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第8話~相談!~

 

 「……あ、急がなきゃ遅刻だ!」

 

 まるで痛々しい視線から逃げるように、今まさに子供の養育能力がないと軒並荘の全員からダメだしされた彼は、大慌てで自室に戻った。


 「……ったく」

 

 吐き捨てるように圭吾は言ったが、その表情に敵意はなかった。いつものことなのだろう。


 「……お父さん……」


 自分を養ってくれるのがお父さんではないと知って、少しだけ残念そうに紅はしているが、つぶやきの理由はそんなものではなく。


 「……今までどうしてきたんだろ?」


 純粋な疑問だった。


 「あいつ俺らから金借りまくってんだよ。いいか、紅。絶対にあいつに物ねだるんじゃねえぞ、百円のものでも破産しかねねえからな」

 「……うう、大丈夫かな、お父さん……」


 少々大げさに圭吾は言ったが、紅はまるで疑うことなく彼の言葉を信じている。


 「まあ、大丈夫よ。紅ちゃんに関しては私たちも面倒見てあげるから、ね?」

 

 優しい口調で管理人さんが言った。

 


 「……ありがとうございます」


 心底申し訳なさそうに、紅は言った。子供らしいと言えば子供らしいのかもしれない。


 

 いったん会話は途切れ、リビングは静寂に包まれる。 


 「……ふむ、管理人さん」

 「なんですか?」


 大月がふと気付いたように管理人さんに話しかける。


 「この子の学校、どうする?」

 「……そうですね、……」


 管理人さんは指を顎にあて、何やらしばらく思案する。

 紅はと言うと、学校?という感じで首をかしげていた。


 「おい、まさかとは思うが学校を知らねえ、ってわけねえよな?」

 「あ、はい。お母さんが行っていたところですよね。……でも、私が行くんですか?」

 「何疑問に思ってやがる。ここは日本で、学校に行ってねえガキなんていねえんだよ」

 「……圭吾さんは?」

 

 そう紅が訊くと、しまったというように圭吾は顔をそらし、そっけなく答えた。

 「俺は別だよ!学校になんざ行かなくても十分なんだよ!」


 ますますわからない、と言うような顔を紅はしたが、その疑問を彼女が口に出すことはなかった。


 「そうですね、私がなんとかします。近くに校長先生に顔の利く学校がいくつかありますから、多分大丈夫でしょう」

 「ありがとうございます!」


 紅はとんでもないことを言いだした管理人さんに疑問を持つことすらなく、お礼を言った。


 「いや、少し待とうか。……君が言うその方法は、法には触れないのかね?」

 「……?」

 「いや、紅。なんでてめえはそこで首をかしげるんだよ」

 「だって、この世界は知恵と人脈と力が全てでしょう?」

 「んなわけあるか」

 「だって、お母さんがそう言ってたし、それに、私もそう思ったもん」

 「一度紅の母親と一対一で話がしてぇな……?」


 一体娘になんて教育をしているんだ、とここの全員が思った。


 「……と、とにかく、大丈夫なのかね?」

 「はい、大丈夫です」

 

 断言する管理人さんに、怯えやひるみはなかった。


 「……じゃあ、大体話は決まったみたいだね?じゃあ紅ちゃん、お着替えの時間だよ?」

 「!!」


 ばっ、と紅は好助から飛びずさった。身の危険を感じたのだ。


 「……どうして、逃げるんだい?」

 「……目が、怖いです」

 「気のせいだよ。僕はここで『無毒』なんて呼ばれちゃうほどのジェントルメンなんだよ?……ふふふ、さあ、紅ちゃん。一緒にお着替えしようか……お兄さんと一緒に!」


 がばあ!と、まるで獰猛な動物が獲物をとらえるときのように素早く、しかし正確に好助は迫った。


 「……け、警察呼びますよ、警察」

 「呼んでみたまえ!僕は国家権力に屈しはしない!」

 「屈してください!」


 ピ、と携帯を取り出し、110をプッシュしようとして、

 「あっ!」

 「ふふふ……」


 好助は神速を超えて紅の携帯を取り上げた。


 「あ、あ……」


 後ずさる紅。


 「ふふふふふふ……」


 追い詰める好助。


 ここで間もなく犯罪が行われようとしていた。


 「いい加減やめやがれ変態ペド野郎!」

 「好助さんダメです!」

 「好助君、さすがにシャレになってない!」

 「だ、ダメです……」


 べき、ぐしゃ、ぼき、めきょ。


 好助は四人によってたかって殴られ蹴られ、管理人さん達は好助が虫の息になってようやく、リンチをやめたのであった。


 「あ、あの、だ、大丈夫、なんですか……?」

 「大丈夫だよ。こいつはてめえがいる限り死にゃしねえ。これぐらいやってようやく大人しくなるぐらいだよ」

 「ど、同意です……」

 「私も同意だ」

 「わ、わわ、わわ私も……です……」


 まあ、自業自得なのだからしょうがないと言えばしょうがないのだろう。


 「……ありがとうございます」


 こんなやりとりさえも、紅には新鮮で面白いのだろう。


 お礼を言った時の紅は、きれいに微笑んでいた。

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