ようこそタネン
コンラート様たちが去って行ってから一晩立った。まだ夜が明けていない中、私は馬車に荷物を詰め込む。
部屋にある見慣れたチェストに、魔石と着替え、保存食に書物を入れて、馬車に乗せる。
魔石は色々あるけど、その中でも必須な光源の魔石を出来る限り持って行く。魔石は消耗品なのだ。
「えーっとあとは…」
あとは…馬車を補修するための板とか…そのくらいかな?変に載せすぎても邪魔になるし。
水を詰め込まなくていいのはほんとに楽だ。私の魔法は水の性質を持っているから、そこら辺の水を完璧にろ過できる。
次の問題は何処に行くかだ。
「少なくとも東以外にゃねぇ…あそこまだ魔物が溢れてるらしいし…」
私が旅に出る原因となった魔物の影響はまだ残っている。街から出て自由に歩き回るには危険な土地だ。そもそも今は廃虚しかないし。
地図を開いて行き先を決める。西南の帝都もいいけど…
「ルガ…」
ここのちょうど北方にある、帝都の次に栄えている港湾の大都市ルガ。ルガから帝都に行くことは可能だし、それ以外の都市に行くならルガの港を通ったほうが早かったりする。
「決めた、ここに行こう!」
早速地図を開いてルートを確認する。
ここから森を抜けて…真っ直ぐだ。
さすがにつまらないし、途中で積極的に寄り道することにしよう。
方位は魔術で分かるし、途中で迷っても最悪魔法でルガまでぶっ飛べば良いんだ。
手のひらくらいの大きさの魔法の杖を持って、馬車に乗り込む。
屋敷を眺めながら、ずんずん離れていく。
大きな屋敷だ、3人…いや使用人さん入れたら4-5人なのかな?どっちにしても勿体ないほど大きな屋敷だった。初めて来た時、ここであのカブのスープを飲んで、感動したのを覚えてる。
もう振り向かないことにした。
この屋敷に来るまではもう具体的に思い出せないし、大したものでもなかったと思う。私、カトゥーラはこの屋敷から始まったんだ。
「…さようなら。」
そんなことを考えていると、森に入った。屋敷に別れを告げ、旅が始まった。
森の中には馬車がすれ違えるほど整備された道がある。この後ろにある街、イースはこのあたりでは栄えてる街で、ルガとイースの通商は割と多いらしい。
屋敷が見えなくなってしばらく経った。たまに馬車とすれ違うけど、横切るだけで特に何もない。
「…まぁ何かあっても困るけど、暇だにゃ…」
暇だ。この間に魔術の訓練でもすることにした。
杖の先に、もう手癖で出来るほど慣れてきた魔法陣を構築する。
「…ヴァファーデン」
一番得意な魔法だ。柔らかい、水で出来た指先ほどの縄と言っても差し支えないほどの糸が、杖の先から何十、何百万と細かく分かれて周りに広がる。
糸は私に世界の情報を伝えてくる。継続的に範囲を広げすぎると脳が焼き切れるけど、馬車を覆う程度なら問題ない。
この魔法は便利だ。一瞬なら今以上に広げて街一つを索敵できるし、広げた糸は一瞬で壁を編むこともできる。
魔法を展開しながら保存食をチェストから取り出す。中には黒パンが入ってて、それを熱湯にいろいろ突っ込んだだけのスープにつけて食べる。
手慣れた、もはや基礎訓練ともいえる魔法を行使して暇をつぶしているとすこし、ふと看板が目に入った。整備された道から、すこし小さな分かれ道があり、看板の中の矢印はその方向を指している。
「ん…この先タネン…?」
一時停止して地図を見てみる。
注意深く見てみると、本当に小さくタネンと記載してあった。
気づくとあたりも薄暗いし、予定では少し先にある開けた場所で野宿する予定だった。宿があるかは知らないけど、空き家の一つくらいはあるだろう。
小さな道を進んでいくと、畑とそれを囲う木柵が見えてきた。
しかし、畑はすこし管理が杜撰なのか、遠方は完全に放置されているようだ。その側に家がぼちぼち建っていて、規模的に300人いるかいないか程度だと思う。思ったより規模の大きい村だ、もしかしたら宿屋もあるかもしれない。
馬車を入り口付近に停止して、誰かが馬車に触らないように糸で結界を張る。修行で使ったものを流用しただけだけど、下手な魔物なら一切触れないくらいは強力だ。
畑を抜けて住宅街(?)に入る。家から明かりは見えるけど、外を出歩いている人はいないみたいだ。
「さて…どうするかな…」
人がいないなら宿屋とか空き家について聞きようがない。
そう思いながら歩いていると、ひときわ大きな建物から数十人の気配を感じる。
近づいてみてみると、その建物から初老の男性が出てくる、第一村人発見というやつだ。
「すいませーん!ちょっといいですかー?」
「ん…?あぁ大丈夫ですよ」
男性は少し面を食らった顔をして返事をする。話ができる距離まで近づいてから話を続ける。
「すいません、ありがとうございます。
宿を探してここに寄ったんですが、人がいなくて…」
「旅の方でしたか…いやすいませんね、いま門番を任せれるような人手がたりないもので…外で話すのもあれですし、こちらへどうぞ」
「あぁどうも、おじゃまします。」
そう言って建物に手招きしてくる男についていき、私はその扉をくぐる。
どうやらこの村は思ったより大きな村のようだ。その建物…評議会は、入ってすぐ大きな円卓があり、周りには椅子が大量においてある。
ぼちぼち人間が椅子に座っているけど、全員老齢の人たちだ。
「ここに座ってくれ」
「どうもありがとうございます。」
勧められた通り近くの椅子に座ると、その男性は2-3個前の椅子に座ってこちらを見てくる。
「私はコンス、タネン村の市民としてこの議会の委員を務めています。」
「カトゥーラです、どうも」
挨拶と会釈を返す。
議会の委員…地主議会だろうか?もしかしたらタネンはもう少し広範囲の名称なのかもしれない。
「カトゥーラさん、旅の宿というのならここはいかがですか?ベットとシーツの備品が向こうに置いてあるので、後で片付けてもらえるのなら好きに出してもらって構いません。」
コンスさんは議会の奥を指してそういう。
「それはありがたいですが…珍しいですね、ベットが常備されてるんですか?」
「いろいろありまして、最近大量の家を解体することになりましてな…捨てるのがもったいない物は議会の奥に取っておくことにしたのです。」
大量の家を解体…何かあったのだろうか?
そういえば畑も管理が行き届いていなかったし、人が大量に減る、何かがあったのかもしれない。例えば…
「例の怪物との戦いのために、ノルド伯がうちから若手をかき集めましてな…」
徴兵だ。




