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第11話~怪しい人たち!~

  「え、ええ~っと、紅ちゃん、どうしてリュートさん?」

  「だって、流お父さん、なんて呼びにくいし可愛くないじゃん!リュートさんだったらかわいいし、呼びやすいでしょ?」

  「う、ううん……?」


  管理人さんは首をひねった。その呼び方は可愛いというよりかっこいいではないだろうか?そんな考えが頭をよぎる。が、ここは紅の好きにさせてあげる事を彼女は選んだ。


  「可愛いかどうかはさておいて、紅ちゃんの呼びたいように呼んだら?」

  「うん!」


  玉のような笑顔で紅は頷き、ありがとー!と言って軒並荘の中に入ってしまった。


  「……朝から元気ね、ほんとに」

  「本当っすね」

  「あら、圭吾君。おはよう」

  「おはよっす」


  寝ぼけ眼をこすりながらわざわざ起きて外まで出てきたのは、高校生ぐらいのチャラチャラした少年、大星圭吾だった。


  「管理人さん、今日はいつもにまして綺麗っすね。思わず見とれちゃいましたよ」

  「うふふ、上手なんだから。褒めてもなんにもでないわよ?」

  「そうでもないっすよ」

  「そうかしら?」

  「はい。俺は綺麗なものは綺麗だと言う事にしてるんで、気にしないでください」

  「……ふふっ」


  軽薄な若者言葉を使う彼を、管理人さんは悪く思っていなかった。悪ぶってはいるけれど、根は優しく、生真面目なことを彼女はよく知っていたからだ。


  「で、なんすか、あいつ?」

  「どうしたの?」

  「いや、昨日あんなにおどおどして鬱陶しかったのに、今日は朝っぱらからバタバタ走ってやがる。なんかあったんすか?」

  「きっと、安心したのよ。自分はここにいていいんだ、って一晩かけてわかったのよ」

  「ふうん……」

  「バタバタする子供は嫌い?」

  「ガキはガキらしくしてりゃ、それでいいんすよ。今のあいつは昨日よりよっぽど好感持てますよ」


  口調はなんてことないようにいっているが、顔は赤い、目は泳いでる、明らかに照れていた。もちろん管理人さんにそれを指摘するかしまいかまよったが。

  ふふふ、可愛いわね。

  胸中でそう思うくらいに留めておくのだった。


  




  ヒーヒーフー……。

  ヒーヒーフー……。


  短く卑しく怪しい呼吸音がさわやかな朝の部屋に響く。

  一切の明かりを締め切った部屋の中央に、一人の男が鎮座していた。


  ジョーキ……ジョーキ……ジョーキ……。


  軒並荘の『無害』と呼ばれる男が、異常なまでにギラついた瞳で、一心不乱に生地を断裁していく。

  目は赤く光り輝き、口からは短い呼吸が何度も続く。


  ヒーヒーフー……ヒーヒーフー……ヒーヒーフー……。


  ジョーキ……ジョーキ……ジョーキ……。


  無心で、無言で、一心不乱に生地を裁つその姿は禍禍しく、その二つ名には全く、似つかわしくなかった。

  なぜ、急に彼が豹変したのか?それは趣味嗜好が変わった訳でも、危ないクスリに手を出したからでもない。

  彼が今まで無害だったのは彼のタイプの年齢に適する女性が一人もいなかったからであった。そして、これが重要なことなのだが、彼のタイプとは。


  「ああ……紅ちゃん……」


  十歳以下という、どうしようもないものなのだ。まあ、ようするに彼はロリータコンプレックス……わかりやすい言い方をするならロリコンなのだ。彼自身は、自分はただちっちゃい子が偶然タイプだっただけで、それを罪にする社会が悪いんだ、うんたらかんたら……。そういうどーしよーもない言い訳で理論武装しているのだ。


  ヒーヒーフー……ヒーヒーフー……ヒーヒーフー……。


  短い呼吸音。


  「ヒーヒー……。で、できた……」


  ばっ、と、彼は断裁し、裁縫した布を掲げる。その詳細がよくわからないのは、何も部屋が暗いからではない。


  「ヒヒヒヒヒヒヒ……アーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」


  さながら魔法使いのように、彼は怪しく笑った。

  彼の目には、昨日あたらしく入居してきたタイプの女性……成瀬紅が浮かんでいた。





  「リュートさん、リュートさん……っ!?」


  午前六時。昨日父親に教えてもらった、大学の登校時間が近づいていたので、紅は父親を起こしていた。その時、不意に全身に怖気が走った。


  「……なに、これ?なにかよくないことが起こる……?」


  急に走った怖気の意味をはかりながら、紅は周囲を見渡す。


  「……誰もいない。きのせい、かな?」


  そういうと彼女は警戒をといた。ある意味では気のせいではない。壁一枚向こうでは、堂野好助が自身のためになにやら作っているのだ。もし警察がその光景を見たなら間違いなく職質を通り越して逮捕に踏み出すであろう形相で作業をしているのだ、となりにいる紅が何かを感じ取っても不思議はない。


  「……う、ううん……」

  「あ、リュートさん!おはよう、」

  「リュートさん……?」


  紅の父親、大滝流は目覚めていきなりそう呼ばれた。


  「うん!流父さんだから、リュートさん!かわいいでしょ?」

  「……かわいい?」

  「かわいくない?」

  「いや、それ以前に、普通にお父さんって呼んでよ」

 

  彼は本来ならそう呼ばれることさえもないはずなのだ。さらに変な、というか奇抜な呼び方をされると、彼の許容範囲を超えてしまう。


  「う~……ん。まあ、それでもいいや!もう朝だよ、お父さん!」

  「あ、そうなの……」


  ひどく気だるげに流は言った。

  

  「どうしたのお父さん?具合悪いの?」

  「いや、朝弱いだけ。今何時?」

  「六時だよ」

  「え、もう六時!?そろそろ準備しなきゃ!」


  紅から時間をつげられると、流はがばりと飛び起きて、ばっ、ばっ、と服を脱ぎ始めた。


  「きゃっ!お、お父さん!」

  「あ、ごめ」


  ん、と謝る前に、紅は部屋の外に移動していた。

  

  「……あーあ、やっちゃった……」


  いつものくせでいきなり服を脱いだのが間違いだった。着替えながら、流は思う。もう自分は一人暮らしではないのだ、女の子がいることに気をつかわなければいけない、と。


  そんな自覚が、流の中でかすかに生まれた。 

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