第二十三話~お昼休み!~
それから、時間と場所は飛んで昼、紅が通う小学校。そのグラウンド。
「……♪」
小学校にしては広めのグラウンド……校庭では、たくさんの子供たちが活発に遊んでいた。ボール遊びをする小学一年生、校庭の端に備え付けられた遊具で遊ぶ小学二年生、サッカーをして遊ぶ他学年。
そんな中で、紅は一人、校舎の壁に背をつけて、その様子を鼻歌を歌いながら眺めていた。楽しそうに、愛おしそうに。
「紅ちゃん! 何してるの?」
「……あ、ミドリちゃん」
紅は近づいてきた風見に、人のよさそうな笑顔を向けた。風見は他の女子生徒も何人か連れており、グループで遊ぶ心づもりらしかった。
「遊ぼうよ! 私、いろんな楽しい遊びを知ってるんだ! 一緒に来て!」
「……でも、私転校してきたばっかりだし……」
不安そうに、紅は断った。迷惑をかけるくらいなら、遊ぶ必要なんてない……。そんなニュアンスがこもった言葉だった。
「大丈夫! ちゃんと、そこら辺は考えてるから!」
太陽のように微笑んで、風見は言った。他の生徒もうなずく。
「……うん!」
不安そうだった紅は一転、ひまわりのように明るくなった。その様子に満足した風見は、うんうんとうなずいて、紅の手をとった。そのままゆっくりと歩き出し、紅を連れ出す。
「どこへ行くの?」
「広いとこ。鬼ごっこやろうかな、って思って」
「……鬼ごっこ?」
紅の耳には聞きなれない単語だった。どんな遊びだろうと内心わくわくしながら、紅は聞いた。
「『鬼』を一人決めて、その『鬼』から、『鬼』以外の人は逃げる。つかまったら『鬼』を交代する。簡単でしょ?」
「あ~……うん、そうだね」
走って逃げるだけの遊びだ、と紅は思った。
校庭の広いところまで来ると、風見は紅の手を離して、周りの生徒たちに言う。
「じゃ、始めよっか! じゃんけん……」
風見の号令で、みんなは出す手を頭の中で考える。
「ぽん!」
その合図と共に、皆は一斉に手を出した。
「……あ」
負けたのは紅、風見、そしてもう一人の女子生徒、陽木 昇子だった。
「よし、昇子、紅、勝負! じゃんけん、ポン!」
三人はとっさに手を出し……最終的に鬼になったのは、風見だった。
「うわあ……負けちゃったか。ま、いいや。じゃあ、十数えるから、逃げてね~」
そう言うと、風見は目を閉じて数を数え始める。
「い~ち」
数え始めたのを確認すると、紅以外の生徒はみんな、一目散に逃げ始める。紅は流れをつかんでいないので、逃げ遅れたのだ。
「……あ」
遅れて、紅もゆっくりと走る。何の危機も迫っていない今、紅は真剣に走ることができなかった。非常時のために体力を温存しておこう、そう考えたのだ。
「きゅう、じゅう!」
数え終わると、風見は目を開け、逃げた生徒たちを見まわし……一番近くにいた紅を標的に定めた。彼女はゆっくりと走っていたため、格好の標的であった。
「紅ちゃん……! 遠慮はしないよ!」
叫んで、風見は走った。紅はその声にはっとなり、後ろを振り向く。
「え」
完全に油断していた紅は、迫ってくる風見に気付いて、ようやく本気で逃げ始めた。
「……うそっ、早ッ……!」
クラス一の俊足である風見に負けず劣らずの速度に、彼女は驚く。しかしそれは一瞬で、すぐに『鬼』らしく捕まえにかかる。
「まて~!」
「待たない!」
今、『鬼ごっこ』は始まった。