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第9話~新しい日に!~


 「それにしても……紅君」

 「なんですか?」


 恰幅のよい中年男性、大月夜がポニーテールの少女成瀬紅に尋ねる。

 

 「君は一体……今までどうやって生きて来たのかね?」

 「……?」

 「いや、簡単な話だよ。少しだけ、君の言葉の端々に普通の子供とは違う雰囲気を感じたからね。訪ねてみただけだよ」


 紅はもしかして自分は変に思われてるんじゃないだろうか、と思ったが、実際にはそんなことは全くない。ここ軒並荘の住人は大なり小なりの理由で一般とは離れているので、他人をどうこう思うような人間は少ない。……紅の父親である大滝流はその例外ではあるが。


 「……私はなんにもしていません。お母さんについていただけで……」

 「そうかね。……ではお母さんは何をしていたのかわかるかい?」

 「……………いえ」


 短く、紅は答えた。


 「……てかさ、夜さん。そんな尋問みたいなことする意味あんの?」

   

 大星圭吾は大月に咎めるような視線を向けた。紅は今ようやく自分の居場所を手に入れたところなのだ、ともかく今は安心させてやりたいと思う、彼の優しさからの言葉だった。


 「そ、そ、そうですよ……夜さんらしく、ない、です……」


 普段自己主張をしない小河蛍さえも、珍しく他人を責めるように言う。


 「……たしかに、少し意地が悪かったか。ごめんね、紅君」

 「いえ、大丈夫……です」

 「敬語なんてガキが使うなよ。……ったく。ガキはガキらしくしてろ」

 「え……」


 紅は圭吾が言った言葉がにわかに信じられなかった。

 

 「何疑問に思ってんだよ。お前はまだ十歳のガキだろうが。もっとガキらしくしてろ、ってんだ!」

 「……はい、……うん」

 「そうだ。それでいい」


 もしかしたらこの人、口は悪いけどすごくいい人なんじゃないだろうか……。


 「……そ、そそそそそう、だよ……?……多分、そう……だと、思う……?」

 「ああ、もう!いちいちどもるな疑問形にするな!うっとうしい!」

 「…………は、はい……」


 蛍に強くあたる圭吾を見て、あ、やっぱり違うや。と思いなおす紅であった。


 「……学校のことは私にまかせといてね、紅ちゃん」

 「うん、ありがと」


 管理人さんはやっぱり優しいな。と、改めて紅は思った。


 「……」


 紅は一度、周りを見渡すように視線を一周させて、深呼吸をする。今ここに居ることが嘘ではない、夢ではないと自分に言い聞かすかのように。


 「……みなさん、私なんかを受け入れてくれて、どうもありがとうございます」

 

 今、彼女は幸せだった。


 父親である大滝流。理想通りの父親と言うわけではないけれど、それでも十分尊敬できた。

 

このアパートの管理人さん。彼女の優しさで、紅は大いに救われた。もし気遣ってもらえなければ、今ここに紅はいないだろう。


 大月夜。その名の通り全てを優しく包み込む夜のような懐の大きさで、紅の存在を認めてくれた。


 大星圭吾。口は悪いけれど、他の住人と同じように、紅のことを気遣ってくれる。

 

 小河蛍。おっかなびっくり、ほとんど自己主張をすることはないけれど、それでも確かに紅には尊敬するべき人間の一人だった。


 ……堂野好助。今後の一番の心配事は彼だけれど……。本気で排除しようと紅は思わなかった。なぜなら彼だって紅のことを一度は守ろうとしてくれて、身を案じてくれたのだ。尊敬、信頼はできないけれど、恩は感じている。


 いろんな住人達。その全ての顔ぶれに、紅は親しくなれる気がしていたし、親しくなろうと努力するつもりだった。


 「……私、今日から軒並荘に住むことになりました、成瀬紅です。これからどうか、よろしくお願いします」


 ぺこりと、一礼。


 みんなが微笑み、その笑みで自分はここに居ていいのだと、改めて紅は実感した。



 











  やがて日は沈み、夜になり、皆が眠りにつき、そして……新しい朝が始まる。

 

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