遠慮のない客
「というわけで、チヒロさんの家に凸ってみました!」
「何が『というわけで』だよ、誰に向けての台詞だそれ」
「んー、視聴者の皆さん?」
「いつからお前そんな動画投稿者になったんだ」
「いえ、どちらかというと、家についてきちゃう番組を意識しました」
「その番組だったら、そんなこと言わねぇよ」
全体の通しが終わったその日、いつも通り商店街で買い物をしたその帰り。
俺家の前の電柱に身を隠すようにして待っているアスを見かけた。
アスは俺の存在に気付くと、ゾンビの歩きをしながら近づいて「お腹が減りました」と地面に這いつくばって一言。
別に、今日ユカに言われた影響っていうわけではないが、流石にこれを放っておくほど意地悪じゃないので、家にあげた。
そうした途端、さっきまでゾンビ並の生命力だったのに、それが嘘だったくらいの元気さという。
単純に家に入りたかっただけなんじゃないのか…。
「それよりも早くご飯が食べたいです。 お腹空きました」
さっきまで番組風にはしゃいでいたアスは、いつの間にか絨毯の上でゴロゴロとくつろいでいた。
自由だなぁ…。
とりあえず冷蔵庫から材料を取り出して、作る準備を始める。
「まぁいいや、冷蔵庫にあるやつで適当に作るけど、いいよな?」
「私、ステーキってやつ食べてみたいです」
「お前、冷奴オンリーな」
「やっぱりチヒロさん、鬼畜大魔王です」
なんかレベルアップしてる。
「鬼・悪魔じゃないんか」
「たった今さらに昇格しました」
「…因みに一番上はなんなんだ?」
「『鬼畜☆KI☆TI☆KU☆銀河・ギャラクシー・ビックバン・大魔王!』です」
「なんか大半は実質二回言ってるし、途中爆発してんじゃねぇか。 大魔王、大丈夫かよ」
「チヒロさんなんてビックバンで自爆すれば良いんですよ」
「やっぱお前、冷奴オンリーで」
――――
「ほい、おまちどおさま」
先ほど皿に盛りつけたものを、机の上に置く。
それを、アスは興味津々で見つめていた。
「これ、なんですか?」
「回鍋肉だよ。んじゃ、いただきます」
初めて見たかのように色々な方向で回鍋肉を見たり、匂いを嗅いだりしている。
「ん? 食べないのか?」
「あ、はい。 いただきます」
アスは観察しながらゆっくり口へと運ぶ。
そうすると真顔になって黙ってしまったので、口に合わなかったかなと思ったが。
「普通です」
「普通っスか」
「でも、いけますこれ」
段々と箸を動かすペースが速くなっていき、アスはバクバクと食べる。
まぁそれほどお腹が空いてたんだろうな。
「これ、初めて食べたのか?」
「いえ、食べたことはありますが、まともな食事は久しぶりだったので」
「今まであまり食べてなかったのか?」
「まぁ、そんなところです……ん~美味しい~」
アスは二へへと緩んだ表情をすると、我に返ったかのように慌てて硬い表情を無理やり作った。
「あ、コホン。 まぁ? 一人暮らしクオリティの料理としては? 良い方じゃないんでしょうか?」
「なんだその上から目線の評価は。 さっき美味しいって言ってたじゃん」
「普通ですよ? 美味しさは。 えぇ、普通ですから」
「はいはい」
アスは無表情でパクパクと食べ始める。
謎のシーンとした空気が漂う中、さっきの緩んだ表情がフラッシュバックしてしまうので笑ってしまう。
「む。 なんで笑ってるんですか」
「笑ってないよ」
「笑いながら言っても説得力ありません!」
「いやほら、笑ってないって」
俺はアスに自分の無表情を見せつける。
けど、やはり笑ってしまうので。
「……ぷっ」
「笑ってるじゃないですか!」
そう言いつつもアスも俺につられて笑っていた。
――――
「ごちそうさまでした」
「はいよ」
アスはあっという間に回鍋肉を平らげ、満足気な表情をしていた。
「どうせ残るだろうから、明日の朝飯に回そう」っていう考えは甘えだった。
本当にまともな飯を食べていなかったらしい。
そういえばと思って時計を見ると、22時を少し過ぎていた。
「それじゃ、飯食ったんだから帰れよ? 送ってやるから」
「いえ、泊まりますけど」
「は?」
「ですから、泊まります」
アスは「え? 何言ってるんですか?」みたいな煽りの表情でこちらを見る。
「いや、わかるよ。 なんで」
「もうここ数日、この町を歩きまわってて疲れました」
そう言ってアスはその場で寝っ転がって、猫のように包まる。
「俺はRPGにいる回復できる宿じゃねぇからな」
「…ふぁ~、今日から私、ここに住みますね…」
「いや、今日泊まったら帰れよ。 いやおい、寝るな」
あくびをして、アスはそのまま寝てしまった。
「ったく、少しは遠慮しろよ…」
閉めていたカーテンをバッと開けて、窓を少し開ける。
少々の星と控えめな月。
風も黙っているほど静かだった。
外とアスを交互に見ては、ため息をついた。
「えぇ…」
とりあえず、アスに毛布をかけてから、ギターと他の機材を準備する。
その日は、屋外で練習をしたのだった。
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