第一話~出会い!~
チチチ……と、小鳥達がさえずる音が朝の軒並荘に響いた。
「ん~!っと!」
大きな伸びと共に、軒並荘の管理人さんが箒を手に玄関に出てきた。
軒並荘は築何十年のオンボロアパートだが、それでも小綺麗なイメージがするのは一重に彼女のおかげだった。
「ういっす……。管理人さん、相変わらず朝早いっすね~」
そんな軽い口調と共に玄関に出てきたのは、高校生ぐらいの男の子だった。
髪はぼさぼさ、髭は伸ばしっぱなしなので、いつもよくて大学生、悪くてフリーターと間違われる。
「あら、そういう圭吾君も、いつもなかなか早いわね?」
「あ~いや、俺は早起きとは違いますから」
「またまた~謙遜しちゃって!」
「ははは……」
実は彼、大星圭吾は管理人さんと少しでも長く話がしたいからこうして眠い目をこすりながらも起きてきたのだが、管理人さんが彼の真意を知るのはまだまだ先のようである。
「……みんなはまだっすか?」
「ええ。もう一時間しないとみんな起きてこないわよ。まだ6時だからね」
「そうっすね」
彼はなんでもないように言っているが、心の中ではガッツポーズだ。
『おしっ!あと一時間は誰にも邪魔されず管理人さんと話せる!』
彼の胸中を言葉にするならこんな感じだろうか。
管理人は箒を休めることなく会話を続ける。掃除と会話との優先度が同じということから望みがあるかどうかわかりそうなものだが、彼はこの時に限っては鈍かった。
それだけなら、まだよかったのかも知れない。
彼は毎日しているように管理人さんと他の住人達が起きるまで会話を楽しみ、いつものように不健全な不登校生活に戻るのだろう。
しかし今日は彼の毎日の楽しみは阻害されることとなった。
「……あ、あの……」
そんな、控えめでかわいらしい声と共に。
「……うん?」
彼、堂野 好助は外に出ようとして不意に気配を感じた。
今までこの軒並荘には縁のなかった存在だったが、それを彼は嫌悪することはなかった。
「……あ、あの……お、お父さん、知りませんか……?」
「うん、僕が君のお父さんだ、今まで会いたかったよ」
彼は廊下でいきなり訊ねて来た女の子の問いに即答した。
もちろん、彼は彼女の父親では断じてない。断じてないが、とにかく部屋に連れ込みたかったのだ。
「……あなたは、違います……」
子供は人の悪意が簡単に見抜けると言う。彼女もその例にもれず、いともたやすく彼の悪意に満ちた嘘を見破った。
「……ふむ、仕方ないね、君のお父さんの名前を教えてごらん?僕が知っていたら紹介してあげるよ」
無理強いはしない、それが彼の信条なのが彼女にとって救いだったのだろう。もし彼が暴力をふるうことにためらわない人格だったらいまごろ彼女は彼の部屋の中、だ。
口調は紳士、内容は変態、子供には優しい、それが彼を表す言葉だった。
「……大瀧 流……です」
彼女が発した名前に彼は、
「……ひゅう」
と驚き、そして、
「その人は僕の隣人だよ。嘘を言ったりはしていないから安心してよ。僕は君みたいな幼い子が好きで好きでたまらないけど、乱暴はしないことにしてるんだ。……ほら、すぐそこだよ」
彼は自分の部屋のすぐ隣を指して案内するように言った。もちろんその時肩に手を回すのを忘れない。
「……あ、あの……ほ、本当に……?」
「ああ、本当さ」
彼に後押しされる格好で、彼女は自身の父親がいるという部屋の前に立ち、そして……
ガチャ。
「ひゃう!?」
インターフォンをならそうとしたところで、ひとりでに扉が開いた。
ちなみに、というか当たり前だがこのアパートは自動ドアではない。
つまり、誰かが開けたのだ。
誰か?
「……朝っぱらからなんすか、堂野先輩」
全体的にだるそうな雰囲気。顔つきは悪くはないのだろうが、そのけだるそうな雰囲気が全てを台無しにしている気さえする。そして服装もTシャツにジーパンといるファッションのファの字も考えていないような格好だ。
「……あ、あの……大瀧流さん、ですか……?」
そうか細く聞こえる質問で、ようやく父親であろう男は視線を彼女に向けた。
「……ああ、僕がそうだけど……君誰?」
君誰?
それは、軒並荘の管理人さんが発した問いである。 不登校高校生である大星圭吾が発した問いでもある。
そして、彼女はその問いにこう答えていたし、今回もそれに外れることはなかった。
「わ、私、成瀬 紅と言います!
お母さんに言われて、お父さんを頼りに来ました!」
平和な平和な日常が続く軒並荘。
その平和と日常に変化がもたらされた。
こんにちは、作者のコノハです。
この物語は基本的にはコメディで、ところどころに真剣なお話が入ります。
毎日更新を目標に頑張りますので、応援よろしくお願いします。
軒並荘のほのぼのした生活をぜひ、お楽しみください。
では、駄文散文失礼しました!
また次回!