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第13話~登校します!~

一方、軒並荘では。

  紅がランドセルを背負ってぴょんぴょんと飛び跳ねていた。今にもはばたきそうな軽快さで、その表情は太陽のように明るい。


  「へえー、これがランドセル、かぁ……」


  背中にあるピカピカの赤ランドセルに目をやりながら、紅は嬉しそうに言った。


  「ふふふ、よかったわね。お勉強がんばるのよ?」

  「うん!」

  

  朗らかに紅は返事をする。


  「じゃあ、一緒に行きましょうか。道を覚えるまでは一緒にいってあげるから、心配しなくていいのよ?」

  「大丈夫だよ、管理人さん!」


  今にも飛び出しそうな勢いで走り回りながら、紅は返事をする。


  「そろそろ時間だから、行きましょうか」

  「うん!」


  時刻は七時半。早すぎず遅すぎずの、ちょうどいい時間だった。


  「……ったく。管理人さんとの時間邪魔しやがって……」


  椅子に座って紅を見物していた圭吾が忌々しそうに言った。


  「ご、ごめんなさい……」

  

  少しだけ、紅の表情が曇った。


  「あーっ、もう!いちいち気にすんな!」


  圭吾は取り繕うように叫んだ。事実、彼は紅を疎ましくは思っていないのだ。さっきだって無邪気にはしゃぐ紅が微笑ましくて、ずっと眺めてしまっていた。つまり、さっきのは彼の照れ隠しだったのだ。


  「う、うん。じゃ、行ってきます、圭吾お兄ちゃん!」

  「お、おう……」


  お兄ちゃん、と呼ばれたことに驚いて、圭吾は軽く動揺してしまう。紅はもう振り返らず、管理人さんと一緒に、小学校へと向かった。


  「紅ちゃ~ん!でっきたよぉ~!」


  赤く充血させた目をバカみたいに綻ばせて、好助がロビーに降りてきた。

  

  「……あれ?」


  好助は紅の姿を見つけることができず、呆然と言った。


  「こ、紅ちゃんは?僕の天使は一体どこに!?も、もしかしてさらわれちゃったり」

  「紅は学校だロリコン野郎!」


  圭吾が怒りをあらわに叫ぶ。昨日までは好助は女性に優しく紳士的で、尊敬できた。その紳士ぶりといえば、幼い子供が好きだと公言しているのも、何かの冗談だと全住人に思わせるほどだった。だから、その言が真実だと知って、圭吾はがっかりしていたのだ。


  「そ、そんな!?せ、せっかく夜も寝ないで作ったのに!」

  

  好助が作ったという作品を見て、圭吾は一言。


  「………死ねば?」

  「いきなり死ねとは酷いな!?」

  「いや、マジで死んでくれ。紅の教育に悪いだろ」


  好助の手にしっかりと握られているのは、メイド服だった。しかも、機能性を無視したフリルがたくさんついていて、カチューシャにはどういうわけかネコミミがついている。


  「なぜだ!なぜ僕が紅の教育に悪いのだ!?約束だったろう、ここのお手伝いをすると!お手伝いといえばメイドさん!メイド服を着てこそ、紅ちゃんは約束を果たせるのだっ!」

  「いや、マジできめぇから死ねよてめぇ!何真剣に語ってんだよ!」

  「気持悪い?ふふふ、なぜそう思う?」


  不敵な笑みを好助は浮かべる。


  「決まってんだろ!ガキにメイド服なんて」

  「僕は紅ちゃんにメイド服をきせようとしているのだ。子供に、ではない」

  「その違いはあんのかよ!?」

  「あるとも」


  妙に自信に満ちた声で、好助は断言した。

 

  「あるとも。君は女性にメイド服を着せたいとは思わないだろう。しかし、管理人さんになら、メイド服を着せたいと思うのではないか?」


  う、と図星をつかれてたじろぐ圭吾。一瞬、メイド姿で軒並荘の玄関先を掃除している管理人さんを想像する。……その姿は、あまりにも似合っていた。


  「いいかい、僕は、紅ちゃんが子供だから好きなんじゃない、紅ちゃんが紅ちゃんだから、僕は好きなんだ。だから、メイド服を着せたいと思うのは自然の理だ!」


  もう朝っぱらから子どもに真剣に告白するとかダメ人間まっしぐらだが、だからこその迫力が彼にはあった。

  そう、好きな人に注ぐ熱意。それだけは素直に評価できた。


  「って、騙されねえぞ。てめえが紅のこと好きなのとメイド服とどう関係あんだよ!?」

  「紅ちゃんがきたら可愛いかも、その想いこそが全ての原動力!お着替えも手伝いして、それから」

  「もう黙れてめえ!通報すんぞ!」

  「ごめんなさい調子乗ってました」


  一瞬で好助は手のひらを返して平謝り。タイプの人間が人間なだけに、警察は苦手なのだろうか。


  「……ったく。俺は冗談だけどな、紅はマジでやるぞ。ちなみに、俺ら軒並荘の住人は紅の通報を止める気はない」

  「なんで!?」

  「当たり前だろロリコン野郎が!」

 

  こいつ、紅を無理矢理手篭めにしかねないからな。脅しかけとかなきゃふあんだぜ。


  圭吾は好助のことをまるで信用していなかった。昨日までは尊敬の眼差しで見ていたのに、である。悪人の善意と善人の悪意は目立ちやすい、ということだろう。


  ……やれやれだよ。


  圭吾は心中で肩をすくめた。 

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