりに見た表情だ。
「大丈夫ですよ。あの子は、強い子です。」
教会の隣、部屋一つ分くらいしかない正四角形の石積みの建物に入る。中には明かりもなく、ただ地面に鉄板と、それを引くためであろう鉄鎖がある。
「教会の地下には、現在では子供のお仕置きに使われてる部屋があります。元は犯罪者を閉じ込める部屋だったので、耐久性は問題ないかと。」
そう言いながら鉄板の隣にある巻き取り機に鉄鎖をくくりつける。
ヒューラさんは慣れた手つきでくくりつけ、回そうとするけど、カチャッとなるだけで一切回らない。
そんな自分に驚いたのか、手を離して自分の手を見て、深く、目を閉じる。
「…やはり、年には勝てませんね。」
ため息混じりにそう呟き、私の方を振り向いてくる。
要件はわかる。
「大丈夫ですよ。」
そう言って、気絶しているベルナさんをヒューラさんに預け、その巻き取り機の取手をつかみ、思い切って回してみる。
ギ…ギギ…
少しずつ鉄板が持ち上がるけど、未だに反対側が見えない。もう少し持ち上げてからよく見ると、その鉄板は手のひらくらいの厚さがある。
…子供のお仕置き部屋にはオーバースペックすぎるだろう。獣人で、その上で魔法ですこしバフを掛けてる私なら割と余裕を持って回せるけど、普通の人間は間違いなく無理だと思う。
年の問題じゃないと思うにゃ…
1分ほど回して、ようやく鉄板が反対側に倒れ込む。というか鉄板を掴んで持ち上げた方が早かったかな…
まぁとにかく、こんだけ頑丈な扉なら逃げることはないだろう。
「ふぅ…」
案外疲れた。そこまで力を込めてないけど、こんだけ持続的に筋肉を使えば負荷になるみたいだ。汗もかいたし、少し暑い。
ふと、頭を覆っていたフードを外す。
カトゥーラの自慢の深紅の髪がパッと広がり、その中からひょこっと3角の耳が見える。
それを見たヒューラは少し驚いたような顔をする。
「あら…思ったより若々しいのね。」
そんな若作りしるみたいな…
「…若いんですよ。」
鉄板…扉の先には、教会の方に階段が続いている。階段は土に木枠をつけただけの簡単なものだけど、階段の天井は、綺麗に彫られた石で作られている。もしかしたら老朽化とか…何かで階段の方だけ作り直したのかもしれない。
「ベルナが目を覚ましたらこの紙を…私からの伝言です。
…数時間後、この子に対する判決がでたら合図をします。」
「わかりました…では。」
「一応聞くけど、貴方ならばこの扉を内側から開けることは可能と考えてもいいのよね?」
「そう考えてもらって大丈夫です。」
ガンッ!と大きな音を立てて扉が閉められる。その轟音が壁に吸い取られるように静まり、すぐ無音の空間に戻った。
魔石を付けて、ベルナさんを落とさないよう慎重に階段を降り行く。
1分半ほど降りると明かりのついた、石造りの部屋に来た。ベットが四隅に設置されただけの牢獄…のような印象だ。本棚にいくつか子供向けの本と聖書があるけど、完全に埃をかぶってる。
ベルナさんをベットに寝かせ、反対のベットに腰かける。ベットは最近掃除されたかのように綺麗なままだ、もしかしたら誰か仕置きされたのかもしれないし、いつお仕置きしてもいいように掃除してるのかもしれない。
ベルナさんの方から、布が擦れる音が聞こえた。杖を向け、ヴァファーデンとヴァサーシュライクを展開する。
水色の、透き通った糸がベット周囲の床を這い、数個の、青色に透けた小さな玉がほつほつ、とベルナさんの辺りに作り出される。
「んっ…あれ?ここは…」
呆けた顔で辺りを見たベルナさんは、私と杖を見て顔を強張らせる。
「こんにちは…というか初めましてですね。…多分お察しのとおりです、賢明な判断をしてください。」
「…そう、ですか…」




