意外な観測者
バスを降りた後、そこから坂を歩いて少し。
左の方を向くと、少し離れた所に白く煌びやかに光る青い海が見える。
ここに来てからまだ二ヶ月しか経っていないが、この坂道が退屈になっていた。
だけど、ここから見える海だけは、むしろずっと見ていられるほど気に入っている。
懐かしい感覚というのだろうか。
前に一度、ここに来た覚えはないけど、それと似たようなものをこの景色から感じていた。
こうして何となく海を見ながら歩いていると、誰かが俺の背後から抱きしめてきた。
「ちひろぉー!お前もついに軽音サークルに入ってくれたんだなぁ!いやぁ助かるマジ助かるほんと神!心の友ぉ!」
「おい!キモいからやめろ!」
俺はビックリした反動で、ホールドされているワタルの腕をつかみ、そのまま前へと振り下ろす。
「グゲッ」という声と同時にドスっと強く地面を打つ音がした。
「は、入るって言ったって一時的だわ!」
「おいぃ…。 もうちょっと、手加減してぇくれるとぉありがてぇのよ…」
「これはアンタが悪い」
言うと、仰向けでビクついていたワタルが瞬時に起き上がって、「いや、お前の方が悪いから」と真顔で言ってくる。
その生命力、どこにあるんですかねぇ…。
「まぁ一時的だとしても、今回の定期ライブがなんとかなりそうだわ。 ありがとな!」
さっきまでの出来事が何もなかったかのように、俺に向けてサムズアップするワタル。
ほんと元気だなぁ…。
するとワタルはもう一人の方に目を向けて俺に問う。
「ところでさ、チヒロの隣にいるお嬢ちゃんは…誰?」
「お嬢ちゃん?」
「ほら、チヒロの隣にいる子」
バスを降りてから何も喋っていなかったアスの方にワタルが手を指す。
アスはワタルの方を見て無表情で首をかしげていた。
その光景を見てから気付いて驚く。
「お前、見えんのか?!」
「え? お、おう。 いや、こんな可愛い女の子、俺じゃなかったらみのg…」
俺は希望の光に包まれている男の肩に手を置いた。
「この子を頼む」
「は?」
「いやぁもぉ俺しかいなかったらどうしよって思ってたからさ!」
「いや、ちょっと待て。 それってどういう…」
「ふんっ!」
すると後ろから、物凄い速さでアスの飛び蹴りがくる。
俺の横擦れ擦れで。
その蹴りはワタルにヒットして「ふげぇ!」と言う声と共に飛ばされる。
「あぁー! 希望の光がぁ!」
「希望の光? なんですかそれ。 ウレトイマンですか?」
ウレトイマンちゃうわ。
「いやいや、今お前が見えるって人がいたんだよ?!」
「なんかあの人見てたら、飛び蹴りしたくなりました」
「意味わからん…」
訳のわからないアスの理由に頭を抱えながら、飛ばされたワタルの方へ向く。
ワタルの身体、すげぇ音したけど大丈夫か?
とりあえず、数十メートル先に倒れているワタルの方へ寄った。
「お前、俺の味方だと思ってたのに…。いつの間にかリア充になりやがって」
「は? 何でそうなるんだよ」
ワタルは体中をミシミシと鳴らしながらゆっくりと立ち上がる。
「あのお嬢ちゃんと一緒にいるんだろ?」
「一緒にいるっつっても、よくわからんことに付き合わされてるというか、何というか」
「なんじゃそりゃ」
まぁバカ正直に「愛とは何かを一緒に探してるんだ!」なんて言うのも、ファンタジーの世界にいるような奴じゃないし。
「とりあえず、俺はロリコン趣味とかしてないから」
「それどういうことですか?!」
いつの間にか近くにいたアスが迫って俺に聞いてくる。
「アスはお嬢ちゃんだねって話」
「ふんっ!」
アスは隣にいるワタルの腹に目掛けてパンチをすると「ぐはぁっ…!」とワタルがお腹を抱えながらその場で跪いた。
「なんで俺ぇ…」
「隣にちょうど殴れそうなモノがあったので」
いやサンドバック…。
「あの、ワタルの扱い酷くないか?」
「そうですかね? 男性はこゆので喜ぶんではないのですか?」
言って、アスはワタルを指さす。
「いや、ド偏見なのでやめたげてください。 ワタルはMだけど」
「おいぃ…。 まぁ間違ってはないけど」
間違ってないのかよ。
いや、冗談で言ったつもりだったんだが。
「じゃあワタルさんにだけならオッケーなんですか?」
「ああ、好きなだけやっても良いぞ」
「 何 言 っ て ん だ 。 」
そうこうしているうちに、キャンパスの入り口にまで着いていた。
時間を確認すると、特に急いでまで教室に向かう必要はないみたいだ。
授業といってもなぁ…。
アスも一緒に受けるとなると、ワタルみたいに見える人がいたら色々と面倒だ。
「俺らはこれから授業だけど、アスはどうする?」
「私ですか?」
「え、チヒロとお嬢ちゃん、一緒の学科じゃないの?」
「まぁそんなところだわ。 俺と一緒に受けてもしょうがないだろ」
「まぁ、チヒロの授業はただ話を聞くだけだしな」
アスは一度考える素振りを少しする。
「まぁ適当に時間潰してます」
「そうか。 んじゃ、また後でな」
「またね、お二人さん」
そう言ってアスは来た道を戻るように反対側へと歩き出した。
アイツ、キャンパス内を知ってるんか?
その後ろ姿にワタルは「じゃなー!お嬢ちゃーん!」と言って見送るが、アスは何も反応しなかった。
いや、本当にワタルの扱い雑じゃね?
「じゃあ俺らも解散だな」
「あぁ、授業終わったらサークルの方行くわ」
「おう! 絶対来いよ」
「へいへい」
こうして俺とワタルも、お互い受けている授業の教室へと向かった。
次話の投稿は1月28日になります。
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