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竜の宿る原石  作者: 黒川雫、窓
第一章 『三人と出会い』編
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第四話 『再会、あるいは邂逅』

翌日、病院で隊服に着替えた後、基地の本舎へ移動した。そこで配属先である、小隊のメンバーと合流するのだ。事情を知らない隊員もいるため、本来この時に配属先の小隊長から授かるバッジは先に病院へ届けられていた。

よって、これからの顔合わせを行うのは一部の隊長のみとなり、形式的な意味合いが大きくはなっている。が、それでも緊張は避けられなかった。


都市の各基地には、それぞれ四つの大隊からなる連隊が一つ存在する。竜の生態調査やその管理、密猟の捜査及び取り締まりなど、都市外での調査任務を主とする調査大隊、都市の警備を行う警備大隊と警備補佐大隊、基地運営や各大隊のバックアップ等を行う中央大隊があり、速見らが配属されたのは調査大隊だった。

基地長室、各大隊長室、及び各中隊長室への挨拶を手短に済ませ、いよいよ直属の上司となる小隊長との対面だ。

「入ってくれ」


「はい、失礼します!」


不安と、期待。その先にあるものは。


「よく来てくれた。生態管理部調査一課長、つまりは小隊長だね、金剛貴俊中尉だ。よろしく頼む」


迫力のある体格に、太めのキリッとした眉。普通なら人を恐怖させるような風体だが、どこか柔和な印象を与える。そんな人だった。

「こちらが君達の教育係を担当する、火村猛軍曹だ。分からないことがあれば、彼に聞いてくれ」


「紹介賜った、火村だ。お前達の分隊の分隊長でもある。よろしく」


こちらは、若干細身で、顔立ちもきれいな若い人だ。しかし。

(眼光やばいな……)


(この人眼光で人殺せるんとちゃいます……?)


(眼光怖っ……怒らせないようにしよーっと……)


戸部のテレパスが無くとも、三人は即座に悟った。全員同じ事を考えていると。速見達の考えを読んだように小隊長はニヤニヤと笑い、さて、と言葉を続けようとする。だが、それは新たな訪問者のノックにより遮られた。

「調査一課火村班所属、桜木、入ります」


はっと、速見の気がその声の方へと向く。聞き覚えのある言葉だったからだ。

「入れ。……我が小隊の新入隊員は後もう一人だ。もっとも、一度面識はあるみたいだがな。挨拶してくれ」


緊張した面持ちで、彼女は声を震わせながら彼女は言った。

「火村班所属、桜木心です。よっ、よろしくお願いいたします!」


「どもるな!後声が小さいっ!!」


「はいっ!!」


なるほど、返事の声が裏返っている辺り、昨日からこってり絞られたらしい。あと、やはり火村分隊長が怖い。改めて、火村のことは怒らせないようにしようと速見達は心に誓った。


いや、ちょっと待て。


「そろそろ昼休みだろう?同期同士で親睦を深めるといい。一三○○に、小会議室に集合してくれ」


「「「「はいっ!!」」」」



売店で朝食を調達した後、速見達四人は休憩スペースへ向かった。

「さてと、いただきまーす」


「「じゃねーよ!!」」


速見と千景が同時にツッコミを入れる。満足げにサンドイッチを頬張っていた彼女、桜木は不思議そうな顔を二人に向ける。

「いや、まさか全く同じ配属先だとは思ってなくて……、知ってたのか?」


「あー、いや。昨日、小隊長からお聞きしたんだ。その時は私もびっくりしたよ」


「ああ、なるほど……にしても反応薄いな!?」


桜木は、少し困ったように微笑んだ。はあ、と溜息をついた戸部が口を挟んだ。

「一応、二人から話は聞いた。あの竜を一撃で倒したとか」


「あ、一撃じゃないよ。風圧の連撃だから。あの子、いっぱい戦った後だったから受けたダメージが蓄積してて大分脆くなってたし。私は最後にとどめを刺しただけで、別に大したことはしてない。貴方達のお陰よ」


世間知らずなのか、何なのか。あれを切り刻むなんて芸当が出来る人間はそういない。そんなことも知らないかのように、さらりとそう言い放つ。そのあっさりとした対応に頭を抱えつつ、まあいい、と戸部は流した。


