タネン村議会
村人たちに混乱が訪れている。
「落ち着け!ひとまず大丈夫だ!」
コンスさんと数人が呼びかけて落ち着かせようとしてるけど、それでも混乱は収まらない。
議会の外からも、子どもを連れた母親とおぼしき人達も見えてきた。
その中に、存在感の強い人が見えた。
二人の付き人らしき人を連れ、杖をつきながらこちらに来ている。ツルツルとした高級そうな緑のローブを纏っている男性だ。
コンスと数人の男性が慌ててその老人に近づいていく。
「村長!?こんな夜中に――
「今はそんな心配をする場合じゃなかろう!下がっておれ!」
老人とは思えないほど覇気のある声で彼らと、ざわついていた群衆を退かす。そのまま私の前に付き人ともに到着する。
「儂はタネン村村長、ネベルクじゃ。お前さんの名を聞きたい。」
「名前はカトゥーラ、旅の宿を求めてここに寄った旅人です。」
村長は「そうか…」と、少し考える動作をして後ろを振り返る。
「皆傾注!これより議会を招集する!関係のないものは即刻帰宅せよ!」
老体であることを考えると心配になるほど大きな声で村民たちにそう告げる。村人はまだ不安気な表情を浮かべているけど、それでも村長の命令通り帰宅するものと議会に入るものに別かれて行動を始める。
私を振り返ってから
「カトゥーラくん、申し訳ないが私と、他の人間たちに説明をしてほしい。」
それだけ言って議会に入っていく。
多少強引だけど状況が状況だ、やってることは理解できる。
ネベルクについて行って議会に入る。
コンスさんをはじめ十数人が円卓に座り、周りを囲うように置いてある椅子には数十人の観衆らしき人がいる。
ネベルクが一番奥、一段高く設置されている椅子に腰掛ける。
「カトゥーラ殿、こちらに」
付き人の一人が、円卓の椅子に誘導してくる。
「これですべてか…これより臨時議会を開く!」
私が座ったのを見ると、ネベルクは大きく咳払いをしてそう告げる。円卓に座る人達が、一斉に姿勢を正す。
「カトゥーラくん、まずは何が起きたか話してくれ。」
私に視線が集まる。
「はい…単刀直入に話すと、先ほど犬型の魔物による襲撃未遂が起きました。先の破裂音は、それを撃退する際に発生したものです。」
(未遂…?)(そもそもこいつは何処の誰だ…?)
小さな話し声が聞こえてくる。すでに手遅れだけど、自己紹介くらいすべきだったのかもしれない。
その中の一人、体格の良い農夫が手を挙げる。
「発言を許可する。」
ネベルクが許可を出し、その男性は立ち上がる。
「テサロンだ。カトゥーラ殿、2つほど伺いたい事がある。まず、貴殿の身分を明かしてくれ。」
「カトゥーラ…ノルド。訳あって旅に出ており、今は偶然ここに寄っただけの旅人です。」
…ノルドの名を聞いた瞬間、全員の視線が険しくなる。群衆の方からは立ち上がるような音も聞こえる。
それもそうだ。この村で、コンラート様の印象は最悪だろう。
「…次にもう1点、襲撃を未遂と発言したのは何故か、教えて欲しい。」
明らかに声が硬くなっている。
「魔物の先遣隊らしき者たちは、タネン村入口に置いてあった私の馬車に貼ってある結界に触れ、結界の効果により私は先遣隊を拘束し、すぐさま殺傷しました。
しかし、森を探査した結果私が魔法を使うまではこの村を囲うように三十数匹分の痕跡が見つかりました。」
ざわめきが広がる…先ほどまでこちらを鋭い目で見ていた議員も、目の色を変えて近くの人間と話し合いを始めている。
「…回答感謝する、カトゥーラ・ノルド殿。」
テサロンはそう言って椅子に座る。ネベルクは難しい顔をして、下を向く。
するとその中の一人、円卓に座る聖職者のような老齢の女性が手を挙げる。
「…発言を許可する。」
「…私の名前はヒューラ、カトゥーラ殿、ひとまず魔物の撃退感謝する。そして一つ問いたい、貴殿がいない状態で、次その魔物たちが来た場合の被害はどの程度になる?」
「…全滅、するでしょう。」
見たところ冒険者もいないようだし、抵抗は不可能に思われる。
「…回答感謝する…議員の皆様、聞いての通りこの村はすでに安心できる場ではなくなったことがおわかりでしょう?つまり我々は、例の件について結論を急ぐ必要がある、と考えます。」
…?何のことだろう?
議員達は深刻そうに下を見たり、周囲の人間と意見交換をしている。
少し首をひねっていると、横にいるネベルクの付き人の一人が声を掛けてくる。
「今現在、タネン村は若い男が全滅しております。…えぇ、文字通り。議会では少し前から集団移住を計画していました。死んだ男たちの、妻や子供は残っているのです。」
そう言って一枚の紙を差し出してくる。
『東方への移住について』
これは…コンラート様が現在行っている、移住キャンペーンの書簡だ。本来東方は大農地が広がる土地だったけど、例の撃退戦で農夫がひたすら足りないのだ。それを補うため、大赤字覚悟で補助をしている…らしい。
「なる…ほど。」
…個人的には、これに乗っかるべきだと断言できる。次あの犬達が襲ってきたら、この村は無残に滅ぶだろう。小さな子供だけは残っているのだ、彼ら彼女らが死ぬのはさすがに可哀想だ。
そんなことを考えている間に、議会は紛糾していた。どうやらテサロンは自分の派閥のようなものを持っていて、ヒューラの批判をしている。
「その件は慎重に議論すべきだ!魔物の襲撃などという案件で結論を急ぐことはできん!」
「そもそもノルドの使いが出した推測なんて当てになら――
「それを言うなら貴方達は――
「…そこまでだ!明日、その件についての議決を取る。解散!」
ネベルクが強い口調でそういう。議員達は不服そうだけど、命令に従い次々と議会を去る。
…取り敢えず寝よう。そう思い、ベットの置いてある部屋へ向かう。