「俺は戸部悟。能力はざっくり言うとテレパスだ。……二人を助けてくれてありがとう」


「そう言えば僕も名乗ってへんわ。千景晃、能力はテレポートや。よろしゅう」


「俺は速見光だ!金属操作っていうか、……俺の能力色々特殊だから、訓練の時にまた詳しく説明するよ、よろしくな!」


一瞬、ほんの一瞬だったが、速見は背筋を冷たい何かが伝っていくような感覚に襲われた。薄ら寒いそれはすぐに消え、速見は目の前に座る桜木の方へ向き直った。

「……そう、よろしくね」


あ、と速見の心にすとんと重りが落ちた。桜木は、一見にこやかに振る舞っている。笑っているのに、その目の奥には強い警戒の色が染みついていた。咄嗟に言葉を探すも見つけられずにいると、速見は不意に後ろから肩を叩かれた。

「おい、お前ら火村さんとこの新人だろ?早く食べて行かないと絞られるぞ」


驚いて振り返ると、そこには速見達とほとんど年の変わらないであろう、けれども階級章は少し上のものを身に付けた隊員がニヤニヤしながら突っ立ていた。

「あっ、すみません……ありがとうございます」


「おう、頑張れよ。因みに俺もお前らと同じ小隊だからよろしくな。じゃあな、心ちゃん」


気さくに手を振る先輩隊員に、桜木は曖昧に微笑み会釈で返していた。

「私、先に行ってるね。また後で」


いつの間にか昼食を食べ終えていた桜木は、それだけ言うと走り去っていった。

「あいつ、どうしたんだ……?」


速見の感じた拒絶感を、戸部もまた感じたようだった。しかし時間が迫っているのは事実だ。小さく溜息を吐き、速見に切り替えるよう促す。

「それを考えるのはまた後だ。それより、俺らも早く食べないとあの怖い人にしばかれるぞ」


「せやせや、僕はあの人に怒られたくないで」


結局、敵意の理由は分からないままその日の昼休みは終わった。


十三時、第二小会議室。桜木は小隊の他の面々と共にどこかへ向かい、速見達三人は火村から詳しい部隊説明や、各装備の保管場所などについて教わっていた。

武装隊では各都市に一つの連隊が設置されており、速見達のいる第二都市に置かれているのが第二連隊だ。また首都には常設の第一連隊に加え、三つの連隊が本部を持っており、この合計十二の連隊で武装隊は構成されている。

大隊内でも様々な部隊に細分化されている訳だが、速見達が配属されたのは竜の生息地と生息数を記録する生態調査部だった。

「以上で、ここでの説明は終わりだ。この後、演習場で各々の能力を把握する。各自装備を整えた上で演練場に向かう」


「起立、礼!」


生態調査隊の装備は主に武具とヘルメット、そして簡易プロテクターだ。都市外の活動では戦闘が想定される場面も多いが、基本的に能力で己の身を守ることが想定されている。

因みに、三人の使用する武具はいずれも量産型のものであり、戸部は盾、千景が銃 、そして速見は剣を貸与されていた。


「全員、装着完了したな。これより野外演習場に向かう。付いてこい」


保管室の奥にある出口は、陸上移動用の人員輸送車がずらりと並んだ車庫に繋がっていた。都市の居住区域に設置されている本舎から演習場までは数キロ離れているため、輸送車に乗り込んで移動するのだ。

火村が運転席、千景が助手席に、速見と戸部の二人が後部座席に座った。輸送車では、騒いだりマイクの電源を入れたりしない限り、運転手には後部座席の会話は聞こえない。

「流石に緊張するな。けど、火村さんって思ったよりは優しい人みたいだ」


「……慣れるまでは背筋が伸びそうだが、そうさな」


二人きりとなった空間で、速見はぐいっと伸びをした。一方の戸部は、暗くてあまり表情は見えないが、何やら考え込むように俯いていていた。

「どうしたんだ?難しい顔してるぞ」


「……別に」


速見の問いかけに一瞬戸部は顔を上げたものの、すぐにそっぽを向いてしまった。

「……ふむ」


その後何度か速見が呼びかけるも、ずっと上の空で空返事しか返ってこなかった。普段から思考を巡らせている事の多い戸部だったが、今は普段のそれとはどこかが違った。

根拠のないただの直感だったが、速見は自分のそういった勘にある程度自信を持っていた。速見は少しだけ腰に差した剣を抜くと、一部を分離させて球状に変形させた。それを戸部めがけ放ってやると、見事ゴツンと音を立て、ヘルメット越しに戸部の頭に直撃した。

「おまっ、いった……何だよ」


戸部は頭を抱えながら、恨めしそうな声で抗議した。金属球を剣へ還しながら、なんでもないような声で速見は言った。

「ごめんごめん。いや、なーんか様子が変だなと思って」


しばらく俯いたままの戸部だったが、大きな溜息と共に起き上がった。

「心配掛けたなら謝る。けど悪い……少し放っておいてくれ」


その声が、とても辛そうで。速見はそれ以上追及することなく、到着まで二人が会話を交わすことはなかった。

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